10.王子様の家
高瀬家は、駅から十分ほど歩いた住宅街にあった。玄関を開けた高瀬くんは、家の中へ向かって声をかけた。
「ただいま。クラスの子を連れてきた」
奥から男性の声が返った。
「おかえり。例の好きな子か?」
「父さん!」
私は玄関で固まった。高瀬くんは耳まで赤くしている。
「違う。いや、違わないけど、今言うことじゃないだろ」
違わない。
その一言だけで、頭の中に花火が上がった。少女漫画なら、ここで見開き一ページを使うところだ。だが次の瞬間、リビングへ足を踏み入れた私は、恋の花火をすべて忘れた。
棚一面に、姫宮みみかのグッズが並んでいた。初年度の限定アクリルスタンド。五周年記念プレート。イベント限定ぬいぐるみ。抽選で十名にしか当たらなかった直筆サイン。壁には等身大タペストリー。中央には、私と師匠のコラボアクリルスタンドまで飾られている。
「す、すごい……」
「引くよな」
「これ、初年度の限定品だよ! 現物、初めて見た!」
高瀬くんが怪訝そうに私を見た。
「やけに詳しいね」
「あっ。友達が好きで」
万能だな、架空の友達。
「全部、父さんの。本人が家にいるのに、毎回買うんだ」
「本人?」
高瀬くんは、しまったという顔をした。そのとき、廊下の向こうから聞き覚えのある声が響いた。
『みんな~! 今日もみみかに会いに来てくれて、ありがとにゃん♡』
私の思考が止まった。聞き間違えるはずがない。何度もコラボし、何時間も個人的な相談に乗ってもらった声だ。
「今の……」
高瀬くんは両手で顔を覆った。
「母親」
「お母さん?」
「だから俺はVtuberが嫌いなんだよ!」
壁の向こうでは、師匠が可愛い声でリスナーへ愛を振りまいている。目の前には、師匠を全力で推す父親の祭壇。そして隣には、師匠の息子。
点と点がつながった。温感湿布。三個のアクリルスタンド。観賞用、保存用、予備用。
「高瀬くんのお母さんが……姫宮みみか先生?」
「どうして『先生』を付けるの?」
「あ」
「小野寺さん、さっきから詳しすぎない?」
身バレRTA、最終ステージ突入。




