表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ロートル冒険者の俺が聖女の養育者でいいのかよ? ――のちに辺境の英雄と呼ばれる男の話――  作者: 月見里 嘉助


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
15/29

第14話 【マリアンネ視点】ああ、私、好きだったんだ

それはこの街で働き出して、二年程度経った日だった。


「なあ、なー、マリアンネ。いいじゃねえか。この後ちょっとだけ付き合えよー。俺っち、依頼達成で金持ってんだぜ。いいもん食わせてやるよ。なー」


この男、バージル・アスマンといった。

Cランクのソロ冒険者。

この街にやって来て間もない新参者。

身長は高くて、顔はまあまあ。

だけど、自信満々な嫌らしい笑みが顔に張り付いている。

女性にはモテないわね。

もちろん、私の好みではない。


ここ数日、私にちょっかいをかけてきている。

正直面倒くさい。

心底どうでもいいヤツ。

いつもはだいたいマスターが追い払うんだけど、今日は残念ながら不在だ。


「遠慮するわ。まだ仕事が残っているの」


この忙しいときに、何を言っているのだろうか、この男は。


「なんだよ。そんな仕事、後でやればいいじゃんか。行こうぜ。仕事よか、楽しいぜ! なー」


この男、馬鹿なの!

今日の仕事を明日に残せば、明日が大変になるだけじゃないの。

明日だって、やらなきゃいけない仕事を抱えてるのよ。

こっちはアンタみたいに暇じゃないのよ!


このバージルって男、ギルドの資料では、他の街で問題を起こしていづらくなり、この街に流れてきたとのこと。

女性問題らしいわね。

実力者の女に手を出したらしい。

この街に来ても、懲りないのね。

反省もしてないのかしら?

きっと、前の街でのことも、自分のせいじゃないと思っているのでしょうね。

そうだとしたら、進歩しないわね。

きっと、ずっと馬鹿のまま。

街を流れ流れて、どこかで野垂れ死ぬのでしょう。

ま、どうでもいいわ。

興味もない。


「あのね、行かないって言ってるの! アナタ、耳ある? 聞こえてる?」


私の言葉に、ヤツは顔を強張らせる。

さすがに数日こんな感じで来られたら、こんな対応になるでしょう。

私が温厚でよかったわよね。

カミラさんなら、顔面パンチがとっくに出ていると思うわ。

女性に虚仮にされたことがないのかしらね。

その性格なら、以前にもあったと思うけど。

きっと馬鹿だから、気付かなかったのかしらね。


「なんだよ! この俺が付き合えって言ってんだぞ! 喜んで付いてくればいいんだ!」


奴が手を伸ばす!

あれは腐ってもCランク冒険者。

腐りきっているけど。

私はDランクに入りたてくらいの実力。

力では敵わない……


ヤツの細い指が私に伸びる……

鳥肌が立つ。

やめて!


「あーん? 何やってんだ。マリアンネさん、オーク討伐してきたんだけど、確認してくれる?」


ヤツの手が止まる。

よかった……

フェルドさんが依頼から帰ってきた。


「フェルドさん、あの……」


「なんだよ、おっさん」


私の言葉を遮り、ヤツがフェルドさんを睨みつける。


「俺が彼女と話してんだよ。少し待ってろよ」


「ん? 見ねえ顔だな。なあ、兄ちゃん、聞いてくれよ。それどころじゃねえんだよ。オークの返り血でドロドロなんだ」


確かに、フェルドさんは体中血でべっとりだった。


「なあ、兄ちゃん、酷いもんだろう」


血で汚れた手で、ヤツの肩を叩く。


「汚ねえな! やめろよ!」


「そう言うなよ、兄ちゃん。仲良くやろうぜ。同じ冒険者だろう」


フェルドさんがヤツに抱き付こうとする。

ヤツはそれを避けた。

だけど、フェルドさんの手が、ヤツの顔を掠った。

ヤツの顔が少しだけ血に染まる。


「汚い、汚い、汚いぃ! 誰か、水! 水魔法!」


ヤツが取り乱している。


「あ、俺、出せるよ」


フェルドさんが《ウォーター》の魔法で水を出す。

オークの血で汚れた手。

その血が移った赤く染まった水。


「使うかい?」


「い、いらねえよ! 汚えおっさんだな! もう、いいよ!」


ヤツは怒って出て行った。

フェルドさんはそれを見送ると、ため息をついた。


「マリアンネさん、大丈夫だったかい?」


やっぱりオークの血で汚れている……

けど笑顔、ほっとする笑顔だ。


「ありがとうございます! 助けていただいて」


「いやあ、マリアンネさんは美人だから気をつけなよ。冒険者なんて腹を空かせた狼さ。ちょっと勘違いしているのもいるしよ」


あれ、美人だなんて、フェルドさんもそんなお世辞を言えるのね。

ちょっと意外。

でも、少しだけ嬉しいかも。


「はい……それはそうと、顔を洗って、着替えてくださいね。フェルドさん」


「あ、ははは。そりゃそうだ。自分でも気持ち悪いからなあ」


笑い合ったんだ。

恐怖で冷たくなっていた心が温かくなった気がする。

フェルドさんの笑顔で心がほぐれていったのよ。


フェルドさんが来てくれてよかった。

なんで、男性でこんなにも違うのだろう?

生理的に受け付けない人、心が柔らかくなる人、その違いは何だろうか?

そのときはそんなことを考えていたのよね。



「うん、ちゃんと着替えてきましたね」


フェルドさんはギルドの空き部屋で着替えてきて、さっぱりしていた。


「いやあ、すまねえ。ちょっとオークとやりあってなあ。ちと、苦戦しちまった」


「気を付けてくださいね。フェルドさんはソロなんですからね」


「面目ねえ」


フェルドさんはオーク討伐の依頼で出ていた。

いつもはゴブリン討伐とか薬草採取とか受けるんだけれど、たまに無茶するのよね。

それもやっぱり彼が言っていた大人になり切れないってのかしら?


「で、あいつ、なんなんだ?」


「ええ、最近この街に来たCランク冒険者なんですが、ちょっと女癖が悪いらしいんです」


「ふーん……あんまよくねえなあ……。一緒に帰っか?」


「え……」


フェルドさんと一緒に帰宅?

どういうこと……


「いやな、危ねえかと思ってな。アイツ、プライド高そうじゃねえか。だから、ちとな。バルドゥルがいりゃあ、送ってもらいなよ。今日はいないんだろう。なら、俺が付いていったほうがいいかなってな」


そっか、心配してくれるのか。

優しいんだよね、フェルドさん。

ふふ。


「じゃあ、お言葉に甘えますね。ちょっと待っていて下さい。もう少しで終わりますから」


「おうよ。急がないでいいぞ。……手伝おうか?」


「ありがとうございます。大丈夫です。本当にもう少しなので」


「おう」


急いで仕事を終わらせなきゃね!



外は夕暮れ。

ちょっとだけ寂しさを感じる時間。

もう少し遅くなったら暗くなっていた。

そうしたら、確かに怖かったわね。

あんな男、いなくなればいい。

社会のゴミでしかない。

悪影響しかないような男だわ。


「じゃあ、行こうか」


「フェルドさん、私の宿、知らないですよね」


「……おう。マリアンネさんが先頭な」


「ふふ、案内いたしましょう」


フェルドさんと話ながら、赤い街を歩く。

フェルドさんがオークと戦った話。

今日のギルドのお仕事。

若い冒険者が成長してきていること。

育った冒険者が、もっと大きな街に旅立ったこと……

そんな話を脈絡なく。

大事な話じゃなくて、小さい話。

日々のちょっとした出来事。

オチとかなんにもない。

だけど、きっとそれが楽しいのよね。


それなのに……いるのよね、ヤツが……


「なんだよ……。そういうことかよ……。そんなおっさんと付き合ってたのかよ!」


バージルが路地から出てきた。

私の帰り道を待ち伏せしていたのだろう。

「そんなおっさん」って何よ?

フェルドさんとあんたじゃ、比べ物にならないわ。

並べないでもらいたいわね!


「そうよ。何よ、悪い?」


この際だからフェルドさんと付き合ってることにしてしまおう。

そうすればこの男も諦めるだろう。


「ちょ、マリアンネさん……」


「フェルドさんは黙ってて。バレちゃったんだからしょうがないでしょ」


「……承知した」


フェルドさんも作戦がわかったらしい。

なら、少しカップルらしい仕草をしてくれてもいいんだけどな。


「で、どうするのよ。私とフェルドさんが付き合ってたとして?」


ヤツは私を睨みつけている。

だけど、隣にフェルドさんがいるから怖くないわ。


「……このアマ! この俺を舐めやがって! 俺とおっさんを比べて、おっさんを取るだあ? 目が腐ってんだろうが! どんなセンスだよ! あー、いいや! もう、いい! いらねえ! お前なんかいらねえ! こんなブスはいらねえんだよ! ブスだ、ブスだよ!」


「きゃ!」


アイツ、剣を抜いて斬りかかってきた。

馬鹿じゃないの!

女性に振られたくらいで、殺そうとするの⁉


「マリアンネ!」


フェルドさんが私を引き寄せ、抱きしめる。

私を庇う。

彼の逞しい腕……

厚い胸板……


ヤツの剣はフェルドさんの背中を斬った。


ああ……

背中から血が出てる。

早く手当てしなきゃいけない。


「てめえ! 痛えじゃねえか!」


フェルドさんがヤツを殴りつける。

彼は左腕がなくて、右腕一本だけだ。

だから、右腕が鍛えられていて、結構力がある。

ステータス上だと、左手がない分、下がっちゃって、わからないんだけどね。

でも、激しく動くと傷に悪いんじゃ……


ヤツは地面に倒れた。


「あ、あ、あ……俺を殴るんかよ! あー、鼻血! 鼻血! 鼻血! 何してくれんだよ、おっさん!」


「何してんだよはこっちの台詞だ、坊主! 冒険者のくせして、なに女性を襲ってんだよ! てめえ、それでも男か!」


「ああん? 男だよ。女なんざ、男の慰み者だろうが! おっさん、童貞かよ!」


童貞かどうかは関係ないと思う。

相手を尊重できるかどうかじゃない?

……さすがに、フェルドさんは童貞じゃないよね。

それは今はどうでもいいこと。

私も混乱している。


「ああ。フェルドさん、どうしたんだい?」


あ、ドミニクさんだ。

Cランク上位の冒険者。

フェルドさんのおじさん仲間。


「ああ、その若いのがマリアンネさんを襲ったんだよ」


「んん? ギルド職員をかい。そりゃあいけねえよ。冒険者はギルドがなきゃあ、何もできねえんだぜ、若えの」


「ちと静かにさせて、あとでバルドゥルに引き渡そうや」


「ああ、そうすっかあ。あの筋肉達磨ならあ、いい感じにしてくれるだろうやね」


「だな」


フェルドさんとドミニクさんがヤツに襲い掛かる。


「ちょっと待て! 二人がかりなんて卑怯だ!」


「知らねえな。女性を襲うより、卑怯じゃねえよ」


「だよなあ。フェルドさんが正しいさね」


二人はヤツをボコボコにして、縛り上げた。

ちょっとやりすぎな気もするけれど、死ななかっただけましよね。

ほんと死んでしまえばいいのに。


「んじゃ、ギルドに行こうやね」


ドミニクさんがヤツを担ぎ上げる。


「さっき出てきたとこなんだがなあ。なんか損した気分だ」


フェルドさんは苦笑する。

だけど、背中を押さえている。

血が出ている。

痛いのだろう。


「手当てしなきゃでしょ! そんなこと言ってないで戻るわよ!」


「マリアンネさん、怖いって。わかった、わかったって。だから、怒らないでくれよ」


怒っているわけじゃないのよ。

心配しているの!


「フェルドさんもマリアンネさんには敵わねえなあ。そりゃギルド職員に逆らえんよなあ」


ドミニクさんが笑う。

笑っている状況じゃないと思う。

でも、この程度の怪我、冒険者には日常茶飯事なのだろう。

彼らの日常はこんな感じかもしれない。

私が覚悟ができていないだけかも……



ギルドに戻って、フェルドさんの手当てをする。

フェルドさんが《ウォーター》で水を出して傷を洗い、私がポーションをかける。

その後、ポーションをしみ込ませた布を当てて、その上から包帯で巻く。


「すまねえな。ポーションまで使ってもらって」


「当たり前じゃないですか。私が助けてもらったんです。ギルドの職員ですよ。それで怪我ですから、ポーションくらい使います」


本当はギルドの備品を使う場合、マスターの許可が必要なのよね。

でも、そんなことはいいわ。

事後承諾。

マスターも気にしないでしょう。

このへんは、小さい組織だからできることよね。

王都のギルドだったら罰則ものかもしれないわ。


包帯を巻いて、終わる。

彼の背中を見る。

大きな背中……

引き締まった、筋肉質の、鍛えられた背中。

ちょっと格好いいかな……


「ん、どうした? 終わったかい?」


「あ、終わりました。これで大丈夫だと思いますが、無理しちゃダメですよ」


背中に見とれてたこと、フェルドさん、気付いてないわよね。


「じゃあ、本当に帰っか」


「え……あの男は捕まりましたけど……」


「まだ、ちと不安じゃねえか。いいよ、送るよ」


「ありがとう……」


フェルドさんは、優しい。

その日は、彼に送ってもらって宿に帰った。

バージルはマスターにぶん殴られて、衛兵に引き渡された。

牢屋に入れといて、そのうち王都へと運ぶらしい。

本部のほうにも情報がいっているから、冒険者資格剥奪かしらね。


と、そんな感じのことがあったのよね。



それからフェルドさんに会うと優しい気持ちになれた。

どうしてかなって思っていたのよね。

まだ、そのときは気付いていなかったのよ。

だって、年齢差があるじゃない。

まさか、私が十八歳も年上の男性を好きになるなんてね。

本当にどうしてかしら?


いつだったかな、自分の気持ちに気付いたのは。

戸惑うってことはなくて、納得したのよね。

ああ、私、好きだったんだって。

しょうがないじゃないかな。

優しくて、頼りがいがあって。

で、実際に助けてもらったんだからね。

それで恋に落ちた。

私に落ち度はないわよ。

むしろフェルドさんが悪いのよ。

ふふふ。

そういうことね。



さて、マスターとフェルドさんの訓練は終わったようだ。


「いい汗かいたぜ! 今夜は麦酒が美味いぞ! がははは!」


マスターのいい運動になったようだ。

最近動いているせいか、とても元気だ。

機嫌もいいから助かっていたりする。


「ありがとうな、イーナ」


「うい!」


イーナちゃんが、フェルドさんを回復している。


「これ、タオルです」


フェルドさんにタオルを渡す。

細かい点数稼ぎは必要よね!


「ああ、ありがとうな。マリアンネさん」


「おい、マリアンネ。俺のは!」


「マスターはそれほど汗をかいていらっしゃらないから、必要ないでしょう」


「おまえ、俺には厳しくないか?」


数年前からマスターに仕事をさせることもできるようになってきた。

なので、私自身の仕事は少し余裕があったりする。

ということで……


「イーナちゃん、甘いものでも食べに行かない?」


「うい? いくー!」


イーナちゃんがこちらに走ってくる。

抱き上げて、頬ずりする。

……若いっていいわね。

この肌、みずみずしい。


「あー、すまねえな。俺が代金を払うからな」


「いいんですよ。私が誘ったんですから」


当然、フェルドさんが付いてくる。

それが狙いだ。

将を射んと欲すれば先ず馬を射よ、だ。


「お、いいな。俺も行くぞ!」


「マスターは仕事が残っていますよね。今日中に終わりにしないといけないものですよ」


もちろんマスターは邪魔。

いらない。


「……なあ、フェルドよお。どう思うよ。こんな厳しい女性は嫁の貰い手がないよなあ……」


「マスター、セクハラですよ!」


フェルドさんは私たちのやり取りを聞いて、苦笑している。


「いいんじゃねえか。女性ってのは元気なほうがいいだろう」


ですよね、フェルドさん!

頑張って、フェルドさんにアタックしますよ!


でもね、フェルドさんを狙っている人って他にもいると思うのよ。

例えば、宿のエルマさんとかね。

彼女、可愛くて、元気で、素敵な人。

それで毎日顔を合わせて、食事も作っていて……

あれ、私、だいぶ不利?


でも、フェルドさん鈍感だからなあ。

彼女も苦労しているかもしれない。

……それなら互角?

そういうことよね!


「じゃあ、イーナちゃん、行きましょうね」


「うい!」


イーナちゃんが元気に手を挙げる。

可愛いわね。


「で、どこの店だい?」


フェルドさんも甘いものが好きなのよね。

それは知っているんだから。

じゃあ、何にしようかな?

普通にケーキ?

それともパフェ、あんこ系も捨てがたいわね!


「……俺は?」


マスターは仕事ですよ。

確認が必要な書類が大量に残っていますよね!

人の恋路の邪魔をするなら、馬に蹴られて死にますよ、それは嫌ですよね?

だから静かにしていてください!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ