第35弾
題名「七転び八起きのその後」
「ねぇ、琉騎?ひとつ聞きたいことがあるんだけど・・・」
小さな声が耳元にかかる。図書館の静けさが、彼女の声を大きく聞こえさせた。
「なに?」
「なんで、転校してきたの?」
「・・・は?」
自分と関係ないものに一切の興味を持たなかった、高校生時代の彼女が現れた。
「なんで、転校してきたの?」
「・・お・親の事情ってやつです。」
「・・・そっ・・か。」
彼女は聡い。俺がついた嘘を見抜くだろう。まぁ、事実でもあるから許してくれ。
手が止まる。高校時代へ気持ちが動く。
「そういや、お礼言ってねぇや。」
「転勤だそうだ。」
ぽつんと父の口から飛び出た言葉。高校1年の12月、冬休みの約束に頭を下げて、両親に従った。どこかでほっとしている俺がいた。
前よりも偏差値の高い高校。しかし、人間の様子は大差なかった。このままで大丈夫だと思う奴と上には上、を知って嘆く奴がいた。くだらない、そう思った。
3月の試験の結果。2位に自分の名前を見つけて驚いた。そして、少し安心した。争うことができるのだ、と喜んだ。
しかし、その1位さんは、隠れ美人のようで、他人とほとんど話さない姿勢は、氷に埋められた花のよう。教師受けする、生徒達からの嫌われ者だった。
学年が上がって、半年ほどたつとき、彼女への静かないじめが始まった。俺はくだらなくって、見ることもしなかった。いや、あまりにも俺自身の環境が変わっていたからかもしれない。
11月後半に母が倒れた。その2週間後に父方の祖父が亡くなった。祖母がショックで倒れ、父が看病することになった。
母は倒れてから3週間後には、元気になった。だが、祖母の看病のために無理をしているようでもあった。
俺も手伝っていたが、祖父の死亡後、2週間で祖母も後をおってしまった。
遺産相続等で父が兄弟達ともめ始めたころ、父がリストラされ、収入が0に近くなってしまった。俺は高校中退を予告された。
など、挙げればきりがない。
そんな中で俺は一人の人物をずっと支えに仕立てていた。それも無意識の内に。気付いたのは、ゴタゴタが片付いてからだった。気付いた瞬間に、俺は俺を捨てようとした絶望という感情と、未来を求めた望みを知った。
彼女が傷付いていく姿は、少し異常ではあったけれども、耐えられないものだ。
だから、その原因を断ち切った。彼女の笑みは、なによりも嬉しかった。
だが、俺は気付かなかった。そして、階段で倒れた。すべてが終わってしまった気がした。
入院しているとき、見舞いに来た友達が教えてくれた。
「お前のいない教室は、覇気がなくて暗いし、声が少なくって寂しい。」と。
3月。
偶然にも、彼女と同じ大学に受かった。告白を受けてくれたときほど、驚きは少なかったが、それでも、偶然に驚いて笑いあった。
一瞬の回想が終着する。
「なぁ、今週の土日のどっちかで高校に行かないか?」
「なに、突然。」
「いろいろと思い出したから。」
「いいよ。土曜日なら空いてる。」
「サンキュ。」
小声での会話が、図書館の雰囲気に消える。
外から管楽器の音が届いた。




