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ロートル冒険者の俺が聖女の養育者でいいのかよ? ――のちに辺境の英雄と呼ばれる男の話――  作者: 月見里 嘉助


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第19話 頑張るのは俺じゃなくて、自分たちだからな

冒険者ギルド、そのロビー。

椅子に座って、机にうつぶせになっている。

イーナは向かいの席で果実水を飲んでいる。

この季節はいちごを使っていて、甘酸っぱい香りがこっちまで香ってくる。


俺はというと、いつものようにバルドゥルにしごかれて、ダウンしている。

ちと休ませろよ。

おっさんにはキツいんだよ。

バルドゥルは元気だがな。


「がははは。フェルド。良くなってきているじゃねえか。だが、まだ足りねえなあ。卒業はまだまだだ!」


うっせえよ。

何だよ、卒業って。

何を卒業するためにやってんだよ。

愚痴はこぼすが、ちゃんとやるよ。

これから厳しい戦いの時代に入るんだ。

それがわかっているのに、訓練しねえのなら、それは自殺行為。

俺はまだ死にたくねえ。

そんなもんだろう?


「大変だねえ。フェルドさんも」


「おう、ドミニク。どうしたんだ、こんな時間にいるのは珍しいじゃねえか」


Bランク冒険者で、おっさんのドミニクが入ってくる。


「ああ、俺も意外と大変なんだよねえ」


後ろに若い奴が三人。

見たことない子たちだ。


「新人さんかい?」


「そうだねえ。冒険者になるってよお。俺なんか、こんなしがない職業をよく選ぶもんだと思っちまうよ」


ま、確かにリスクは高いし、気を抜けばすぐ死んじまう職業だ。

気を抜かないでも、理不尽に、ただ運が悪かったといわれる事態もある。

一般人も魔物に殺されるリスクはあるが、それに比べても厳しい職業だ。


だが、夢はある。

生まれが貴族とか、豪商とか裕福なら、教育もしてもらえて、安全で稼ぎがいい家業を継いで、裕福に暮らしていける可能性はある。

だが、庶民が金を持ちたい、成り上がりたいなら、冒険者が一番手っ取り早い。

夢がある。

それを叶えるために冒険者になる。

まあ、聞こえはいいやね。

だが、大変なもんだ。

最低、死ぬ覚悟もしておかなきゃならねえな。


「お疲れさん。じゃ、若いのも頑張れよ」


俺にはそんな言葉をかけるしかできねえやな。

とりあえず机の冷たさが気持ちいい。

少し温かくなったので、冷たい場所を探して、姿勢を変える。


ドミニクたちは受付のマリアンネさんのところへ。

冒険者の登録をするのだろう。

あいつが連れてくるくらいだから、実力はあるんだろう。

あとは冒険者の基本を覚えて、独り立ちできるまで教育するこった。

新人が一番、死ぬリスクが高いからな。

大きな町の冒険者ギルドだと、みんな忙しいから、そこまでフォローできないこともある。

で、ウチの街はベテランの暇人がいたりする。

そいつが手取り足取り新人に教える。

新人は死なないし、ベテランはお小遣いをもらえる。

ウィンウィンだな。

ドミニクが連れてきたんだ、ドミニクが教育するだろうよ。

俺には関係ねえ。


「フェルー、お外!」


イーナが飽きてたようだな。

果実水は飲み終わっている。


「おう、そろそろ行こうか。いちご水、美味しかったか?」


「おー、いいものだ。またな」


気に入ったようだ。

明日もねだられる、か。

稼がねえとな。



さてと……

今日は何の依頼を受けようか。

掲示板へと移動する。

依頼を確認……


「あ、フェルドさん、ちょっと待ってください」


「どうしました。マリアンネさん」


何の用だろう?

何かしでかしたか。

いや、最近は問題を起こしていねえはずだが。


「こちらの新人さんなんですけれど」


マリアンネさんの前にはまだドミニクと新人三人がいた。

彼らは俺を見ている。


「教育、お願いできないでしょうか」


ああ、そういうことか。

新人教育ね。


「ドミニクが連れてきたんだ。ドミニクがすりゃいいじゃねえですか」


「ドミニクさんはちょっと他の仕事がありまして。フェルドさんにお願いしたいです」


あー、新人の教育ねえ。

正直、イーナがいるからなあ。

ほら、イーナが足をバタバタとちょっと暇そうじゃねえか。


「何で僕たちがあんなおじさんから教育されないといけないんですか。確かあの方はCランク冒険者ですよね」


三人の中の魔法使いの男だ。

まあ、間違いじゃねえがなあ。

先輩は敬うもんだぜ。

少なくとも侮辱しちゃいけねえよ。

そう心で思っててもな。


「そりゃあねえよ、ディーター。フェルドさんは大先輩だよ。おめえたちよりだいぶ強えんだぜえ」


「Cランクでですか? Bランクのドミニクさんが教育係をしてくださいよ」


面倒くせえなあ。

おりゃあどっちでもいいがな。

なしなら、なしで終わりにしようや。


バンッ!


うおっ。

マリアンネさんが書類を机に派手に叩きつけた。

場は一気に静まり返る。


「いいですか『星を掴む強靭なる蔓』さん。フェルドさんは多くの新人を教育してきたすごい方なんです。このギルドの新人死亡率が他の街より低いのはフェルドさんのおかげといってもいいんです。あなたたちの先輩である『幸福の青い大樹』も、そして、今Bランクの『清廉なる赤い薔薇』も、みんなフェルドさんが指導してきたんですからね! アナタたちにはもったいないくらいの人なんですよ。わかっていますか!」


なんだか、マリアンネさんの俺に対する評価が高えじゃねえか。

ちと恥ずかしい……

まあ、教えたは教えたがな。

アイツらは勝手に育っていっただけだぜ。

シャノンたちはすぐに俺を追い越すしな。

ま、情けないこった。


「だ、だけど、マリアンネさん……」


魔法使い男性はなんとなく反論したいらしい。

あれだけ言った手前、簡単には認められねえか。

いらねえプライドだな。


「いいから、いきなさい! フェルドさんに絞られて、根性叩き直してもらってきなさい! 自分たちがどれだけ未熟か知りなさい!」


だから、マリアンネさんは怒らせちゃあいけねえんだ。

怖えんだからな。

あの魔法使い、ちょっと泣きそうじゃねえか。

ここでさらに反論できたら勇者、もしくは本物の馬鹿。

……いや、ただのガキだな。


「ま、ギルドは冒険者管理のプロだからな。その決定にはよほどのことがない限り従うんだな。俺が教えられることの一つ目だ」


と、偉そうに言っちゃあいるがね。

俺も若いときはバチバチやってたさ。

あのときの受付のおばちゃんは元気かな。

ずいぶん世話になったよ。


「っ……。すみません、マリアンネさん。フェルドさん、お願いします」


魔法使いは頭を下げる。

素直じゃねえか。

まず、先輩の言うことは素直に受け取る。

それが生き残るための第一歩だ。

で、本当に間違っていると思ったら、覚悟を持って反対する。

それが生き残るための二歩目だな。


「で、ドミニクは何しに行くよ」


「おうさあ。ちいっと森の調査になあ。シャノンたちも頑張ってんだよなあ。で、俺も駆り出されたってこったよお」


このギルド、シャノンたちがBランク。

で、ドミニクがBランク。

それだけだ。

テオとルッツは……除外する。

恐らく、次に俺が来るのだろう。

レベル29。

ギリギリCランクだ。

30になればBに上がる。

五人目のBランク。

イーナと女神様の加護により、レベルアップが速くなっている。

そりゃあ、俺の実力かって悩んだこともあるがな。

ま、いいじゃねえか。

強くなってんだからよ。

甘えなけりゃあいいんだ。

自信満々で、増長しなきゃいい。

謙虚にいこうや。



「さて、じゃあ、行こうか、『星を掴む強靭なる蔓』。庭で実力見せてくれや」


それにしても『星を掴む強靭なる蔓』って何だよ。

あれか、確かおとぎ話があったよな。

種を蒔いたら、ぐんぐんツタが伸びて、空の星を掴んで落っことしちまったってやつ。

それからとったのか?

可愛いもんだな。


で、ギルドの庭だ。


「ディーター・ヘットナーです。リーダーです。魔法使いです。属性は火です」


「クリスタ・オイゲンよ。前衛をやっているわ。武器は剣ね」


「グレーテ・クラネルト。前衛。剣」


なるほど、二人の前衛と、後衛一人か。

しかし、男性を守る二人の女性。

ハーレム臭がするが、しかし、決めつけも良くないだろう。

ディーターがただの使い走りの可能性もある。


ディーターは線は細く、身長は低めだが、気の強そうな顔をしている男性。

クリスタは平均身長の短髪の女性。

グレーテは身長が高めの肩くらいの髪の女性。

俺の人物描写に期待しないでくれ。

おっさんだからな。


さて、魔法使いは俺にはわからん。

ジリが教えられればいいんだが、そうもいかん。

毎回どうしているかというと、聞きかじりを、知ったふうに言っているだけ。

何とかなるものだ。


ま、それはとりあえずおいておく。

後で考えられることは、後で考える。

ジリに相談しようか。


今は実力を見る。


「とりあえず、かかってこい」


木剣を持って、一応構えてみる。

が、三人はぽかんとしている。


「どうしたよ。ほれ、ほれ」


向こうのほうではイーナがジリと鬼ごっこをしている。

ジリに遊んでもらっているな。

イーナの動きではジリを捕まえることはできねえだろう。

だが、ジリはイーナが捕まえるギリギリまでゆっくりと動く。

んで、たまには捕まってやっているみてえだ。

その演技が上手いんだよな。

イーナにバレねえようにやっているんだからすげえや。

俺なんて演技したら一発でバレらあ。

だから、イーナと遊ぶときゃあ、一緒に楽しまねえといけねえんだ。

なかなか大変なんだぜ。


さて、新人どもだな。


「俺からってことでいいのか。魔法ありで」


ディーターが一歩前に出る。


「ん? 何言ってやがる。一対一で俺に勝てるつもりか。レベル差を考えろよ。お前いくつだよ」


さすがに俺をなめすぎだろう。

まだ四十歳だぞ。

動けない年齢じゃねえ。

っていうか、今が一番強えんだからな。


「俺が11で、二人が9です」


ディーターがDランクで、二人がEランクか。

俺のレベルをいくつだと思っているんだか。

大人と子供だよ。


「俺は、29だからな。実力差がありすぎんだよ。正直、三人がかりでも弱すぎる」


俺とバルドゥルのような力関係だよ。

あの筋肉達磨、週に二回は俺をしごくんだぜ。

いまだAランクの実力を持ってやがるんだ。

俺一人でどうしろってんだよ。


「来いよ。ほれ、どうした?」


「本当にいいんですね」


「おう、いいぜ。俺を倒して見せろ。実力を見せてみろよ。すぐ卒業になるぜ」


「……行きます」


クリスタ、グレーテが突撃。

ディーターが魔法の準備に入る。

……俺に勝てるとしたら、魔法だろう。

なら、防御に徹したほうがよかねえか。

俺がどちらか一人を抜いて、ディーターが取られたら終わりじゃねえか?


つーことで、ひょいと木剣を投げてみる。


「がはあ!」


よし!

いい感じに投げれた。

ディーターの腹に直撃。

ありゃあ、痛えぞ。

魔法使いは柔いからな。

もう無理かもな。


「ディーター! 何するのよ」


「うっさいよ。他人の心配している場合じゃないだろうが、よっと」


クリスタに体当たりをする。

おー、軽いね。

飛んでいくよ。


「く、くそ! この馬鹿力が!」


余裕を見せて、グレーテは掴んで投げておく。

という感じで、三人は地面に伸びている。


「んで、どうよ。もう、終わりかい?」


三人を眺める。

クリスタ、グレーテは実力差がわかったようだ。

ディーターは……いいね、目が死んでねえ。


「まだだ……。まだ、いけます。俺は何もしてない!」


腹を押さえながら、立ち上がる。

魔力を高めている。

腹の痛みに魔力が発散しそうになるだろう、それを無理矢理強引に集める。

魔法を使うのは集中が必要だ。

で、痛みがあるとそれが難しい。

魔法使いってのは、前衛に守られて、怪我することは少ねえからな。

こういう状況になったことはないだろう。

これも訓練ってこったな。


ディーターが立ち上がれば、クリスタ、グレーテも立ち上がらないといけない。

顔には絶望が浮かんでいる。

勝てると思っていない。

だが、立ち上がり、木剣を構える。

その剣先は震えている。

いいじゃねえか。

恐怖しながらも、立ち向かう根性。

ま、俺なら、勝てないなら逃げるがな。


「ファイヤーボール!」


《ファイヤーボール》か!

火属性攻撃魔法で、《フレイムショット》より上。

なるほどこのレベルで使えるのなら、才能はある。

これは直撃すれば爆発し、炎上する。

が、直撃せずとも、一定の距離で爆発する厄介な魔法だ。

さすが、攻撃魔法といえば火属性。


だが、なあ。

まだまだだ。

《ウォーターガン》で迎え撃つ。

ジリに鍛えられただけはあるさ。

俺の魔法の方が速え!

《ウォーターガン》は《ファイヤーボール》に直撃。

場所は、ディーターたちに近い場所。

そこで爆発する。


「うわあ!」


「きゃあ!」


「くっ!」


ま、彼らは大丈夫だろう。

俺の水魔法で、火魔法の威力は弱くなっているだろうからな。

……結構、大丈夫じゃなかったな。

ディーターの才能がありすぎか?

《ファイヤーボール》の威力が予想以上だった。

まあまあな火傷。

イーナに回復してもらった。

ほんと、イーナがいて良かったよ。

ちとやりすぎたかな。


「ま、こんなもんだ」


焦りは外に出さない。

偉そうにするのもまた、大切なことだ。


「参りました。確かに俺たちは弱い」


「イーナちゃん、すごいわ。こんな小さいのに」


「死、を感じた……」


いや、グレーテ。

あれくらいじゃ死なねえって。

俺は腕一本落とされて、生きてたんだからな。


とまあ、そんなこと言ってもしょうがねえ。

鍛えてやろうか。

死なないようにな。

若えヤツが俺より先に死んじまうってのは、寝覚めが悪いや。

そうならねえようにしねえとな。

死ぬのは年齢順だよ。

それがいい。


頑張れよ、若えの。

頑張るのは俺じゃなくて、自分たちだからな。

俺は手を貸すだけだ。

強くなるのは自分たちでするもんだぜ。

まあ、そういうこった。



<<ステータス>>

ディーター・ヘットナー

 年齢:14歳

 冒険者:Dランク

 LV:11

  生命力:36

  筋力 :29

  魔力 :58

  素早さ:27


クリスタ・オイゲン

 年齢:14歳

 冒険者:Eランク

 LV:9

  生命力:37

  筋力 :31

  魔力 :15

  素早さ:30


グレーテ・クラネルト

 年齢:14歳

 冒険者:Eランク

 LV:9

  生命力:40

  筋力 :35

  魔力 :14

  素早さ:21


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