〝生きること〟
「〝死ぬこと〟と〝生きること〟は対義語だと思うかい?」
アンノは僕に問うた。
「急に戻すなよ。」
『4.00.00』
彼女は二日ちょいの時間を要して僕に過去の映像を見せたようだ。
「まあまあ。初恋の女の子の思い出を見られたんだから質問の一つや二つぐらい良いだろう?」
僕は少しだけ考えた。
考えた上で、否定した。
「違う、と思う。」
「それはどうして?」
「心の中も読めるんだろ。」
「いやいや、ヒトは嘘つきの生き物だ。思っていることと言ってることが逆転してるなんてよくある話さ。」
アンノは話の続きを促した。
「生きながらにして死んでいる状態っていうのがあると僕は思うんだよ。」
「ふうん。」
彼女は興味深げに頷いた。
「植物人間とか意識障害とかそういう話ではないのだろう?」
「もちろん。僕だってそんなにつまらない解は出さない。」
「聞かせてくれ給え。」
「僕が〝生きていない〟と思った時だ。」
「プッ…」
アンノは息を吹きだすと、堪えきれなくなったようで盛大に笑い出した。
「アッハッハッハ…面白いねぇ、君は。」
「聞いておいて失礼だな。」
「いやあんまりにも予想外で傲慢で阿呆な考え方なもんだから笑っちまったよ。」
肩を揺らしながら喋る彼女の眼には涙が浮かんでいた。
「でも、僕はその考え方が嫌いじゃない。」
「なんだよ、急に。」
「生きていないと思った時ね。確かにそうだ。定義してしまえば何でもそうなるもの。」
「でも、社会的には通用しないんだ。だから〝生きていない〟と思ってる最中でも働かないといけない。そうすると生ける屍の完成だよ。」
「そこまでして生きていたいたいのかい?」
「僕はそうまでして生きたくないからこんな人間なんだろうな。」
「そうだね。ニンゲンはそういう奴だった。」
「そうとも。僕はつまらないねじくれた人間さ。」
「そうかい。」
「さて、あと約束の時が半分ほどになってしまったわけだがほとんど何もしていない君。」
「なんだよ。」
「何か面白いことをし給へ。」
「それ、高度過ぎないか?」
「良いから良いから。」
「じゃあ、そうだな…」
ビル街が〝創造〟される。
風が強く吹いている。
懐かしい。
あの時のままの景色だ。
「僕が此処で死ぬっていうのはどうだい?」
アンノを見て、微かに笑った。
「やめて。」
耳を疑った。
「やめて。」
その声はもう一度響いた。
モノクロームの少女は泣いていた。
「やめてくれ。頼むから。」
「おい、僕をからかっているのか?」
僕も動揺していた。
アンノが感情こんなに露わにしたのは初めてだ。
「からかってなんかないよ。僕はいつも真剣さ。君が死ぬと哀しいんだ。」
「どうしてそんな。」
「君が〝生きること〟を放棄しようとするからさ。」
「だからなんだよ。僕が死んだって君は何も困らない。」
「人間はね、生きてる時にしか〝想像〟できないんだよ。だから――」
「君には生きていてほしい。」
言葉が突き刺さった。
涙が出る。
そういえばこうやって肯定的な言葉を貰ったのはいつ以来だろう。
そうか。
生きるとはそういう事か。
「やっぱり〝生きること〟と〝死ぬこと〟は対義語だ。」
「どうしたんだい、急に。」
涙を拭うアンノが言う。
「生きることは〝観測されること〟で死ぬことは〝観測されないこと〟なんだ。」
僕は続ける。
「シュレディンガーの猫の生死が解らないように観測されないモノは何にも干渉することができない。」
「つまりひっそりと山奥に住む者は死んでいるに等しいと。」
「人間目線で見ればそういうことだと僕は思う。」
「その者が自分が〝生きている〟とちゃんと自覚していたとしても?」
「ほら、人間は馬鹿ばっかだからさ。一人の意見なんて求めてないんだよ。多人数の意見が大事。」
「いうようになったじゃないか。」
アンノの表情は元通りになっていた。
「つまり僕も死人さ。誰からも肯定されないから。」
「いや、君は誰よりも人間らしく生きているさ。」
あの少女の言葉が聴こえた気がした。
〝生きたい〟と思っても




