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ロートル冒険者の俺が聖女の養育者でいいのかよ? ――のちに辺境の英雄と呼ばれる男の話――  作者: 月見里 嘉助


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第13話 【マリアンネ視点】心が少しだけ軽くなったんだ

冒険者ギルドの庭、マスターとフェルドさんが鍛錬をしている。

マスターはあれでも元Aランクの冒険者だ。

鬼バルドゥルとか呼ばれていたらしいわ。


マスターは棍を武器に、フェルドさんは木剣を武器にしている。


「おら、おら、そんなもんかあ、フェルド!」


「うっせえよ! 実力差がありすぎるだろうが! 俺はいっぱいいっぱいだ!」


このレベルの手合わせになると私には理解できない。

わかるのはマスターは《身体強化》を使っていないけど、フェルドさんは《身体強化》を使いっぱなしだってこと。

それでフェルドさんが疲れてきている。


フェルドさんの打ち込みを、マスターは簡単に受ける。

マスターはそのまま力で押し込む。

フェルドさんは苦しそう。


「はっはっ! どうだ!」


「ぐうっ……こんのやろうが!」


フェルドさんが体を反転し、力を逸らす。

そのまま《回転斬り》。


「は! あめえよ!」


マスターは棍で受ける。

スキルを使っても届かない。

マスターは馬鹿力だから。


それでも、あのマスターとこれだけ戦えるのは凄いと思う。

この街ではシャノンちゃんとマリオンちゃんくらいじゃないかしら。

フェルドさんも強くなったのね。


「フェー、けっー!」


イーナちゃんは私の腕の中、近づいたら危ないので抱きしめている。

フェルドさんの応援に一生懸命だ。

ばたばたと暴れるように応援している。

外から見たら暴れているようにしか見えないわね。

とても可愛いわよね。


イーナちゃんはフェルドさんが連れてきた聖女様だ。

まだ、小さくてそんなふうには見えないけれど、木の女神メルフェイーナ様の聖女様。

メルフェイーナ様はイーナちゃんを育ててもらう代わりに、フェルドさんの左腕を治してくれた。

フェルドさんは左腕が復活したのと、女神様の加護で強くなっている。

ううん、違うわね。

フェルドさんはずっと、ずっと頑張ってきたから。

左腕がなくなって、それでも片手で剣を振り続けてきたのよ。

引退しろっていう言葉を頑なに拒否して、自分の道を進んできたんだ。

黙々と独りで。

誰に言われるでもなく、誰に褒められるでもないけど、それでも毎日剣を振っていることを、私は知っている。

それはイーナちゃんを引き取った後も続いている。

そして、この街の冒険者で彼を悪く言う人はいない。

みんなフェルドさんの努力を、彼のことを知っているから。


「いってー! 強く叩きすぎだぞ、バルドゥル!」


マスターの棍がフェルドさんの肩を叩いた。

手合わせは終わり、かな?


「はっはっ! こんなもん怪我のうちにも入らんだろうが! 嬢ちゃん、治してやれや!」


「らしゃ!」


イーナちゃんが手を上げて、元気よく答える。

イーナちゃんを降ろすと、元気にフェルドさんの所へ走っていった。

うん、走るのも上手くなったわね。

そして可愛い。


「おう、イーナ。お願いするわ」


「フェー、らしゃー!」


元気に手を上げて、その手をフェルドさんの肩に付ける。

フェルドさんの体が光る。


「おわいー」


「おう! ありがとうな」


フェルドさんがイーナちゃんの頭を撫でる。

イーナちゃんは嬉しそうだ。


あれだけで回復できるんだ……

さすが聖女様ね。

この光景を見ると、イーナちゃんが聖女様だって納得できる。

凄いわよね。

回復は冒険者にとって重要な魔法。

だけどなかなか使い手がいないのよね。

それぞれの属性に回復魔法があるんだけど、一番低ランクで覚えられるのが水属性の《ヒールウォーター》ね。

だけど魔法を覚えたとしても、回復効果が低い人が多い。

どうも知識と性格が影響しているらしいとのこと。

体の仕組みを理解している人。

あとは、治したいって純粋に願える人。

心の優しい人なんだろうね。

私は金属性だから、回復魔法は難しい。

使えたなら良かったと思う。

冒険者ギルドの職員だからね。

冒険者さんたちの役に少しでも立てたらと思うのよね。


「じゃあ、もう一戦だな!」


「あほか! 何回やるつもりだよ。もう十回もやってんだろうが!」


「おう! まだ十回か。嬢ちゃんが治してくれるから、安心して訓練できるだろうが! 嬢ちゃんに感謝だな! がははは!」


「おー!」


「イーナ、返事するな! こんな筋肉馬鹿に付き合ってらんねえんだ!」


「筋肉馬鹿たあ聞き捨てならねえな! てめえはもう少し筋肉が必要だな! 筋トレ増やすか!」


「くっ、口は災いの元! しかし、憎まれ口をたたかねえと、やってらねえ!」


「逃がさねえよ、フェルド! 今日は一日、俺がみっちりと付き合ってやるからな!」


なんだか二人とも楽しそうね。


「イーナちゃん、危ないから少し離れましょうね」


イーナちゃんを回収して、黒猫のジリちゃんがいるあたりまで、距離をとる。

ジリちゃんはあくびしている。

「やれやれ、しょうがない奴らだな」って感じかな?

この子、ちょっと賢そうなのよね。

人間の言葉をわかっている?

そんなことないか。


もう少し続きそうね。

でも、フェルドさんが元気そうで嬉しい。

ランクダウンしたときはあんなに落ち込んでいたから……



私とフェルドさんが出会ったのは、この街の冒険者ギルド。

私が王都からこの街のギルドに配属してきたときで、私は十六歳だった。


私は十五歳で王都アーベランロードの冒険者ギルドに就職した。

先輩について仕事を覚え、やっと何とか自分でできるようになった。

そう思ったときに、このウェストフェルトへの赴任が決まった。

同期と比べても仕事はできるほうだと思っていた。

だから王都で働くものだと思っていた。

それなのに辺境の街ウェストフェルト……

期待されていないと思った。

私の何が悪かったのだろう?

私に何が足りないのだろう?

悩んでいた。



この街の冒険者ギルドの前任の受付はカミラさん。

結婚して退職。

お腹に赤ちゃんがいた。

とても幸せそうだった。

結婚相手は冒険者だった。

二人で手を繋いで笑顔で、別の街に旅立っていった。

そのあとのことは知らないけれど、きっと元気に赤ちゃんを産んで、幸せに暮らしていると思う。


彼女と一緒に仕事をしたのは一週間ほど。

引き継ぎを詰め込まれた。

忙しくて、悩んでいられなかったから、それはよかったのかもしれないわね。

不本意な赴任だったけれど、だけど、与えられた仕事が満足にできないのはもっと嫌だった。

だから、カミラさんがいなくなっても頑張っていた。

でも、一人でやるには仕事量が多かった。

自分の仕事が遅いのかもしれない。

やっぱり私は無能なのかもしれない。

そう悩むことが増えていった。


今ならわかるわ。

それはマスターのせいよ!

あれが仕事を私に押し付けるからだ。

だけど、あれに仕事をやらせると、逆に私の仕事が増えるんだ!


「おう、優秀そうなのが来たな! いいこった!」


最初、会ったときに言っていた。

そういうことだ!

仕事を押し付ける気満々だったんだ。

増員の願いも出しているんだけど、人は来ない……


「ギルドも人材不足だからな」


違うと思う。

マスターの人気がないんだ。

熊のような大男で、声が大きいし、態度がデカいし。

まあ、頼りがいだけはあるけどね。


ほんと、どうにかして改革をしないと体が持たないわよ。

そう、そのとき、私、心を病みかけてたのよ。

そんなときに助けてくれたのがフェルドさん。

フェルドさんが仕事を手伝ってくれたんだ。


「俺はカミラちゃんにみっちり仕込まれているからな。だいたいのことはできんだよ。仕事のないときに、こっちを手伝って食いぶちを稼いでるってこった」


「……助かります。ありがとうございます」


最初はそんなに仲良くなかった。

片手のない、うだつのあがらない冒険者のおじさん。

そんな印象。

だけど一緒に仕事をして、だんだん彼のことを理解していく。

口ではなんだかんだ言っているけれど、仕事は丁寧で、冒険者たちの信頼も厚い。


「俺はここが長いだけだ。まあ、大体の冒険者を知っているよ。何か問題があったら俺に言ってくれよ。少しだけ助けられるかもしれねえからな」


「ありがとうございます。冒険者の方々……ちょっと怖い人もいますから……」


冒険者に荒くれ者が多いのは知っていた。

だけど、王都に比べて荒れている感じがある。

王都は若い人も、ベテランもいて活気がある感じ。

ここはお酒を飲んでいるおじさんがたくさんいた。

お酒が入れば暴れることもある。

大概、他の冒険者に取り押さえられて、外に放り出されるんだけどね。


「ああ、おっさんの冒険者な……。ありゃあ、でっかいガキだと思っていてくれ。歳はとっても、大人になり切れない、夢にしがみついたガキどもだよ。しょせん、そんなもんさ。可愛いもんだぜ」


「……フェルドさんも?」


「ん、俺かい? 俺なんてその典型だよ。若造の頃からまったく成長できていない。ベテラン面した未熟者さ」


なにか、少しだけ寂しさを感じる。

腕がなくなって、上位ランクを目指せなくなって、その歯がゆさ……?


「でも、私はフェルドさんにとても助けてもらっています」


「ま、俺にはこんなことしかできないからよ。いくらでも手伝ってやるさ」


彼は笑った。


「ここもそんな悪いとこじゃねえよ。冒険者はちょっとガラが悪いけどな。だけどみんないい奴だ。こんな辺境の街で踏ん張ってるんだ。街のみんなのために働いて、戦ってる。マリアンネさんだって、そうだろう? 俺たちを支えて、サポートして、この街になくちゃならねえ存在だ」


「……私、この街の役に立っているんですか?」


「そりゃ、そうさ! 俺たち冒険者は馬鹿ばっかだからよ。まとめて、進む方向を決めてくれる奴が必要なんだ。それが冒険者ギルドだよ。で、マスターがアレだからよ。ほんと、マリアンネさんには頭があがらねえよ。いなかったらこの街の冒険者ギルドはダメになっちまうだろうよ。ただの荒くれ者の集団になっちまうよ」


そんなものなのだろうか?

私の仕事が本当にこの街に必要なのだろうか……


「自分のしている仕事は小さいと思ってもさ。誰かの役に立ってるんだぜ。俺の仕事なんてな、小さいのばっかだよ。薬草の採取とか、ドブの掃除とかな。だけど、たまに感謝されるんだぜ。『ありがとう。いつも助かってるよ』ってな。それだけでいいと思うんだ。みんながそうやって小さい仕事をして、助け合って、街はできてるんだ。……すまねえ、ちと説教臭くなっちまったな」


恥ずかしそうに頭をかいている。

少年のようでもあり、言葉は荒いけれど、落ち着いたおじさんのようでもある。

不思議な人……


なんだろう。

言葉がすうっと入ってきた。

私が求めていた言葉だったのかな?

心が少しだけ軽くなったんだ。

もやが晴れた感じ。

私はここでいいんだって思えた。

大事なのは場所じゃないかもしれないわね。

どこでだっていいんだ。

一生懸命にやっていれば、見てくれる人がいる。

フェルドさん、とかね。


たぶん、私、少し涙ぐんでいたと思う。

フェルドさんは何も言わずに、ただ、仕事を一緒にしてくれていた。

きっと、そういう優しい人なんだ。


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