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ロートル冒険者の俺が聖女の養育者でいいのかよ? ――のちに辺境の英雄と呼ばれる男の話――  作者: 月見里 嘉助


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第30話 俺たちゃあ、純朴な男性でよかったよなあ

「ウィンドカッター!」


イーナが風の刃を放つ。

それは簡単にゴブリンを真っ二つにした。


「どう、フェル?」


イーナがドヤ顔。

殺して、褒めるってのもどうかと思うところがある。

が、冒険者としては正しい。

んで、イーナの《ウィンドカッター》は正しく強力だった。

イーナは聖女のためかレベルは見れねえが、おそらくそのへんの魔法使いより上。

すでにCランクは楽にあって、もしかしたらBランクあたりかなと思う。

十歳でこのレベルかよ!

恐ろしいのは聖女ってことだな。


「おう、いいじゃねえか。狙いも正確だし、すげえもんだ」


「へへーん。次、次、行こう!」


イーナは上機嫌だ。


「しっかし、イーナちゃんはこんなに成長してたんだねえ」


ドミニクが感心している。

今回はコイツと一緒に森に入っている。

少し奥の方まで行こうってことだ。

俺も、もうレベルが37だ。

この辺のゴブリンを倒したって、レベルアップしねえ。

奥で、でっかいのを狙おうってこった。


『フェルド。ゴブリン、前方、百メートル先。三匹です』


先頭を黒豹形態のジリが歩く。


「イーナ、前の方、ゴブリンがいるから気を抜くなよ」


「了解、でっす!」


イーナは敬礼。

ほんと、大丈夫かね、コイツ。

まあ、ジリもいるから問題ないけどな。


「あの黒豹がジリちゃんたあねえー。いやあー、自分の目で見るまでは信じられなかったけどねえー」


「聖女様の護衛役だよ。俺一人じゃ、頼りねえんだってよ」


「ま、そりゃそうだろうねえ。二十四時間見てらんねえから、最低二人は必要だよねえ」


そろそろジリのことについても、ギルドの仲間に公開してもいいんじゃねえかってことだ。

何かあったときにジリが黒豹になれねえと、面倒かもしれねえからな。


「でさあ。フェルドさんはジリちゃんと話せるんだよねえ」


「そうだな、頭に直接な。変な感じだよ。もちろんイーナも話せるぜ」


「なるほどねえ。俺の知らねえことがたくさんあるってことだねえ。いやあ、驚いたよお」


ドミニクは言葉とは違い、それほど驚いてなさそうだ。

まあ、コイツは、この飄々としたところがいいところってな。

慌てることがないのも、良い冒険者の証ってな。



イーナが魔法でゴブリンをプチプチ潰しながら森の奥へと進む。

もうゴブリン程度じゃ、イーナの敵じゃねえな。

魔法じゃなくて、剣で対応させた方がいいか?

いやあ、まだ、体が小せえから、危ねえかもしれねえ。

まずは、魔法の精度を上げるところからだな。


「ウッドバインド! でもって、ヴァインソーン!」


木の枝が地面から伸びて、ゴブリンの体に絡みつく。

で、枝から蔓がニョッキリと伸びて、先端が槍のように鋭くなって、ゴブリンの体を突き刺す。

……木属性の魔法ってのは、怖かねえか?

直接さっくりと殺しちまったほうが、潔い感じがする。


「でさあ。イーナちゃん、あんなに魔法を連発しても大丈夫なんだねえ。すげえじゃねえかい」


「ああ、去年はすぐに魔力切れを起こしてたがな。今はこんなもんさ。でも、たまにゃあ、女神様ん所に挨拶に行くんだぜ」


もう、魔力切れはないんだが、成長を見せるために、世界樹のところに行く。

女神様もそれを待っているのか、ちゃんと道を開いてくれる。


「木の女神メルフェイーナ様だよなあ。本当にいるもんだねえ。会うことができるなんて信じられねえや」


「俺だって最初の一度しかお会いしてねえよ。ただ、感じることはできるんだぜ。ほら、集中してみろよ。なんとなく、いつもの森と違うだろう」


イーナと一緒だと、何か森がいつもと違う感じがするんだよな。

女神メルフェイーナ様が見ているからか、もしくは、木の聖女だからか、木々がいつもと違う気がする。


「うーん。俺にゃあ、わからんかもしれないねえ。その辺の感覚はフェルドさんのほうが強いんじゃねえかねえ。女神様に選ばれるだけあってさあ」


そんなもんかねえ。

俺の才能なんて、それほどねえと思うぞ。

今は《女神の加護》をもらっているから、ステータスはそこそこ高いがな。

ただそれだけだ。



さて、奥に進もう。

どうせなら食べられる魔物が良い。

ホーン・ラビットとか、ちと強めだがシルバー・エルクとかな。


食べられる魔物っていうのも種類が少ないんだぜ。

主に森の中に住んでいる奴になる。

ウチの街のように森に近いところだと、たまに食えるが、大きな街だとほぼ出回らない。

食える魔物を討伐したとしても、その街で食っちまうからな。

肉を運ぶのも大変だし、時間が経つと悪くなるからしょうがねえんだ。

ということで、久しぶりに兎とか食いたいねえ。


魔物の兎は普通の兎に比べて味が濃くて、美味い。

王都のほうからは需要があるから、狩って、送れと依頼が来るが、ウチのような辺境の村だと無視だ、無視。

獲れませんでしたと嘘を報告している。

どうせ、都会の奴らは魔物肉の美味さがわからねえんだ。

んで、狩る苦労も知らねえんだ。

だから、うちらで食っちまう。

それでいいじゃねえか。


でさ、その筆頭がバルドゥルだな。

魔物の肉が好物だ。

マスターがそうだから、自然、ウチのギルドは魔物肉を都市に送らねえよ。

そういう意味だと、ウチの冒険者もバルドゥルの影響が大きいな。

結構、尊敬されているってか。

若えやつは騙されちゃいねえかな?



『フェルド、戦闘音がします。この声は……シャノンたちと思われますね』


「おい、それはどういう状況だ? 苦戦してねえんだったら、別の方向へ進もうぜ」


シャノンはなあ、苦手ってわけじゃないが、ちとなあ。

男なのに、美人ってのは卑怯だと思うぞ。


『……苦戦はしていないようですが、苦労しているようですね。合流したほうがよいと判断しましょう』


しょうがねえな。

ジリの状況判断は適切だからな。

従ったほうがいい。


「おい、ドミニク。シャノンたちがこの先で戦っているらしい。ちと様子を見に行くぞ」


「了解さあ。じゃあ、行きましょうかねえ」


イーナはジリの背中に乗り、俺たちは走る。

ジリが先導し、森の奥へ。

少し進むと戦闘音が聞こえてきた。


「くっ、数が多すぎる。マリオン、君は相性が悪いから、なるべく近づかせないように気を付けて!」


「了解よ、シャノン。この糸が邪魔ね!」


「やだー! この糸、嫌い! 私が火属性だったらこいつら、燃やし尽くしてやるのに!」


シャノンたち『清廉なる赤い薔薇』が蜘蛛型の魔物と交戦中だった。

ありゃあ、ベノムスパイダーじゃねえか。

毒を吐くし、腹をぶった切ると毒をまき散らす。

糸を尻から吐き出して、こちらの動きを制限する。

一匹ならCランク程度の奴だが、何せ数でくるやつだ。

今も、一見して二十匹程度はいるんじゃねえか?

そりゃ、シャノンたちでも苦労するだろう。


火属性の広範囲魔法で燃やし尽くしてしまうってのがいいんだがな。

生憎、アシュリーは木属性だ、相性が悪い。


「助けようかい、フェルドさん?」


「シャノンだ。助けようよ。フェル!」


「おう、しゃあねえ。行こうぜ!」


つうことで、蜘蛛に突撃だ。


「おう、シャノン。助太刀するぜ!」


「あ、フェルドさん、ドミニクさん! お願いします。助かります」


「フェルドさんとドミニクさんだー♪ 良いところに登場! ヒーローだよね!」


アシュリーのテンションが高いが、今は無視だ。


「イーナ、ジリ、魔法攻撃頼む! ドミニク、シャノンたちの近くの蜘蛛を狩るぞ! 腹を切るのは避けろよ。毒をぶちまけるからな。頭を狙え! 毒をぶっかけられたらイーナに回復を頼めよ!」


「了解さあ、フェルドさん。それじゃあ、行きましょうかねえ」


ベノムスパイダーの数が多いが、Bランク冒険者がこんだけいりゃあ、問題ない。

ジリはAランクだしな。

毒と糸さえ気を付けながら、数を削っていく。

キシャ、キシャうるせえが、知らねえよ。

食えねえ奴だから、とっとと討伐しちまうに限る。

こいつら、数を増やすと、森の浅いところまで来て新人をいじめるからな。

新人だと対応が難しいだろう。

情けは無用だ。

ガシガシ殺していこうや。


「もう少しですね。ありがとうございます。助かりました、フェルドさん」


「シャノン、気を抜くんじゃねえぞ。戦いは最後までしっかりだ」


「わかっています! これでも何度も修羅場を潜り抜けてきたんですからね。フェルドさんに教えてもらっていた、あの新人の頃の私じゃないですよ!」


いいねえ。

シャノンもいっちょまえになって来た。

もう、ウチの街のエースだよ。

口じゃあ、色々言うが、頼りにしてるんだぜ。


でだ。

そんなことを言うとフラグってのが立つらしいぜ。


『奥から強いのが来ますよ! 注意!』


「おー、上だ! フェル!」


ジリとイーナが注意をする。

上?

蜘蛛だから……

って、でけえ蜘蛛だが、上半身が裸の女じゃねえか。

んでもてて、美人。


「フェルドさん、アラクネだぜ、ありゃあなあ」


「あー、敵はAランクじゃねえか。ドミニク、俺たち力不足だな。シャノンたちに任せるか」


二人で上を眺める。

木の上から糸で垂れさがっているよ。

人間部分は普通の人間のサイズなんだが、蜘蛛の部分がデケえなあ。

足を広げると三メートルくらいか。

それがぶら下がってんだからな。

変に人間部分が美人なのが、余計に気持ち悪い。


「フェルドさん、ドミニクさん、冗談言ってないで、みんなで対処しますよ」


シャノンに怒られた。

冗談じゃないんだがな。

あの見た目はちと苦手だ。


「ねえ、あなたたちですよねえ。私の子供たちを殺したのは。何故あんなに可愛い蜘蛛を殺すのかしら? 殺したら、殺されるのですよ。覚悟はできているんでしょうね」


で、喋りやがる。

で、泣いている。

子供を殺されて、悲しんでやがる。

上半身人間タイプはこれだから、嫌なんだよ。

やりづれえったら、ありゃしねえ。


『フェルド! あれは魔物ですよ。女性じゃありません。手加減は無用。殺すか、殺されるかです。覚悟を決めなさい!』


まあそうなんだがなあ。

理性ではわかっちゃいる。

が、美人で、綺麗な声をしてやがるんだよ。

魔物のくせになあ。


「いやあ、戦いにくいねえ。が、戦わなきゃならねえんだよねえ。人間と魔物ってさあ。仕方ねえなあ」


「だよなあ、ドミニク。仕方ねえから、戦うか。死にたくねえからなあ」


『おっさんたちはこれだから。しょうがないですね! いきますよ、ウィンドジャベリン!』


「イーナもウィンドジャベリン!」


「僕も、ウィンドジャベリンだあ!」


魔法隊が《ウィンドジャベリン》を撃つ。

アラクネは尻から出した糸で器用に回避する。

意外に動きが速い。


「お返しです。ウッドバインド!」


アラクネの魔法だ。

あいつも木属性かよ。

上半身女性だからな、尻の糸で回避しつつ、魔法を放てるんだ。

奴の基本的な戦闘スタイルなんだろう。


地面からツタが発生し、うねうねと俺たちを捕捉しようと動く。

結構魔力が高えじゃねえか。

ツタの数も多いし、動きも速い。

剣で切ったり、回避したりするのが面倒だ。


「きゃあ!」


あん?

マリオンが捕まってるじゃねえか。

あいつ、鎧が重くて動きが鈍いからな。


「ではウィンドカッターです!」


マリオンに向けて、アラクネが魔法を放つ。


しょうがねえなあ。

マリオンの前に割り込む。

で、魔法剣(水)を発動。

魔力を纏った剣で、風の刃をいなす。

風の刃は後方の地面をえぐった。


「助かりました」


「いいってことよ。それよりツタをとっとと斬るぞ」


マリオンを掴んでいるツタを斬り落とす。


「しぶといですわね。では再度、ウッドバインドです」


また、拘束系かよ。

地味に嫌な攻撃だよな。

拘束して、《ウィンドカッター》の攻撃のコンボだろう。


で、マリオンの動きが遅えって。

身体強化してるんだろうが、重装備は基本回避じゃねえからな。

しょうがねえから、マリオンを抱き上げて逃げ回る。


「ありがとう。私は少年が好みですが、今なら、フェルドさんに抱かれてもいいです」


まったく余裕があるじゃねえか。

なら、自分でどうにかしろっての。


「いらんこと言っているなら、降ろすからな!」


「嫌です」


手をしっかりと首に回してくる。

降りる気ねえじゃねえか。


「マリオンばっかりズルい!」


「しっかりしなさい、マリオン。フェルドさんに迷惑かけない!」


『フェルド。遊んでないで真面目にやりなさい』


「イーナも抱っこがいい!」


女性陣(?)がうるさい。

アシュリー、シャノン、ジリ、イーナだ。

遊んでいるわけじゃねえんだ。

こちとら真剣なんだよ。


「糸だ。糸を狙え! とっととアラクネを撃ち落としてくれ! そしたら地上班で袋叩きだ!」


「了解だー!」


イーナが元気に《ウィンドカッター》を放つ。

アシュリーも続く。

ジリは木を蹴って上空へ。

アラクネへの直接はリスクがデカいので、爪で糸を切る。


「問題ありません」


アラクネは再度尻からの糸を吐き出す。

が、それも、イーナたちの攻撃で斬る。

アラクネは地上に墜落した。

地上なら、俺たちも参戦できる!

マリオンを下ろし、剣を構える。


「くっ! 地上だとしても、勝てると思わないでください!」


アラクネの尻から糸!

避ける。

が、やはりマリオンは絡まっている。

無視だ。

優先はアラクネの撃破。


「行くぞ、シャノン、ドミニク!」


「はい、フェルドさん!」


「今までの借りを返させてもらうよお」


「やらせません!」


アラクネが足で突き刺してくる。

が、その関節を狙い、斬り落とす。


シャノンが内側に滑り込む。


「はあ!」


人間型の上半身に斬り込む。


「きゃああ!」


浅いが、ダメージを負わせた。

しかし、やはり女性、やりづれえ。


が、そうもいってらんねえ。

上半身に飛び、《迅突・無型》。

無型だから足が付いていないでも使えるのが利点!

それを連打だ!

《迅突》はシンプルなスキルなので、連続使用も可能。


「ぎゃあああ!」


撃ち終わりに硬直があるが……


「俺も忘れねえでくれよなあ!」


ドミニクが攻撃。

パーティはいいねえ。

息が合った連携ってやつだ。


魔法隊の攻撃も炸裂する。

こうなりゃ、袋叩きだ。

戦闘に卑怯もないからな。


「死になさい!」


それでも、女性の体を斬り裂くのはためらわれた。

なので、シャノンに止めを譲る。


アラクネの上半身は下半身と切り離されて、地上に落ちる。

これだけ見ると、普通の女性の死体……

なんだかなあ。

テンションが下がる。

ドミニクも微妙な表情しているよ。


「気持ち悪い! 死んじゃって!」


「イーナも行く!」


『蜘蛛は嫌いです!』


女性(?)陣が追撃。

オーバーキルくさい。

シビアだよなあ、女性は。


「怖いもんだねえ……。俺がああならねえように気を付けねえといけないねえ」


「さすがにあいつらも、人間相手にはアレはやらねえよ。やらねえと信じたい。が、言葉の刃は可能性が残るぜ」


「それもまた厳しいものだよねえ」


「だな、ドミニク。俺たちゃあ、純朴な男性でよかったよなあ」


「だな、フェルドさん」


うん、なんかドミニクとの友情が深まった。


アラクネとの戦いは終わった。

しかし何かを失った気もする。

だが、得たものも大きかったような気がする。


シャノンがレベル40になった。

Aランクだ。

嬉しそうな顔をしている。


「お祝いしてくれますよね、フェルドさん」


頬を染めて、幸せそうな笑顔。

アラクネの返り血が若干怖い……


「ああ、ギルドでお祝いしねえとな」


「二人だけでもいいんですよ」


どうか、ギルドでお願いします。

俺の貞操の危機じゃねえか?



<<ステータス>>

フェルディナント・エアハルト

 年齢:42歳

 冒険者:Bランク

 LV:38(Up!)

  生命力:254

  筋力 :177

  魔力 :103

  素早さ:143


シャノン・ガーネット

 年齢:25歳

 冒険者:Aランク(Up!)

 LV:40(Up!)


マリオン・アーミテイジ

 年齢:23歳

 冒険者:Bランク

 LV:39(Up!)


アシュリー・バーネット

 年齢:24歳

 冒険者:Bランク

 LV:35(Up!)


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