第11話 自主企画
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シモキタザワ冒険者ギルド。
トウキョウでも屈指の所属冒険者数を誇るギルド支部だ。
広いロビーにはいくつものテーブルが並ぶ。
そこは多くの冒険者たちが打ち合わせをしたり、雑談を楽しむ共同のスペースだ。
食事も可能で、酒を飲む冒険者の姿もちらほら見える。
ヴィニーに言わせると、ショッピングモールの巨大フードコートだそうだ。
そのテーブルで、冒険者が互いの武器を見せ合いながら、武器談義に花を咲かせていた。
「お前の剣もそろそろ替え時か?」
「そうなんだよ。ガハルト工房で剣を作りたいんだ」
「あそこの品質は最高だが、さすがに高いよな」
「そういや、二本の棒で戦うおっさんいるじゃん」
「なんだ突然? 最近よく聞く奴だろ。知ってるよ」
「あの棒って、ガハルトが作ったらしいぜ? スティックと呼ぶらしい」
「マジか。じゃあ、ガハルトに特注したってことだろ? 値段ヤバそうだな」
「それがただの棒だから、すげー安いんだってよ」
「安いのかよ! じゃあ俺もスティックに乗り換えようかな」
「やめとけ。試しに真似して買った奴がいるらしいが、あまりにも攻撃力がなくて大怪我したそうだ」
「まあ、ただの棒だもんな……」
「あのおっさん、棒なんかでよく戦えるよな」
別のテーブルでも、冒険者たちがおっさんの話をしていた。
「例のおっさんの話題ばかりだな」
「あのおじさん、そんなに凄いの?」
「最近はサポートの依頼が止まらないらしい。冒険者としての経験は浅いから新人レベルだが、とにかく強いんだってよ。何よりおっさんがサポートに来ると、バンドの人間関係が良くなるそうだ。アドバイスが的確なんだってさ」
「へえ、不思議ね。おじさんだから人生経験豊富なのかしら」
「そうかもな。だから、今は色んなバンドが狙ってるらしい。本人はサポートしかやらないみたいだけどな」
「じゃあ、うちも頼んでみる?」
ロビーはヴィニーの噂で持ちきりだ。
そして、そこにはCランク冒険者のシャルロットとラズリートの姿もあった。
二人は冒険者デュオの『酒と白百合』を結成している。
「ヴィニーさんの噂が凄いわね」
「ちっ、あのおっさんめ」
「なんだか嬉しいなあ」
「あんなおっさんのどこがいいんだよ」
「素敵じゃない。落ち着いてるし」
「あ、あんなのが好きなのかよ!」
「別に好きなんて言ってないでしょう? 素敵と言ってるだけよ。年齢が違うもの。私のような小娘が、相手にされるわけないでしょう?」
「はあ!? シャルロットが相手にされないだと! そんなわけないだろ! あのおっさんはシャルロットが好きに違いない!」
「本当? じゃあ、告白してみようかな」
「ふざけんな! ダメに決まってるだろ!」
「どっちなのよ……」
ラズリートとしては、たくさんの人にシャルロットの魅力を知ってもらいたい。
知れば誰もがシャルロットのことを好きになると思っている。
こんな美少女は他にいないのだから。
バンド名の白百合は、当然ながらシャルロットのことだ。
だが、誰かのものになるのは嫌だった。
シャルロットとしても、ヴィニーに恋愛感情を抱いているわけではない。
ただ、常に落ち着いた雰囲気と、物腰の柔らかさには憧れを抱いている。
普段からうるさく、瞬間湯沸かし器のような感情の起伏が激しいラズリートと一緒にいるからだろう。
「ほら、そろそろ来る頃よ。ちゃんとしないと怒られるわよ?」
「ちっ、分かったよ」
シャルロットの予想通り、二人が座るテーブルに男が近づいてきた。
「やあ、二人とも元気だったか?」
「おはようございます、テオドールさん」
「シャルロットは今日も綺麗だね。はは」
テオドールと呼ばれた男は、眩しいほどの笑顔を浮かべている。
逆立った黒髪と、左耳の三連ピアスが特徴的だ。
腰にはロングソードを吊るしており、ひと目で剣士と分かる。
「今日はよろしく」
『酒と白百合』の二人と握手を交わすテオドール。
テオドールの隣には、もう一人男が立っていた。
「ディータさん、お久しぶりです」
「ああ」
シャルロットの挨拶に、無愛想な態度を取るディータ。
右手にロッドを持つディータは、明らかに魔法使いだ。
二人の男がテーブルにつく。
テオドールがシャルロットを見つめ、軽くお辞儀をした。
「今回の自主企画を受けてくれてありがとう」
「とんでもないです。私たちもそろそろこのダンジョンに遠征しようと思っていたので、助かりました」
冒険者ギルドは、ギルドがブッキングする通常クエストとは別に、冒険者たちが自らクエストを立ち上げることも可能だ。
自主企画と呼ばれるこのクエストは、インディーズカテゴリーになって初めて企画できる。
「今回の費用は折半。目的の素材以外は売却する。その売り上げも折半だけどいいかい?」
「はい。構いません」
自主企画は、ギルドによるクエスト報酬がない。
そのため、冒険者たちは発掘した素材などで収益を上げる。
何の成果も得られず赤字になることもあるが、発掘内容によっては大きな収益を上げることが可能だ。
独自に行動ができるため、収益を求めずに、自らの夢のために自主企画を立ち上げる者もいる。
考古学者で冒険者のサファーシアがそうだ。
サファーシアは自主企画のために、インディーズへ上がったようなものだった。
テオドールが一枚の地図をテーブルに広げる。
迷路のような地図だ。
「今回はダンジョンの地下十階層、北部を探索する」
「はい。問題ありません」
「俺たちは化石が目的だが、君たちは?」
「私たちは鉱石です。ラズリートは武器の素材となる良質な鉱石を探します」
「そうか。十階層では黒隕鉄の発見報告があるからな。ラズ、期待できるぞ」
「よかったね。ラズリート」
シャルロットがラズリートに視線を向ける。
だが、社交性が皆無のラズリートは、自分の武器をいじりながらじっと見つめていた。
「ラズリート、あなたの希望なのよ?」
「わ、分かってるよ……」
力なく、ぼそっと呟くラズリート。
ラズリートの正面に座るディータも、自分のロッドを見つめていた。
テオドールは呆れた表情で、相棒の肩に手を置く。
「おいおい、ディータ。おまえも会話に参加しろよ」
「ああ」
シャルロットとテオドールが同時にため息をついた。
お互いメンバーには苦労しているようだ。
テオドールがコーヒーを口にする。
「そうだ。今回はサポートを依頼してるんだ」
「え? サポートですか?」
「ああ、勝手に決めて悪いとは思ったが、人気の冒険者でね。先に声をかけないと、スケジュールが埋まってしまうと思ったんだ」
「そ、そうですか」
不安にかられたシャルロット。
ただでさえ社交性皆無のラズリートは、これ以上人が増えるとやる気を無くす恐れがある。
「そろそろ来るはずだが」
胸のポケットから懐中時計を取り出し、時間を確認するテオドール。
「あ、来た来た! こちらです!」
テオドールが手を振ると、一人の男性冒険者が近づく。
シャルロットは驚き、ラズリートは思わず椅子から立ち上がった。
「あー! おっさん!」
「シャルロット! ラズリート!」
「なんだよ! サポートっておっさんだったのかよ!」
「え? なに? 『酒百合』も参加するの?」
「うちの名前を略すんじゃねーよ! 『酒と白百合』って言え!」
先ほどまで口を開かなかったラズリートが、突然饒舌になった。
大声を出しながらも、表情は笑みを浮かべている。
姿を見せたのはヴィニーだった。
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