第9話 噂のおっさん
武器を手に入れた俺は、シモキタの郊外で練習を開始した。
俺は武芸の経験がない。
そのため、時代劇や映画で見た二刀流や双剣をイメージした。
「こんな姿、誰にも見せられないよな」
いい大人が二本の鉄の棒を振り回して、チャンバラごっこをしているように見えるだろう。
正直めちゃくちゃ恥ずかしい。
だが、この世界では命に関わるため、真剣に取り組んだ。
練習は裏切らない。
小さな積み重ねによって、技術が身についていく。
雑木林、河原、岩場など天然の練習場で、木を叩き割り、流れる川の水を切り、岩を砕く。
一週間ほど練習したことで、ようやく使い方が分かってきた。
「剣だと斬ること自体が難しい。俺のような素人が使えば簡単に刃こぼれするだろうし。刃がないスティックが武器でよかったのかもしれんな。はは」
この黒い鉄のスティックは、刃こぼれの心配がない。
それに防御にも使える万能な武器だった。
また、スキルである二回攻撃が常時発動しており、攻撃は常に二回ヒットする。
さらに、ギフトの積み重ねだ。
練習して分かったが、これはあまりにも凶悪すぎる。
叩けば叩くほど威力が積み重なっていく。
手数が多いスティックとの相性は抜群だ。
昨日より今日、今日より明日と、スティックを振れば振るほど強くなる。
昨日割れなかった大岩が、今日は簡単に割れてしまう。
だが、懸念点もある。
今はまだ俺の身体は耐えられるが、いつか威力に耐えられなくなるだろう。
手首や肘の負担が大きく、このまま考えなしにスティックを振れば、腱鞘炎やテニス肘を発症しそうだった。
魔法で治療ができるとはいえ、慢性的な怪我に効くのか未知数だ。
「身体を鍛えなきゃな。筋肉をつけて威力や衝撃を吸収するんだ」
俺はさらに一週間、スティックコントロールの練習と筋トレを行った。
「スキルが分かってきたぞ。二回攻撃は敵に与えるダメージが二倍。しかし、自分の身体に与える影響も二倍になる。つまり、筋力を二倍使うから成長速度は二倍。その反面、疲労や身体にかかる負担も二倍になる。さすがにこれほどの極悪スキルとなれば、ノーリスクとはいかないな」
とはいえ、スティックを振るスピードも耐久力も、かなり上がったと思う。
俺はクエストへ行くことにした。
Dランクモンスターであれば、ソロでも討伐は可能だという。
***
俺は初めて討伐クエストを受注した。
対象モンスターは、農作物を荒らしまくるDランクモンスターの渦角鹿だ。
草食モンスターとはいえ気性が荒く、人の姿を見かけようがお構いなしに畑を荒らす。
そのため、渦角鹿の角によって、命を落とす人も多いという。
俺はさっそく現地へ向かい、渦角鹿と対峙。
動きの速さに翻弄されたが、数回の攻撃で危険な角をへし折った。
そして、首筋に当たったスティックにより、渦角鹿を無事に討伐することができた。
討伐報酬は素材代も含めて二万エンだ。
不格好な討伐だったが、一人で討伐クエストを完了させたことは自信に繋がる。
「一人でもできるもんだな」
さらにもう一件、Dランクの討伐クエストを受注。
これもなんとか無事に完了。
恐ろしいことに、スティックの威力は確実に上がっていた。
「ヴィニーさん、凄いですね。ギルドでも話題になっていますよ」
ギルドに戻ると、受付嬢のエリサが声をかけてきた。
両手に書類の束を抱えている。
「Dランクモンスターはソロでも討伐できるレベルだし、凄くはないさ。はは」
「そんなことないですよ! ソロで討伐クエストへ行くこと自体が凄いんですよ!? 一度もソロ経験なく引退する人もいるくらいですから!」
クエストボードに書類を貼り付けるエリサ。
作業の手は止めずに、俺と会話している。
「ヴィニーさんは、バンドに加入しないんですよね?」
「そうだな。今はまだ様子を見ている段階かな」
「でも、ソロでは限界がありますよ?」
「それなんだよなあ……」
エリサが手を止め、一枚の書類を俺に向かって掲げた。
「この書類はメンバー募集です」
「え? メンバー募集?」
エリサが持つ書類を読むと、確かにバンドメンバー募集と記載がある。
「募集や加入希望をこうやって貼り出すんです。これでメンバーが決まることも多いんですよ。有名なバンドになると、オーディションの告知もあります」
「メンバー募集の張り紙か……。懐かしいな」
前世でのメンバー募集はネットが主流になったが、俺がバンドを始めた頃は音楽雑誌への投稿、ライブハウスやスタジオへの張り紙が主流だった。
「ヴィニーさんの実力なら、サポート希望を出せば殺到すると思いますよ」
サポートなら、正式メンバーにならなくともクエストに参加できる。
しかも応募が多ければ、こちらがクエストの内容を選ぶことが可能だ。
「じゃあ、俺も書いてみるかな」
「専用書類があるから、これが終わったらお渡ししますね」
俺はエリサに向かって手を差し出した。
「その書類を半分貰おうか」
「え? ど、どうしてですか?」
「張り出しを手伝うよ。早く終わらせて書類を書こうぜ」
「あ……。は、はい!」
笑みを浮かべるエリサ。
その頬が僅かに紅潮していた。
◇◇◇
シモキタザワ冒険者ギルド。
ロビーは常に冒険者で賑わっている。
その一席で、クエストを終えた四人組のバンドが食事をしていた。
「なあ、最近話題のおっさんを知ってるか?」
「おっさん?」
「デビュークエストで、いきなり森大蜘蛛を倒してDランクになったおっさんだよ」
「噂は聞いたけどマジなのかよ? そんなことできるか?」
「マジだよ。しかも四匹の森大蜘蛛を倒したんだぜ」
「そのおっさん、今はソロで討伐を受注しているらしい」
「ソロだって!?」
「ああ、いくらDランクとはいえ、ソロで討伐へ行く奴は珍しい。近年はバンドでの行動が当たり前だからな」
他のテーブルでもヴィニーの噂をしているバンドがいた。
「おい、例のおっさんがサポートを出してるぞ」
「マジか!」
「どうする? 次のクエストは編成を厚くしたかっただろ。頼むか?」
「そうだな。依頼してみようぜ」
さらに別のテーブルでも話題になっていた。
「あのおっさん、そろそろCランクに上がるって噂だぞ」
「おいおい、デビューしてまだ一か月も経ってないだろ?」
「ああ、全国のギルドでも最短記録って話だ」
「おっさんなのにすげーな」
噂が噂を呼び、ロビーはヴィニーの話題で持ち切りだった。
当の本人は全く知らず、いつものように牛丼をかき込んでいた。
もちろん、ツユダクで。
◇◇◇




