↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
11/14

11.でじた るん、身バレする

「奏多、お茶を――」


 リビングへ入ってきた男性が、私を見て立ち止まった。高瀬くんによく似た、穏やかな顔立ちの人だった。手には紙袋を提げている。


「いらっしゃい。奏多の父です」


「小野寺凛です。お邪魔しています」


「ちょうどよかった。さっき予約していたグッズを受け取ってきたんだ」

 奏多くんのお父さんは紙袋から箱を三つ取り出した。姫宮みみかと、でじた るんの新作コラボフィギュア。私だった。三人の私が、箱の中で同じ笑顔を浮かべている。


「今回のコラボ相手も、いい配信者なんだ」

 高瀬くんのお父さんは言った。


「真面目で、話し方も誠実でね。みみかもかわいがっている」


「そ、そうなんですか」

 自分のグッズを三つ並べられながら他人のふりをするのは、想像以上につらい。


「父さん、今は片づけて」


「なぜだ? 小野寺さんも興味があるようだが」


「あるというか……本人というか……」

 口が滑った。父親が瞬きをした。高瀬くんがこちらを見た。


「本人?」

 もう逃げられない。もともと、今日は打ち明けるために来たのだ。私は深く息を吸った。


「高瀬くん。私、ずっと隠していたことがあります」


 廊下の奥で扉が開いた。配信を終えたらしい女性が、ジャージ姿で出てくる。ごく普通の、優しそうな母親だった。もちろん私は、その顔を知らない。


「騒がしいのう……じゃなかった、騒がしいわね。お客様?」


「母さん。クラスの小野寺さん」


「あら。いつも奏多がお世話になっています」


「い、いえ。こちらこそ、みみか先生にはいつも――」

 言ってしまった。奏多くんのお母さんの目が細くなった。


「その声……」


「え?」


「まさか、るん殿?」


 高瀬くんの父親が、三つのフィギュアと私を見比べた。高瀬くんだけが、理解できずに立ち尽くしている。私は観念した。配信で何千回も繰り返した笑顔を作り、いつもの声で名乗った。


「でじた民のみんな~! 今日も一緒に、るんるんしてる~? 電脳世界からやってきた魔法使い、でじた るんです!」


 完璧な挨拶だった。拍手はなかった。沈黙だけがあった。


「……小野寺さんが、でじた るん?」

 高瀬くんがようやく言った。


「はい」


「母さんと何度もコラボしてる?」


「はい」


「母さんに恋愛相談してた?」


「はい」


「妾も、相談相手が息子を好きだとは知らなかったのじゃ」

 師匠が恐る恐る手を挙げた。


「家で配信声を出すな!」


「奏多、今そこか?」

 奏多くんのお父さんが言った。


「そこだよ!」


 奏多くんのお父さんは私へ向き直った。

「サインをお願いしても?」


「もちろんです」


「小野寺さんも受けないで!」


 情報量が多すぎた。私の正体。師匠の正体。彼との関係。父親の推し活。恋愛相談の相手。全部が一つのリビングで衝突し、誰も交通整理できなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。