第20話 俺の朝食のベーコンが若干小さかったのはどうしたことだろう
朝、エルマさんの宿の庭、日課の木剣振りだ。
イーナも素振りをしている。
「やー、やー!」
剣はへろへろと、声のわりに迫力はない。
ま、そんなもんだろう。
まだ五歳あたりだしな。
「はあ、はあ!」
もちろんティムも一緒だ。
少し早く起きて、宿の仕事を片付けて、この時間を作っている。
すげえもんだと思う。
根性がある。
が、まだ五歳、イーナとそれほど変わらねえな。
でだ。
追加。
新人のクリスタ、グレーテ、んでディーター。
「なんで魔法使いの俺もですか?」
「うっせえよ。文句言わずに剣を振れ。魔法使いだって体力、集中力が必要だろうが。魔力を伸ばして、魔法を覚えるだけが仕事じゃねえぞ。持ち駒の効果をどう上げるか考えねえとダメだろうが。やれることはすべてやれや」
「う、う……。わかってますよ。わかってますが、剣を振る必要はあるんですか! 他で何かないんですか!」
叫べる元気があるなら、もうちとキツくしても問題なさそうだな。
魔法使いにしちゃあ、体力があるタイプかもしれねえ。
冒険者には向いているな。
「じゃあ、走るか。俺がいいって言うまで、街をグルグル走って来いよ」
「剣を振ります」
そうか?
下半身も重要だと思うがな。
クリスタは細身のスピード系の剣士。
グレーテは身長が高く、力もクリスタより強い。
足はクリスタより遅いが、手足も長いから、どっしりと戦えばいい。
彼女らも剣を振る。
ディーターと比べるとしっかりはしている。
が、ただ振っているだけだな。
目的がないのかもな。
子供じゃないんだから、考えながら動かなけりゃいけねえ。
どうしてこの訓練をするのか?
この訓練で何をしたいのか?
ただ振っているだけじゃあ、時間がもったいねえな。
「クリスタはどうして剣を振ってんだ?」
「え……。だって訓練なのよね」
「何のための訓練なんだよ?」
「だから、剣の訓練でしょ!」
うん、まあ、そんな回答だよなあ。
「グレーテはどうだ?」
「……フェルドさんの真似してる」
「ん、俺が剣を振るから、振るのか?」
彼女は首を振る。
「動きを真似してる」
なるほどなあ。
俺の剣の振り方を真似しているのか。
少しは考えているか。
「おう、真似ることはいいこった。だがな、剣の振り方なんて人それぞれ。俺のも、俺のくせがある。グレーテにはグレーテの振り方があると思うぞ」
「……わからない」
そりゃ、そうだ。
こいつらは剣の道を歩き始めたばかり。
俺だって、十年振り続けて、なんとなく俺っぽい振り方がわかってきた。
いや、少しだけだがな。
ま、長くやってきただけだ、偉いわけじゃねえ。
で、なんとなくな、他のやつのダメなところってのがわかったりするんだ。
他人のは、自分のよりもよく見えたりする。
だから、グレーテの振り方、違和感がわかるんだ。
「そうだな、グレーテなら、右腕の動きはこんな感じの方がいいだろう」
「……こう?」
「うーん、ちょっとなあ。面倒くせえ。ちと触るぞ」
「……いいよ」
彼女の後ろにくっつくように立つ。
で、手を持って、動かす。
「こんな感じかな」
「……こう?」
「おう、ちとよくなったが、もう少しこんな感じだ」
まあ、感覚なところもある。
言葉じゃ上手く伝えられねえ。
言葉ってのも難しいもんだな。
ディーターが微妙な顔、クリスタが不審そうな顔をしている。
「フェルドさん、ちょっとくっつきすぎよね。グレーテが大人しいからって、ダメだよ」
「うっせえよ、クリスタ。剣の修業のためだよ。やましい気持ちなんてねえんだよ」
「ほんとかなあー。ちょっとはあるんじゃないかなー」
まあ、いい匂いがするなとか思ったりするが、その程度だよ。
お前らなんてまだまだ子供だ。
そんなのにいちいち反応してもしょうがねえだろう。
「クリスタは十年早えよ」
ってことだ。
ということで、グレーテの頭をポンと叩く。
「そんな感じで体にしみ込ませろ。頑張れよ」
「……うん」
それだけだ。
ん?
エルマさんが見てる。
朝飯の用意ができたのかな?
「あ、エルマさん。ご飯ですね。すぐ行きます」
「いいんですよ。フェルドさんは若い子たちと仲良くしていても」
んん?
エルマさんの言葉に棘がある……
「エルマー、ごはん!」
イーナが元気に手を上げる。
走り回って腹が減ったのだろう。
そのまま、エルマさんのところへと走っていく。
「あら、イーナちゃん。お腹減ったのね。じゃあ、一緒にご飯食べましょうね」
エルマさんがイーナと手を繋いで食堂へ。
そのあとをジリもついていく。
俺、置いていかれている?
「なんか、フェルドさん、締まらないな」
「エルマさんには弱弱なのよね」
「ご飯は強い」
若い奴らに微妙な顔で見られる。
威厳なんてねえ。
ま、こんなもんだよ。
おっさんという生き物は。
でだ。
三人はエルマさんの宿に泊まることにしたようだ。
で、俺と訓練をする。
効率的ではある。
ちと、距離が近い気もする。
が、いいじゃねえか。
こいつらが考えたことだ。
否定はしねえ。
エルマさんの宿も潤うしな。
つーことで朝食後、俺たちと『星を掴む強靭なる蔓』は連れ立って冒険者ギルドへと向かった。
……俺の朝食のベーコンが若干小さかったのはどうしたことだろう。
やっぱり、エルマさん怒ってたよなあ。
で、簡単な依頼を受けて森に来ている。
薬草の採取だ。
魔物の討伐はもう少し後が良いと判断した。
「薬草の採取ですか?」
「なんだ、ディーターは嫌か?」
「そうじゃないですが」
明らかに嫌そうだな。
冒険者に憧れる若いのは、魔物の討伐のような派手な仕事を想像している。
が、冒険者というのはなんでも屋の側面もある。
街のどぶ攫いだって、ご老人の家の買い出しだって、冒険者の仕事だ。
「じゃあ、誰が薬草を採取すると思ってんだ。クリスタ君」
「え、私? えーと……村人さん?」
「なわけねえだろ。森は魔物が出て危ねえんだ。ま、仕事に困ってそれをやるヤツもいるけどな。だいたい死ぬから、すぐに消えるんだよ。だから冒険者がやらなきゃならねえ。薬草がねえと困るだろう。な、グレーテ」
「ポーションもなくなる」
「そうだ。俺らの使うポーションも薬草がなきゃ作れねえ。ポーションがなくなりゃ、俺たち冒険者の死亡率も上がるんだよ。だから、報酬が安くたって、冒険者は持ち回りな感じで薬草を採取するのさ。この街の暗黙の了解ってやつだ。大きな街じゃ知らねえがな」
『幸福の青い大樹』だって薬草の採取をする。
『清廉なる赤い薔薇』だって森の深いところで、薬草の採取をする。
そういうことだ。
「でだ、薬草の生えてるところってのは、だいたい決まってんだよ」
薬草はまとまって生える群生地がある。
おそらく成長しやすい条件ってのがあるんだろうな。
なんとなくの肌感覚で分かるようになってくる。
ま、この森なら何十年も入っているから、その場所も知っている。
そこに案内する。
これでこいつらも最低限は食いつないでいけるだろう。
「これが薬草だ。ポーションのもとだよ」
「結構立派に育ってるじゃない。これを取ればいいのよね」
薬草は三十センチほどの高さまで育っている。
葉を多く茂らせて、健康そうだ。
早速、クリスタが薬草を抜こうとする。
が、それじゃダメなんだよ。
「ちと待て。俺が手本を見せる」
ナイフを取り出す。
で、上の方、三分の一を切り取る。
「えー、下の方いっぱい葉っぱあるのに、採らないの?」
クリスタは不満そうだ。
「確か薬草は根っこが一番効果が高いんですよね」
「おう、ディーター、ちゃんと勉強してるじゃねえか、偉いぞ。だが、なあ。根っこから抜いたらどうなるよ」
「……生えてこない?」
「当たりだ、グレーテ。根っこから抜いたら、生えてこねえ。で、下の方から切っちまうと成長が遅い。最悪枯れるんだ。それじゃあ、次に採取できねえだろう。だから、上の方だけを採るんだ。確かに根っこが一番価値がある。だが、一時の稼ぎで、将来の期待を失うことになる。今のことだけを見てちゃあ、明日に野垂れ死ぬかもしれねえだろう。常に先を考えろ。考え続けろ。そういうこった」
考え続けるってのは辛れえんだよ、大変なんだよ。
だけど、それをしてきたやつが生き残るんだ。
今が良くたって、しょうがねえ。
生き残れよ、少年たち。
んで、俺たちを引退させてくれよ。
俺たちが安心して引退できるようにしてくれよ。
「あいー、採った!」
「おう、イーナ。上手えじゃねえか」
イーナが別の薬草を採ってくる。
こいつも俺と一緒に薬草採取をだいぶやっているからな。
若い奴らの先輩だよ。
こんなちっこくてもな。
「近場に薬草が生えてるから、やってみな。で、魔物には注意しな。俺も警戒するが、お前たちも警戒しろよ」
ディーターたちにやらせてみる。
「おい、クリスタ。こりゃあ、薬草じゃねえぞ。毒草だ」
「毒なの?」
「だが、これも使い道があるから採っておけ。毒も薄めりゃ、薬になることもあるんだぜ」
「ディーター。もう少し下から切り取っても大丈夫だぞ」
「よし、こんなもんですか」
「まあまあだな」
「グレーテ。なに? 魔物の警戒が大変で、薬草に集中できない? 薬草に集中しちゃだめだろうが。集中しないでも見えるようにしなきゃだめだ。集中するってことは、視野が狭くなるってこった。そりゃあ、冒険者はやっちゃならねえことだよ」
「むずかしい……」
そんな感じだ。
ちなみに魔物はジリが狩ってくれている。
だから、こいつらは安全に薬草を採取できている。
が、それをこいつらには伝えない。
緊張感がなくなるからな。
俺たちがいないときに、ちゃんと仕事ができるようにならなきゃならねえ。
俺がいないとできねえようじゃ、しょうがねえよ。
「フェルー、採った!」
イーナが一番優秀だな。
若い奴らが入ってきたので、張り切っているらしいや。
楽しそうだ。
この森、女神メルフェイーナ様の木があるんだよな。
それで、森が豊かなのかもしれねえ。
魔物はいるが、採取物もたくさんある。
女神様には感謝だな。
ありがとうございます、日々感謝しています。




