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ロートル冒険者の俺が聖女の養育者でいいのかよ? ――のちに辺境の英雄と呼ばれる男の話――  作者: 月見里 嘉助


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第31話 同じようで同じでない日々が続いていく

「おう、フェルドちゃん。頑張ってくれて、すまねえなあ」


「爺さん、こんな感じでいいんかい?」


「おう、おう、上出来だあ」


今日は街中で依頼をこなしている。

昨日は森の中で蜘蛛と戦っていたからな。

少し街中でのんびりとだ。

そんなに金になるわけじゃねえが、まあ、こういう日もいいじゃねえか。


爺さんの家の壁の補修だ。

若い頃は爺さんが自分でやっていたそうだが、もうできないらしい。


壁にヒビが入っていた。

そこに水で練った粘土を詰め込む。

少し藁を入れると強度が増すらしい。

これは大工のおっさんに聞いた知識だ。

しかし、俺は素人だからな。

まあ、応急処置程度だよ。


俺は片腕の頃、こういう仕事で食いつないできたからな、結構得意なんだぜ。

両腕に戻ったからな、もう少し器用にできるってもんだ。


「よお、爺さん。また、水が入るようになったら言ってくれよ。直すからな」


「おう、そんときはよろしく頼まあ」


俺も爺さんになったら誰かの世話になるんだ。

なら、俺はいま動けるうちに爺さんの世話をする。

そういう感じで社会ってのは回ってんだよな。

そういうことでいいだろ?


……ツッコミ不在。

街の中の依頼ということで、イーナは遊びに出ている。

で、ジリはその護衛だ。

今日は一人ってことだ。


午前の作業が終わり、日陰で昼食をとる。

エルマさんが作ってくれたサンドイッチだ。

具はハムとチーズ。

美味い。

が、何か寂しい感じもする。

一人で自由ではある。

少し前まで一人だったのになあ。


空に燕が飛んでいる。

速い。

その速度のまま、急回転する。

冒険者の動体視力を舐めるなよ。

見えてるんだよ。


しかし、燕は自由自在に空を飛び回る。

気持ちがいいだろう。


そうだなあ、まあしかし、こんな日もいいだろう。


さて、午後は屋根の補修だな。

雨漏りがするのは苦痛だから、すっかり直してやろう。



仕事を終え、宿に帰る。

宿の前、イーナが座っていた。

部屋に帰ってねえのか?

少し落ち込んでいるようにも見える。


ジリも横にいる。

こっそりとジリに聞いてみる。


「イーナ、何かあったか?」


『秘密です。女性には秘密があるのですよ』


秘密ねえ……


「イーナ、帰るか。夕飯を食おうな」


「ん、フェル。お帰り」


「おう、ただいま」


手を繋いで一緒に宿に帰る。

エルマさんの夕食が待っているんだ。

美味しいやつだ。

何か嫌なこと、失敗したことがあったって、美味い食事がありゃあ、持ち直せるってもんだ。

少しだけだが、その少しが重要なんだ。

一歩だけ踏み出せる元気。

それがありゃあいい。

そうやって日々は進んでいくんだ。

何があったか知らねえがな。


イーナはいつもより食べる量が少なかった。

だが、食べた。

それでいい。



翌日、森での魔物討伐。


「うりゃあ! ゴブリンは嫌い! 嫌いだ!」


イーナがだいぶ荒れていた。

魔法でガンガン狩って行く。

ま、気晴らしかな。

いいかわるいかでいうと……いいんじゃないか?

たまには暴れたい日もあるんじゃねえか。


俺なんて何回もあったぞ。

失敗ばかりの毎日だ。

そりゃあ荒れるってな。

八つ当たりでも何でもやって、前に進めばいいんだ。

ということで、好きにやらせた。


『あの状態のイーナ様を止めるのが怖いだけじゃないでしょうね?』


そんなことはない!

決してな……



翌日。


「行ってくる」


イーナは決意の表情で遊びに出て行った。

大丈夫か?

まあ、信じようじゃないか。


さて、俺は街の中の依頼だ。

水路のごみ掃除をしている。


水路のゴミ掃除ってのはな、定期的に必要なんだ。

これをしないと水路が詰まる。

落ち葉やら、風に舞い上げられた砂とかがたまっちまうんだ。

水路が詰まれば、農業に水が使えなくなる。

そうすりゃ、食い物ができねえんだ。

飢えちまうじゃねえか。


ちなみに飲み水は井戸からだから関係ねえよ。


上流に板を入れて、簡易に水の流れを少なくする。

で、水路にたまったゴミを熊手で使ってかき出す。

水を含んだゴミってのは重いんだぜ。

冒険者ってのはレベルが上がっているからいいが、一般人じゃ、なかなか重労働だ。

ま、便利なものだよなレベルってものは。

……よく考えるとよくわかんねえシステムだがな。

一般的な人間と冒険者じゃあ、レベルが違うから、筋力も全く違うんだ、何倍もな。

普通に考えたら、普通じゃねえよな。

が、そんなシステムだ。

神様だか、なんだかがそんな感じに作ったんだ。

何のため?

疑問はあるが、まあいいさ。

神様の考えるこたあわからんさ。

俺は俺ができることをするだけさ。


泥もあるから、スコップでかき出す。

結構、腰にくる。

《ヒールウォーター》で回復しながらになる。

な、いいもんだろ、冒険者ってのも?



で、宿に帰る。

イーナが宿の入り口の横に座っていた。

今日は誇らしげに。

それはそれでどうしたよ?


「フェル、お帰り! イーナ勝ったよ!」


何にだ?


「ああ、そりゃあよかったな。勝つってのはいいことだ。負けるよかいい。だが、無意味な勝利は、無意味だからな。それは覚えておけよ」


「了解! 気を付ける!」


わからんから、なんとなく、それっぽいことを言っておいた。

何だかわからんが、納得したらしい。


ジリを見る。


『イーナ様はすごい方なのです。なのでいいのです』


だから、何がだ!


イーナは夕飯をたくさん食べた。


「あら、イーナちゃん、成長期かしら。美味しそうに食べてくれるから、嬉しいわ」


エルマさんには好評。

太らなきゃいいと思う。

が、それは言わない。

女性には絶対に言っちゃあいけない言葉だと、冒険者の先輩に教えてもらった。

あの先輩も、俺と同じでモテなかったなあ……



本日は森だ。


「ゴブ、ゴブ、退治♪ ゴブ退治♪」


イーナが機嫌よく、ゴブリンを狩っていく。

機嫌が良くても、悪くても、ゴブリンは狩られていくんだな。

アイツら間引きしておかないと増え続けるから、仕方ねえ。

が、少しだけ哀愁を感じるよ。

……ゴブリンに同情するたあ、俺も歳かね。


『歌も上手いとは、さすがイーナ様!』


ジリは、もういっそアホだな、アホ。

イーナ信仰が強すぎだ。



数日後。

今日も街での依頼だ。

つーか、半分商売みたいなもの。

客が持ってきた果実水を《クール》の魔法で冷やすだけの商売。

果実水を作るのが面倒なので、冷やすだけ。

なのだが、ここのところ暑くなってきたので、需要がすげえ。


「ママー、冷たいのが飲みたいー!」


「しょうがないわね。フェルドさん、お願いね」


「毎度!」


《クール》の魔法で、坊主が持っている果実水を冷やす。

スイカの果実水だな。

これはほんのりとした甘みと、スイカの爽やかな香りで夏らしい飲み物だな。


「冷たー! 美味しい!」


満足してくれたようだ。


「フェルドさん、水を冷やして氷にならねえかい?」


おっちゃんがタライに水を持ってくる。

まあ、俺もレベルが高くなって、女神の加護(中)のおかげで、魔力もまあまあだ。

気合を入れれば行けると思う。


「何に使うんだよ?」


「ああ、食材の保存にな。箱の中に食材を入れて、一緒に氷を入れときゃあ、長持ちするだろう」


「まあ、そうだが。氷なんて高級品だろうが」


「それをフェルドさんが安く作ってくれねえかなってな」


「おいおい、氷を作るのは魔力がかかるんだよ。少し値が張るぜ」


「そうか……残念。いいアイデアだと思ったんだがよう」


「氷はそのまま削って、メープルシロップでもかけて食った方がいいんじゃねえか?」


「おー、そりゃいいや! 暑いからなあ、少し値が張っても売れるぞ!」


まあ、前に大きな街で見たことがあるやつなんだがな。

かき氷ってやつだ。

貴族様が食ってた。

俺が氷をつくりゃあ、庶民も食べられるくらいの値段になるだろう。


つーことで、このおっちゃんとそこそこ小金を稼がせてもらったよ。



宿に帰る。

三度、イーナが宿の入り口の前に座っていた。

今日はやり切った表情だ。

自信に満ちている。

……どうしたんだよ。


「フェル、お帰り!」


イーナが立ち上がり、こっちに走ってきて、俺に抱き付く。

何かな、甘えている。

きっと褒めてほしいんだろう。


「イーナ、今日はいい日だったか。頑張ったか?」


「おー、イーナは頑張ったぞ。いい日だった!」


「そりゃあいいや。すげえじゃねえか。今日がいい日なら幸せだ。そんな感じだ!」


「そんな感じだ!」


イーナは満面の笑み。

どうやら正解だったらしい。


『イーナ様は成長されるのですよ。日々、成長していく。それを見られるなんて、なんて幸せなんでしょうか』


……ジリも幸せらしい。

なんだか知らねえけど、うっすら泣いてねえか?

猫も泣けるんだな。

初めて見たよ。



「エルマ。エルマの料理はいつも美味しい。ありがとうな!」


イーナが上機嫌にナポリタンスパゲッティを食べている。

成長したな。

服を汚さずに食べているよ。

ジリ、こういうことか?

ん、違う?


「あら、イーナちゃん、お上手ね。明日はもう一品増やそうかしら?」


エルマさんの料理をもう一品ねえ。

……イーナだけってことはないよな。


「それは俺ももらえるんでしょうか?」


「フェルドさんも食べてくださいね。そして感想を聞かせてくださいね」


「いやあ、エルマさんの料理はいつも美味しいから、美味しいとしか言えねえです」


「それじゃあ意味ないんですけどね。だけど、ありがとうございます」


「しょうがないな! フェルは!」


まあ、いいか。

エルマさんも、イーナも笑顔。

料理が美味しい、それは事実だからな。



そんな感じだよ。

日々はそんな感じで過ぎていく。

太陽は東から登って、西に沈む。

それはいつも同じなんだ。

だけど、イーナは同じじゃない。

成長している。

同じようで同じでない日々が続いていく。

そんな感じだよ。


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