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血の契約は鼻血から ~封印の古龍をうっかり目覚めさせたら美少女になりました~  作者: 渡部安恵
第1章

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第18話 三柱を引き連れてアルカナへ

 翡翠ひすいが顕現し、結愛ゆあの怒声という名の洗礼が過ぎ去った翌朝。

 俺はリビングのソファに深く腰掛け、まだ旅行を楽しんでいる両親に電話を入れた。一応の報告義務というやつだ。


「……あ、父さん? 悪い、また一人増えた。……ああ、神様だ。名前は翡翠」


『……そうか。まあ、いまさら一人増えたところで大した違いはないな。例の「特務管理基金」で賄えるんだろう? それなら衣食には困らん。お世話をするお前が大変じゃないなら、俺は何も言わんよ。仲良くやりなさい』


 電話越しの父さんの返答は、相変わらずどっしりと構えたものだった。部屋が半壊しようが神が増えようが「死んでないならいい」で済ませるこの性格。一家の重石がこの父親で本当に助かった。


『ちょっとあなた、代わって! あらた!』


 受話器の向こうで母さんが割り込んできた。


『聞いたわよ! また新しいお嬢さんが増えたのね! お母さん、もうウキウキしちゃうわ。琥珀こはくちゃんに紅羽くれはさん、次は翡翠ちゃん、さんかしら?……お嫁さん候補が3人もなんて、創ったら本当に情熱的なんだから! 帰ったら盛大にお祝いしましょうね!』


 母さんは既に、翡翠を「三番目の嫁候補」として脳内登録したらしい。息子の現状をすべて恋愛脳でポジティブ変換する母は、ある意味でこの家における最強の存在だった。



 電話を切った俺は、目の前でソファに座る三柱を改めて見回した。

 最大の問題は、彼女たちの「装い」だ。


「……琥珀と紅羽はいい。だが翡翠、お前の似合う物を手に入れないとだな」


 翡翠は今、結愛から借りた服を着ている。

 胸元こそ奇跡的なジャストサイズ(翡翠は「合理的設計」と胸を張るが)だが、モデル体型の結愛よりさらに長身で手足が長い翡翠には、ブラウスの袖もパンツの丈も圧倒的に足りていない。

 下着に至っては、「新品のストックがこれしかないから!」と結愛が顔を真っ赤にして差し出したものを強引に身につけている状態だ。


「主、この『ツンデレ妹』の衣類は、私の骨格に対して寸法が不適合です。歩行時の空気抵抗が計算しきれません」


「わかってる。だから今から買いに行くぞ」


 銀座の老舗テーラーでフルオーダーを考えたが、ゴールデンウィーク中はあいにくの休業。


「……連休明けまで、その似合わない格好はさせたくないな。琥珀と紅羽の時みたいにアルカナモードの佐藤店長を頼るか」


 美意識が似ている佐藤店長なら、翡翠の「機能美」を活かす一着を用意してくれるだろう。俺は『アルカナ・モード』へ行くことに決め電話を入れた。


『はい、アルカナ・モードです……。えっ、あ、あのお客様……!? ひ、四名!? さ、左様でございますか! しょ、承知いたしました! し、至急、店長に伝えます! 皆様、総員戦闘配置だ! 伝説が戻ってくるぞッ!!』


 電話に出た店員の背後で、「なに!?」「カメラの充電は!?」「掃除しろ!」という怒号が聞こえた気がしたが、まあ連休中で忙しいのだろう。



@@@@@



 結局、タクシーの手配は絶望的だった。

 ゴールデンウィーク真っ只中の都内。迎車アプリを叩いても「周辺に空車はありません」の非情なメッセージが並ぶばかりだ。

 琥珀こはく紅羽くれはだけでも街の視線を独占してしまうのに、そこに「知性の極致」たる翡翠ひすいまで加われば、移動そのものがパレードのような騒ぎになるのは目に見えている。


「主。タクシーの配車効率が極めて低下しています。現状、電車を利用するのが最短ルートであると推測されますが?」


「……ああ。翡翠の言う通りだ。覚悟を決めて行くぞ」


 翡翠を借り物の服で放置するわけにもいかない。俺たちは意を決して最寄りの駅へと向かった。


 案の定、駅のホームは騒々しかった。

 いや、前回来た時よりもさらに周囲の空気は異様な熱を帯びている。


 三人の女神が並んで歩けば、そこだけ空間が「浄化」され、空気の密度が変わる。近づけば魂が吸い寄せられそうなほどの美貌に誰もが足を止め、一定の距離を保ったまま遠巻きにスマートフォンを向けていた。


「主。あの発光する構造体……デジタル広告の立体投影、非常に興味深いですね。光の粒子による擬似的な空間再定義――効率的な情報伝達手段です」


 翡翠は、駅構内の巨大な3D広告を、眼鏡の奥の鋭い瞳で熱心に観察していた。初めて見る現代文明の産物に、彼女なりの「理知」が刺激されているらしい。

 一方で、琥珀は広告など目にも入らないといった様子で、俺の腕にぴたりと寄り添っている。


「私は、こうしてマスターの隣にいるのが一番心地よいです」


 琥珀から伝わる体温と、精神を安定させるような清らかな波動。

 周囲の視線に削られそうになる俺にとって、琥珀の密着は心が落ち着く感じがして心地よい。その様子を後ろから見ていた紅羽が、くすくすと愉快そうに笑う。


「あはは、あらた、もう完全に観念してるわね。いいじゃない、三者三様の観察眼。アタシはそんなアンタたちを眺めてるのが一番楽しいわよ」


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