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ロートル冒険者の俺が聖女の養育者でいいのかよ? ――のちに辺境の英雄と呼ばれる男の話――  作者: 月見里 嘉助


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第16話 男性の動機の八割が女性がらみだ

「おー、森か」


イーナが楽しそうだ。

そう、いつもの森だ。

浅いところにはゴブリンが跋扈し、深くいくほどに強い魔物が増える。

……改めて説明すると物騒だな。


でだ、ドミニクがこの前、ギルドに報告していた。

最近オークが増えていて、大量のオークに遭遇したらしい。

やつはいくらかオークを狩ってきたが、数が多かったため、帰還。

ギルドへ報告し、オーク退治の依頼書が貼り出された。


オークはゴブリンより少し強力な魔物だ。

生命力が高く、怪力、だが動きは遅い。

ゴブリンが脅威度E、オークがDだ。


俺のランクがCだから問題ない。

さらに俺にはジリとイーナがいるからな。

ジリはかなりの実力者だ。

おそらくAランク相当。

イーナは……不明だ。

体力はないと思うが、魔力は相当なものだ。

五歳相当に成長し、その魔力も増えているような気がする。

俺が多少怪我をしても、問題なく回復する。

俺へのバフも頼もしい。

小さいときは女神メルフェイーナ様のところにちょくちょく行かなきゃ、魔力が不足していた。

が、今はそれはない。

週に一回、顔見せに行っているがな。

イーナも女神様のところでは安心できるようだ。

精神が安定するってのは、成長にもいいだろうしな。


さて、街の最高戦力『清廉なる赤い薔薇』はもっと深いところの魔物討伐に行っているだろう。

だから、俺やドミニクが討伐するってことだ。

カールたち『幸福の青い大樹』も対応してるってことだ。


オークの話に戻そう。

オークもゴブリンと同様に繁殖力が高い。

放っておくとすぐに増える。

これも重要なことだが、他種族の女性を妊娠させる能力を持っている。

人間の女性がオークに襲われる……

そして、オークの子供をも妊娠する……

想像してみろよ。

絶望だろう。

俺は男でよかったと思うよ。

ちなみに、性欲が旺盛なオークは男だろうが襲うらしい……

それはそれでおっかないな……

ということで、街に近づけてはいけねえ。

俺たち冒険者が頑張んねえといけねえってこった。


「いくぞー! おー!」


イーナはご機嫌だ。

俺の肩車で……


「いや、イーナ。危ねえだろう。戦闘になったら振り落とされんぞ」


「いーやー! フェルがいいー!」


俺の頭に抱き付いて降りない。

肩車は森に入るまでの約束だったんだがな。


『落とさないように戦えばいいのです。……落としたらどうなるか、覚悟しておきなさいよ』


「ジリ、怖ええよ……。ジリの背中でいいじゃねえか」


森に入って、ジリは黒豹に戻っている。

彼女の背中に乗ったほうが、俺の肩車より安定がいいと思うが。


『私が身軽に動けないじゃないですか。豹は素早い動きが身上です。それを消してどうしますか』


おい、俺はいいのかよ。

俺だって、バルドゥルやマリオンみたいな動きの少ないタイプじゃないんだがな。


「行くぞー、フェル!」


……しょうがねえか。

いきますよ、お嬢様!



森の浅いところ。

春の日差しが、木の葉から差し込んで気持ちいいくらいだ。

まあ、魔物が出る森だ。

油断はできねえ。


「フェルー!」


イーナが指さす。

おう、発見が早いな。

ジリ以上じゃねえか。


『さすがイーナ様。ゴブリンです。数は五。フェルド、どうします?』


「蹴散らそうや」


『了解です』


ジリが口の端を上げる。

凶悪な顔だ。

こいつ結構凶暴なんだよな。

女神の部下だとツンと澄ましているくせに。


『何か?』


「べつに。ジリの遠距離の後、ツッコむぞ」


まずはジリの先制攻撃だ。

《ウィンドカッター》。

風の刃がゴブリンを襲う。

二匹のゴブリンを引き裂いた。

ジリの魔法だけでも圧勝できるのだが、それだと俺の体が鈍る。

『身体強化』をかけ、突撃する。

強化なしでもゴブリン程度なら問題はないのだが、これもまた慣れだ。

おっと、イーナを落とさないようにしないとな。


「うっはー!」


嬢ちゃん、楽しそうだ。


ギャギャギャ!


近場のゴブリンを切り裂く。

ソルジャーかもしれねえ。

が、もう俺の敵じゃねえな。

残り二つ。

一つはジリにやろう。

もう一つは俺がもらう。


ギャアア!


「ぎゃあー!」


イーナよ、真似るんじゃねえよ。

さすがに聖女がゴブリンの真似はちょっとなあ。


で、ソルジャーだよな。

まあ、油断なく斬り割いた。

ジリは……問題ない。

平然と帰ってきた。

ゴブリンは全滅した。



そんな感じだ。

浅いところではゴブリンを倒しながら進む。

それだけならいつも通りか?

いや、ソルジャーの数が多い。

そして、この浅い層で、オークが出ている。

それが問題だ。


で、戦いの音が聞こえる。


『冒険者と魔物の戦いですね』


「数はわかるか?」


冒険者が優勢なら問題ない。

むしろ俺が入っていっては、獲物の横取りになっちまう。

冒険者もこれで生活の糧を得ているんだ。

そりゃあ神経質になるってもんだ。


『人間は三。魔物……オークが十。さらに奥から追加がありそうですね』


「そりゃあ……ヤバいんじゃねえか?」


冒険者がBランクなら問題ないだろう。

が、その実力なら、十のオークなど蹴散らしている。

戦いにならないだろう。

さっきの俺たちとゴブリンのように。


オークと戦える三人組。

おそらく『幸福の青い大樹』、カールたちのパーティだな。

アイツらはDランク冒険者。

五匹くらいのオークなら問題ないだろうが、今は十匹と戦っている。

そして、さらに増えるらしい。


「フェルー!」


イーナが戦闘の方向を指さす。

お嬢ちゃんはヤル気だぜ。


「よし、イーナ、了解した。ジリ、援護するぞ」


『私が直接行くのはまずいでしょう。追加のオークを殲滅します』


「任せた!」


ジリは奥の方へとしなやかに、風のように走っていった。

俺は冒険者たちの方へ。


お、やっぱりカールじゃねえか。

だいぶ苦戦しているな。


「よお、カール!」


「おっさん!」


おっさんはねえだろう。

助けに来てやったんだから、フェルドさんと呼べや。


周辺にはオークの死体が山になっている。

だいぶ長い時間戦っていたらしい。

魔法使いのエッダは後方で、肩で息をしている。

魔力切れか。

彼女を守るようにカール、ヨハンが戦っている。

二人もずいぶん消耗しているようだ。


「カール、助けが必要か?」


「必要にしか見えねえだろうが!」


「助けて下さい、お願いしますだろうが。先輩に向かって」


「そんな状況じゃねえだろうが!」


カールはオークと鍔迫り合い。

何とか押し返し、斬り付ける。

が、動きが鈍い。

皮一枚切っただけ。

致命傷は与えられていない。

だいぶ疲れているらしいな。


「フ、フェルドさん……お願い、します……」


エッダの息が苦しそうだ。

女性に頼まれちゃあ、断れねえよな。


「行くぞ、イーナ!」


「あーい! フェル、いっけー!」


「何であの人、おっさんのくせに、女性に弱いんだよ……」


「カールよ。男性とは永遠に女性を求める者」


「悟ったように言うな、ヨハン。ただのスケベだろうが!」


男性の動機の八割が女性がらみだ。

そんなもんだ。

自社調べな。

まだまだ若いな、カールよ。


身体強化、ついでにイーナの強化が乗っている。

イーナの気合が入っているからな。


ブホブホ言っているオークに突撃する。

てっぷりと太った腹は脂肪が厚くて斬りにくい。

頭は頭蓋が硬いから、首を斬るのが一番いい。

動きは遅い。

なら、確実に一匹ずつ仕留めていく。


まず一匹。

首を斬り割く。

首が落ちたとして、まだ体は動く。

危ねえからすぐに距離を取って、素早く次の標的に移動する。


グガアアァ!


オークたちが吠える。

俺を警戒しているのかな?

粗末だが分厚い鉄の板のような剣を構える。

俺の突撃に合わせて振り下ろす。

が、遅せえよ。

この豚が!


躱しざま、首を斬り付ける。

チッ、浅いか!

もう一回で首を斬り落とす。


時間がかかった。

オークどもが戦闘態勢。

面倒な。


しょうがねえ……


「イーナ、頼む!」


「ラジャ!」


イーナがオークのほうに両手を出す。

両手が俺の頭から離れているんで、足にしっかりと力を入れて、バランスを取っている。

つーことは、足で力いっぱい俺の首を絞めているってことだ。

苦しいって!


「森さん、おねがーい!」


地面から木の根がウヨウヨと伸びて、オークの足に絡みつく。

木魔法、《ウッドバインド》だ。


「お゙っしゃ、よ゙くやっだ」


俺の声、首が締まっていて、少し潰れてねえか?

さすが木の聖女。

通常の威力じゃねえ。

全てのオークの動きを止めた。

よし、これでオークは移動できない。

聖女イーナの木魔法をオーク程度が振りほどけるか。


「いっけー、フェル!」


イーナが両手で俺の頭を掴む。

で、足は力が弱くなった。

やっと、空気を吸う。

じゃあ、行こうや!


移動できなけりゃあ、オークがいくらいようが、関係ねえな。

一対一の連続なだけ。

数の有利はもうねえんだ。


「おら、豚ども。殲滅してやるよ!」


「めっ、してやるよ!」


ノリノリのイーナとともに、オークどもを倒していった。

俺たちが目の前のオークを全滅させたときには、森の奥側の魔物の気配も消えている。

たぶんジリが殲滅したのだろう。

ま、オーク程度、アイツの敵じゃねえしな。



「おう、カールよ。命があってよかったな。感謝しろよ、俺とイーナに」


「おっさん。もう少し真面目に助けてくれよ。……感謝はしてるって」


相当疲れたのだろう、彼らは鎧を外して、地面に大の字になっている。

戦闘の場所からは少しずれたところだ。

あそこはオークの死体でいっぱいだからな。


「ありがとうございました。フェルドさん」


「命の恩人です。フェルドさん」


ほら、エッダとヨハンは素直じゃねえか。

というか、二人は本当に疲れた顔をしている。

三人とも体は傷だらけ、血もにじんでいる。

しょうがねえな。


「おら、ウォーターだ。顔と傷を洗え」


まず、傷を洗わせる。

で《クリーン》をかけて、清潔にする。


「どうせポーションを使い切ったんだろう。やるよ」


三本のポーションを渡す。


「……ほんと、すまねえな。おっさん。この借りは必ず返すからな」


「そんな気負わんでもいいぜ。冒険者なんて、助け合ってナンボだ。大きな街じゃあ、どうか知らねえが。田舎町じゃあ、そうしねえと生き残れねえからな」


「ありがとう」


カールはポーションを傷にふりかけ、残りを飲み干す。

ポーションは飲めるこたあ、飲める。

多少、体力回復の効果がある。

が、まずいんだよなあ……

苦くて、酸っぱい。

俺は苦手だ。

カールも渋い顔をしているな。


「で、どうしたんだい?」


「ん……ああ、最初はな、オーク五匹と戦ってたんだ。が、集まってきやがった。全部で何匹かなんて、もうわかんねえよ」


「だいぶ増えてやがるな……。ギルドには報告して、冒険者、住民に警告しねえといけねえ」


「そうだな。一パーティで森に入るのは危険かもしれねえな。複数パーティで依頼にあたんねえとダメかもしれねえ。おっさんも気を付けろよ。調子良さそうだが、ソロじゃ危ねえよ」


カールの心配はありがたく受け取っておこう。

が、心配はいらねえんだ。

俺には相棒がいるからな。

アイツ、Aランク相当さ。

俺よりだいぶ強え。

頼りになる。

本人に言ったことはねえがな。



『幸福の青い大樹』は街に戻っていった。

で、ジリが合流する。

怪我もなく、涼しい顔だ。

黒豹ってのは、黒くて表情がわかりにくいがな。

ちなみにイーナが静かなのは寝てるからだ。

肩車状態でよく寝られるもんだな、感心する。


「よお、ごくろうさん」


『まあ、軽いもんですよ、私には。イーナ様はお休みですか。起こしたら承知しませんよ』


「へい、へい。了解です」


『はいは一回です。イーナ様の教育にも悪いですからね』


「はい」


『あなたって人は……。だいたい冒険者っていうのは……』


まあ、俺たちはいつもこんな感じだ。

言い合いはしているが、喧嘩じゃねえよ。

ただのじゃれあいだと思っている。

……俺はな。


んな感じで、ジリの小言を聞きながら、街に帰った。

コツは重要なこと以外は聞き流すことだ。

で、適当に相槌を打つ。

たまに謝る。

それで何とかなる。


『聞いてますか、フェルド』


「すみません。聞いています」


まあ、こんな感じだ。

簡単だろう?



<<ステータス>>

カール・アレトゼー

 年齢:20歳

 冒険者:Dランク

 LV:18

  生命力:76

  筋力 :61

  魔力 :31

  素早さ:49


ヨハン・バルテル

 年齢:20歳

 冒険者:Dランク

 LV:18

  生命力:76

  筋力 :58

  魔力 :32

  素早さ:45


エッダ・ゼーゼマン

 年齢:19歳

 冒険者:Dランク

 LV:17

  生命力:45

  筋力 :34

  魔力 :89

  素早さ:35


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