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PTSD持ち帰還兵と、亜人三姉妹の共依存生活  作者: 椿


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3/6

亜人

 国土の半分が海に面し、はるか太古から技術と知識が往来する国、ディース。私の母国であるこの国には隣国がある。


 その名も、ノルン。豊かな大地と潤沢な資源に恵まれた大国である。しかし、かの国はその土壌故に戦が絶えなかった。


 先進的な技術や最先端に近い叡智は集まるものの、国土が小さく発展のためには諸外国の力を借りざるを得ないディース。


 農地や希少な鉱物資源がありながら、内紛と発展の遅れによりそれらを活かしきれないノルン。


 両国が双方の長所に目を付けるのは自明だった。ディースとノルン。二つの国が手を取り合えば、更なる国力の増強と発展が望める。


 だが、そう上手く事が進むことはなかった。


 文化の違い。利益分配の対立。何よりも、『亜人』という種に対しての見解が大きくことなったことが、手を取り合えるはずだった両国の溝を深めることになった。


 そして戦争が起こった。だから、心ない人はこう言うのだ。


 『亜人』など受け入れたから、争いが起こったのだ。あの人間擬きは不幸を呼ぶ。所詮、化け物と人は分かり合えぬのだと。


 その恩恵に預かっておきながら、なんておこがましいのだろう。


 「お前もそうなんでしょ……!?」


 「………………」


 私は深い猜疑心に満ちたヴェルの視線を真っ向から受け止めた。ディースにおいて『亜人』の立場は段々と悪くなっている。ただでさえ少数派の人種だ。孤児らしき彼女達は、その悪意を何度も受けたのだろう。


 「元とはいえ、私はユグドラシル学派の一人だった。亜人らに感謝こそすれ、恨むのは筋違いだと私は思ってるよ」


 「感謝……? はっ、戦争を起こしてくれてどうもありがとうって?」


 「違う。それに、戦争が起こったのは貴女達のせいじゃない」


 「ごほっ……! な、なによ……!?」


 「無理をしない。まだ怠いのでしょう? 何もしないから、寝ていなさい」


 ヴェルの額に手を当てると、やはりまだ熱は引いていなかった。それは彼女も理解しているのか、睨むばかりで抵抗はしなかった。


 「ウルズ。サンドイッチを置いておくわ。食べられそうなら食べて、駄目だったらこっちの病人用をあげなさい」


 「あ、はい! ありがとうございます!」


 「……ふん」


 「じゃあ、私はこっちの部屋に居るから。何かあったら呼びなさい」


 敵意ある視線を向けるヴェルと、オロオロとそんな私達に迷いを見せるウルズ。すやすやと眠るスクルド。何となく、三人の関係性が見えたような気がした。


 「亜人だから受け入れた、ね……勘が良いじゃん」


 姉妹以外の全てを疑うヴェルの前では口にしなかったが、その言葉は正しかった。亜人にはその特徴として、人ならざるものの特徴を受け継ぐことがある。


 たとえば、彼女達の持つ紅い瞳。もしくは、ヴェルの銀色の髪。後は……スクルドの持つ、異様な魔力の雰囲気。どれもが亜人である証明だった。


 それが分かっていても彼女達を助けようと思ったのは、単なる偽善か、それとも……


 『人間だろうと亜人だろうと、主の子であることに変わりないわ。そこに安いも高いもない。救えるものは救う。それだけよ』


 そんな、かつての戦友の言葉が、今も私の中にあるからなのだろうか。


           7


 「なに、アイツ……」


 あたしは痛む頭を抑えながら、その場を立ち去った女のことを訝しんでいた。


 短い14年の人生の中であたしが学んだことの一つに、人間の感情は瞳に現れる、という持論があった。


 表情を取り繕おうと、瞳の中に滲む本音を隠しきれる人はそう多くない。特に、人を騙そうとする人間には、独特の嫌な気配が必ず漏れ出るはずだ。


 だが……あの女には瞳の奥に何も感じなかった。あたし達への憐れみも、利用してやろうという魂胆も、何らかの意図も、一切感じなかった。


 そこにあったのは真っ暗な暗闇だけだった。深い悲しみや、自己に対する蔑みばかりで埋め尽くされていたのだ。


 分からない。アイツの何もかもが、分からなかった。


 「ヴェルねぇ、疑いすぎ。あの人は、悪い人じゃ、ないよ」


 「スクルド……! 目を覚ましたのですね! 気分はどうですか?」


 「腹減った。ソレ、ちょうだい」


 「どういう意味よ、スクルド。噂を鵜呑みにする訳じゃ無いけど、用心するに越したことはないでしょ?」


 アレが男性であったなら、年若い女を好む変態であると納得もできた。だが、あの女にはそのような気配はやはり感じない。なら、何か別の目論見があるのだと考えるのが普通だろう。


 スクルドはあの女が持ってきたすり潰された果物を食べると、ポツリと意味深なことを口にした。


 「あの人は、可哀想な人。自分が許せなくて仕方がない、憐れな人。誰もあの人のことを、分かってあげられない」


 「それは……どういう意味よ」


 「とにかく、ヴェルねぇの考えてるようなことは、あの人はしないって、ことだよ」


 スクルドは末っ子で、正直あたし達姉妹でも何を考えているのか良く分からない子だ。だが、あたしが経験と培ってきた理論で答えを出すのに対し、スクルドは直感的に物事を決めるタイプだった。


 そして、ここぞという時の彼女の直感が外れたことはない。


 「……あっそ。まぁ、アンタがそういうなら、信じたげる」


 あくまで信じるのは可愛い妹のことだ。決して、別に、断じて、あの女を信用した訳ではない。


 …………あ、サンドイッチ美味しい。


           8


 「ヴェル、スクルド! 寝てなきゃ駄目じゃない!」


 「ごほっ……べつにへーき。これくらい私にだっ――ごほぅ!?」


 「ふん、強がりはよしなさい。こういうのはお姉ちゃんに任せ――あたっ!?」


 「病人は、寝なさい。コレはお姉ちゃんがやります」


 「「はい……」」


 仕事を終え、私は姉妹達の様子を覗いていた。どうやら具合も大分良くなったようだ。この調子なら、あと2,3日もすれば全快になるだろう。


 「ん、調子どう?」


 「あ、テレスさん! あとちょっとで終わりますよ!」


 「そっか。君は中々筋が良いね」


 「そ、そうですか……? えへへ、なら良かったです」


 ウルズは私の言葉を聞くとその顔を綻ばせた。可愛い。


 思わず、私は彼女の頭に手を伸ばしていた。少しパサついているが、撫で甲斐のある綺麗な金髪だった。


 「もう……くすぐったいですよ」


 「……つんつん」


 「ん? ええっと……スクルド? どうかした?」


 「おねーさん。私も、私も」


 スクルドは私に頭をぐりぐりと押し付けながら、気怠げな目で私を見つめてきた。ウルズやヴェルとは違い、何を考えているのか良く分からない子だ。ま、可愛いから良いか。


 そうやって二人のことを撫で回していると、敵意のある視線を感じた。


 「…………ふんっ」


 「ふーむ……えい」


 「なっ!? な、なにすんのよぉ!?」


 「仲間外れは可哀想かなって。ていうか、軽すぎ。もっとちゃんと食べな」


 少し離れたところでは、未だ不信感マシマシのヴェルがこちらの様子を窺っていた……ので、思いっきり肩車をすることにした。


 すると、彼女は困惑と羞恥の入り交じった顔で暴れ始めた。何だか、イケないことをしている気分になる。


 「あ、良いな。おねーさん、私にもそれやって」


 「肩はヴェルが居るから、スクルドは腕ね」


 「ん……良い景色。これが高身長の風景、なんだね」


 「ちょ、まっ……!? ゆ、ゆら、揺らさないで……!?」


 「ウルズも……よいしょっと」


 「ありがとう、ございます? わっ、結構高い……」


 子供とはいえ三人分。それを肩と両腕で支えるのは中々にハードだ。私は額に汗を滲ませながら、腕をプルプルと震わせた。


 「大丈夫ですか……? わ、私重かったです?」


 「へい、き……これくらい、全然へっちゃら」


 「ふん……ばっかじゃないの? 無理しちゃってさ」


 「ふふ、これで私も、高身長の仲間入り……!」


 三者三様の反応を示すが、けれど誰も私の腕と肩から降りることは無かった。


 ……結局、それから数分間、私と三姉妹は謎のスキンシップを図ることになるのだった。

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