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ロートル冒険者の俺が聖女の養育者でいいのかよ? ――のちに辺境の英雄と呼ばれる男の話――  作者: 月見里 嘉助


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16/19

第15話 ハーラルトの、エルマさんの息子ですからね

朝、鳥の鳴き声で目が覚める。

「チュン、チュン」とスズメが元気だ。

遠くに「ホーホケキョ」とウグイスが聞こえる。


カーテン越しの朝日。

起き出して、カーテンと窓を開ける。

季節は春。

まだ冬の名残か、冷たい風が部屋に入ってくる。

だが、それがまた気持ちいい。

今日もいい天気だ。


「うにー」


「おう、イーナ。起きたか」


「あー」


まだ寝ぼけてやがるな。

ジリのヤツは……ベッド、足元の方、まだ丸くなっている。

起きる気はねえのか?


秋を越え、冬を越え……

イーナは育った。

うん、もうな、五歳程度の大きさだ。

まだ、一年も経ってねえんだがな……

このぶんだと何年で大人になるんだか。

で、イーナが、聖女が大人になるってことは、魔王との戦いが始まるってことだ。

魔王の攻勢が始まるってこった。

俺もそれまでに強くなっていなきゃならねえ。

少しでもイーナの助けになるように……

どこまでできるかはわからねえがな。


その前にイーナには楽しく育ってほしいもんだ。

数年で戦いに行かなきゃなんねえ。

なら、さ。

その前には楽しい思い出ってのが必要だと思うんだ。

本当にギリギリの戦いで、踏ん張れるかどうか。

それは、そんな小さいことにかかってんじゃねえかって思ったりもする。


まあ、それは建前かもな。

イーナが幸せならいい。

ただ、それだけだよ。



「あー、フェル、おはー」


「おうよ。やっと起きたな」


イーナが伸びをして、大きな口であくびをしている。


「じゃあ、朝の日課に行くぞ」


「おー……」


まだ眠いらしい。

が、置いていくと、それはそれで怒るからな。

連れて行かないといけねえ。

抱き上げる。


「ジリー!」


バタバタとジリの方へ手を伸ばす。

ジリは気持ちよさそうに寝ているんだがな。

イーナの指名じゃ、ヤツも文句言えねえだろう。

……だが、俺が抱き上げると怒るか。

イーナをジリの方へ。

イーナがジリを抱き上げ、そのイーナを俺が抱き上げる。

なんだかな。

ジリは一度目を開けたが、イーナの顔を見ただけで、また目を閉じた。

コイツも朝が弱え……

豹じゃなくて、猫なんじゃねえかって、最近思い始めている。


二人を抱え、一階に。

キッチンでエルマさんが朝食の準備をしている。

息子のティムも手伝っている。

偉えもんだな。


「エルマさん、ティム、おはよう」


「フェルドさん、イーナちゃん、おはようございます」


「フェルドさん、おはよう。イーナはまだ寝てんじゃん」


ティムのツッコミにみ苦笑しつつ、庭へ。

やはり春の日が、風が気持ちいい。


イーナを下ろす。

まだ寝てるな……


体を伸ばし、ストレッチをする。

固まっている筋肉をゆっくりとほぐしていく。


マジックバッグから木剣を取り出す。

鉛が入っていて、実際の剣と同じ重さになっているやつだ。

それをゆっくりと振る。

体の各部位の動きを確かめていく。

この年齢になると、毎日体の調子が違う。

どこか痛い場所がないか、動きの悪い場所がないか。

動きすぎるのもよくない。

他の箇所がついていけないと、そこに無理がいって、怪我をする。

まあ、イーナに治してもらえばいいのだがな。

イーナが来る前の習慣だよ。

悪いことじゃない。

俺も回復魔法を覚えないといけねえな。

水の回復魔法は才能Dでも習得可能。

が、才能Dだと回復量はたかが知れているらしい。

それでも、肩こりや腰痛の治療くらいにはなるかもしれねえな。


さて、今日の体は問題なし。

調子の良いところもないが、悪いところもない。

そんな感じだ。


次、少し速度を速くして振っていく。


「フェルー、あたしもー」


やっとイーナが起きたようだ。


「ほい、これ」


小さい木剣を渡す。


「おー! いくぞ!」


振り始める。


いやな、聖女だから剣の修業はいらねえんだが、本人がやるってんだから、しょうがねえだろう。

が、あっても悪くねえとも思う。

聖女だからって接近戦闘ができてもいいんじゃねえか。

そんな型にはまる必要もないだろう。


で、イーナは俺の真似をして剣を振る。

……はたからみたら、親子に見えるかな。


少し訓練をする。

イーナは体力がないから、すぐに音を上げ……

ってことはなく、俺と一緒に終わりまで訓練する。

回復魔法を使ってやがるんだ。

体力を回復し、ついてくる。

そこまでしなくてもいいと思うんだがな。


「よし、ご苦労さん。今日の訓練終わり! 朝食に行こうか」


「ご苦労さん! 朝食だ!」


汗を拭いて、朝食に向かう。

途中ジリに聞いてみる。


「イーナは聖女だろう。魔法の訓練はしねえでいいのかい?」


『イーナ様は聖女様なのですからね。成長すれば自然に聖女になります』


「自然に、か……。必要な技術は大人になれば身に付くってか」


『そういうことです』


それは強制的に聖女になるってことか?

決められた運命。

何をしても、どうしてもイーナは聖女になる。

なんだかな。

それも可哀想じゃねえんかな……


人類存亡のため、必要なことなのかもしれねえ。

だが、なあ。

もやもやする。



食堂。

顔見知りの泊まり客も起きてきて、朝食をとっている。


「エルマさん、朝食をお願いします」


「エルマ、朝食!」


「フェルドさん、お疲れ様です。イーナちゃん、ちょっと待っててね。ティムお願いね」


「了解。フェルドさん、イーナ、待ってて」


空いている席に座る。

すぐにティムが朝食を持ってきてくれる。

最近は少し豪華にしてもらっている。

ギルドからの金もあるし、俺の仕事も順調だ。

イーナの成長にも栄養は必要だ。


パンにチーズ、目玉焼き、野菜のスープ。

まあ、俺たち冒険者にしちゃあ豪勢な方だろう。

エルマさんのスープは美味いしな。

んで、目玉焼きは半熟だ。

塩を少しかけて食べる。

田舎の鶏ってのは、放し飼いが多くてな。

ストレスなく元気な卵を産むんだ。

黄身が濃厚で美味いんだぜ。

で、皿に黄身が残るじゃねえか。

これはパンで拭って食べるんだ。

皿洗いが簡単になるし、なにより美味い。

行儀悪いことじゃねえぜ。


他の客たちは朝食を食べ終わって、宿を出て行った。

エルマさんとティムも自分たちの朝食に入る。

隣の席だ。


「エルマ、美味しー」


イーナもお気に入りだ。


「エルマさん、毎日美味しい食事をありがとうございます」


本当に、エルマさんには感謝しなきゃいけねえ。

んで、感謝は言葉にしねえと伝わんねえ。


ジリもスープとパンを食べている。

彼女は自分で獲物をとって、食料とすることもできる。

が、ここの食事も気に入っているらしい。


「いつも同じものですよ、フェルドさん」


「いや。それでも美味しいものは美味しいんです。毎日食べて飽きない味ですよ」


「ま、毎日ですか?」


「はい、俺はエルマさんの料理を毎日食べたいですよ」


少しエルマさんが照れているな。

まあ、息子のティムは母親の料理をいつもは褒めないのだろうから、たまに褒められて照れているのだろう。

しかし、毎日同じような美味しい料理を食べられることに慣れちゃダメだぜ。

ちゃんと感謝の気持ちは口にしなきゃ、伝わらねえんだ。


「まあ、母ちゃんの料理はおいしいからな」


俺の言葉でティムの「おいしい」っていう感想が引き出せたんだ。

それで良しとしようや。


「おう、ティムはわかっているじゃねえか。他の宿だったらこんなにおいしい朝食を食べられねえんだぞ」


「だけど、僕が物心付いたときにはフェルドさん、ウチの宿に泊まってなかったかい?」


ティムが生まれる前からいたからな。


「いや、それ以上前は違うとこにいたんだぜ」


「それは知らないよ……。後で聞かせておくれよ」


「……ああ、そのうちな」


それは、まだ、俺がこの街に流れてくる前のこと。

左手を失う前のこと。

もう遠い思い出……

慣れてねえな。

まだ、引っかかっている。

自分でもそれはわかっている。

まだ、他人に話せる状態でもねえ。

まあ、過去にとらわれるなんて、情けねえがな。

そういや、エトムントのヤツはどうしているだろうか?

最近連絡がねえな。

便りがないのは良い便り、か。

そんな頻繁に連絡を取り合う歳でもねえよな。


「フェルドさん、今日はどんな依頼を?」


エルマさんの問いかけに、思考から現実に戻る。


「そうですね……。薬草は足りているようだから、魔物の討伐かな」


「魔物の討伐ですか……。増えていますか、魔物?」


清廉なる赤い薔薇や、ドミニクが頑張ってはいるが、最近やけに数が多い。

少し気になるな……


「イーナも行くんだよな」


ティムが聞く。


「ああ、一緒だぞ」


「イーナ、いく!」


「僕にも、魔物を倒せるかな?」


「ティム!」


エルマさんの鋭い声。

……旦那が魔物に殺されているからな。

息子が冒険者になりたいってのは、認められないよな。

だが、息子は父に憧れるか。

それも当たり前のこと。

こいつはハーラルトの話をよく俺にせがんでいたからな。

いい話しかしていないからそうなる……

いや、いい奴だったんだよ、本当に。


「……だって、母さん」


「だってじゃありません。冒険者は、冒険者はダメ!」


親は子供を心配する。

が、子供は親の言いなりってのも違う気もする。

はたから見てると冷静になれるが、当事者じゃ、気付けねえ。


「エルマ、怒ってる?」


イーナが悲しそうにしている。


「違うのよ、イーナちゃん……」


イーナ、ナイスタイミングだ!

イーナの可愛さは、エルマさんのドストライクだからな。

ここで話に割って入る。


「まあ、エルマさん、まだ先の話だよ」


「フェルドさん……」


「ティムも、お前じゃあまだ魔物に勝てねえな」


「だって、イーナは……」


「イーナは魔物を倒してねえさ。一緒にいるだけだ。ティム、魔物を甘く見るなよ。そんなに簡単に倒せる相手なら、俺たち冒険者なんて職業はできなかったんだ。俺たちは魔物討伐のプロだ。だが、勝てない魔物も大勢いる。年間、何人も死亡しているんだ。それはわかってくれ。この宿にだって、来なくなった冒険者がいるだろう?」


「……うん」


そうだ。

この街からいなくなる冒険者ってのは、若い奴が実力をつけて、もっと大きな町に出ていくだけじゃねえ。

無茶をしていなくなるやつもいる。

それは事実だ。

冒険者は甘い職業じゃねえんだ。

だが、夢がある職業ってのも嘘じゃねえ。

一部のトップになりゃあ、稼ぎもデカい。

夢はあったほうがいいのは当たり前だ。


「だから、強くなれよ。俺を、エルマさんを納得させられるくらいにな。ハーラルトを超えて見せろ」


「……うん。僕、父さんより強くなる!」


「あいつは強かったぞ。お前に超えられるかな?」


「僕、修行する!」


ティムは立ち上がる。


「ティム! 後片付けはしなさいよ!」


「わかってるって。仕事は手を抜かない。だけど剣の修行はするからね!」


ティムは食器を洗い場に運んでいく。

それを心配そうにエルマさんが見ている。


「すみません、エルマさん。余計なことでしたね」


「いえ……いいんです。あの子は父親に憧れているから、きっと」


エルマさんは悲しそうな顔をしている。

きっと、旦那を思い出しているんだろう。

ハーラルトよ、こんな素敵な人を悲しませるなんて、恨むぞ。


「フェルドさん、あの子を鍛えてやってください。死なないように、強くなるように」


「もちろんです。俺にできることはしますよ。ハーラルトの、エルマさんの息子ですからね。まあ、まだまだですよ。今じゃ、まったく話にならんですから」


「はい。よろしくお願いします」


エルマさんは少し涙目だ。

ティムよ。

先ほどの言葉を覚えていろよ。

厳しくいくからな。

エルマさんを泣かさないように。


『なに安請け合いしているのですか。イーナ様も育てないといけないのに』


ジリには呆れられた。

しょうがねえじゃねえか。

口から出ちまったもんはよう。


『口は災いのもとでしょう。気を付けなさい。まあ、あなたに褒めるところがあるとすれば、その親切心くらいでしょうけどね』


こいつは、褒めているんだか、けなしてんだか。


『だから、呆れていると言っています』


まあ、いいや。

ティムの親の代わりにはなれねえが、剣を教えることならできるからな。

一応俺もベテランだから、それくれえはできるんだよ。


さて……


「じゃあ、エルマさん。行ってきます」


「フェルドさん、イーナちゃん、ジリちゃんも気を付けて。行ってらっしゃい」


「エルマー、じゃあ!」


エルマさんとティムに見送られて出勤だ。

なんだか、こんな感じも良いと思う。

さあ、今日も、お仕事、元気に行こうか。



<<ステータス>>

フェルディナント・エアハルト

 年齢:41歳

 冒険者:Cランク

 LV:29

  生命力:185

  筋力 :125

  魔力 : 68

  素早さ: 99


ティム・シファー

 年齢:5歳

 宿屋の息子

 LV:5


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