第12話 初の遠征
クエストのサポート依頼をもらった俺は、打ち合わせのために冒険者ギルドに顔を出した。
それがまさかシャルロットたちだとは思わなかった。
世間は狭いものだ。
挨拶を交わして着席すると、テオドールが驚いた表情を浮かべていた。
「『酒と白百合』は、ヴィニーさんの知り合いでしたか」
「ま、まあね。シャルロットには以前怪我を治療してもらったし、ラズリートには鍛冶師を紹介してもらったんだ」
俺にサポートの依頼をしてくれたのは『暁の連星』のテオドール。
デュオで連星なんて、なかなか洒落ている。
テオドールがテーブルを見渡した。
どうやら、この自主企画はテオドール仕切りのようだ。
「それでは改めまして、今回の自主企画はシンジュクダンジョン探索です」
そう、俺はシンジュクダンジョンと聞いて、このサポート依頼を受けることにした。
まさかこちらの世界にも、前世と同じあの複雑怪奇な『新宿ダンジョン』があるとは……。
もちろん前世はただの駅なのだが、上京したての頃は必ず迷っていた。
いや、上京して二十年経っても、油断すれば迷っていたほどだ。
「ヴィニーさんは、シンジュクダンジョンをご存知ですか?」
「な、名前だけね。ははは」
サポート依頼を受けてから、俺はギルドの図書室で調べた。
こちらのシンジュクダンジョンは、発見されてから百年経つにもかかわらず、まだ全てが解明されていないそうだ。
実は数十年前まで、シンジュクダンジョンの探索に規制はなかったという。
だが、ろくな装備も持たずに侵入する者が後を絶たず、ついに冒険者カードの所有者のみに限定された。
それでも、あまりにも広く深いダンジョンは毎年死者を出す。
「現在は、カテゴリーによって探索範囲が決められています。我々インディーズは、地下二十階層まで侵入が許可されています」
そう言いながら、テオドールが地図を指差した。
「今回は十階層の北部を目指します。期間は移動含めて最長で二週間です。出発は明後日の早朝。費用は各バンド二十万エン。合計四十万エンです」
「はい。こちらが私たちの分の費用です」
シャルロットが封筒を取り出した。
金が入っているのだろう。
ラズリートが物欲しそうな目で追っている。
きっと武器を買いたいと思っているはずだ。
なお、サポートの俺は費用を出す必要がない上に、あらかじめ決められたギャラを受け取ることになっている。
一通りの打ち合わせが終わり、解散となった。
***
「まさかメンバーが君たちだとは思わなかったよ。はは」
俺は『酒と白百合』の二人と、ギルド近くのカフェに来た。
二人とも今日はもう予定がないという。
「こちらも驚きました。ヴィニーさんがサポートだなんて」
俺とシャルロットはコーヒーを、ラズリートはワインを飲んでいる。
まだ昼間だというのに。
一昔前のダメなバンドマンのようだ。
「ところで、『暁の連星』のテオドール君はその……、信用できるのかい?」
「え? それはどうしてですか?」
「大金を渡しただろう。あまりこういうことは言いたくないが、持ち逃げの可能性もある。金は人を狂わせるからな」
バンドをやっていると金のトラブルは特に多かった。
ギャラの取り分で揉めることもあったし、グッズの売り上げを持ち逃げされたなんて話も聞くほどだ。
「もし持ち逃げしたら、あの野郎ぶっ殺すから大丈夫」
ラズリートが物騒なことを言い出した。
「そういうこと言わないの。お兄さんでしょ?」
「え? お、お兄さん?」
「はい、そうです。テオドールさんはラズリートの実兄です」
「な、なんだって!」
思わず声を上げてしまった。
ラズリートには兄がいたのか。
まあでも、そう言われると確かに顔が似ていた。
それに、ラズリートは妹属性だ。
それにしても、テオドールは社交性があり愛想もいい。
「うーむ、お兄さんとは正反対だな」
「う、うっせーな! ぶっ殺すぞ!」
「すまんすまん。お詫びにワインをもう一杯飲んでいいから。ほら、機嫌直してくれよ。はは」
俺は五百エンをラズリートに手渡した。
「え? ほんと! ラッキー!」
ラズリートがカウンターに走った。
「ヴィニーさん。ラズリートの扱いが上手くなってますね……」
苦笑いを浮かべるシャルロットだった。
「今回のお話は、テオドールさんがラズリートを心配して企画したんです」
「なるほどね。いいお兄さんだな」
「はい。妹思いの優しいお兄さんです」
「ん? そういえば、ラズリートはどこに住んでいるんだ? テオドール君もシモキタ所属の冒険者なんだろ?」
「元々は兄妹で住んでいましたが、昨年からラズリートは一人で暮らしています」
「もしかして、ここが地元ではないのか?」
「二人は西トウキョウ生まれです」
「そうだったのか」
あまり個人情報を聞くのも悪いからこの辺にしておくが、この世界でいう西トウキョウは相当遠いだろう。
シモキタで冒険者活動をするなら、引っ越すのは当然か。
「家か。そういえば、俺も家を探さなきゃな……」
「そうでしたね。まだ宿住まいですよね?」
「ああ、そろそろシモキタに来てひと月経つし、家を探さなきゃな」
家のことをすっかり忘れていた。
「シンジュクから戻ったら、部屋を借りるよ」
「一緒にお部屋探しをお手伝いしますね」
「いいのかい?」
「はい。お付き合いします。うふふ」
その瞬間、気配を感じたのでテーブル脇に視線を向けると、ワイングラス片手に呆然と立ちすくむラズリートの姿があった。
「つ、付き合うだと……」
「ち、違う違う!」
「なんだよ! やっぱり付き合うのかよ!」
ラズリートがワインを一気に飲み干す。
瞳は涙で潤んでいた。
それとは対照的に、シャルロットは呆れ返っている。
「そんなわけないでしょう」
「シャルロット! こんなおっさんのどこがいいんだよ!」
「あのねえ……」
その後、しばらくの間、ラズリートに説明するのが大変だった。
どこをどうやったら勘違いするのだろうか。




