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追放されたおっさん、異世界トウキョウで冒険者スローライフを始める  作者: 犬斗
第一部

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9/11

第9話 噂のおっさん

 武器を手に入れた俺は、シモキタの郊外で練習を開始した。

 俺は武芸の経験がない。

 そのため、時代劇や映画で見た二刀流や双剣をイメージした。


「こんな姿、誰にも見せられないよな」


 いい大人が二本の鉄の棒を振り回して、チャンバラごっこをしているように見えるだろう。

 正直めちゃくちゃ恥ずかしい。

 だが、この世界では命に関わるため、真剣に取り組んだ。


 練習は裏切らない。

 小さな積み重ねによって、技術が身についていく。

 雑木林、河原、岩場など天然の練習場で、木を叩き割り、流れる川の水を切り、岩を砕く。

 一週間ほど練習したことで、ようやく使い方が分かってきた。


「剣だと斬ること自体が難しい。俺のような素人が使えば簡単に刃こぼれするだろうし。刃がないスティックが武器でよかったのかもしれんな。はは」


 この黒い鉄のスティックは、刃こぼれの心配がない。

 それに防御にも使える万能な武器だった。


 また、スキルである二回攻撃(ダブルストローク)が常時発動しており、攻撃は常に二回ヒットする。

 さらに、ギフトの積み重ね(オーバーダブ)だ。

 練習して分かったが、これはあまりにも凶悪すぎる。

 叩けば叩くほど威力が積み重なっていく。

 手数が多いスティックとの相性は抜群だ。


 昨日より今日、今日より明日と、スティックを振れば振るほど強くなる。

 昨日割れなかった大岩が、今日は簡単に割れてしまう。


 だが、懸念点もある。

 今はまだ俺の身体は耐えられるが、いつか威力に耐えられなくなるだろう。

 手首や肘の負担が大きく、このまま考えなしにスティックを振れば、腱鞘炎やテニス肘を発症しそうだった。

 魔法で治療ができるとはいえ、慢性的な怪我に効くのか未知数だ。


「身体を鍛えなきゃな。筋肉をつけて威力や衝撃を吸収するんだ」


 俺はさらに一週間、スティックコントロールの練習と筋トレを行った。


「スキルが分かってきたぞ。二回攻撃(ダブルストローク)は敵に与えるダメージが二倍。しかし、自分の身体に与える影響も二倍になる。つまり、筋力を二倍使うから成長速度は二倍。その反面、疲労や身体にかかる負担も二倍になる。さすがにこれほどの極悪スキルとなれば、ノーリスクとはいかないな」


 とはいえ、スティックを振るスピードも耐久力も、かなり上がったと思う。


 俺はクエストへ行くことにした。

 Dランクモンスターであれば、ソロでも討伐は可能だという。


 ***


 俺は初めて討伐クエストを受注した。


 対象モンスターは、農作物を荒らしまくるDランクモンスターの渦角鹿(ケルポス)だ。

 草食モンスターとはいえ気性が荒く、人の姿を見かけようがお構いなしに畑を荒らす。

 そのため、渦角鹿(ケルポス)の角によって、命を落とす人も多いという。


 俺はさっそく現地へ向かい、渦角鹿(ケルポス)と対峙。

 動きの速さに翻弄されたが、数回の攻撃で危険な角をへし折った。

 そして、首筋に当たったスティックにより、渦角鹿(ケルポス)を無事に討伐することができた。

 討伐報酬は素材代も含めて二万エンだ。


 不格好な討伐だったが、一人で討伐クエストを完了させたことは自信に繋がる。


「一人でもできるもんだな」


 さらにもう一件、Dランクの討伐クエストを受注。

 これもなんとか無事に完了。

 恐ろしいことに、スティックの威力は確実に上がっていた。


「ヴィニーさん、凄いですね。ギルドでも話題になっていますよ」


 ギルドに戻ると、受付嬢のエリサが声をかけてきた。

 両手に書類の束を抱えている。


「Dランクモンスターはソロでも討伐できるレベルだし、凄くはないさ。はは」

「そんなことないですよ! ソロで討伐クエストへ行くこと自体が凄いんですよ!? 一度もソロ経験なく引退する人もいるくらいですから!」


 クエストボードに書類を貼り付けるエリサ。

 作業の手は止めずに、俺と会話している。


「ヴィニーさんは、バンドに加入しないんですよね?」

「そうだな。今はまだ様子を見ている段階かな」

「でも、ソロでは限界がありますよ?」

「それなんだよなあ……」


 エリサが手を止め、一枚の書類を俺に向かって掲げた。


「この書類はメンバー募集です」

「え? メンバー募集?」


 エリサが持つ書類を読むと、確かにバンドメンバー募集と記載がある。


「募集や加入希望をこうやって貼り出すんです。これでメンバーが決まることも多いんですよ。有名なバンドになると、オーディションの告知もあります」

「メンバー募集の張り紙か……。懐かしいな」


 前世でのメンバー募集はネットが主流になったが、俺がバンドを始めた頃は音楽雑誌への投稿、ライブハウスやスタジオへの張り紙が主流だった。


「ヴィニーさんの実力なら、サポート希望を出せば殺到すると思いますよ」


 サポートなら、正式メンバーにならなくともクエストに参加できる。

 しかも応募が多ければ、こちらがクエストの内容を選ぶことが可能だ。


「じゃあ、俺も書いてみるかな」

「専用書類があるから、これが終わったらお渡ししますね」


 俺はエリサに向かって手を差し出した。


「その書類を半分貰おうか」

「え? ど、どうしてですか?」

「張り出しを手伝うよ。早く終わらせて書類を書こうぜ」

「あ……。は、はい!」


 笑みを浮かべるエリサ。

 その頬が僅かに紅潮していた。


 ◇◇◇

 

 シモキタザワ冒険者ギルド。

 ロビーは常に冒険者で賑わっている。


 その一席で、クエストを終えた四人組のバンドが食事をしていた。


「なあ、最近話題のおっさんを知ってるか?」

「おっさん?」

「デビュークエストで、いきなり森大蜘蛛(マガーロ)を倒してDランクになったおっさんだよ」

「噂は聞いたけどマジなのかよ? そんなことできるか?」

「マジだよ。しかも四匹の森大蜘蛛(マガーロ)を倒したんだぜ」

「そのおっさん、今はソロで討伐を受注しているらしい」

「ソロだって!?」

「ああ、いくらDランクとはいえ、ソロで討伐へ行く奴は珍しい。近年はバンドでの行動が当たり前だからな」


 他のテーブルでもヴィニーの噂をしているバンドがいた。


「おい、例のおっさんがサポートを出してるぞ」

「マジか!」

「どうする? 次のクエストは編成を厚くしたかっただろ。頼むか?」

「そうだな。依頼してみようぜ」


 さらに別のテーブルでも話題になっていた。


「あのおっさん、そろそろCランクに上がるって噂だぞ」

「おいおい、デビューしてまだ一か月も経ってないだろ?」

「ああ、全国のギルドでも最短記録って話だ」

「おっさんなのにすげーな」


 噂が噂を呼び、ロビーはヴィニーの話題で持ち切りだった。


 当の本人は全く知らず、いつものように牛丼をかき込んでいた。

 もちろん、ツユダクで。


 ◇◇◇

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