第34弾
題名「七転び八起き」
階段に彼は倒れた。
4月。校長の長い祝辞を半分聞き流して、入学式を終えた。
クラスごとに別れて、1時間ほどのホームルーム。初日は当たり前に終わる。
小・中と過ごしてくれば、ある程度、人を見る目は養われる。だからといって、私は、クラスの誰とも、付き合う気はさらさらなかった。
5月。
高校生ともなれば、ある程度の自由に浮かれ、友人作りは早い。
女子に限れば、このクラスのグループは5つ。細かくみると、だ。もちろん、私は数に入れていない。
6月。中間試験がある。結果に悩むのは、もう進学か就職を決めてる奴か、初で赤点を取ったバカ。一人一人に渡された、個人順位。一様、騒ぐことはするらしい、誰もが。
7月。期末試験後の夏休みにいくつかのグループが旅行に行くらしい。進学校ならではの、課外が夏休みなどないとばかりに詰まっているに。まぁこの高校、進学校といえど、生徒の自由をモットーにしているから、課外は強制じゃない。
しかし、夏休み明けに試験があるというのに。
12月。だんだんと、クラス内の学力が表面化してきた。
突然、転校生がきた。
6月。廊下に貼り出された順位表。・・・これまでは、1位、だったのに・・・。
あの転校生に1点差で負けた。
8月。課外を休むことは、出来ない。勝たなければならないのだ。だからこそ、人と交わることを避けているのに。
11月。
一瞬の出来事。私の目の前に広がっていたのは、緋。
12月。
私は順位を30位まで落とした。
5月。
「人の手ぇ借りて、1位になったら、愉しくないだろ!見下せるんだぜ?下の奴を。だから、人に順位を降りてもらうってのは、性に合わないな。実力じゃないんだ、自信つかねぇよ。」
図書室の片隅。私の特等席。先に座っていたのは、あの転校生で、第一声の話は、私の真っ白な頭脳空間に入り込む事さえなかった。入っていたのはただひとつ。
「どうして?」
転校生-琉騎-は、私が特等席に来る前に、あの時から、いつも先に座っている。
私が来ると、隣のどこかのテーブルから持ってきた椅子に座り変え、私が自習しているのを、じっと見ているのだった。
「つまらなくないの?」
と、一度だけ聞いてみた。
「一緒に勉強してる。」
と、笑って言った。
つまりは、見ている。のではなくて、覗いている。わけで。だから、時々、私が間違えていると、口をはさんできた。他人が言うなら、私が教わっているのだった。
ある時、学校での自習ノートがなくて、特等席にいかなかったことがある。明日からも、行くことはないだろう。と思っていたら、次の日にはノートがあった。
教室の雰囲気まで変わってしまった。昨日までが氷の中の湯船なら、今日は熱帯のかき入れ時だ。つまり、昨日がのんびりとした冷たさなら、今日は暖かい忙しさとでもいうべきだろう。琉騎が何かしたらしい。特等席で会ったら、得意気に笑っていたから。
6月。
中間試験の結果に、私は目を見張った。私自身の順位ではない。なぜ、75位以下が失格なのか、前の試験の時に3・4位にいた奴さえも失格の欄にあった。
特等席で琉騎に会うと、私の顔に疑問が書かれいたのだろう。
「カンニング、してたんだって。実力で上位に来なくて、何が愉しいんだか。出来ないって素直に言えば、恥をかかなくてすんだのになぁ。俺は出来ない奴の気持ちなんざ、知らないが、上位にいる苦しさってのは知ってるんだよね。」
苦笑なのか、微笑なのか、区別できない笑みを浮かべて言った。
7月。
期末試験の順位表は赤いインクで書かれた点数が、50位以下に並んでいた。300点以下は赤点らしい。
私と琉騎は並んで同じ順位だった。
9月。
5時間目の授業のために、2階から3階へ階段を上がっていた。 1学期末の試験結果で変更されたクラスの雰囲気は1位になった人間に影響されていた。
だからこそ、教室移動の時間は私のものにできた。
「真面目。」
後ろからかけられた言葉に振り向いた。自由をさえぎられたことに少し腹を立てながら。
「そんなに勉強好き?」
「人のこと言えないでしょ?知らない訳じゃないのよ?土日にも学校で勉強してること。」
ふいっと横を向いて、琉騎は頬を膨らませた。そのまま、立ち止まった私の横を通り過ぎる。
「俺は見下せれば、いいの!」
次の瞬間から私には記憶がない、保健室のベッドで目覚めるまで。
4月。
大学に入学した私の隣には彼。見下す人間を増やすために、新たなる挑戦を始める。
今度は二人で。




