9.言わなければ始まらない
日を重ねるほど、嘘は重くなった。高瀬くんは、地味で静かな小野寺凛を好きでいてくれる。
でも、私はそれだけではない。配信では大声で笑う。負ければ机を叩く。可愛い声で決め台詞を言い、ときどきネットスラングを連発し、でじた民と一緒にくだらないことで盛り上がる。
それも、間違いなく私だった。両親は両方を知っているが、活動を理解してはいない。学校の友達は小野寺凛しか知らない。Vtuber仲間はでじた るんしか知らない。
高瀬くんには、両方を知ってほしかった。たとえ、嫌われるとしても。私は仲間たちへ宣言した。
でじた るん[次に二人きりになったら、正体を話します。]
仲間たちから、すぐに返信が来た。
海月しずく[賛成です。]
黒羽ネネ[骨は拾う。]
獄道める[振られたら酒飲もう。]
でじた るん[私、未成年です。]
姫宮みみか[妾が朝まで慰めてやる。胸を張って行ってこい。]
翌日、高瀬くんから家へ誘われた。文化祭の実行委員になった彼を、私は資料作りだけ手伝っていた。共有データがうまく開けず、彼の自宅で作業することになったのだ。好機だった。作業を終えたら、すべて話そう。私は母に「クラスメイトの家へ行く」と伝えた。
「例のVtuber嫌い?」
「そう」
「ちゃんと言いなさいよ。私がそのデビル何とかですって」
「でじた るん」
「そう、それ」
「帰りが遅くなるなら連絡しろ」
父はテレビを見たまま言った。
「分かってる」
ごく平凡な両親に見送られ、私は家を出た。まさか訪問先が、Vtuber界のレジェンドの自宅だとは夢にも思わずに。




