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ロートル冒険者の俺が聖女の養育者でいいのかよ? ――のちに辺境の英雄と呼ばれる男の話――  作者: 月見里 嘉助


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第23話 泣く資格があるやつってのはな、できることを全部やったやつなんだ

ラーレはアポロニアの膝の上に横たわっている。

意識はないようだ。

エラはすぐ横で、ラーレを心配そうに見てる。


イーナはそんな彼女たちを見て、困った顔をしている……


三人は生きている。

だが……


ラーレの右肩から顔のあたり、ひどい火傷がある。

右腕は黒く炭のようになっている。

もう使えねえかもな。

顔の火傷か……

あんなに可愛らしい顔だったのになあ。


エラの左腕もねえ。

傷はふさがり、死ぬことはなくなった。

だが、腕がない。

それは辛えもんだ。

俺も同じだったからな。

エラは左手で盾を持っていたが、もう持てなくなった。


アポロニアは無傷だ。

二人が守ったのだろう。

偉えもんだ。


今のイーナの回復魔法ではこれが限界。

死なないだけ良かったと思えたのなら、いいんだろうがな……


彼女らは、冒険者を続けるんだろうか?

続けられるのか……


「フェルドさん。助かりました。イーナちゃんも、本当にありがとう」


エラが俺たちに礼を言う。

痛々しい笑顔で。


「フェルドさん……。ラーレの腕が。エラの腕が」


アポロニアが……


「なんで? なんでなの! 森のこんなところであんな大きなガルムなんて! 普通じゃない、普通じゃないの。なんで、なんで私たちなの?」


泣く。


「ラーレの顔……。こんなになっちゃった。ねえ、フェルドさん、どうしよう……」


ああ、やだな。

女が泣くのは嫌なものだ。

男ならいいつうもんでもないが、だが、やはり、女性には泣いてほしくない。

笑っていてほしい。

俺を叱っても、笑ってもいい。

だが、泣き顔は嫌いだ。


「フェルー……フェルー。あー、あー!」


イーナも泣き出す。

走ってきて、俺に抱き付く。

イーナを抱き上げて、背中をさする。

そうだよな。

イーナも治したかったんだよな。


「なあ、ジリ。なんとかならねえか」


『イーナ様が聖女だとバレますよ。それでもですか?』


イーナはギャン泣きしている。

いいじゃねえか、別に。

聖女だってバレたってなあ。


「ああ、それでも、どうにかしてえじゃねえか。こんな若い子が、頑張ってきてこれじゃあしょうがねえよ」


『まあ、あなたならそうでしょうね。では、これからイーナ様を死んでも守りなさいよ』


「ああ。そりゃあ、もうずっと前に覚悟は決まってらあ」


女神様からイーナを頼まれたときに。


『……それでは、女神メルフェイーナ様に願いましょう。お力を借りるのです。この森、イーナ様ならば、聖女の奇跡が起こせるでしょう』


女神様の力を借りる。

きっと、それも聖女じゃなきゃできないこと。

イーナがいて、メルフェイーナ様がいる。

だから、奇跡は起こる。


「イーナ」


泣き続けている。


「よく聞け、イーナ。彼女たちを治したいんだよな。できなくて、悔しいんだよな」


更に泣き声は強くなる。


「なら、泣いてちゃダメだ。まだ、できることがある。それなら泣いてちゃダメなんだよ。泣く資格があるやつってのはな、できることを全部やったやつなんだ。できることがあるのに、やらねえやつは泣く資格なんざねえんだ。わかるか? イーナ」


首を左右に振る。

わかっているのか、わかっていねえのか。


「できることがある。なら、やろうぜ。彼女たちを治せるんだ。もう少しだけ、頑張ってみようじゃねえか。なあ、イーナ」


イーナが顔を上げる。

俺を見る。

涙と鼻水でぐちょぐちょだ。

だが、目は死んじゃいねえ。


「悔しいならやってみようや。できなかったら一緒に泣いてやるよ。なあ、やるかい? イーナ」


「……やる」


こくりと頷く。


「やる。イーナ、回復する!」


いいじゃねえか。

偉いぞ、イーナ。



イーナがラーレに手を当てる。

横には猫の姿のジリがいる。


『イーナ様、別に集中する必要はないのですよ。貴女は聖女様なのです。メルフェイーナ様の娘。貴女の願いなら、女神様に届きましょう』


「うい……」


『女神様はここにいらっしゃいます。いつもイーナ様の傍にいるのです。静かに感じましょう。そして、身を任せるのです。聖女様のお力に……』


「うい……」


なにか……空気が澄んでくる気がする。

音が遠のく。

森に光が降り注ぐ。

そして、イーナが、その表情が変わった。

……雰囲気が明らかにイーナじゃねえ。

こりゃあ、力を借りるってより、女神を下ろすって感じじゃねえのか?


「よろしい。助けましょう」


その声はいつものイーナとは違い、しっかりしていた。

やはり、イーナじゃねえな。

女神メルフェイーナ。

その意識が入っているようだ。


イーナがラーレに回復魔法をかける。

イーナのときとは違う。

ラーレの体が白く輝き、火傷が治っていく、炭のようだった右腕がもとに戻る。

これが、奇跡、か……

俺の左腕を生やしたのと同じだ。


「あ、あ……ラーレ、ラーレの顔が、腕が……。あ、ありがとう! ありがとう、イーナちゃん」


アポロニアが号泣しながら、手をイーナに伸ばす。

が、イーナはそれを無視して、エラのほうへ。


「そちらの方も治しましょう」


エラの左腕に、イーナが触れる。

光が溢れ、そして、腕が再生される。

イーナが成長すりゃあ、この力を自在に使えるってことだよな。

すげえもんだよ、聖女つうのは。

さすがに魔王と戦う勇者パーティのメンバーだ。


だが、このイーナは好きじゃねえんだ。

いつもの無邪気なイーナがいいんだ。

あいつは、まだ、子供なんだ。


「なあ、ジリ。イーナは元に戻るんだよな」


『はい。いつまでもメルフェイーナ様のお力をお貸しいただけるわけではありません。……女神様は苦手ですか?』


「そうじゃねえよ。おらあ、この左腕を治してもらったんだ。感謝している。だが、イーナはいつものイーナがいい。まだ、ガキでいいんだよ」


『そうですね。イーナ様には、もう少し子供の時間が必要でしょう。しかし、本当にメルフェイーナ様を恐れないでくださいね。とても美しく、優しい女神様なのですから』


「なんだよ。念押しするなあ。感謝はしてるよ。だが、信仰はしねえからな」


『いいでしょう。それでいいのです。あなたは』


よくわかんねえよ。

が、女神様にはお礼を言っておこう。


「女神様、ありがとうございます。俺らの願いを聞いてくれて」


イーナに頭を下げるって、ちと間抜けだな。

まだ五歳程度の子供だぜ。


「いいのですよ、フェルディナント様。イーナをよろしく頼みます。仲良く、楽しく、育てていただければいいと思います」


イーナは笑う。

幼い顔に、落ち着いた笑顔。

違和感が強えな……


「もちろん、俺の命に代えても、イーナは守り抜きます」


「あなたは死んではダメですよ。それではイーナが幸せではありません。二人で仲良く。それが重要なのですから」


イーナが手を伸ばす。

俺はそれを取る。


「よろしくお願いします」


「はい。もちろん」


イーナから、ふっと、力が抜けて、倒れそうになる。

慌てて抱きしめる。

……おい、寝てやがるよ。


「お疲れ、イーナ。よくやった」


起きたら、頭をガシガシと誉めてやろう。

だから、今は静かに寝かせてやろう。

目が覚めるまで、たっぷりと。


あー、緊張した。

女神様なあ。

存在感が違いすぎらあ。

俺なんか、プチっと潰されそうだ。

優しい女神様なんだろうが、ちと、苦手かもしれねえ。



「フェルドさん、ありがとうございました」


エラが礼を言う。

左腕を右腕で抱いている。

戻ってきた腕を確かめるように。

わかるぜ、俺も同じだったからな。


アポロニアは泣き疲れて、ラーレの胸にうつ伏して寝ている。

ちと羨ましい、なんて思ってねえんだからな。


「いや、俺じゃねえよ。イーナに礼を言いな。が、起きてからにしなよ。気持ちよさそうに寝てるからな」


「……イーナちゃんは……もしかして、聖女様……」


バレるだろうな。

で、隠せはしねえだろう。


「ああ、そういうこった。イーナは、女神様から託された聖女だよ。だが、公言するなよ。面倒なことになるからな」


「知っている人は?」


「マスター、マリアンネさん、ドミニク。それに気付いているのは何人かいるだろうな」


エルマさん、ティムも知っている。

シャノンたちも気付いているだろう。

それに魔法屋のノーマおばちゃんもな。

おばちゃんは元魔法使いだから、そっちには敏感だろう。

まあ、普通の人間じゃねえって感じかもしれねえ。

まだ、聖女とは気付いていないかもな。


「色々、問題がありますよね。でも、それでも私たちを助けてくれるんですね」


「ああ、しょうがねえじゃねえか。見つけちまって、んで、助けられる可能性があるならさ。助けてえと思うだろう」


「私たち三人の命よりも、イーナちゃんの秘密の方が重いとしても?」


「そういう難しい選択ってのは苦手なんだよ。だがなあ、そういうときは感じたままに決めようって決めてんだ」


「感じたまま……」


「そのほうがいいじゃねえか。あとで後悔するにしたってな。んでよお。将来なんてわかんねえんだ。考えたってしょうがねえ。だから、これでいいんだ。お前たちは重く受け止める必要はねえぞ。全部、俺が決めたことだからな」


「……はい。一生感謝します」


わかってねえなあ。

だが、その感謝はありがたく受け取っておくよ。

きっと、そういう感謝の気持ち、優しい気持ちが、イーナをまっすぐに育てんだろう。

俺一人じゃ無理なんだろうってのは、なんとなく気付き始めてんだ。


「じゃあ、帰るか」


「……もう少し、待ってもらっていいですか? ラーレもアポロニアも疲れて寝ています」


ここは森の中だ。

魔物が出て、危険なんだがな。

まあ、ジリに警戒してもらえばいいか。

イーナも寝ているしな。


「彼女たちが起きるまで。少し時間があります。……お話、聞かせてください」


「なんだよ。面白い話なんて持ってねえぞ」


「なんでもいいんです。フェルドさんのこと、どうやって生きてきたのか。後学のために……」


エラは俯いて、目も合わせやしねえ。

変な奴だ。


なんでもいいって言われんのも、期待されてねえみたいで、なんだかなあ……

ま、面白くなくていいなら、話してやろうか。

大した話じゃねえしな。


「俺は、うまく話せねえよ。それでもいいかい」


「はい」


が、あの辺の話はする気にならねえ。


「ずうっと昔の話と、最近の話。どっちがいい?」


「それなら、最近の話を。私たちと出会う少し前の話」


そんな話が聞きたいのかね?

こんな若い子がね。


シャノンたちとの出会いとか、バルドゥルが馬鹿な話とか、ドミニクと馬鹿やった話とか、テオとルッツと飲んだくれた話とか、そんなところだ。

まあ、俺も長く生きてるんだ。

思い返せばいろいろと話はあるもんだ。

自慢じゃねえが、失敗話なら大量に持っているんだぜ。


「おもしろくねえだろ?」


「面白い、面白くないじゃないと思います。それが、フェルドさんが生きてきた証ですから」


なんか、俺より人生わかってる感じがするな。

ま、男なんて子供でいいや。

馬鹿やって、馬鹿話をしてりゃあいいのかもなあ。


そんな時間をエラと過ごしたよ。

ラーレとアポロニアが起きたら、なんか、エラが怒られてたがな。

なんで起こさないの、とかな。

仲良くやってくれよ。

せっかく生き延びたんだからよお。



<<ステータス>>

ラーレ・フォークト

 年齢:20歳

 冒険者:Cランク

 LV:25

  生命力:94

  筋力 :84

  魔力 :44

  素早さ:70


エラ・ジーゲルト

 年齢:20歳

 冒険者:Cランク

 LV:25

  生命力:107

  筋力 : 92

  魔力 : 42

  素早さ: 61


アポロニア・ヴェッツ

 年齢:20歳

 冒険者:Cランク

 LV:24

  生命力: 66

  筋力 : 52

  魔力 :111

  素早さ: 47


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