2.屋上の私たち
次の日も、その次の日も、私たちは屋上で昼食を取った。
約束はしていない。けれど十二時半になると、どちらからともなく席を立った。教室ではほとんど話さない。彼には彼の友人がいて、私には――親しい子がいないわけではないけれど、昼休みを一緒に過ごすほど固定された相手はいなかった。
屋上では、彼はよく黙っていた。王子様と呼ばれる人は、いつでも話題の中心にいるものだと思っていた。けれど彼は、誰にも話しかけられない時間を好んだ。
「みんな、俺が黙ってると心配するんだ」
ある日、彼は購買の焼きそばパンを持ったまま言った。
「怒ってるのかとか、具合が悪いのかとか。何か面白いことを言わなきゃいけない気がして、疲れる」
「私は、黙っていても気にしません」
「うん。だから楽なんだと思う」
胸の奥が、小さく鳴った。
配信中の私は、一秒の沈黙を恐れている。コメントが止まれば焦り、同時接続数が減れば、自分の何が悪かったのかと考える。それなのに彼は、黙っているのがいいと言った。
「小野寺さん、最近、喉が痛い?」
「えっ」
「声、少しかすれてる」
昨夜は六時間配信だった。最後の一時間、ゲームのラスボスに勝てず、かなり叫んだ。
「ちょっと、家でしゃべりすぎて」
「家で?」
「独り言が多いんです」
苦しい。あまりにも苦しい言い訳だった。だが彼は追及せず、ポケットからのど飴を出した。
「これ、効くよ。母さんがよく使ってる」
差し出された飴を受け取ると、指先がわずかに触れた。
ただそれだけで、配信の大型企画を成功させたときより胸が騒いだ。画面の向こうでは、何万人もの人が「るんちゃん」と呼んでくれる。けれど彼が呼ぶ「小野寺さん」は、まったく別の名前のように聞こえた。
梅雨に入るころには、彼は私の弁当から卵焼きを一つ奪うようになり、私は彼の焼きそばパンを一口もらうようになった。
「間接キスとか、気にしないんだ」
彼が言った瞬間、私はパンを喉に詰まらせた。
「ごっ、ごほんっ!」
「だ、大丈夫?」
「高瀬くんが変なことを言うからです!」
「ごめん。小野寺さん、意外とそういうの気にするんだなって」
「普通は気にします」
「じゃあ、嫌だった?」
彼が少しだけ不安そうに尋ねた。
私は答えられなかった。嫌ではない。むしろ、その逆だった。彼も答えを急かさなかった。ただ、いつもより近い距離で空を見ていた。その横顔を眺めながら、私は思った。
きっと、これは両思いだ。自惚れではないと思う。彼が私を見る目も、私の名前を呼ぶ声も、少しずつ特別なものに変わっている。
だから、決めた。次にきっかけがあれば、すべて話そう。地味な小野寺凛だけでなく、でじた るんとして活動していることも。彼になら、二人の私を知ってほしいと思った。




