6、帰還[1]
警察と救急車を呼んだ智志は、一躍時の人になってしまった。カメラに囲まれて質問攻めに会い、困ったような顔をしている姿は、テレビのワイドショーで何度も放映された。それを見た昔の同級生や疎遠だった知り合いからもひっきりなしに連絡が来て、智志の身辺は急に慌ただしくなり、閉口していた。
「言い出しっぺはおまえだったのに、何で俺が・・・」
成り行きで警察の長い事情徴収を一手に引き受ける形となった智志に恨めしそうに文句を言われ、恭一は悪かったなあと苦笑いして謝った。正直、智志が間に入ってくれたおかげで、恭一の事情徴収はずいぶん簡単なものだった。
少女は無傷で助かった。男の身元を調べ、十四年前の事件との関連性が浮かび上がり、容疑者死亡のまま捜査は続行されることになった。
弘文と正樹は大した怪我ではなく、恭一は胸をなで下ろした。最後に男を見た三人は、男がはずみで飛び出したというより、必死に止まろうともがきながら国道に飛び込んでいったように見えたという点で意見が一致していた。それが沙織の仕業だということは、恭一には察しがついたが、もちろん他の二人には黙っていた。
伊知恵が何故一人で病院へ行き、地下室などに降りていったのか、恭一以外の三人は首を傾げていたが、伊知恵は何となくそうしたくなったから、と困ったように言うばかりだった。
車の中で昏々と眠っていた香苗は、智志に車で送ってもらい、伊知恵に付き添われて自宅に戻って以来、大学に姿を見せなくなっていた。
少しずつ日常が戻ってきつつある中、恭一は何となく落ち着かない日々を過ごしていた。
ふさぎこんでしまった香苗と裏腹に、伊知恵は以前よりはきはきして活発になったようだった。沙織との約束を果たした充実感がそうさせたのだろうか。それとも・・・。
あの夜の伊知恵のことが、恭一はなぜかずっと気にかかっていた。
「いっちゃん、大丈夫?」
病院の廃屋に戻った恭一は、智志と共にいましめを解かれまだぐっすり薬で眠っている少女を介抱している伊知恵を見て、真っ先に声をかけた。
「私は大丈夫。あの男は?」
伊知恵の問いに、恭一と正樹、弘文は顔を見合わせて口をつぐんだ。
「いったい、誰なんだよ、あいつ。恭一、おまえ何か心当たりがあるのか?」
智志に問いつめられ、恭一が困って口ごもっていると、伊知恵がすかさず言った。
「私が恭ちゃんにメールしたの、智志君が来る前に。地下室に小さな女の子がいて、変な男が一緒にいるって」
もちろんそれは伊知恵がとっさについた嘘だったが、それで何とかつじつまがあった。
「肝試しのはずが、とんだことに巻き込まれちゃったなあ」
正樹がぼそっとつぶやいた。
「そういえば、かなちゃんは?」
智志が思い出して、一同は顔を見合わせた。
「ちょっと、俺見てくるよ」
弘文がきびすを返すと、正樹も黙って後を追った。
自分も後を追おうとする恭一の耳元で、かすかに誰かがささやいたような気がした。
(恭一くん・・・)
恭一はその場に立ちすくんで、周囲を見渡した。すぐそばに人の気配があるような気がする。
だが、ちょうどその時到着した救急隊員と警察官のこちらに向かって走ってくる足音に、その気配はかき消されてしまった。
伊知恵からのメールは毎日のように届いた。付き合いたてのカップルのように他愛もないありきたりの微笑ましいメッセージだった。昼ごはん、一緒に学食で食べよう。今日は何時に部室に行く?バイトは何時から?メールの文面にも、会って話す会話にも、沙織やあの日の出来事は全く上ることはなかった。




