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追放されたおっさん、異世界トウキョウで冒険者スローライフを始める  作者: 犬斗
第一部

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第11話 自主企画

 ◇◇◇


 シモキタザワ冒険者ギルド。

 トウキョウでも屈指の所属冒険者数を誇るギルド支部だ。


 広いロビーにはいくつものテーブルが並ぶ。

 そこは多くの冒険者たちが打ち合わせをしたり、雑談を楽しむ共同のスペースだ。

 食事も可能で、酒を飲む冒険者の姿もちらほら見える。

 ヴィニーに言わせると、ショッピングモールの巨大フードコートだそうだ。


 そのテーブルで、冒険者が互いの武器を見せ合いながら、武器談義に花を咲かせていた。


「お前の剣もそろそろ替え時か?」

「そうなんだよ。ガハルト工房で剣を作りたいんだ」

「あそこの品質は最高だが、さすがに高いよな」

「そういや、二本の棒で戦うおっさんいるじゃん」

「なんだ突然? 最近よく聞く奴だろ。知ってるよ」

「あの棒って、ガハルトが作ったらしいぜ? スティックと呼ぶらしい」

「マジか。じゃあ、ガハルトに特注したってことだろ? 値段ヤバそうだな」

「それがただの棒だから、すげー安いんだってよ」

「安いのかよ! じゃあ俺もスティックに乗り換えようかな」

「やめとけ。試しに真似して買った奴がいるらしいが、あまりにも攻撃力がなくて大怪我したそうだ」

「まあ、ただの棒だもんな……」

「あのおっさん、棒なんかでよく戦えるよな」


 別のテーブルでも、冒険者たちがおっさんの話をしていた。


「例のおっさんの話題ばかりだな」

「あのおじさん、そんなに凄いの?」

「最近はサポートの依頼が止まらないらしい。冒険者としての経験は浅いから新人レベルだが、とにかく強いんだってよ。何よりおっさんがサポートに来ると、バンドの人間関係が良くなるそうだ。アドバイスが的確なんだってさ」

「へえ、不思議ね。おじさんだから人生経験豊富なのかしら」

「そうかもな。だから、今は色んなバンドが狙ってるらしい。本人はサポートしかやらないみたいだけどな」

「じゃあ、うちも頼んでみる?」


 ロビーはヴィニーの噂で持ちきりだ。

 そして、そこにはCランク冒険者のシャルロットとラズリートの姿もあった。

 二人は冒険者デュオの『酒と白百合』を結成している。


「ヴィニーさんの噂が凄いわね」

「ちっ、あのおっさんめ」

「なんだか嬉しいなあ」

「あんなおっさんのどこがいいんだよ」

「素敵じゃない。落ち着いてるし」

「あ、あんなのが好きなのかよ!」

「別に好きなんて言ってないでしょう? 素敵と言ってるだけよ。年齢が違うもの。私のような小娘が、相手にされるわけないでしょう?」

「はあ!? シャルロットが相手にされないだと! そんなわけないだろ! あのおっさんはシャルロットが好きに違いない!」

「本当? じゃあ、告白してみようかな」

「ふざけんな! ダメに決まってるだろ!」

「どっちなのよ……」


 ラズリートとしては、たくさんの人にシャルロットの魅力を知ってもらいたい。

 知れば誰もがシャルロットのことを好きになると思っている。

 こんな美少女は他にいないのだから。

 バンド名の白百合は、当然ながらシャルロットのことだ。

 だが、誰かのものになるのは嫌だった。


 シャルロットとしても、ヴィニーに恋愛感情を抱いているわけではない。

 ただ、常に落ち着いた雰囲気と、物腰の柔らかさには憧れを抱いている。

 普段からうるさく、瞬間湯沸かし器のような感情の起伏が激しいラズリートと一緒にいるからだろう。


「ほら、そろそろ来る頃よ。ちゃんとしないと怒られるわよ?」

「ちっ、分かったよ」


 シャルロットの予想通り、二人が座るテーブルに男が近づいてきた。


「やあ、二人とも元気だったか?」

「おはようございます、テオドールさん」

「シャルロットは今日も綺麗だね。はは」


 テオドールと呼ばれた男は、眩しいほどの笑顔を浮かべている。

 逆立った黒髪と、左耳の三連ピアスが特徴的だ。

 腰にはロングソードを吊るしており、ひと目で剣士と分かる。


「今日はよろしく」


『酒と白百合』の二人と握手を交わすテオドール。

 テオドールの隣には、もう一人男が立っていた。


「ディータさん、お久しぶりです」

「ああ」


 シャルロットの挨拶に、無愛想な態度を取るディータ。

 右手にロッドを持つディータは、明らかに魔法使いだ。


 二人の男がテーブルにつく。

 テオドールがシャルロットを見つめ、軽くお辞儀をした。


「今回の自主企画(インディークエスト)を受けてくれてありがとう」

「とんでもないです。私たちもそろそろこのダンジョンに遠征しようと思っていたので、助かりました」


 冒険者ギルドは、ギルドがブッキングする通常クエストとは別に、冒険者たちが自らクエストを立ち上げることも可能だ。

 自主企画(インディークエスト)と呼ばれるこのクエストは、インディーズカテゴリーになって初めて企画できる。


「今回の費用は折半。目的の素材以外は売却する。その売り上げも折半だけどいいかい?」

「はい。構いません」


 自主企画(インディークエスト)は、ギルドによるクエスト報酬がない。

 そのため、冒険者たちは発掘した素材などで収益を上げる。

 何の成果も得られず赤字になることもあるが、発掘内容によっては大きな収益を上げることが可能だ。

 

 独自に行動ができるため、収益を求めずに、自らの夢のために自主企画(インディークエスト)を立ち上げる者もいる。

 考古学者で冒険者のサファーシアがそうだ。

 サファーシアは自主企画(インディークエスト)のために、インディーズへ上がったようなものだった。


 テオドールが一枚の地図をテーブルに広げる。

 迷路のような地図だ。


「今回はダンジョンの地下十階層、北部を探索する」

「はい。問題ありません」

「俺たちは化石が目的だが、君たちは?」

「私たちは鉱石です。ラズリートは武器の素材となる良質な鉱石を探します」

「そうか。十階層では黒隕鉄の発見報告があるからな。ラズ、期待できるぞ」

「よかったね。ラズリート」


 シャルロットがラズリートに視線を向ける。

 だが、社交性が皆無のラズリートは、自分の武器をいじりながらじっと見つめていた。


「ラズリート、あなたの希望なのよ?」

「わ、分かってるよ……」


 力なく、ぼそっと呟くラズリート。


 ラズリートの正面に座るディータも、自分のロッドを見つめていた。

 テオドールは呆れた表情で、相棒の肩に手を置く。


「おいおい、ディータ。おまえも会話に参加しろよ」

「ああ」


 シャルロットとテオドールが同時にため息をついた。

 お互いメンバーには苦労しているようだ。


 テオドールがコーヒーを口にする。


「そうだ。今回はサポートを依頼してるんだ」

「え? サポートですか?」

「ああ、勝手に決めて悪いとは思ったが、人気の冒険者でね。先に声をかけないと、スケジュールが埋まってしまうと思ったんだ」

「そ、そうですか」


 不安にかられたシャルロット。

 ただでさえ社交性皆無のラズリートは、これ以上人が増えるとやる気を無くす恐れがある。


「そろそろ来るはずだが」


 胸のポケットから懐中時計を取り出し、時間を確認するテオドール。


「あ、来た来た! こちらです!」


 テオドールが手を振ると、一人の男性冒険者が近づく。

 シャルロットは驚き、ラズリートは思わず椅子から立ち上がった。


「あー! おっさん!」

「シャルロット! ラズリート!」

「なんだよ! サポートっておっさんだったのかよ!」

「え? なに? 『酒百合』も参加するの?」

「うちの名前を略すんじゃねーよ! 『酒と白百合』って言え!」


 先ほどまで口を開かなかったラズリートが、突然饒舌になった。

 大声を出しながらも、表情は笑みを浮かべている。


 姿を見せたのはヴィニーだった。


 ◇◇◇

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