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ロートル冒険者の俺が聖女の養育者でいいのかよ? ――のちに辺境の英雄と呼ばれる男の話――  作者: 月見里 嘉助


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第12話 力関係ってなあ、筋力の強い弱いんじゃねえんだよ

「フェルー、フェルー」


「……んだよ……もう少し寝かせろよ……」


「フェルー、フェルー」


ペチペチと、顔を叩かれる。

……ん?


「あ、イーナか……」


俺の膝の上にイーナがいた。

で、俺を叩いている。


「フェルー、まんまー」


んー、そっか、そっか。

朝か。

で、腹減ったか。

ボリボリと首筋をかく。

で、ここどこだっけ?

あー、そうだ、女神様のところ……

イーナを連れてきたんだっけか?

そうだ、イーナ。


「どうだ、イーナ!」


「あー?」


首を傾げている。

手を口に持って行って、何か食わせろとアピールしている……

おう、大丈夫そうだな。

よかった……


『で、食べものはあるのでしょうね』


おー、ジリも起きていたか。


「もちろん。イーナの非常食として、常にマジックバッグに常備してるんだぜ」


パンと卵焼き、煮つけたニンジンを取り出す。

イーナはこのニンジンが好きだ。

少しだけ甘さをいれて、柔らかく煮てある。

もちろんエルマさんが料理してくれたもの。

俺も料理をエルマさんに習ってはいるんだが、なかなか、な……


で、作り置きの料理が美味いのかって話だろ?

それがこのマジックバッグが高性能なんだぜ。

時間が止まっている、どういう仕組みかはわからねえが……

さすが女神様がくれたもの。

だが、それが他の奴にわかっちまったら……

おー、俺、殺されるな。

だが、このマジックバッグ、俺にしか使えねえみたいなんだ。

ドミニクに試してもらったが、ヤツは使えなかった。

で、俺専用って、他の奴に言っても、信用しねえで、結局、俺が殺されるんだろうな。

怖えもんだ……


「あー、にんにんー!」


イーナが手を伸ばして暴れている。

おう、イーナの食事が先だよな。

すまねえ。


イーナの食事を済ませた。

そのあと、俺も少しパンと水を飲む。

ジリには鶏肉だ。


「で、ジリよ。イーナはもう大丈夫なんだろうな?」


『大丈夫でしょう。しかし、今は、です。定期的にここに来る必要があると思います』


「それは、女神様が許可しないと来れないんだよなあ。あ、ジリがいれば問題ないってことか」


『……きっと、おそらく、たぶん……』


「おいおい、はっきりしねえなあ」


『私は女神様に意見できるような身分ではありませんから』


肝心なところで頼りにならねえな。

まあ、女神様がどうにかしてくれるだろう。

イーナのためだからな。


「じゃあ、帰るんべ」


イーナも元気になった。

ここにいつまでもいられない。

聖域っぽいからな。


イーナが難しい顔をしている。

で、ほーっと息を吐く。

一仕事終えたらしい。

オムツだな……

ウンチだった。

まあ、排便できりゃあ、とりあえず大丈夫だろうよ。

食って、寝て、排泄する。

それが生きているってことだ。

イーナのオムツを替えてから、街へと出発した。



帰りの森の中、ゴブリンやら狼やらを倒しながら進んだ。

ヴィシャスピッグもいた。

ゴブリンに囲まれて、狩られる寸前。

俺がゴブリンを倒して、豚を横取りだ!

久しぶりに豚が食える。

豚も可哀想だな、どちらにせよ、食われるんだからな。

が、しっかりと狩るぜ。

それが冒険者ってもんだ。


意気揚々と街に帰った。



「……で、今、お帰りなんですね」


「はい……すみません……」


宿に戻ったのは夕方。

俺はエルマさんに怒られている。

イーナとジリは部屋で休んでいる。

ティムが、可哀想にという顔でこちらを見ている。

おい、少し助けてくれないか、とアイコンタクト。

ティムは、無理です、僕は関係ありませんと首を横に振る。


「……何してるんですか、フェルドさん」


「すみません。ご心配、おかけしました」


仕方なし。

謝り倒す。


「しかし、置手紙はしていったと……」


「これですか……」


バンと、エルマさんが俺の手紙をテーブルに出す。


「『問題が起きた。少し出る。心配しないでくれ』ですって! 余計心配するじゃないですか!」


あれ……?

何か問題があるのか。

ちゃんと「心配いらないよ」と書いたんだが……

エルマさんが睨んでいる。

わからない……

が、ここは男らしく、謝るしかねえだろう。


「すみませんでした。次はもっとちゃんと手紙書きます」


エルマさんが睨んだまま。

何か間違ったか……?

彼女は深いため息。


「今度、何かあったら、ちゃんと話してくださいね。私たちを頼ってください。約束ですよ」


「はい、すみません。何か問題があったら、素直に言います……」


「……まあ、いいです。フェルドさんはそんな感じですから」


なんか呆れられているような気もする……

が、解放されるなら、それでいいじゃねえか。


「今度はないですよ」


エルマさんの念押しが怖い……


「はい、反省しています」


しょうがねえだろ。

男なんて、女に弱いもんだ。

力が強いって威張ったって、なんになるよ?

力関係ってなあ、筋力の強い弱いんじゃねえんだよ。

きっと……



一応、ギルドにも話しといたほうがいいかと思って、来ている。


「って感じなんだけどな」


バルドゥルの部屋。

相変わらず、コイツは暇していた。

仕事してんのかね?

全部マリアンネさんに押し付けてんじゃねえだろうな。


ちなみにイーナの世話はマリアンネさんにお願いしていたりする。

ジリもついているし問題ないさ。


「ああ、女神様の力ねえ。あれか? 確か、俺との手合わせのときに、嬢ちゃんからフェルドに流し込んでたな」


コイツとの手合わせのときの最後のヤツな。

あれはイーナ自身の力じゃなくて、女神様の力を使ったってことか。

あんなのが何回かあったからな。

それで消耗したってことか。


「まあ、ご苦労様ってこったな。一応褒めておこうか」


「いや、いい。お前に褒めてもらうために、走り回ったわけじゃねえからな」


「しかし、フェルドもよくやってると思うぜ。いきなり子持ちで、子育てだからな。そりゃ、混乱するってもんだ」


「いや、イーナは素直だから、それほど手はかからねえよ。そういや、バルドゥルとこは何歳だ?」


こいつ、一応奥さんもいて、子供もいる。

こんな筋肉馬鹿と結婚してくれるんだから、奥さんはすげえできた人だよな。

で、子供は確か女の子だったか?


「ああ、あいつは十八だったかな。王都のギルドで働いてる」


「お前が子育てなんて、想像もできねえが」


「そりゃ、おめえだって同じだろうがよ。ま、かみさんが頑張ってくれたからなあ。俺は何もできねえや。オヤジってのは呼び方だけだな。大したこたあしてねえよ」


ま、コイツはそういうが。

きっと、色々あったんだろう。

意外に、こいつのところも夫婦仲はいいらしいからな。

子育てを奥さんだけに任せていたら、夫婦仲が悪くなっているはずだ。

マリアンネさん情報な。


「イーナは成長が速いからな。そりゃ、大変だろう」


「まあなあ。俺には父親になったって自覚はまだねえよ。ただ、必死に生きているって感じだ。バタバタしてらあ、毎日」


「はっはっはっ。そんなもんさ、子育てなんてなあ、慣れるこたあねえよ。プロになれるこたあねえんだ。毎回、初めて、わからねえことだらけ。右往左往だ。ま、それでも子供は育つんだよ。父親なんて情けねえもんさ」


「俺はいい親になれるんかな……」


「なれやしねえって、いい親なんてな。誰だって、なれねえんだ。だが、もし、子供が大人になったときに、この親の子供に生まれてきて幸せだって思ってくれたら、すげえ嬉しいがな」


……まさか、バルドゥルと親について語る日がくるとは思わなかった。

まあ、変な気分さ。



「マスター入りますよ。そろそろお話終わりましたか?」


マリアンネさんが入室、イーナを抱いている。

ジリはしれっと、入ってきてるな。

ジリがイーナにくっついているのが普通だと、みんながすっかり認識しつつある。

みんな、こいつのことなんだと思ってるんだ?

イーナのペットか?


「おう、マリアンネか。いいとこに、来たじゃねえか」


「なんですか、マスター。また面倒事を増やしたんじゃないですよね」


おう、彼女のバルドゥルへの評価が酷いな。

ま、彼女がいなきゃ、ギルドが回らないのは事実。

バルドゥルもマリアンネさんには感謝しとけよ。


「そうじゃねえって、フェルドのことだ。ほぼ無断で深夜外出して、エルマにこっぴどく怒られたらしいぞ。コイツ、大泣きで謝ったんだってな」


「泣いてねえわ! 謝ったが……」


なんで、マリアンネさんにばらすよ。

バルドゥルだけに話した意味がねえだろうが。


「……そうですか。エルマさんがとても怒ったんですか……」


なんだ……?

マリアンネさんが怖い。

いつもは俺に対してはもっと優し気な雰囲気なんだ。

バルドゥルには冷たいが。

それが温度が5度ほど下がった感じ……


そんなことも気にせずに、バルドゥルは楽しそうに続ける。

おっさん、空気読めよ……


「そういや、フェルド。おめえー、最近、シャノンたちとも仲いいじゃねえか」


おい、その話もなしだぜ。


「……その話、私、聞いてませんけど」


ほら、マリアンネさんの機嫌が……


「ああ、シャノンとマリオンが身体強化を習得したんだ。そりゃあ、いいこった。んでなあ、それにフェルド、おめー関わってんだろ? で、距離縮めたろ。シャノンがずいぶん楽しそうにしてんじゃねえか。なぜか、アシュリーが若干不機嫌だったがな」


シャノンは上機嫌、アシュリーは不機嫌か。

アシュリーは、バルドゥルとかブルーノとかドミニクがいるから、いいじゃねえか。

そっちを狙えや。

みんな妻子持ちで険しい道ではあるがな。

そうだな、男と男でもいいが、不倫はダメだろう。

しかし、俺は女性のほうがいい。

人それぞれだ。

巻き込まないでくれ。


「フェルドさん、シャノンちゃんとも仲がよろしいんですね……。彼女に何かしましたか?」


マリアンネさんはシャノンたちを女性として扱っている。

俺も頭ではわかっちゃあいるんだが……

しかし、やつらの実力もあって、なかなか女性として扱えるほど度量はない。

俺より強ええんだよなあ。

若くて才能がある。

女性が弱いってこともないんだが……

俺の難しいおっさん心だよ。

いらねえ男のプライドってもんも持ってんだよ。

わかってくれよ。


「何もないよ。ただ、少し教えただけ。それだけだよ」


シャノンとのキスは俺からじゃねえ!

だから、俺は何もしてねえ!

てことで……


「ふーん……まあ、いいでしょう。問題はそこじゃないですからね。今回の問題は、イーナちゃんのことでギルドに連絡もなく、行動した点にあります」


「しかし、今回は緊急で」


「もし、フェルドさんだけで対処できない問題だったらどうでしょうか? 手遅れになっていた可能性は? 我々を頼っても良かったのではないでしょうか」


……正論、怖い。

許してくれよ。


「すみません。次からは気を付けます」


ん……?

マリアンネさんが小指を出す。

少し表情は和らいで、少し恥ずかしそうに。


「……約束です」


恥ずかしいが、やらんとダメなのだろう。

小指を絡める。


「指切りげんまん嘘ついたらダガー百回突き刺す」


うん?

ダガー?

そっか、マリアンネさんはダガー使いだったか。

冒険者ギルド職員はそれなりに体を鍛えている。

彼女の武器はダガーだったか。

百回なあ……

《迅突・二連》あたりのアクティブ・スキルを持っているのかもしれねえなあ……

なかなか有望じゃねえか。

マリアンネさんは冒険者としてもいけるじゃねえか?

ま、マリアンネさんが冒険者になって、ギルド業務から抜けたら、このギルドが回らなくなるがな。


「約束しましたからね、フェルドさん!」


そう言って、可愛く笑うんだ。

女って怖えな……

バルドゥルのやつ、ニヤニヤと笑いやがって。

覚えてろよ!



「お、そうだ、フェルド。お前、身体強化を使えるってことだろ。じゃあ、俺と訓練な」


「何でそうなるよ、バルドゥル!」


「お前、強くなんなきゃならねえだろうが。レベル上がって、ステータスだけ上がってもしょうがねえ。実戦で技を磨かねえとな!」


これも正論なんだが!

だが、嫌だ!

この筋肉馬鹿の相手なんてやってられっか!


「あ、俺、ギルドマスターだからな。逃げんなよ」


これってパワハラで訴えられねえんだろうか?

俺のためってわかっちゃいるんだが、しかしなあ……

なるべく理由を付けて、逃げようか。

命の方が優先だよな。


いいか、よく覚えておけよ。

冒険者はなるべくリスクから逃げるんだぜ。

それが生き残るコツだ。



<<ステータス>>

マリアンネ・コーウェン

 年齢:22歳

 冒険者ギルド職員

 LV:13


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