11.でじた るん、身バレする
「奏多、お茶を――」
リビングへ入ってきた男性が、私を見て立ち止まった。高瀬くんによく似た、穏やかな顔立ちの人だった。手には紙袋を提げている。
「いらっしゃい。奏多の父です」
「小野寺凛です。お邪魔しています」
「ちょうどよかった。さっき予約していたグッズを受け取ってきたんだ」
奏多くんのお父さんは紙袋から箱を三つ取り出した。姫宮みみかと、でじた るんの新作コラボフィギュア。私だった。三人の私が、箱の中で同じ笑顔を浮かべている。
「今回のコラボ相手も、いい配信者なんだ」
高瀬くんのお父さんは言った。
「真面目で、話し方も誠実でね。みみかもかわいがっている」
「そ、そうなんですか」
自分のグッズを三つ並べられながら他人のふりをするのは、想像以上につらい。
「父さん、今は片づけて」
「なぜだ? 小野寺さんも興味があるようだが」
「あるというか……本人というか……」
口が滑った。父親が瞬きをした。高瀬くんがこちらを見た。
「本人?」
もう逃げられない。もともと、今日は打ち明けるために来たのだ。私は深く息を吸った。
「高瀬くん。私、ずっと隠していたことがあります」
廊下の奥で扉が開いた。配信を終えたらしい女性が、ジャージ姿で出てくる。ごく普通の、優しそうな母親だった。もちろん私は、その顔を知らない。
「騒がしいのう……じゃなかった、騒がしいわね。お客様?」
「母さん。クラスの小野寺さん」
「あら。いつも奏多がお世話になっています」
「い、いえ。こちらこそ、みみか先生にはいつも――」
言ってしまった。奏多くんのお母さんの目が細くなった。
「その声……」
「え?」
「まさか、るん殿?」
高瀬くんの父親が、三つのフィギュアと私を見比べた。高瀬くんだけが、理解できずに立ち尽くしている。私は観念した。配信で何千回も繰り返した笑顔を作り、いつもの声で名乗った。
「でじた民のみんな~! 今日も一緒に、るんるんしてる~? 電脳世界からやってきた魔法使い、でじた るんです!」
完璧な挨拶だった。拍手はなかった。沈黙だけがあった。
「……小野寺さんが、でじた るん?」
高瀬くんがようやく言った。
「はい」
「母さんと何度もコラボしてる?」
「はい」
「母さんに恋愛相談してた?」
「はい」
「妾も、相談相手が息子を好きだとは知らなかったのじゃ」
師匠が恐る恐る手を挙げた。
「家で配信声を出すな!」
「奏多、今そこか?」
奏多くんのお父さんが言った。
「そこだよ!」
奏多くんのお父さんは私へ向き直った。
「サインをお願いしても?」
「もちろんです」
「小野寺さんも受けないで!」
情報量が多すぎた。私の正体。師匠の正体。彼との関係。父親の推し活。恋愛相談の相手。全部が一つのリビングで衝突し、誰も交通整理できなかった。




