第32話 【ダグラス視点】やっぱり変な奴だ(第31話の別視点)
いつものようにゴードンとクレアと遊んでいたんだ。
こいつらとは幼馴染ってやつだ。
生まれてからの付き合いで、俺は十歳だから、十年くらいの付き合いになる。
気心の知れた仲だ。
本当はもう一人いるんだけど、今日は不在。
「今日は何して遊ぶか?」
俺が聞くと、ゴードンはいつものように答える。
「冒険者ごっこだよなあ!」
するといつものようにクレアが反対する。
「いつもそれじゃない。たまには他のこともしようよ」
「じゃあ何がいいんだよ?」
「えっと……お花摘み?」
「それ、楽しいか?」
まあ、いつもの流れだな。
結局はダラダラするんだ。
俺とゴードンがチャンバラをしているのをクレアが眺めたり。
でも、クレアが参戦すると、一番強いのはクレアだったりな。
そいつが来たのはそのときだ。
金髪の可愛い顔した女の子で、目つきの悪い黒猫と一緒。
「ジリ、本当に行けるの?」
ミャー。
「うん、やってみる」
変な奴だ。
猫と会話しているようだ。
猫と話なんてできないだろうに。
頭が少し弱いんじゃないか?
コイツは以前も見たことあるんだ。
だけど、こんなに大きくなかった。
急に成長した。
やっぱり変な奴だ。
「こんにちは、イーナだよ」
こいつ、話しかけてきた。
ゴードン、クレアは答えない。
俺がいくしかない。
「なんだよ。何か用かよ。俺たちには用がないぞ!」
変な奴には関わらない。
それが大事。
兄ちゃんが言ってた。
「あの……」
そいつは黒猫を見る。
ミャー。
黒猫が鳴く。
で、そいつは頷く。
やっぱり変だ!
「うん。あのね、イーナも一緒に遊びたい!」
「ダメだ! お前のような変な奴とは遊ばない!」
「なんでよ! イーナ、変じゃない!」
「猫としゃべってた。変だ!」
「ジリは喋れるんだ。だから普通だ!」
「猫は喋んねえんだよ!」
やっぱり、変な奴だ!
猫としゃべれると思っている。
関わっちゃいけない奴だ!
「ゴードン、クレア、行こうぜ! こんな変な奴は放っておこう」
「うん、ダグラス」
ゴードンは頷いた。
「でも、可哀想じゃない? べつに猫と話せたって……」
クレアは女の子だから、女の子に優しいんだな。
「じゃあ、クレアはそいつと遊べばいい。俺たちは行く!」
「ま、待ってよ。私も行くよ」
三人で、そいつから離れる。
「イーナは変じゃないもん! ジリは喋れるんだ」
なんで、付いてくるんだよ!
変な奴はいらないんだよ。
「こっち来るなよ!」
「ジリに謝れ!」
なんか怒ってる。
なんだよ、猫がしゃべらないのは当たり前だろ。
なんで怒ってんだよ。
わかんないよ。
こっち来るなよ!
「向こう行けって!」
石を拾って、投げた。
「痛!」
当たっちゃった……
でも、でも、アイツが悪いんだ!
猫がしゃべるって言い張るからだ。
「お前が悪いんだからな! 行くぞ、ゴードン、クレア!」
「……うん」
「でも……行くわよ」
俺は悪くない。
アイツが悪いんだ。
猫としゃべれるなんて言う奴が悪いんだ。
嘘つきだ。
だから、俺は悪くないんだ……
俺たちは走って離れた。
逃げたわけじゃないぞ。
ただ、走りたかっただけだ。
「ねえ、ちょっと可哀想だった」
「血とかでてないといいよね」
「ゴードンもクレアも同罪だからな」
その日は三人でダラダラした。
そんなに楽しくない一日だった。
夜はなかなか眠れなかった。
でも、俺のせいじゃないからな……
二日後。
「ダグラス、見つけた!」
アイツだ!
目つきの悪い黒猫と、あと少し小さい男の子を連れている。
「なんだよ! 俺たちはお前に用はないんだよ!」
「この前のお礼をしに来た!」
ズンズンとアイツがこっちに歩いて来る。
怖い顔をしている。
「あれはお前が悪いんだからな!」
「イーナ、それは知らない! でも暴力がダメだって知っている。で、暴力したら暴力を返されるんだ!」
なんだよ、女のくせに!
睨んでやる。
だけど、アイツ、怖がらない!
「んだよ! うるせ……。ぐえ!」
腹を殴られた!
「だから、イーナはお返しする! 三倍返しが基本だって知ってる!」
「あーあー、イーナちゃん、本当にやるんだね。じゃあ、僕はゴードンと戦うの?」
アイツが連れてきたちょっと小さい男の子が首を横に振る。
「ぼ、僕は喧嘩したくない……」
「じゃあ、僕と同じだ。見守っていようよ」
なんだよ、ゴードン、意気地がねえな。
俺は女になんか負けないぜ!
ちょっと息ができなかったけど、回復してきた。
「何しやがるんだ!」
アイツの顔めがけて殴る。
アイツは顔を少し逸らして躱して、右フック。
「があ!」
俺の顔にヒット!
何だよ、痛いじゃないか!
「さっきのは石をぶつけられた分。で、今回のがイーナの心が痛かった分」
「何言って……」
「で、これはジリの分!」
奴の左フックが俺の右わきに決まった。
ぐげえ、息ができねえ……
「で、おまけ!」
打ち下ろしのパンチが顔面に……
「おまけのおまけ!」
アッパーが顎に……
おい、三倍返しじゃないのかよ。
五発目……
「イーナ、こういうのもできるんだよ!」
回し蹴り……
つーことで、俺は地面に大の字だよ。
負けだよ、負け。
女に完敗だよ。
「まあ、イーナちゃんはフェルドさんに付いていって、魔物狩りとかしているからね。普通の男の子じゃ勝てないよ」
アイツの連れの男が言う。
え、フェルドさん……
「あの、フェルドさんって、あの冒険者の……?」
ゴードンが聞く。
だって、俺は倒れていて、息も苦しくて、口もきけないからだ。
「そうだよ。B級冒険者のフェルディナントさん。ちなみに、僕の父さんも冒険者なんだ。知ってる? テオバルトっていうの。父さんもB級冒険者だよ」
おい、おい、俺、知ってるよ。
テオさんだろう。
兄さんから聞いているよ。
「僕も父さんから鍛えられているから、結構強いよ」
強いよ、じゃない。
そういうことは早く言ってよ。
フェルドさんに、テオさんの子供かよ。
そりゃあ、俺じゃあ勝てないよ。
だって、兄ちゃん、依頼で忙しくって、俺を鍛えてくれないんだから。
ずりいよ。
俺の兄ちゃんは、カールって言うんだ。
カール・アレトゼー。
Cランク冒険者だ。
Cランクになりたてだけどな。
歳の離れた兄ちゃんで、俺は可愛がってもらっている。
で、冒険者の話もたくさん聞かせてもらっているんだ。
この街で有名なのは『清廉なる赤い薔薇』ってパーティだ。
美人ぞろいのパーティって言ってた。
けど、気を付けろよって言ってた。
何がって聞いたけど、教えてもらえなかった。
この街の冒険者は、他の街と違って優秀なんだって。
「新人冒険者の死亡率が違うんだぜ」
「新人?」
「そうさ。新人冒険者が一番死ぬんだ。そりゃ、ギルドで訓練はしてくれるよ。だけど実戦は違うからな。実戦になると恐怖で動けなくなるとかな。あとは調子に乗って強い魔物と戦うとか、無茶したりな。だけど、このギルドは違うんだ」
「どう違うのさ?」
冒険者のことは、男の子のあこがれだ。
俺も食い気味に聞く。
「新人をベテランが丁寧に教育するんだぜ。で、死なないってくらいになったらベテランが合格を出して、それからじゃないと新人パーティは活動ができないんだ」
「それは面倒じゃないの?」
「ダグラス、よく考えてみろよ。ちょっと面倒くさいのと、死んじまうのとどっちがいいよ」
「そりゃあ、面倒なほう?」
「そうだろう。冒険者はまずは死なないことだ。生き残ること。それが重要なんだ。お前も覚えておけよ!」
兄ちゃんは俺が冒険者志望ってのを知っている。
「でな、このシステムを作ったのが、ギルドのベテランさんたちだよ」
「ベテランって?」
「長く活躍している冒険者ってことだ。生き残っている人たち。それだけですごいんだ!」
「引退しちゃったけど、ギルドマスターのバルドゥルさん。テオさんとルッツさんのコンビ。食わせ物のドミニクさん。それと、フェルドさんだ!」
「フェルドさん?」
「そうだ、俺の師匠だよ。俺たち『幸福の青い大樹』を指導してくれたベテランさんだ。左腕を魔物にやられたけど、冒険者を続けているすごい人だ。冒険者としての経験が半端なくて、色々教えてもらったんだ。今の俺たちがあるのはフェルドさんのおかげだ」
そうか、フェルドさんはすごいんだ。
「で、そのベテランさんたちがこのシステムを作って、このギルドを盛り立ててるんだ。ここからもっと大きな街に行っちゃったパーティもいるけどな。その人たちもみんな感謝していると思うぜ。ウチの街の冒険者ギルドはすげえんだ!」
兄ちゃんの目が輝いている。
きっと尊敬しているんだ。
「だから、フェルドさんたちに会ったら、失礼なことするなよ! くれぐれもだぞ! 俺、本当に怒るからな!」
そう、兄ちゃんが言っていた。
ああ、そう言ってたんだ。
でだ、イーナはフェルドさんの娘さんってことだよな。
ああ、俺、兄ちゃんに殺されるかもしれない……
「ごめんなさい! 石を投げてしまって、当ててしまって、本当にごめんなさい」
謝り倒す!
男なら、覚悟を決めて、謝る!
これも兄ちゃんに聞いたんだ。
ちなみに、怪我もイーナが治してくれた。
凄いんだ、イーナ。
怪我がなければ、兄ちゃんにバレないかもしれない。
今、イーナに謝り倒せば、なんとか……
「しょうがない。許す!」
イーナはない胸を張っている。
偉そう。
だけど、俺が負けて、全面的に俺が悪かったんだ。
甘んじて受ける。
「すみません。反省しています!」
俺が謝り倒している後ろで、ゴードンとクレアが一緒に正座。
しゅんとしている。
「イーナちゃん、もういいよね」
トレヴァーが助け舟を出してくれる。
「うん、いいよ。殴ったら、すっきりした!」
あれ……殴ったからいいの?
暴力を暴力で解決しちゃダメだって、兄ちゃんが言ってた。
それはそうと、気になっていたことがある。
「イーナの回復魔法って凄いと思った」
「うん、イーナの回復はすごいんだ! フェルも褒めてくれる」
「で、それなんだけど……もしかして……病気も治せたりする?」
「もちろんだよ! イーナの魔法は病気も治せる高性能だよ!」
そうなんだ、病気も……
「ねえ、一つ頼みがあるんだけど……」
喧嘩したてなんだけどな。
俺は恥も忘れて、お願いしたんだ。
俺には幼馴染がもう一人いる。
ミリアムって女の子だ。
体が弱くて、いつもベッドに寝ているような子だ。
だけど笑うと可愛いんだ。
でも、俺は見ちゃったんだ、聞いちゃったんだ。
彼女の家に遊びに行ったとき。
ミリアムの母ちゃんに「今日は調子が悪いから、また明日ね」って言われたとき。
本当かどうか確かめたくって、彼女の部屋の窓のところに行ったんだ。
そこで聞いた。
「なんで、なんで、私、こんなかな……。お母さん、痛いよ、痛いよ……。どうして、私だけなの? どうして私はみんなと一緒に遊ぶことができなの?」
「ごめんね、ごめんね、ミリアム。ごめんね……」
ミリアムとおばさんは泣いていたんだ。
辛いんだきっと。
俺は何もできなくって、逃げたんだ。
走って逃げた。
見なかったことにした。
でも、忘れることなんてできなかった。
ずっと頭に残っているんだ、ミリアムの泣き声が。
だから……
ミリアムの調子がいい日。
で、ちょうどイーナちゃんが暇な日。
ミリアムのとこに行く。
窓の下で、ミリアムの母ちゃんが部屋の中にいないことを確認する。
コツコツと窓を叩く。
体の調子がいい日は、ミリアムが窓を開けてくれる。
「ダグラス君、こんにちは」
ミリアムが窓を開けて、顔を見せる。
笑っている。
だけど、あの涙を見た後だと、素直に喜べない。
でも、俺も笑うんだ。
兄ちゃんが言ってた。
「女の子が辛そうに笑っているなら、お前も笑ってやれ。お前まで辛そうにしてたら、彼女はもっと辛くなるからな。で、裏で助けてやれよ。それが格好いい男ってもんだぜ」
だから、笑うんだ。
上手く笑えているだろうか?
「おう、ミリアム、元気か? 今日はちと友達連れてきた。少しいいかな?」
「え、ダグラス君のお友達?」
「おう、イーナっていうんだ。優秀な回復魔法使いなんだぜ。……もしかしたら、少し調子が良くなるかなって」
「でも、回復魔法なんてたくさんお金がかかるんじゃ……」
「子供のお遊びだよ。なあ、イーナ」
「こんにちは、ミリアム。イーナの回復魔法は、なんと今回は特別に友達価格で無料だよ!」
イーナは笑っている。
本当は、回復魔法なんて金が稼げるんだ。
本当は、簡単に使っちゃいけないんだ。
だけど、イーナは簡単に使う。
俺の怪我も治してくれた。
まあ、イーナが殴った怪我だけどな。
「でも……」
「イーナにお任せ! 元気になって一緒に遊ぼうよ! その方が楽しいよ。幸せだよ!」
「……うん。お願いしようかな……。私、ポーションとかでもよくならなかったんだけど、大丈夫かな……」
「大丈夫だよ。よくなりたいって強く思ってね。それが大事だよ」
「うん。私、良くなりたい。みんなと一緒に遊びたい……」
ミリアムは――やっぱり泣いている。
本当は辛いんだ。
「じゃあ、よくなろう。元気になろう!」
「うん、お願い」
ミリアムが窓から身を乗り出し、手を伸ばす。
その手をイーナが両手で握る。
「じゃあ、回復魔法だ! 病気なんかに負けるな、ミリアム!」
「うん、私、病気なんかに負けないよ!」
ミリアムの体がうっすらと光る。
もしかしたらイーナの魔力なのか?
しばらくミリアムの体が光っていて、ゆっくりと光は消えた。
「……どうなんだ?」
結果が気になる。
ミリアムはぼうっとしている。
「なんかね、体が温かいの。イーナちゃんの優しさが入って来たみたいなの」
「それは……いいから、ミリアムの体は、病気は!」
「……うん。なんか、少し調子がいいかな。ここのところね」
ミリアムが胸を押さえる。
「ずっと痛みがあったんだ。鈍い痛みって言うんだって。それがね、なくなったんだよ。ねえ、ずっとあったんだよ。だけど、今はないんだ。ないんだよ」
ミリアムが泣いている。
だけど、これは嬉しいときの涙だ。
「ありがとうね、イーナちゃん。本当に、ありがとうね」
「うん、いいよ、ミリアム。友達だからね!」
本当にすごいやつだ、イーナは!
なんで、俺はこいつのことを変な奴だって思ったんだろう。
何日か前の俺を殴りたい!
「あ゙り゙がどゔ……」
俺からもお礼を言わなきゃな。
「なんでダグラス君が泣いてるの? だけど、ダグラス君もありがとうね」
俺も泣いてた。
いいよな。
兄ちゃんも言ってた。
「女のために泣けるのが、本当の男ってもんだぜ」
意味はよくわからない。
だけど、女性のためなら、男は泣いたっていいんだ。
きっと、今回みたいなことなんだよね!
その後、ミリアムの病気は本当に完治していて、一緒に遊ぶことができるようになった。
まだ体力がないから、家の中だけど。
イーナもたまに遊ぶ。
だけど、フェルドさんが街の中での依頼をしているときだけだ。
森に行くときには一緒に付いていくから。
で、イーナはやっぱり変な奴だった。
言葉遣いは荒っぽいし、すぐに手が出るし、すごく怖い。
だけど、とても優しくて、お日様のような女の子だ。
なんだか手を貸したくなるような、変な奴だよ、まったく。
イーナ、ついでに俺にフェルドさんを紹介してくれないかな?
俺も鍛えてくれないかなあ、フェルドさん。
それは贅沢か。
俺も大きくなって、立派な冒険者になりたい。
みんなを助けられるような、尊敬される冒険者。
それになりたいと思う。




