第22話 俺たちは森の奥へ行く。お前たちは撤退だ!
新人の訓練始めてから二週間ほど経った。
こいつらもだいぶ様になってきたと思う。
そろそろ卒業だろう。
で、ちょっと冒険者ギルドに寄っている。
さて、次はどうしようかってことだ。
「おう、フェルド。また、新人のお守りかよ」
「まあ、フェルドは面倒見がいいからね。マリアンネさんも頼みやすいんだと思う」
おう、おっさんコンビ、朝から酒を飲んでんじゃねえよ。
新人の教育に悪いだろうが。
「なにしてんだよ、テオ、ルッツ。暇なのかよ」
こいつら声がでかいから、新人どもが萎縮しちまってるじゃねえか。
「ここんとこ働きづめだったからなあ。休暇だよ、休暇」
「朝から飲む酒ってのも、良いもんだよ。フェルドもどうだい一緒に」
「さっき、お前らが新人のお守りって言ってたんだろうが。お前ら、奥さんと子供にどやされないのかよ」
しかし、こいつら二人でコンビ組んでるくせに、休日まで一緒かよ。
仲良しだな。
こいつらは、テオバルト・ギレスとルッツ・ボルネマンの幼馴染コンビだ。
テオが剣と盾のオーソドックスなタイプで、ルッツがショートソード、ショートボウ装備のレンジャータイプ。
Bランク冒険者だな。
年齢は俺の一つ上らしいが、まあ、同期みたいなもんだ。
もともとは今の奥さんたちとパーティを組んでいたんだが、結婚、妊娠で、彼女たちは冒険者を引退し、コンビになった。
ちなみにルッツは奥さんと死別している。
「ま、ガキどももだいぶ大きくなったからな。手がかかんねえよ。俺が家にいると家が狭くなるって言われるくらいだぜ。外にいるんがいいんだ」
「うちんとこもね。娘だから、ちょっと邪魔にされるんだよ。フェルドも娘、イーナちゃんだったか、を持ったんだろう。そうならねえといいね」
「うっせえ、ルッツ。イーナはそんなことなんねえよ」
それにすぐにイーナは大きくなるからな。
きっと反抗期もすぐに抜けるはず。
……だよな?
「おー?」
イーナも首を傾げんじゃねえ。
「あ、こいつら新人の『星を掴む強靭なる蔓』だ。ディーター、クリスタ、グレーテな」
「おう、テオバルトだ。見てくれは怖いかもしれねえが、気軽に声を掛けてくれや」
「ルッツだよ。『星を掴む強靭なる蔓』ね。いいじゃないか、ロマンがあって。冒険者にはロマンが必要だよ」
新人どもは恐縮しつつ、挨拶している。
なんだよ、俺のときとはずいぶん違うな。
俺の教育で、謙虚になってくれたのならいいが。
たぶん、おっさんコンビがBランク冒険者だからだろうな。
「あー、テオさんとルッツさんだー! フェルドさんもいるー!」
おっと、またうるさいのが来たな。
『一角獣の透明な角』というパーティで、ラーレ、エラ、アポロニアの女性三人組だ。
最近、この街に引っ越してきた。
どうも以前はもっと大きな街で活動していたらしい。
女性だけの三人だから、きっと何か理由があるんだろうな。
ま、冒険者というのは荒くれの男たちが多いからな。
その中で女性だけで活動するってのも、大変だろう。
だが、問題なのが……
「やっぱり、おじ様たちよねー♡」
「男は三十後半からだと思うの」
キャピ、キャピとうるせえ。
なんだでか、こいつらもおっさん好きなんだよ。
どうなっているよ、最近のおっさんの評価はよう。
「テオも、ルッツも妻子持ちだから、面倒なこと起こすなよ」
ルッツは奥さんがいねえが、娘さんがいるからな。
「じゃあ、フェルドさんはー?」
ラーレが体を摺り寄せてくる。
彼女ら、確か年齢は二十くらいか。
クリスタ、グレーテと比べりゃあ、大人だ。
だが、俺は四十だからな。
さすがに二十年下はねえよな。
「俺はイーナを育てるんで忙しいからな。また、後で」
「私たちなら、イーナちゃんの子育ても一緒にできるわよ。楽になるわよ」
確かになあ。
だが、女神様にお願いされたのは、俺だしな。
『まあ、フェルドだけで育てる必要もないでしょう。が、足手まといにならなければですけどね』
とジリは言う。
子育てねえ……彼女たちにできるのか?
初めてだろう。
ま、俺もそれほど変わらねえか。
んで、彼女たちはCランク冒険者。
そっちも俺とそれほど変わらねえ。
さて……
「ラーレさん、エラさん、アポロニアさん、そのへんに! あまり皆さんを困らせるようでしたら、マスターに報告しますよ!」
おっと、怒りのマリアンネさんだ。
「おう、どうしたい、問題発生かい?」
そこにドミニクも登場。
いつも、いいところに来るよな。
もちろんドミニクは彼女たちに大人気だ。
もてるねえ。
「あ、ラッキー! ドミニクさんも合流だ!」
「ラーレさん!」
すかさずマリアンネさんに注意される。
「ごめんね、マリアンネさん。私たち依頼の途中だったの。じゃ、いくね。またね、フェルドさん、テオさん、ルッツさん、ドミニクさん♡」
ラーレの投げキッスを残して、ギルドを出て行った。
マリアンネさんの顔が……険しい。
なんで火に油を注ぐことをするんだか……
それにしても、どうしてこんなにおっさん人気があるんだか。
世も末だねえ。
さて、俺たちも森へと入る。
新人たちの卒業訓練だ。
今日はゴブリンの討伐を行う。
あいつら、最近、数を増やしているから、ちと面倒かもしれねえな。
「慎重にな。最近の森は何があるかわかんねえ。危なくなったら撤退しろ」
「わかってます。命を大事にですね」
ディーターが言う。
クリスタ、グレーテも頷く。
新人たちを先行させる。
俺たちは問題があったら助ける。
そういう感じだ。
さっそくゴブリン五匹と遭遇。
上位種はいねえ。
戦闘開始。
「ディーター、先制お願い! グレーテ、確実に一匹ずつ行くわよ!」
「了解。集中していこう」
クリスタの声に、グレーテが応える。
グレーテは他の魔物がいないか周囲を警戒し、ディーターが魔法に集中する。
「フレイムショットだ!」
ディーターの魔法が先制する。
手の平大の火の弾が飛ぶ。
ゴブリン一匹に直撃し、燃え上がる。
ゴブリンたちは敵の出現に騒ぎ出す。
残り四匹。
「クリスタ。相手、遠距離なし。待ちで」
「グレーテも焦らないでね」
あのクリスタがずいぶん落ち着いたものだ。
前は敵が見えりゃあ、突撃していったものだがな。
ゴブリンは「ギャ、ギャ」うるさくわめきながら、近づいてくる。
上位種がいなきゃあ、チームプレイもない。
個別に襲い掛かってくるだけだ。
クリスタ、グレーテが確実に一匹ずつ倒していく。
ディーターは魔力を練って、いつでも魔法を発射できるように待機。
今のこいつらなら、五匹くらい問題ねえな。
少しだけ頼もしくなった。
まだ、ガキだがな。
「最後、一匹!」
クリスタの剣が、ゴブリンの首を落とす。
「よっしゃ、終了!」
クリスタが勝利の声を上げる。
が、周囲への警戒は怠っていない。
いいじゃねえか。
「おー、倒したなー」
イーナは俺が肩車している。
イーナも彼らの成長を認めているらしい。
朝の素振りはイーナの方が先輩だから、ちょっと後輩っぽい感じで見ているらしい。
おう、こいつらは卒業だな。
もう、俺は必要ねえだろう。
あとはチームで強くなっていくだろう。
若い奴らは成長が早えからな。
彼らは周囲を警戒しながら休憩だ。
水筒で水を飲む。
俺は《ウォーター》で出した水をコップに受ける。
それをイーナとジリに渡す。
水属性ってのも便利なもんだよな。
まあ、マジックバッグを女神様からもらったから、水筒も運べるんだがな。
ちなみにジリは、『星を掴む強靭なる蔓』がいるから、黒猫のままだ。
その耳がピクピクと動く。
『フェルド。戦闘があるようです。……状況は悪いかもしれません』
「冒険者か?」
『おそらく。全滅の可能性が高いですね』
「新人たちは置いていったほうがいいか?」
『はい。足手まといでしょう』
敵はだいぶ強いらしい。
が、ジリは、俺が行くことを止めない。
てことは俺たちなら何とかなるってことだ。
「おい、問題発生だ! 俺たちは森の奥へ行く。お前たちは撤退だ!」
「フェルドさん、何が……。いえ、撤退します」
今のこいつらなら、無茶してついて来るってことはないだろう。
ディーターたちを置いて、俺たちは森の奥へと急ぐ。
《身体強化》を使い走る。
「イーナ、振り落とされんじゃねえぞ!」
「おー、まかせろ!」
『フェルド。戦いに備えて魔力は残しておきなさいよ』
「わかってらあ!」
とにかく時間が勝負。
間に合わなけりゃあ、意味がねえ!
「なんなのよ! なんなの!」
「きゃあ! ちょっとまってよ!」
「危ない!」
「いやああ!」
「ラーレ!」
戦いの喧騒。
女性の悲鳴。
名前からして『一角獣の透明な角』、ラーレたちのパーティだ。
現場に到着した。
状況は……
魔物は一匹、犬型。
狼か?
いや、デカい。
高さが3メートル、体長は5メートルを超えるだろう。
ラーレが倒れている。
半身が焼けただれている。
ラーレを守るように、その前に魔法使いのアポロニアが立っている。
杖を抱きしめて、足はがくがくと震えている。
二人と狼の間にエラ。
しかし、左手がない。
近くにラウンドシールドとともに落ちている。
跪いている。
もう戦闘意欲はない。
全滅寸前。
しかし、まだ生きている。
『あれは、ガルムでしょう』
「Bランクのやつか!」
狼に見える魔物はガルム。
火属性の魔物で、注意すべきはその強靭な体と、口からを吐く火の玉。
しかし、Bランクの一匹なら、『一角獣の透明な角』で対処可能なはず。
彼女らは優秀なCランク冒険者。
三人ならなんとかなるはずだが。
とにかくエラが危ない。
彼女のすぐ前にガルムがいる。
彼女は動けない。
恐怖か?
「ジリ、頼む!」
『仕方ありませんね』
ジリが《ウィンドカッター》を撃つ。
さすがAランク、俺の《ウォーターガン》とは威力が違う。
ガルムは気付き、退避。
エラと距離ができる。
そこに俺が割り込む。
で、イーナを地面に降ろす。
「エラ、大丈夫か?」
「あ、フェルドさん……」
エラの顔は幽霊でも見ている感じ。
おらあ生きてるぞ。
たぶん、ここにいるはずがねえって思ってんだろう。
「イーナ、回復頼む」
「らじゃ!」
ととと、イーナはエラのもとへ。
イーナの回復魔法はすげえんだ。
だから何とかなるだろう。
イーナがもう少し成長していれば、左手も治せるかもしれねえんだが。
が、まずは生き残る。
それからだ。
俺はガルムに対峙する。
でけえな……
こんな強そうなのと戦ったことねえぞ。
『ちょうどいいでしょう。フェルド、倒しなさい。あなたはCランクですが、ステータス的にはBランクはあるはずです。女神様の加護があるのですから』
簡単に言ってくれる。
だが、ジリがそう言うんだ。
確かなのだろう。
俺でも勝てる。
信じるぞ、ジリ!
ガルウゥゥ!
ガルムが吠える。
いや、ビビっちゃいねえよ……
ちゃんと行くから、待ってろよ。
剣を構え、切り込む。
ガルムが前足を振る。
しゃがんで躱す。
っ!
少し掠ったじゃねえか!
「おらあ!」
袈裟懸けに、後ろ足を斬り付ける。
くそが!
毛皮と皮膚が硬くて、斬れねえじゃねえか。
すぐに離脱。
ガルムの反撃が来るが、空振る。
ガルムの喉が膨らむ。
あれか、火球か!
ガアア!
ガルムが口から火球を吐き出す。
危ねえな!
デカけえじゃねえか。
火の玉は俺の頭ほどある。
地面に転がって躱す。
当たったら死ぬぞ!
『フェルド。練習しているアレですよ』
わかってるって!
だが、アレはまだ訓練中だろうが。
本番で使えるほどの練度はねえ。
が、やるしかねえんだろ?
やってやらあ!
集中だ。
《水の身体強化》を強くする。
水の中に沈むような感覚。
で、それを剣へ……
「うおっ!」
ガルムの噛みつき。
ぎりぎりで避ける。
危ねえな。
『敵を見ながら、集中しなさい。あなたが、ディーターたちに言っていたことですよ』
わかってるって!
戦いは冷静にだ。
感情じゃねえ。
体が熱くなっても、頭は冷たく冷えてねえとダメなんだ。
一つ息を吐く。
じゃあやるか。
《魔法剣・水》を発動する。
剣に水の魔力が乗る。
攻撃力が上昇しているはず。
ガルムは……火球、ヤツも最大の攻撃。
避ける、か?
いや、派手に動くと《魔法剣》が解ける。
俺の《魔法剣》の練度はまだそのレベルだ。
なら……
火球を撃ち落とすのは無理だ。
だが、その方向を逸らすことならできるんじゃねえか?
剣を突き出す。
火球にそっと触れて、進行方向に添わせるように、そっと優しく、導いてやる。
俺に当たらないだけ、それだけ方向をずらせばいい。
もしイーナの方向に行ったとしても、ジリがどうにかしてくれんだ。
火球は俺のすぐ横を抜けていった。
よし。
そのまま走る。
突撃する。
ガルムが前足を振り回す。
それをスライディングでかわし、ガルムの巨体の下に滑り込む。
ここだ!
アクティブスキル《迅突》を発動。
喉あたりから、脳みそに向けて剣を突き入れる。
喉の筋肉は薄く、防御力も低い。
剣は深々と突き刺さった。
手首をひねり、剣を回す。
脳みそをかき混ぜてやる。
剣を引き抜くと、大量の血が俺に降り注ぐ。
ガルムは痙攣し、そして……
ドウ、と倒れる。
重えよ!
下敷きだよ。
なんとかガルムの下から這い出る。
「うお、血まみれだぜ。こいつ死んだ、よな?」
ガルムを剣でつつく。
動かない。
倒した。
俺が、ガルムを倒した……
『まあまあですね。それにしても大きなガルムでした。異常成長個体でしょうか』
「おい、ジリ。そんなこと言っていなかったじゃねえか」
『ガルムはガルムでしょう。嘘は言っておりません』
勝てたからいいけどな。
なんだよ「異常成長個体」って、普通のガルムじゃねえのかよ?
『フェルド、レベルアップしてるんじゃないですか?』
「3レベル上がってやがるよ……。やっぱ普通のガルムじゃねえのかよ」
やつはどんだけ格上だったんだよ?
『良かったですね。フェルド』
「よかったじゃねえよ、たく」
『Bランク、おめでとうございます』
ああ、そうか……
レベル32。
Bランク。
俺が到達できなかったレベル。
そうか、俺もそこまで来たか。
ベテラン冒険者、主力冒険者のランクだ。
胸を張って、冒険者といえるレベル。
『さて、女性冒険者たちはどうなったでしょうか?』
ジリは冷静すぎだろ。
もう少し余韻に浸らせてくれよ。
ま、確かに俺のレベルアップよりか、彼女たちの方が重要だけどな。
<<ステータス>>
フェルディナント・エアハルト
年齢:41歳
冒険者:Bランク(Up!)
LV:32(Up!)
生命力:203
筋力 :137
魔力 : 74
素早さ:108
アクティブスキル:
迅突・無型(New!)(どんな体勢からでも発動可能な迅突)




