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ロートル冒険者の俺が聖女の養育者でいいのかよ? ――のちに辺境の英雄と呼ばれる男の話――  作者: 月見里 嘉助


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第18話 「あなたのため」だって言う奴は、信用しちゃダメだ

ということで、回復魔法を覚えることにした。

回復はイーナがしてくれるが、イーナがいない場合はどうするんだってことだよ。

俺の魔法属性は水だ。

適性がDと低いのだが、この低い適性でも覚えられる回復魔法があるのが水属性のいいところだ。

ま、D適性じゃ、覚えたところで大した回復量はないんだがな。


だが、冒険者という職業は、ほんの少しだとしても、生き残る確率をあげる努力をしなきゃならねえんだ。

それが本当にギリギリのところで踏ん張れるかどうかにつながる、と俺は思っている。

ま、あんなけ頑張った俺がここで死ぬはずはねえって、根拠も薄い自信になるくれえかもしれねえがな。


イーナを肩車で、街の魔法屋へと。

いつものノーマおばさんところだな。


「おう、おばちゃん、元気かよ」


「なんだい、フェルドちゃんかい。今日もただの顔見せだろう。こんなおばちゃんの顔を見に来てくれるのはフェルドちゃんくらいだよ」


大袈裟だな、おばちゃん。

この街には魔法屋が一軒しかねえんだ。

魔法を覚えたい冒険者から、日常で使える《クリーン》みたいな魔法を買う裕福な主婦なんかがいて、結構にぎわっているんだぜ。

俺が来るときゃ、暇そうだがな。


「今日はちゃんと買うよ」


「ほうほう。また珍しいねえ。季節外れの雪でも降らなきゃいいけど」


失礼な!

最近はいくつか買っているだろうよ。


「で、何を買うんだい」


「ヒールウォーターだよ」


「ほう……フェルドちゃんの才能じゃ、治癒効果はそんなに高くなんないと思うけどねえ。ああ、腰痛対策かい?」


「うっせえよ! まだ腰痛じゃねえって。おらあ冒険者だぜ。体が資本だ。気を付けているよ」


「気を付けているたって、年取ってくりゃ、なるときゃ、なるのさ。ま、手札を増やすことはいいことだよ。普段はイーナちゃんにお願いしなよ。ねえ、イーナちゃん」


「おー! フェル、痛い痛い飛んでけするぞ!」


やっぱりおばちゃんイーナが聖女だってわかってるだろ。

成長速度が異常だからな。

気付くヤツは気付いている。

が、見守っている感じだ。

狭い街だから、顔見知りが多くて助かる。


とにかく《ヒールウォーター》の魔法を購入した。

……高かった。


早速、宿に帰って、《ヒールウォーター》を覚えた。

毎回、違和感が半端ねえ。

慣れねえや。


《ヒールウォーター》を使ってみる。

……効果はわからない。

失敗しているのか、成功しているのか……?


『傷がなければわからないでしょう。切りなさい』


ジリの指摘はもっとも。

だが。


「やだよ。痛えじゃねえか」


『冒険者が何を言っているんですか。怪我など日常茶飯事でしょう』


「痛いもんは痛い。そりゃ、ないならないほうがいいじゃねえか」


『……』


ジリが立ち上がり……呆れて向こうに行くかと思ったら、こっちかよ。

前足一閃。


「うぉ! っ!」


避けきれずに、腕を引っかかれた。


「お前なあ!」


『これで実験をできるでしょう。感謝しなさい』


コイツは……!

まあ、いい、実験を……


「痛いの痛いの飛んでけー! だ!」


イーナに回復された……

趣旨がわかってねえな、イーナ。

あれだ、魔法屋のおばちゃんに言われたから、張り切ってやがるんだ。

ドヤ顔が……可愛くはあるが。


「なあ、イーナ」


「ほえ?」


「ありがとうな。だが、俺が回復する練習だから、少しだけ待っていてくれるか?」


「はい!」


元気に手を上げる。

イーナ、こりゃ、わかっちゃいねえよなあ。

というわけで、再度ジリがひっかき……


「ちょっと待て、イーナ!」


「かいふくー!」


繰り返すことさらに二回……

イーナが飽きて眠くなったので終了した。

ジリに何回引っかかれればいいんだよ、まったく。



ようやく《ヒールウォーター》の練習だ。

やはり、回復しない。

しかし……


「なんか、ぞわぞわする感じはあるんだがな」


『魔力は来ているのでしょう。フェルド、魔法で重要なことは何だと思います?』


「そりゃあ、魔力、才能だろう」


『そうですね。なら、剣に重要なことは何だと思います?』


武器の剣のことじゃなくて、剣術ってことだよな。


「ああ、才能、身体能力、それと鍛錬だな」


剣は才能、身体能力だけじゃだめだ。

鍛錬し、体に動きをしみ込ませる必要がある。

ギリギリのときに頭で考えねえでも剣を振れるようにならなきゃだめだ。


『魔法も同じことでしょう。才能、魔力、そして努力。努力はイメージともいいますか。明確な結果を想像する訓練が必要なのです。例えば回復なら、どうしたいのでしょう?』


「そりゃあ、怪我を治すんだろう。この猫のひっかき傷を」


『猫……。ま、いいでしょう。では、どのような工程で治すのでしょうか。そもそも、傷とは何でしょうか? 血が流れるのはなぜでしょう。そして、治った後の姿は明確ですか? 傷のない状態とはどういうことでしょう』


細けえな。

だが、それを明確に想像できるのが魔法使いってことか。


『あなたは冒険者家業が長いのでしょう。ならば、傷、怪我については多少の知識があるんじゃないですか。たくさん見ているんじゃないですか、それを』


……ああ、そうだよ。

たくさん見てきた。


傷ついた冒険者。

アイツはもう引退している。

命があっただけ良かったよと笑った。


亡くなった仲間。

彼女はまだ若かった。


俺は左腕を失った。

あの激しい痛み……

思い出したくもねえ。

そして喪失感、絶望感。


『そのすべてがあなたの経験。それがあなたの力でしょう。そうでなければ、そうしなければ、いけないのです』


言っていることはわからなねえでもねえが、しかし……


『あなたの冒険者としての歴史が、あなたの才能なのですよ。それは無駄では決してない』


こいつ、たまに優しいことを言うから、調子が狂うよな。

だが、まあ、やってみようじゃねえか。

乗せられてやるよ。


集中する。

そして、思い出す。

あの怪我を、痛みを。

血が出る。

それは血管が切れたからだ。

肉が裂け、骨が見える。

なら、逆になればいい。

肉はもとに戻り、血管は繋がる。

皮膚はそれを覆う。

今回の傷はそれほど重症じゃねえが……

が、同じだろう。


水魔法を発動するときの感覚は《ウォーターガン》と同じだろう。

《ウォーター》だと使いすぎて、慣れ過ぎて感覚を忘れている。

《ウォーターガン》を訓練したときを思い出す。

そして《ヒールウォーター》を発動する。


傷を水が包む。

じりじりと傷が治っていく。

成功だ。


『まあ、この程度の傷を治せないようでは、期待もできませんが』


そして、ジリ、普段は口が悪りいんだよな。

優しけりゃ、もっと可愛いのによ。

もったいねえよな、こんなかわいい見た目なのにな。


『……なんですか、じろじろ見て、気持ち悪い。まだですよ。一回成功したくらいでは、もっと大きな怪我をした場合、痛みに耐えながら魔法を発動できません。繰り返し練習することが必要です』


「ま、そりゃ、確かにな」


『ということで』


「痛え! おい、またひっかくのかよ!」


『魔力が尽きるまで続けましょうね。これはあなたのためですから』


「あなたのため」だって言う奴は、信用しちゃダメだって、ばあちゃんから教わったんだぜ。

俺、こいつ信用しねえぞ!

ただのSだ。

俺が痛がっているのを見て、喜んでやがるんだ!



まあ結局、大した怪我は治せないくらいの《ヒールウォーター》を習得した。

で、こんなもんでも、役立つことはあるもんでな。


「痛っ」


マリアンネさんが声を上げる。


「どうしました?」


「紙で指を切っちゃいました」


彼女の人差し指。

綺麗に直線の赤い線ができている。


冒険者ギルドで書類仕事を手伝っている。

外は雨が降っていて、野外で作業するのも面倒だった。

ちょうどギルドの書類整理が滞っていたらしい。

で、小遣い稼ぎに手伝っていた。

王都に上げる報告書の進捗が悪いらしい。

まあ、あのギルドマスターだ。

適当なんだよな。


冒険者ギルドは組織だ。

組織ってのは、金の管理、人の管理、物の管理。

すべて数字でキッチリ管理していなきゃあ、うまく動かねえ。

適当じゃダメなんだ。


ということで、マリアンネさんが頑張っている。

ギルドへの報告がある時期は彼女を手伝っていることが多いかもしれねえな。


イーナはジリと遊んでいたんだが、今は寝ている。

ジリがイーナを見ていてくれるので、助かっている。


さて、彼女は痛そうに指を押さえている。


「ちょっと見せてくれよ」


「あっ」


彼女の手をとる。

血が滲み出てくる。

紙ってのは、結構切れ味がいいんだよな。

で、痛えんだよな。


精神を集中する。

俺は水だ。

水魔法使いだ。


《ヒールウォーター》を発動する。


「あ」


彼女の指、傷を水が覆う。

ゆっくりと傷がふさがっていく。

ジリに特訓されたからな。

この程度の傷なら対応できるようになっている。


「マリアンネさん。どうだい?」


「あ、ありがとうございます。痛くありません」


我ながらしっかりとした回復魔法だ。

彼女の指に傷は残っていないぜ。


「あの……手を……」


「ん?」


はて、マリアンネさんにしてははっきりしない。


『手を放せと言っているんでしょうね』


おっと、女性の手を掴んでいるのは失礼か。

さすがにおっさんに手を持たれていたら、気持ち悪いよな。


「すまねえな。マリアンネさん」


慌てて手を放す。


「あ、大丈夫です……」


彼女は指を抱きしめている。

回復しているはず。

だが、痛みが残っているか?


『完璧でしたよ。正しく回復できました。しかし、間違っていますよ。大変、間違っているでしょう』


なんでコイツ不機嫌なんだよ。

んで、俺の何が間違えてるってんだ?

マリアンネさんの手を握ったことか。

やっぱり、嫌われたか……


『あなたは……。まあ、いいでしょう。あなたらしい』


よくわからねえが、いいらしい。

じゃあ、いいかっていうと、よかねえんだろうがな。

わからんから、保留だ。


結果を見れば、マリアンネさんの怪我が治った。

それでよかねえか?


「うし! じゃあ、仕事をつづけようか。マリアンネさん」


「はい。頑張りましょうね、フェルドさん」


おう、マリアンネさんの機嫌は良さそうだ。

良かった。

嫌われてはいねえみたいだ。

さすがに、受付嬢に嫌われたら凹むぜ。

彼女とは毎回顔を合わせるんだ。

そのたびに嫌な顔をされたら、おっさんのナイーブな心は傷付くって。

男ってのは、体は頑丈にできてるが、その分、心は柔らかいんだよな。


『きっと、変なことを、不必要なことを考えていますね。ちゃんと仕事をして、今日で終わりにしなさい。明日は冒険者らしい依頼を受けたほうがよいでしょう。あなたは強くならなければいけないのですから』


わかっているって、ジリ。

だが、たまにはこういう仕事ってのも必要なんだぜ。

マリアンネさんが困っていりゃあ、それを助けるのは当たり前だ。


「終わったら、イーナちゃんと一緒に、甘いものを食べに行きましょうね」


これだよ。

これがあるから、頑張れるんだ。

今日はクレープか、ロールケーキか?

ミルクレープもいいよな。

子連れのおっさんが可愛い甘いものを食べるのって勇気がいるじゃねえか。

マリアンネさんがいれば何とかなる。

……はたからはどう見られているんだろうな。

父親と娘か?

まあ、それでもいいや。


では、頑張っていこうか!



<<ステータス>>

フェルディナント・エアハルト

 魔法:

  ヒールウォーター(New!)

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