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ロートル冒険者の俺が聖女の養育者でいいのかよ? ――のちに辺境の英雄と呼ばれる男の話――  作者: 月見里 嘉助


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第1話 レベル19になっちまった

ん、あぁ……

朝、目が覚める。

窓からは気持ちの良い光が差し込む。

狭いベッド、体を起こす。

が、体が重い……

ついに来たか。


「ステータス」


呟く。

頭の中に、俺自身の情報が浮かぶ。

このシステムも不思議なものだ。

が、誰もができること。

常識的なことなので、誰も不思議に思わない。

過去、天才が、このシステムを解明しようとしたが、徒労に終わった。

ステータスについての一般的な認識は、神が作ったもの。

だから、人間ではどうしようもないもの。

そんな感じだ。


まあ、いい。

便利なものは使わせてもらおうや。


ステータスを確認する。

……ああ、やはり、レベルダウンだ。

遂にレベルは19。

20を切った。


これでも全盛期はレベル25あったんだ。

だが、年齢だ。

今年で四十になった。

三十五あたりで、徐々にレベルダウンが始まり。

そして、今日、ついに19……


面倒だが、冒険者ギルドに行かなければならねえ。


モタモタと外出の用意をする。

左手がないから時間がかかる。

左手は過去の戦いでしくじったからだ。

ま、それはしょうがねえ、自分のことだ。

ずいぶん慣れはしたが、やはり両手が使えるヤツからしたら、俺はのろまだろう。

それもどうこう言ったってしょうがねえしな。



宿の一階に降りる。

階段がぎしぎしと音を立てる。

俺も冒険者だ、まだ太ってはいねえと思うんだがなあ。

つーか、太るほど食えてねえだけだがな。


「あ、フェルドさん、おはようございます」


「ああ、おはよう。エルマさん」


彼女はこの宿の主人だ。

この宿、部屋は狭いし、部屋数も少ねえ。

が、彼女の料理が美味い。

この宿ができてから、ずっと世話になっている。

彼女の亡くなった主人が冒険者だった。

その関係で、この宿に泊まっているところもある。

まあ、たまに手伝いをしたりして、宿代を融通してもらっていたりもする。


「朝食をお願いします」


「はい、ちょっと待っててくださいね。ティムお願い!」


ティムは彼女の息子だ。

まだ、五歳。

最近、宿の手伝いを始めたばかりだ。


「うんしょ……うんしょ……」


慎重にゆっくりとお盆を運んでくる。


「ありがとう、ティム」


「おう、フェルド。今日も頑張れよ」


「お前もな」


ティムと手をパンと合わせる。

彼はニコリと笑って、走って母のところへ行った。

いい子だな。

父親がいないが、素直に育っている。


「僕はいつも頑張っているよ。フェルドもそのうちいいことあるさ」


「いつも悪いことばっかりみてえに言うなよな」


「僕はフェルドのことが好きだからね。応援してるんだ」


「そりゃあ、どうも」


なんだか最近は口が達者になってきて、生意気になってきた。

もう少しすれば、大人との関係を学んで、他人行儀になるのだろうか?

それも寂しいもんだと思う。


朝食はパンと目玉焼き、野菜のスープ、牛乳。

普通、庶民は一日二食だ。

しかし、冒険者は肉体労働。

ちゃんと、三食食べることが望ましい。

そこに金を惜しんでいては、仕事ができねえってもんだ。


やはり、スープが美味い。

具の量は正直少ない。

が、その少ない具材から最大限に出汁を抽出している。

丁寧な仕事なんだろう。

温かいスープを飲むことで心が温まる。

ごちそうさま。

エルマさん、いつもありがとうございます。

行ってきます。



午前中、冒険者ギルドへと向かう。

ここはアーベランロード王国の西の方、ウェストフェルトの街だ。

まあ、田舎の街だな。

冒険者ギルドもあるにはあるが、規模は小せえ。

この街に常駐している冒険者も少ねえ。


このあたりには大きな仕事はないからな。

近くの森で魔物を狩るくらいだ。

ここで冒険者になって少し実力を付けたら、もっと大きな街へ行く。

大概の者がそうしている。

ここで冒険者をしているのは変わり者だよ。


「あ、フェルドさん、おはようございます。本日はどうしますか?」


ギルドに入ると、受付のマリアンネさんが声をかけてくれる。

顔見知りの受付嬢だ。

そのへんの人間関係が心地いい。

少しぬるま湯な感じもしねえでもねえが、この歳になっては、もう厳しい世界は避けてえ。

……まあ、俺の人生、逃げてばかりだけどな。


「ああ、ちょっと話せないかな」


「はい、今、時間がありますから大丈夫です」


ギルドにはやはり顔見知りの冒険者たちが朝食をとっている。

たぶん、依頼は受注済み。

朝飯を食って、これから一仕事ってところだろうぜ。

マリアンネさんの時間はありそうだ。


……恥ずかしい話だ。

あまり、大きな声で話したくはない。

受付カウンターに寄り添うようにする。

マリアンネさんの顔に近づく。


「な、なんでしょう……」


彼女は視線を逸らす。

……こんな、おっさんが若い女性に近づくってのも、ダメかもしれねえなあ。

親しき中にも礼儀ありか……

が、しかし、続ける。

やはり、レベルダウンは恥ずかしい。


「ああ、俺なあ……レベル19になっちまった……」


バッ。

マリアンネさんが俺を見る。


「フェルドさん、本当ですか!」


「……残念ながら」


「それじゃあ、冒険者ランクは?」


「降格だな」


俺の冒険者ランクはCだった。

これは一般的な冒険者のランクだ。

冒険者ランクはSとA~Eがある。

まあ、Sは別格。

特殊な条件がないと昇格できないランクだ。

子供たちの憧れのランクだな。

一般的な冒険者が夢見るのはAランク。

そして、冒険者のランクはレベルで分類される。

Cランクはレベル20~30が条件。

俺のレベルが19になった今、冒険者ランクはDに降格となる。

Dランクになれば、Cランクの依頼は受けられなくなる。

収入減ってことになるんだ。

まあ、普通はな……

俺は最近、低ランクの依頼しか受けていないから、影響は少ねえ。

が、それでも冒険者ランクの降格は、精神的にくるさ。


「……フェルドさん、冒険者、引退されますか?」


マリアンネさんがじっと俺を見る。

ギルドの仕事だから、確認する必要がある。

この子には、嫌なことをやらせちまっているな……


「いや……俺はもう少しやるよ。ここは若い奴か、俺みたいなロートルばかりだ。まだ、Dランクでもできる仕事はある。地味だが、若い奴らがやりたがらない仕事とかな」


若い連中は派手な仕事を好む。

魔物の討伐とかそういうヤツだ。

が、それだけで街が運営できるもんじゃねえ。

冒険者の仕事はそれだけじゃねえんだ。

まあ、こんな街だと便利屋としての価値もある。

ご老人の住宅の修繕、迷子のペットの捜索、井戸や下水の掃除とか色々だ。

そういう仕事をするヤツもいないといけねえ。

まだ、俺にはそういう需要はあるだろうと思う。


「私は……フェルドさんにはギルドの仕事を手伝ってもらえないかなって思っていたんです。新人の教育とかそういうことを」


「そうだな……それもいいかもしれない」


「では?!」


「だが、もう少し先さ。まだ、冒険者として働かせてくれよ。一応、冒険者として二十年以上やってきたんだ。それなりに誇りもあって、お仕舞いにするには、ちっと未練があるんでね」


「そうですか……」


彼女はため息をつく。

せっかく誘ってもらったのに、申し訳ない。


冒険者ランク降格の更新は簡単に終わった。

あっけねえな。

マリアンネさんが魔道具を取り出す。

平たいプレートだ。

左に冒険者カードを置き、右に手を乗せる。

俺のレベルを読み取る。

情報が書き替わり、Dランクになった。

この魔道具も原理はわからねえらしい。

冒険者ギルド本部からの支給品。

たまに壊れるが、ここでは直すことはできず、本部へと送られる。

そんな物だ。

複雑な魔道具だが、冒険者カードを更新するだけの物。

しかも、恣意的にランクを操作することもできねえ物。

誰も盗もうとしねえような魔道具だ。


これで、Dランクか。

……あれほど苦労して、Cになったのにな。

人生ってのは何だろうね?

ま、悩んだって、答えは出ねえか。


「フェルドさん、大丈夫ですか?」


「ああ……マリアンネさんには情けない姿を見せるよ」


「いえ、私は! ……全然情けないなんて思っていないです。フェルドさんはとても凄い方だと思います」


冒険者で片手なのに?

……ああ、嫌だぜ。

少し卑屈になってやがる。

我ながら情けねえ限りだ。


「……依頼、いいかな?」


「あ、はい。……無理しないでくださいね。絶対ですよ」


「はい、はい」


「はいは一回です。もう、子供じゃないんですから」


たわいのないやり取り。

気楽でいいよな。

で、冒険者ってのは、ギルド受付の子供みてえなもんだよ。

そういうことにしておいてくれや。



薬草採取の依頼を受けた。

街の西の方には森が広がっている。

奥の方には、俺では敵わない魔物もいるらしい。

そんな大きな森だ。

が、つつかなければ、出てこねえから、討伐依頼もない。

奥のほうで高価な素材が採れたとかの話もない。

まあ、森の奥に行くのはただの命知らずだ。


そんな森だよ。

ルーキーだと、浅い所でしか活動できねえな。

森の少し入ったところに、上質な薬草が生えている。

その薬草は上質なポーションを作る材料となる。

住民の治療、もちろん冒険者の治療にも必要なものだ。

誰かがやらねえといけねえ。

大きな町から仕入れることもできるが、高価だからな。


さて、お仕事だ。

まあ、こういうときは体を動かすに限る。

考えたって、いい方向には行かねえさ。

動き出さなければ、動けなくなる。

動いてさえいれば、どこかにたどり着くだろうさ。

人生なんてそんなもんだぜ。



「よお、おっさん、降格かい」


朝食をとっていた顔見知りの冒険者だ。

Dランク冒険者パーティ『幸福の青い大樹』だ。

西の森の奥深くに、世界を支える大樹があるという言い伝えがある。

そこからパーティ名をとったらしい。

が、強そうな名前じゃねえな。

気に入っているらしいから、俺がどうこう言うこたねえが。

んで、こいつは、そのリーダー、カールだ。


「うるせえよ。放っておけ」


「歳なんだから、無茶すんなよ。おっさんの死体捜索の依頼なんか、俺ら受けないからな」


「死にゃしねえよ。俺はベテランだぞ。リスクは犯さねえって」


手をヒラヒラさせて、サヨナラだ。

こいつは口は悪いが、良い奴だ。

新人の頃、ちょっと手ほどきをした奴だ。

今はDランクだが、もうすぐCランクになるだろう。

そして、街を出ていくかもしれねえな……

寂しくなるかもしれねえ。



俺は十四のときに冒険者になった。

夢は大きくAランク冒険者だ。

王都で活躍できるような冒険者になる。

そう夢を抱いてた頃もあったな。

幼馴染二人と一緒にね。

三人なら成れると思っていた。

この三人なら。


が、それほど現実は甘くはねえよ。

十九のときにしくじった。

一人、亡くなった。

俺は左腕を失った。

それで、パーティは解散だ。

後の一人は、王都でAランク冒険者として活躍しているらしい。

あのしくじりがなければ、俺も……

そう、思うこともある。

が、過去は変えられねえ。

今を生きるしかねえんだ。

今できることをやる。

それが、俺ができること。


だが、心はそんなに簡単なもんじゃない。

後悔と苦悩。

まだ、俺は囚われている。

そして、まだ冒険者にしがみついている。

我ながら未練がましいね……


それでも最近は少しだけ、この生活に満足していた感じだ。

だがなあ、ランクダウンかよ……


見上げた空はどんよりと曇っていた。

少し怪しいか……?

雨が来る前に依頼をこなさないとな……



森に入る。

浅い階層に出る魔物は、スライム、ゴブリン程度。

駆け出しの冒険者でも対応できるレベルだ。

しかし、ゴブリンは集団で襲ってくる可能性がある。

注意が必要だ。

まあ、集団で襲ってはくるが、連携はとれていない。

上位種が混じっていれば、とたん脅威は上がるがな。


目的地である、森の少し入ったところ。

そこだと、ゴブリンの上位種である、ソルジャーを見ることもある。

が、まあ、一応俺もレベル19。

ゴブリン程度では後れを取ることはない。


さて……

森は静かだった。

魔物にも遭遇しなかった。

目的の場所に到着した。


薬草は茂っていた。

やっぱり若い奴らはこれを採りに来ていねえんだ。

まったく……

そのへんをもう少し教えたほうがいいか。

いや、ロートルに言われるのもなあ。

いや、ロートルしか言えねえこともあるか。


薬草の採取を始める。

こいつで薬になるのは根っこの部分だ。

だが、根っこを全部採っちまうと、次が生えてこない。

その加減が難しい。


ポツ……ポツ……


チッ……

雨が降ってきやがった。

急がなけりゃいけねえ。



やはり、少し焦りがあったようだ。

冒険者ランクが降格して、精神的な凹みもあったんだろう。

そして、雨。

雨の音が、奴らの気配を、音を、匂いを消した。


ガサリ……


それに気付いたときには、もう囲まれていた。


ギギギ……


「ゴブリンか……」


数を探る。

おそらく、6か、それ以上。

一人で相手にするには多い……

そして、戻る方向に多くいる。

退路をふさいでいる……?

頭のいい奴がいる、か。


まずは囲みから抜け出すことが先決。


剣を抜き、囲みの弱そうなところへと走る。

ノーマルのゴブリンへ。


ギギャ……?


何で俺のところへってところか……

弱いからだよ。

袈裟懸けに斬る。

肩から胸へ。

倒したかは確認しない。

そのまま走る。


ノーマルのゴブリンなら、俺より遅い。

が、付いてくる。

恐らくソルジャーだ。

一対一なら、俺でも勝てるだろう。

が、ソルジャーが5匹以上となると、話は別だ。

今の俺の能力では厳しいだろう。

全盛期ならどうだったろう……

昔を懐かしんでもしょうがねえや。

今は生きるために逃げるだけだ。


森の奥の方へと追い込まれる。

雨に濡れた地面はぬかるんで、走りにくい。

深い草が足に絡みつく。


「ぐああ……」


急に、右足のふくらはぎに痛みを感じる。

バランスを崩し、転げる。

ふくらはぎに矢が刺さっている。

くっ、ゴブリン・アーチャーか!

木の上か?

狙われている。

草むらに、なんとか転げこむ。


チッ……

粗末な矢がふくらはぎに刺さってやがる。

邪魔だ。

飛び出ている軸の部分を斬り落とす。


さて、だいぶ森の奥に追いやられた。

どういう経路で街へ向かうか……


ギギギャア!


ゴブリン・ソルジャーの一撃を、転げ躱す。

剣を横に振り、ゴブリンの足を斬る。

攻撃時に叫び声を上げんじゃねえよ。

タイミングがわかるだろうが。


立ち上がり、しかし、転げるように走る。

やはり、右足が動かない。

このままでは囲まれる……

この怪我では、対処できねえ……


ウェストフェルトの街でも年に数人の冒険者の死者がでる。

俺も、それに仲間入りか?


いや、最後まで足掻け。

そう教えてきたじゃないか、ルーキーどもに。

俺が実践しねえでどうするよ!


走る。

必死だ。

が、遅え。


ゴブリン・ソルジャーに追いつかれる。

飛び掛かってくる。

もつれ、転がる。


うお!

なんだよ、地面がねえ!

大きな穴が開いている!

転がり落ちる。


くそっ!

剣は危ない。

捨てる。


ゴブリンは上手く離れている。

ヤツも転げ落ちている。


体を小さくして、転げ落ちる。

くそお。

どんだけ深えんだよ、この穴!


暗く、深い穴の中へ。

こりゃあ、俺の捜索は難航しそうだなあ……


がんばってくれや、カール。

期待してるぜ。



<<ステータス>>

フェルディナント・エアハルト

 年齢:40歳

 冒険者:Dランク

 LV:19(DOWN↓)

  生命力:95

  筋力 :54

  魔力 :26

  素早さ:37

 アクティブスキル:

  袈裟懸け、唐竹割り、横一閃、疾風突き、回転斬り

 パッシブスキル:

  剣2、薬草学:1、解体:1

 魔法属性:水(E)

 称号:なし


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