第10話 音ゲーのように
俺はしばらくの間、冒険者バンドのサポートで、単発のクエストに参加することにした。
サポート参加希望の告知を出したところ、驚くことに二十件以上の連絡が来たそうだ。
受付嬢のエリサが応募をまとめてくれていた。
今回選んだクエストは『教会の除霊』というもの。
今日はギルドのロビーで、バンドメンバーたちと顔合わせを兼ねた打ち合わせだ。
「Dランク冒険者のヴィニーです。よろしくお願いします」
俺は深く頭を下げた。
久々に緊張している。
「ヴィニーさん、お噂はかねがね伺ってます。こちらこそ、よろしくお願いしますね」
四人の冒険者と握手を交わした。
参加するバンド名は『光の残響』。
Dランクの四人組で、男二人、女二人の編成だ。
男二人が前衛で、女二人が後衛パートだという。
俺は当然前衛として参加する。
前世では、たまにドラムのサポート依頼があった。
いつもと違う環境での演奏は緊張したものだ。
思い返すと、俺はサポートの現場で何度か失敗した経験がある。
若い頃は自分をよく見せようとして、自分のことしか考えないエゴの塊のような演奏をしてしまったものだ。
今思うと本当に最低だったと思う。
当時のことを考えると、今でも死ぬほど恥ずかしい。
まあ死んじまったが。
歳を重ね音楽が理解できてくると、楽曲のことだけを考えるようになった。
自分のくだらないエゴなんて全部捨てて、ただひたすら楽曲に身を捧げ、演奏に集中した。
いい格好をしようとすると必ず失敗する。
俺はサポートとして、泥臭くても与えられた役割を全うするつもりだ。
***
翌日、俺たちは教会へ向かった。
この教会の地下には強力な魔法陣があり、周辺の悪霊を集める役割があるそうだ。
シモキタのような賑やかな街は、音につられて悪霊も集まりやすいという。
魔法陣で捉えた悪霊は、司祭が少しずつ除霊をしているが、心身の負担が大きいとのこと。
また、度々魔法陣の許容量を超えてしまい、教会内にまで悪霊が溜まってしまうそうだ。
そのため、除霊ができる冒険者に依頼し、定期的に完全除霊をしている。
悪霊自体はDランク冒険者でも対処できるため、危険度はそれほど高くない。
だが、悪霊の数がとにかく多く、なかなかの重労働だと聞いた。
俺は前世で霊なんて一切信じていなかったが、この世界では普通に存在する。
そもそも、神様にも会ったし転生もしているんだから、信じないわけにはいかない。
俺自身、この世界の霊的な現象を知りたいと思っていたので、このクエストはちょうどいいタイミングだった。
今後のためにも、霊的な存在やモンスターと、どう戦えばいいのか知っておきたい。
「ヴィニーさん、入りますよ」
「ああ、分かった」
リーダーが教会の大きな二枚扉に手をかけた。
すると、霊感なんて持ち合わせていない俺ですら悪寒を感じ、背中に冷たい汗が流れ出す。
耳元では気持ち悪いうめき声や、不気味な囁きが聞こえ始めた。
「こ、これが悪霊!」
人間ともモンスターとも判別がつかない半透明の悪霊たちが、無数に天井を舞っている。
「こ、今年は特に多いぞ! 気をつけろ!」
リーダーの男が叫びながら剣を抜くと、悪霊たちが一斉に襲いかかってきた。
「武器に除霊を付与します!」
このバンドの女子は二人とも魔法使いだが、一人は神官の資格を持っているそうだ。
彼女の魔法で、リーダーの武器に除霊の効果が付与された。
「ヴィニーさんも付与します!」
俺のスティックが青白く光り始めた。
付与魔法が発動したのだろう。
「ありがとう!」
俺の役割はとにかく手数を出すことだ。
練習した通りに、しっかりと腰を入れてスティックを振る。
これは演奏ではない。
戦いだ。
スティックを一回振ると、目の前で閃光が二回発生する。
それはまるでカメラのフラッシュのようだ。
「ブボオォォオオォォォォ!」
不気味な声を上げながら、悪霊が消滅していく。
「これが除霊か! なかなかおもしれーな!」
二つの閃光はスキル二回攻撃が発動している証拠だ。
俺は次々と霊を消していく。
叩くと光るなんて、昔やった音ゲーのようだ。
命がけのクエストだというのに、面白いと思ってしまった。
◇◇◇
「……噂には聞いていたけど、ヴィニーさんの武器って珍しいのね」
魔法使いの女が、神官の女に声をかけた。
これまでなら、除霊中に話しかける余裕なんてなかったのだが、今回に限っては除霊の速さが尋常ではない。
後衛にいる女子二人は、あっけにとられながらも前衛三人の除霊を眺めていた。
「ええ、それにしても凄いわね。リーダーが一体除霊する間に、ヴィニーさんは十体除霊しているわ。信じられない」
「本当ね。竜巻に吸い込まれていくように悪霊が消えていく。除霊はそんなに簡単じゃないのに……」
「しかも、なんだか楽しそうなのよね……」
二人の会話は当然ながらヴィニーに聞こえていない。
ヴィニーはただひたすら圧倒的な手数で除霊していった。
◇◇◇
「ふう、片付いたかな」
俺は周囲を見渡す。
教会内に充満していた悪霊は全て消えていた。
除霊完了だ。
「疲れたぜ。三十分のライブ一本分は振ったけど、疲労は数倍どころじゃない……」
楽しかったとはいえ、最後のほうは呼吸が荒くなり、息が切れかかっていた。
あと少し長引いたら危なかったかもしれない。
「持久力もつけなきゃいかんぞ」
しかし、手首や肘の負担はあまり大きくなかった。
二回攻撃は発動していたが、俺の体感的にギフトの積み重ねはなかったような気がする。
どうやら、霊的な存在には効果がないようだ。
まあよく考えたら、霊的な存在にダメージの蓄積もおかしいか。
恐らく積み重ねは、物理的存在のみ加算されていくのだろう。
「ヴィニーさんのおかげで、こんなに早く終わりました! ありがとうございます!」
リーダーが頭を下げてきた。
「い、いや、俺は別に何も……。みんなで除霊したんだ」
「ご謙遜を。本当に驚きました」
リーダーの言葉に、残りの三人が大きく頷いている。
「ヴィニーさん。これからギルドに戻りますが、せっかくなので打ち上げしませんか? 費用は我々が出しますので」
「え? い、いいのかい?」
「もちろんです! 打ち上げの一杯のためにクエストをやっているようなものですからね。あはは」
前世ではライブの打ち上げなんて、ほぼなくなっていた。
余程大きなライブじゃない限り、ライブが終わると精算して、お客さんと少し話したら各々勝手に帰宅だ。
「懐かしいな……」
俺は打ち上げが好きだったが、最後のメンバーたちは若かったし、時代に合わせて我慢していた。
「さあ、帰りましょう!」
俺たちは教会で手続きを終え、ギルドに帰還した。
***
「ヴィニーさん、我々のバンドに参加しませんか⁉︎ ヴィニーさんがいれば絶対にメジャーへ行けます!」
乾杯のあと、酒の匂いが混じった息を吐きながら、リーダーが迫ってきた。
俺は酒をやめているので、麦茶を飲んでいる。
「メジャーか……」
メジャーとはBランク以上のカテゴリーを指す。
メジャーに昇格すると、クエストの幅が一気に広がるという。
様々な制限が解除され、ほぼ全てのダンジョンや遺跡の調査が可能だ。
さらには、全国各地の冒険者ギルドをツアーで回ることができるようになる。
そうなれば名が知れ渡り、スポンサーがついたり、大きな仕事が舞い込む。
「誘ってもらえるのは嬉しいが、今はバンドに加入する気がないんだ。申し訳ない……」
「い、いえ! では、またサポートをお願いしてもよろしいですか?」
「それは大歓迎だよ」
前世でバンドをクビになったことは、もうそこまで気にしていない。
ただ、俺はバンドに人生を捧げてきた。
この世界で冒険者としてバンドに加入するのであれば、軽い気持ちで入るわけにはいかない。
それこそ命をかけるつもりだ。
この世界に来てまだ一か月も経っていない。
しっかりと将来を見据えて、活動しようと思う。
「ヴィニーさんはお酒を飲まれないんですか?」
「ああ、ちょっと酒で失敗してね。やめたんだ。はは」
失敗どころではない。
酒で死んだんだ。
俺はもう二度と酒を飲むことはないだろう。
「それにこの世界の麦茶は美味いからね。ははは」
「この世界? シモキタ出身じゃないんですか?」
「そ、そうなんだよ。ちょっと遠いところでね。ははは」
笑ってごまかすしかない。
久しぶりの打ち上げはとても楽しく、夜遅くまで続いた。




