12.嫌いなVtuber
ひとしきり騒いだあと、私たちはリビングのテーブルを囲んだ。師匠――高瀬香織さんは、ジャージ姿のまま頭を抱えている。
「るん殿が高校生じゃったとは……」
「師匠がお母さんだったとは……」
「互いに素性を詮索しないのが礼儀じゃからな」
「それで恋愛相談までしてたの?」
「奏多のこととは知らなかったのじゃ!」
高瀬くんのお父さんは、私のサイン入りフィギュアを大切そうに箱へ戻していた。
「つまり、推しのコラボ相手が息子の好きな人だったわけか」
「父さん、まとめなくていい」
「将来、家族になる可能性もある」
「ちょっ! 話を飛躍させるな!」
私は笑いそうになった。でも、笑ってごまかしてはいけない。高瀬くんへ向き直る。
「黙っていて、ごめんなさい」
彼は何も答えなかった。
「屋上で話そうとしたの。でも、高瀬くんがVtuberは無理だって言うから、怖くなって……興味がないって、嘘をついた」
「うん」
「学校で静かにしている私も、配信で可愛い声を出している私も、どっちも本当の私です」
師匠もお父さんも、口を挟まなかった。
「私は、Vtuberをやめません。師匠との活動も、でじた民のみんなも大切だから。でも、それを隠したまま高瀬くんに好きになってもらうのは、嫌だった」
彼が顔を上げた。私は逃げずに、その目を見る。
「高瀬くんが好きです」
今度こそ、言えた。ネットスラングも、作った声もない。小野寺凛としての、私の言葉だった。長い沈黙のあと、高瀬くんは母親を見た。
「一つ確認していい?」
「はい」
「小野寺さんも、将来、家で『ありがとにゃん♡』とか言う?」
「仕事なので、必要なら」
彼は目を閉じた。何かと戦っている顔だった。
「……でも、小野寺さんが言うなら、たぶん可愛いと思う」
「本当?」
「好きな女子と母親は別だから」
師匠が勢いよく立ち上がった。
「待つのじゃ! 妾だって父さんから見れば好きな女子じゃぞ!」
「息子の俺にその理屈を突きつけるな!」
お父さんは深くうなずいていた。
「母さんは今日もかわいい」
「あなた♡」
「俺の告白中にいちゃつくな!」
高瀬くんは真っ赤になり、私を見た。
「その……俺も、小野寺さんが好きです」
「はい」
「でじた るんのことは、これから知る」
「はい」
「でも、母さんとのコラボは、できれば俺のいないところでやってほしい」
「配信だから、普通は別々の場所でやります」
「そうじゃなくて!」
私は笑った。彼も、諦めたように笑った。
少女漫画なら、ここで二人きりになって手を重ねるのだろう。現実では、師匠が祝杯代わりの麦茶を用意し、お父さんが記念撮影を始めた。ロマンチックな空気は、三十秒も持たなかった。




