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拒否すれば死ぬので異世界に来たら、待っていたのは戦力になる駄目神様3人でした  作者: 聖帝エラー
第一章 駄女神も三人よれば文殊の姦しい馬鹿知恵編

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第22話 異世界園長

 北門の衛兵は、俺の左肩にとまる黄金色の小鳥、右隣を歩く8本脚の巨馬、街道の端からこちらを窺うゴブリンたちを順番に見た。三度見してから、ようやく俺の顔へ視線を戻す。


「野菜を受け取りに出たと聞いているが」


「野菜は受け取りました」


 俺は、土まみれになった木箱を僅かに持ち上げた。嘘は一つもついていない。ただ、衛兵の目には、頼まれた荷物より、頼んでいない同行者の方が3倍は大きく映っているらしかった。


「野菜の受け取りで、どうして魔物を連れて帰ってくる?」


「途中でいろいろありまして」


「何があれば、そうなる?」


 順番どおりに説明しても、野菜の受け取りへ出た話と結びつく気がしなかった。買い出しに行って戦利品を連れ帰ってくる時点で、もう買い出しとは呼ばない。


 とりあえず、俺は右隣に立つスレイプニルから説明することにした。


「まず、こちらの馬は知り合いのものです」


 スレイプニルが、不満そうに鼻を鳴らした。


「本人は所有しているつもりですが、馬の方は認めていないようです」


「それは本当に知り合いの馬なのか?」


 俺も疑い始めていた。所有権というのは、書類ではなく脚力で決まるらしい。


 ガルーダはスレイプニルに食われかけていたところを助け、ゴブリンたちは以前命を助けた恩返しについてきたと説明した。


 衛兵は最後まで口を挟まずに聞いてくれたものの、話し終えたときには、最初よりも深い皺が眉間へ刻まれていた。


 恩返しと保護欲だけで、神馬と神鳥と一党のゴブリンが揃うなら、俺はもう慈善事業を営んでいることになる。


「お前が街へ入れば、ゴブリンも入ろうとするのか?」


「おそらく」


 街道の端から並んでいた頭が、一斉に縦へ動いた。言葉は通じていないはずなのに、自分たちに都合のよい質問だけは理解している。


「登録されていない魔物を街へ入れることはできない。従魔として扱うなら、ギルドの確認と登録が必要だ」


「俺は飼うと決めたわけではありません。どうすればいいでしょうか」


「いや、飼えない魔物の処遇をこちらに委ねるなよ」


 俺はゴブリンたちへ向き直った。


「ここから先は街です。皆さんは森へ戻ってください」


 ゴブリンたちは顔を見合わせたあと、揃って俺たちへ背を向けた。街道を森の方角へ進み、少し離れた場所で立ち止まる。


「話は通じたようだな」


 衛兵が安堵したため、俺は街へ入ろうと一歩踏み出した。


 背後から、複数の足音が聞こえる。


 振り返ると、森へ戻るはずだったゴブリンたちも、こちらへ一歩近づいていた。


「戻ってください」


 ゴブリンたちは森へ向き直る。俺が門の内側へもう一歩近づくと、彼らも揃って一歩近づいた。忠誠心と自由意志のどちらが強いか、この距離で試す必要はなかった。


「帰せません」


「そのようだな」


 俺の意思ではなく、ゴブリンたちの足並みによって飼育の可否が決まりつつある。


 スレイプニルを街へ入れる場合も、大型の従魔として届け出る必要があるらしい。


 ガルーダは小鳥ほどの大きさしかないが、神霊力を持つ以上、普通の鳥として持ち込むことはできないという。


 結局、北門からギルドへ連絡を入れてもらい、職員の確認を受けることになった。


 ◇


 北門へ来たのは、ルノアさんとミレイユさんだった。2人は俺の無事を確認したあと、スレイプニル、ガルーダ、ゴブリンたちへ順番に視線を移し、そこで表情の動きを止めた。営業スマイルにも保守点検が必要な瞬間があるらしい。


「野菜を受け取りに行かれたのでは?」


「俺も、そのつもりでした」


 帰るまでが仕事だと考えれば、まだ野菜の配達は終わっていない。


 その途中で同行者が増えただけだ。増え方が神話と魔物の混成集団になった点を除けば、予定から大きく外れてはいなかった。


「詳しい事情はギルドで伺います。ただし、ゴブリンをこのまま市街地へ入れることはできません」


 ルノアさんが衛兵と相談し、俺たちは北門からギルドの裏手にある訓練場まで、監視つきで移動することになった。


 ゴブリンたちには武器を下ろしてもらい、列を崩さず歩くよう伝える。彼らは俺の指示へ素直に従い、街へ入ると、初めて見る建物や人の流れを忙しなく目で追い始めた。


 途中、道を尋ねようとした男性が俺たちへ近づいてきた。ゴブリンたちが一斉に足を止め、俺の前へ並ぶ。


「この人は敵ではありません」


 木の棒と欠けた短剣は下がったものの、男性は道を尋ねず、来た方向へ引き返していった。


 メーガナーダさんから俺を守ったことで、ゴブリンたちの中では、近づいてくる相手へ身構えることが護衛として正しい行動になったらしい。


 街の中で続けられると、俺へ道を尋ねるだけでも命懸けになる。


 スレイプニルは俺の右隣から離れなかった。俺が歩けば8本の脚でついてきて、立ち止まれば腰の報酬袋へ鼻先を寄せる。


 肉を用意するまで、支払い能力のある人間を見失うつもりはないようだった。ガルーダも左肩へとまったまま、反対側を歩くスレイプニルから目を離さない。


 当然ながら、俺たちは通行人の視線を集めた。見慣れない8本脚の巨馬、小鳥ほどの黄金色の鳥、武器を下ろしたゴブリンたち。

 

 その先頭で、土まみれの野菜を抱えて歩く俺。神獣と魔物を従えて凱旋するハンターに見えたかもしれないが、達成した仕事は宿の食材運搬だけだった。


 ギルドの裏手へ到着すると、連絡を受けたフレイアさんとロキが訓練場へ出てきた。フレイアさんはスレイプニルたちを見るより先に俺へ駆け寄り、顔や腕に怪我がないか確かめ始める。


「楓さん。何があったのですか」


「メーガナーダさんと名乗る女神に襲われました。本人とは北門の外で別れています」


 俺の身体を確認していたフレイアさんの手が止まった。


「分かりました」


 フレイアさんが微笑んだまま北門の方角へ向き直り、《勝利の剣》も黙ってそれに続く。宣戦布告の速度が、看病の速度より速い。


「もう戦いは終わっています。俺も怪我をしていませんから」


「楓さんへ攻撃した事実は変わりません」


「その前に、攻撃を防いだ術式について確認させてください。勝手に仕込んでいましたよね」


 フレイアさんは答えず、俺の服についた土を払い始めた。追及する相手をメーガナーダさんから自分へ移され、北門へ向かうことは諦めたらしい。


 矛先はそらせても土は払える、という器用さだけは本物だった。


 ロキは俺の肩にいるガルーダへ目を向けたあと、スレイプニルを見上げた。


「なんで、その食い意地の塊がここにおるん」


「この笛を吹いたら来ました。オティヌスは用途を忘れていましたけど」


 銀色の笛を見せると、ロキはスレイプニルと見比べ、額へ手を当てた。


「それ、スレイプニルを呼ぶ笛や。なんでオティヌスが用途を忘れとんねん」


「持ち主から忘れられていたから、今まで帰らなかったんですかね」


 スレイプニルが同意するように鼻を鳴らす。


「聞こえているぞ」


 訓練場へ、白紙の申請書を抱えたオティヌスが現れた。代筆してくれる職員は見つからなかったらしく、肉1箱の申請書には何も記入されていない。


 最高神の権威は、書類の一文字目にすら及んでいなかった。


「スレイプニル。ようやく戻ったか」


 オティヌスは再会を喜ぶより先に、スレイプニルの口元を確認した。


「何か食べてきたのか」


 スレイプニルは顔を背けた。


「私に隠れて食べたな」


 8本の脚が、僅かに地面を踏み直す。


「主である私へ、獲物を差し出せ」


 スレイプニルの後ろ脚が跳ね上がった。オティヌスの身体が訓練場を横切り、積まれていた藁束へ頭から突き刺さる。


 白紙の申請書だけが空中を舞い、俺の足元へ落ちた。久しぶりの主従の再会は、所有権の確認から始まり、数秒で実力行使へ移った。


「いつも、こうなんですか」


「だいたい合っとる」


 正しいという意味ではない。ロキが細部の説明を放棄するときに使う、いつもの言葉だった。


 スレイプニルは藁束へ埋まった主人を気にせず、俺の腰にある報酬袋へ鼻先を寄せる。


「分かっています。いま用意しますから!」


 ギルド併設の酒場へ事情を伝え、焼いた肉を大皿で出してもらった。皿を地面へ置くと、スレイプニルは肉の匂いを確かめ、ようやく俺から離れた。


 最初の一切れを食べ終えると、約束を守ったことを確認するように鼻先を俺の肩へ押しつける。反対側では、ガルーダが食われまいと翼を広げていた。


 その様子を確認したミレイユさんが、記録板へ何かを書き込む。


「少なくとも、楓さんの指示には従っていますね」


「肉を用意したからです」


「飼育者との信頼関係は、給餌から始まる場合もあります」


「飼育者になるとは言っていません」


 ミレイユさんは記録を止めなかった。


「スレイプニルの所有者はオティヌスです」


 俺が藁束を指すと、ちょうどオティヌスが頭を引き抜いた。


「その通りだ。スレイプニルは私の馬だ」


 スレイプニルの後ろ脚が再び持ち上がり、オティヌスは同じ藁束へ蹴り戻された。


 ミレイユさんが、所有者欄へ書きかけた文字を消す。


「少なくとも、オティヌスさんの管理下にはないようです」


「それだけで判断するんですか」


「同じ結果を確認するため、もう一度近づいていただきますか」


「必要ありません」


 所有権を確認するたび、所有者が藁束へ戻される検査に、追加の精度は求めていなかった。統計は既に十分だ。


 登録には、街での管理責任を負う者が必要になる。3組とも俺の指示にだけ従ったため、責任者欄へ書かれる名前は、確認する前から決まっていた。


「では、3件とも楓さんを管理責任者として仮登録します」


 ルノアさんが、種類ごとに用意された登録書を訓練場脇の作業台へ並べた。


「俺は野菜を受け取りに行っただけですよね」


「……なぜ、それを私に確認するんですか」


 確かにルノアさんの言うとおりだった。


 スレイプニルとガルーダは、ギルドでも正確な種別を判定できず、特殊個体として暫定登録されることになった。   


 神馬や神鳥と説明しても、本人たちがそれを証明する書類を持っているわけではない。ゴブリンたちは個体ごとの特徴を記録され、識別用の札を受け取った。


 札を首から下げられると、全員が互いの胸元を見比べる。やがて姿勢を正し、満足そうに俺の後ろへ整列した。忠誠心の証明が、書類より先に隊列で済んでいる。


「登録後は、管理責任者に飼育、給餌、被害防止の義務が発生します」


「給餌も俺なんですか」


 ルノアさんが、スレイプニルの肉皿へ視線を向けた。ゴブリンたちも酒場から漂う料理の匂いを追い、揃って入口へ顔を向けている。左肩では、弱ったガルーダが空腹を訴えるように嘴を鳴らした。


 返事を聞くまでもなかった。受け取ったばかりの報酬は、装備を買い替える前に、飼育費へ用途を変更されつつあった。


 野菜の買い出しに出て、気づけば動物園の園長になっている。次に依頼を受けるときは、持ち帰るものを増やさない方法から検討する必要がありそうだった。

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