表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ロートル冒険者の俺が聖女の養育者でいいのかよ? ――のちに辺境の英雄と呼ばれる男の話――  作者: 月見里 嘉助


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
3/15

第2話 俺じゃあ、ないでしょう

……意識を失っていたんだろう。

目を開ける。

まだ俺は生きている。

右手を動かす。

動く。

右足を動かす。

激痛が走る。

左足を動かす。

こっちは大丈夫だ。

体のあちこちが痛いが、重症ではないみてえだ。

運がいい。


すぐ横にゴブリンの体が転がっている。

……動きはない。

手足は折れ、不自然な方向に曲がっている。

体の真ん中に自身の粗末な剣が深々と刺さっていた。

死んでいるだろうよ。


上の穴を見る。

さらにゴブリンが落ちてくる様子はなかった。


とりあえずは、安全みてえだ。

改めて、周囲を確認する。


周囲は淡い光に満ちていた。

ヒカリゴケのようなもんだろうか?

奥に広い空間がある。

上には戻れねえ。

進むしかねえな。


痛む足を引きずり、進む。

……俺はどこまで落ちてきたんだ?

前方には、とても広い空間があった。

巨木が生えている。

上を見るが、てっぺんは見えねえ。

この木は……何だ?

この森にこんな木があったか?

これなら、森の外からも見えるだろうが……


しかし、何故だろう。

不思議な心持ちがする。

大きさに圧倒されたのか、それとも巨木から発する光のためだろうか……?


葉が擦れ、サワサワと音を奏でる。


『フェルディナント様……』


頭の中に声が聞こえる……

巨木から、女性のシルエットが浮かび上がる。

大きい……

5メートルはあるんじゃねえだろうか。

彼女は上品な青いドレスを着ている。

顔はヴェールで隠され、口元だけが見える。

たぶん、恐れないといけない存在。

俺なんて、同時に存在してはいけないような……


「貴方は……?」


『初めてお会いします。私はメルフェイーナと申します』


彼女の口は動いていない。

頭の中に直接語りかけてくる。


「メルフェイーナ? 確か……木の、風の女神、様……?」


『はい、その認識であっております』


口元が少し笑む。


「……しかし、なぜ」


その女神様が、俺の前に……


『ひとつ、貴方様にお願いがあるのです』


「俺に?」


『はい、貴方様がよいのです。それで、お願いなのですが。フェルディナント様は、聖女をご存じでしょうか?』


「はあ……勇者パーティにいる、回復専門の女性、でしょうか?」


『はい、だいたいそのような認識で大丈夫です。貴方様にその聖女を育てていただきたいのです』


「はい? ……俺が……聖女を育てる?」


『はい、そのように申しております』


いやいや、言葉としては理解できた。

が、内容の理解はできない。

俺が、聖女を育てる?

育てるとは……つまり、子供から大人まで?

子育てなんてしたことのない、妻もない、独り身の、貧乏冒険者の俺が?

やったことがあるのは、宿のティムの子育てをちょっとだけ手伝っただけだぜ。

妻子もいねえ、貧乏ローカル冒険者に何を期待しているんだ?


「なにかの間違いでしょう。俺が聖女様をだなんて……」


『いえ、今、申しましたとおり、貴方様がよいのです』


え、大丈夫か、この女神?

狂ってねえか?


『はい、問題ありません。で、聖女なのですが……』


「ちょっと待ってください! どうして、俺なんですか? もっと相応しい人がいるでしょう。国王とか、貴族とか、もっと金持ちの。もしくは、直球で神殿とか」


俺は金も権力もねえ、一地方の、さらにロートルな冒険者だぜ。

そりゃあ、預け先には適してねえだろうが。


『いいえ、そういうところではきっとだめなのです。聖女というものは庶民の中で育たないといけない。その時代の皆様と一緒に生きなければいけないのです』


庶民として生きることが重要?

だが……


「それでも、俺じゃあ、ないでしょう……」


『いえ、私が貴方様に決めたのです。だから、それで良いのです』


決めたって、どういうこと?

その身勝手さが、神様ってことか?

どうしたって引き下がらない、結構頑固な女神様だ。

いや、神ってもんは得てしてそういうものかもしれねえな。

こちらの都合なんてお構いなしだ。


「俺じゃあ、聖女様を正しく育てられないですよ」


ランクもDランクにダウンした、優秀ではない冒険者だぜ。


『聖女にとっての正しい成長とは何でしょうか? それは貴方様が決められることでしょうか? 聖女自身が決めることかと思います』


くっ……

「正しさ」なんて、根本的なところを問われたってわからねえって。

言い出したのは俺だが……


『私は貴方様を選んだ。それだけが重要なことなのです』


だが、落ち目のロートルに……


『それと、貴方様なら取引が容易だと思いました』


取引だと?


『聖女を育てる、そのお礼として怪我を治しましょう。そして、少しだけ加護をお送りしましょう』


怪我……

左足のか?

加護……

神の加護?


『とても優秀で、珍しい称号ですよ。このタイミングでないと得られませんよ』


自分で優秀とか言うのかよ……

しかし、ここから、この森から、ゴブリンから生き残るには、神様の提案を受けるしかない、か。

生き残れるなら、死ぬよかマシだ。

そうやって、しがみついて生きてきたんだ。

それが冒険者ってやつだ。


「わかりました。その依頼、お受けします」


『まあ、ありがとうございます! 断られたらどうしようかと思っていたんですよ』


……強引に受けさせるだろうに。


『ああ、そうでした。もし聖女を裏切ったとした場合、酷いことになりますから、ご注意お願いしますね』


神を裏切るなんて度胸はねえよ。

それに、一度受けた依頼は、できることなら完遂する。

それも冒険者ってやつだ。

できなければしょうがないがな。


『では、こちらが聖女です』


俺の胸の前の位置に、赤子が現れる。

毛布に包まれた赤ん坊。

右手を伸ばし受け取る。

体重は5キロぐらいだろうか?

首は座っているように思う。

金色の柔らかい髪の毛が、まだ薄く生えているだけ。

頬っぺたはふっくらとして、薄く桃色に染まっている。

可愛らしい赤ん坊だ。


『フェルディナント様、その子をよろしくお願いいたします。私の子のようなものですので』


女神様の愛し子……


『聖女を殺すことは難しいですが、なるべく守ってあげてくださいね』


……この女神様、大丈夫か?

その物言い、愛し子ではないのか……


『では、お礼の方を』


女神の手が、俺の頭に……

手が大きい……

そして超常の存在。

少し恐怖がある。

それを抱くのも不敬なのかもしれない。

俺たちは彼女たちに言われるまま従うのみか?


『私はそれほど偉い存在でもないですけれど。私の言葉を聞いてほしいとは思います』


彼女は苦笑した……?

やはり、少し人間臭さが見える。


……ん、体がおかしい、熱い。

そして、光っている。

……左手が……腕が……生えてきている。

そうか。

聖女の回復魔法とは、再生の魔法であると聞いた。

なら、女神様なら、俺の腕を再生する程度、簡単なこと。

もちろん、右足の傷も完治した。

矢は取り除かれ、穴はふさがった。

完全な回復。

神の力……


『どうでしょうか。私を女神と認めてくれますか?』


「疑ってはいませんでした……。が、これは……腕は……。ありがとうございます。本当に……」


ああ……二十年以上なかった左腕だ。

それがある。

それがあるだけ。

普通に五体満足なだけだ。

それが、どれほど嬉しいことか……

きっと、五体満足な人にはわからねえと思うよ。


左腕を動かし、赤子をしっかりと抱きしめる。

聖女の頬に俺の涙が落ちる。

聖女は嫌そうに眉を寄せた。


『喜んでいただけたようですね』


ああ、最高だ。

これだけで、俺は貴方が本当の女神様だと信じるよ。

そして、誠心誠意、聖女を育てることを誓う。


『追加でマジックバッグをお付けしましょう』


マジックバッグだと……!

あれば、商人として成功が約束されるといわれる、幻のあれか!


『オムツとかお尻拭きとか、ご飯とか持ち運ぶのが大変でしょうからね』


ああ、なるほど、聖女の養育用のね。

なんだか少しガッカリ感が……


『では、街までの道を開けましょう』


女神が左手を振る。

右側の光の道が開けた。


『そちらを進めば森に戻れます。森には黒豹がいるはずですから、案内させましょう』


森に黒豹?

初耳だ。

遭遇の記録も無かったはず。


が、まあ、従おう。

ここは疑っても意味がない。


聖女をしっかりと抱きしめる。

柔らかく、温かい。

彼女は生きている。

彼女を、俺が、育てるのか……

聖女だからじゃない。

一つの命だから。

その重責。

俺に育てられるのだろうか……

その資格があるのだろうか……


女神は微笑んでいる。


『貴方様は独りではありません。お仲間を頼られるとよいでしょう。きっと力をお貸しいただけるでしょう』


頷く。

俺だけじゃあ、ダメだろう。

どうせ失敗する。

子供なんて育てたことなんてねえんだから。

なら、経験がある人を頼もう。

まあ、そうするしかねえよな……


『それに、少しだけ、他のお子さんよりも育てやすいと思いますよ。他のお子さんより違う難しさはあると思いますが』


なんだよ、気になることを言う。

どういうことだろうか?


『では、よろしくお願いいたします。フェルディナント様。お気をつけて。そして、この子に幸せを』


謁見は終了らしい。



光の道を進む。

後ろを振り返る。

木々に隠れ、もう、あの大樹は見えねえ。

女神は見えねえ。

きっと、女神に会うことなど、今後ねえんだろう。

その顔を見たかったと、残念に思う。

不敬だろう。

しかし、男の夢でもあろう。


……さて、地上へと。


光のトンネルを少し進むと、森の中に出た。

距離と、トンネルの角度、どうも森に出るとは思えない。

神の力か。


ここはどこだろうか?

もちろん帰り道はわからない。

聖女の養育、一歩目から失敗となるが……


ヌッと黒豹が現れた。

でかいな……

体長は2メートル以上か。

そして、恐ろしく強え。

たぶん、俺では勝てない。

素直に従っていた方が良いだろう。

こいつが、女神様が言っていた黒豹だろう。


豹は俺を睨みつける。

睨むなよ、怖いって……

フイと顔を振り、歩き始める。

付いていけばよいのだろうか?


……うむ。

なるほど、歩く黒豹の腰は妙にエロい。

などと考えていると、黒豹に睨まれた。


いや、真面目にやっているよ。

が、黒豹という味方を得て、少し気が楽になっただけだ。

少しの余裕というものは必要だと思う。

なあ、それがベテランというものだろう?


黒豹の殺気が強くなった気がする。

その殺気のためだろう、魔物に遭遇することなく、森を抜けた。

俺はベテランだからその程度の殺気で怯まねえんだよな。

黒豹よ、残念だったな。


「ありがとう」


黒豹に感謝を伝える。

が、豹は関心がなさそうに、森へと消えていった。


「まあ、いいさ。感謝はしてるんだぜ」


空を見上げる。

もう夕日になっていた。

夕日が見えるってことは、空が晴れたってことだ。

んで、道が歩きやすく、見晴らしがいいってことだ。


ここから街まで、まだ距離がある。

まだ気は抜けない。

が、まあ大丈夫だろう。

『女神の加護』を得たためだろうか、体が少しだけ軽くなったような気がする。

すると気分も少しだけ良くなったように思う。



街に帰ったのは夜。

宿に戻り、ベッドに大の字になる。

隣に聖女……の赤ん坊。

少し狭い。

聖女はずっと静かに寝ている。

……まさか、このまま起きないなんてことはないよな。

少し不安になる。

頬を突いてみる。


「ああう」


不快だったようで、手で払うような仕草。

生きている。

大丈夫そうだ。

赤ん坊は起きることなく、そのまま寝ている。

……たく、幸せそうに眠ってやがって。

赤ん坊の幸せそうな寝顔を見ていたら、とたん、眠くなった。

ああ、今日は疲れた。

色々あった。

生き残れてよかった。

単純にそれを感謝しよう。


これから聖女を育てる。

きっと苦労するだろう、悩みも多いだろうな。

が、それは明日以降の俺の仕事だ。

今じゃない。

今日の俺はもういっぱいいっぱいだ。

がんばれよ、明日の俺。

任せたぜ。


瞼を閉じると、すぐに意識はなくなった。



<<ステータス>>

フェルディナント・エアハルト

 年齢:40歳

 冒険者:Dランク

 LV:19

  生命力:125 (隻腕完治により+10)

  筋力 : 84

  魔力 : 46

  素早さ: 67

 パッシブスキル:女神の加護(小)(New! ステータス+20)

 魔法属性:水(D)(Up!)

 称号:聖女の養育者(New!)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ