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追放されたおっさん、異世界トウキョウで冒険者スローライフを始める  作者: 犬斗
第一部

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13/16

第13話 シンジュクダンジョン

 遠征日当日を迎えた。


 早朝からシモキタの馬車駅に集合し、俺たちはシンジュク行きの馬車に乗り込んだ。

 シンジュクまでの料金は七千エンで、乗車時間は約十時間。

 到着は夕方だ。

 正直料金は高いが、距離が異常だから仕方がない。

 トウキョウの広さを実感する。


 馬車は整備された専用の馬車道を進む。

 まるで前世の鉄道のようだ。

 この専用街道が無数に張り巡らされており、トウキョウの物流を支えているらしい。


「トウキョウとは思えんな。はは」


 俺は車窓から景色を眺めていた。

 小高い丘や森を抜け、川沿いを走り、橋を越え、いくつもの村や町に入る。

 その都度、シャルロットが説明してくれた。


 シャルロット以外のメンバーは寝ている。

 みんなにとっては見慣れた景色なのだろう。


「シャルロットは寝ないのかい?」

「あ、あの……、私はヴィニーさんとお話しているほうが楽しいから。ご迷惑でしたか?」

「そ、そんなことないよ! ははは」


 こんな美少女に話しかけられて迷惑なわけがない。

 それに、この世界のことを知ることができる。

 色々と勉強になった。


「徐々に賑やかになってきたな」


 馬車道沿いに建物が増えてきた。

 すれ違う馬車の数が増え、隊商も多く見かける。


「あと一時間くらいで到着します」

「この辺はもうシンジュクなのか?」

「はい。トウキョウでも有数の大都市ですから、シンジュクは広いです」

「そういえば、冒険者ギルドの総本部もあるんだっけ?」

「そうです。シモキタの数倍はある大きな施設です」


 シモキタの冒険者ギルドだって巨大だ。

 それの数倍なんて、どんな規模なのだろうか。

 落ち着いたらいつか見に行ってみよう。


 ***


 夕焼けが始まると同時に、シンジュクの馬車駅に到着した。

 俺たちはそのままシンジュクダンジョンへ移動。


 ダンジョンというくらいだから、もっと郊外にあるのかと思いきや、駅の真横が入口だった。


「こ、こんな繁華街が入口なのか?」

「繁華街に入口があるのではなく、ダンジョンを中心に都市が発展したのですよ。つまり、ここがシンジュクの中心なんです」


 テオドールが説明してくれた。


「しかし、危険じゃないのか?」

「浅層は問題ないです。地下一階は誰もが入れます。商店街があって栄えてますよ。本当に危険なのは地下六階層からです」


 イメージしていたダンジョンの入口ではない。

 石造りの重厚な門で、幅三十メートルはある整備された階段だ。

 階段を下りると、地下一階は驚くほど繁栄していた。


「地下一階はそれほど広くないです。ですが、下層へ行くほど横に広がっていきます」


 地下二階層へ行くには、冒険者カードが必要になる。

 そのため、地下二階の入口にはゲートがあり、厳重に警備されていた。

 ちなみに、この警備の担当は冒険者ギルドだそうだ。


 地下二階層に入ると雰囲気は一変。

 鎧を纏った冒険者たちが歩いている。


「今日はこのまま地下五階層へ行きます」


 地下五階層は冒険者用の宿屋街だという。


「なあ、シャルロット。地下へ行くのに、魔法で移動とかできないのかい?」

「魔法で? 転移魔法のことですか? 人を移動させる魔法はまだないですね。そういう実験も行われていますが、リスクが高いそうです。ディータさんが詳しいですよ」


 シャルロットがディータに視線を向けた。

 そういえば、ディータは挨拶した時も声を発していない。

 青髪で無表情なため、少し怖い感じがする。


 ローブを纏っているディータは、まさに魔法使いという印象だ。


「転移魔法は研究が進んでいる。だが、今の技術では、転移の際に情報が破損してしまう。人間だと、転移後に腕が一本なくなるとか、首が消えるというレベルだ。危険すぎて実用できない」

「そ、そうなんだ。ありがとう、ディータ君」


 ディータと初めて会話した。

 無口かと思っていたら、魔法に関しては饒舌だ。

 しかも若干早口だった。


 なんというか魔法オタクなのかもしれない。

 こういう性格の相手は、聞けば案外喜んで答えてくれるものだ。

 無口で見た目は怖いのに、ギターのことを聞くと朝まで喋り倒すブルースマンみたいに。


 魔法に関することで分からないことがあれば、ディータに聞いてみよう。

 というか、聞いてみたいことがある。


「ディータ君。さっき、人の転送はまだ無理って言ってたけど、物はどうなんだ?」

「食料はダメだな。これも情報が破損して味が変わる。食えたもんじゃないし、毒に変化することもある。音声は問題ない。それと薄い紙も大丈夫だ」


 前世で言うところの電話とファックスレベルだ。


「魔法が届く距離はどうなんだい?」

「距離は魔法使いの能力に比例する。俺やシャルロットなら、地下二十階層でも地上に届く。逆に言うと、伝達魔法が届く範囲しか探索は無理ということだ。遭難したが最後……だな」

「なるほど。よく分かったよ、ありがとう」


 このメンバーなら、万が一遭難しても救難信号を出せるということだ。

 安心した。


 ◇◇◇


 ヴィニーとディータの会話を眺めるラズリート。


「なあ、兄貴。あのディータがめっちゃ喋ってるぞ」

「そうだな。俺も驚いてるよ。嬉しそうだしな」

「嬉しそう? どこが?」

「笑ってるじゃないか」

「どこが?」


 ラズリートはディータの顔を真剣に見つめるが、どこをどう見ても笑っているようには見えなかった。


「ヴィニーさんって不思議な人だな。ラズも懐いているし、人を惹きつける魅力があるのかな」

「な、懐いてねーよ! バカ兄貴が!」

「痛っ! スネを蹴るんじゃない」


 ラズリートが頬を赤らめながら、早足で階段を降りていった。


 ◇◇◇


 俺たちは地下五階層に到着した。

 ここまでの階段は整備されており、ダンジョンとは思えないほど歩きやすかった。


 階段の正面は広い通りで店が立ち並ぶ。

 宿屋の呼び込みが出ているほど賑わっていた。


「なあ、シャルロット。シンジュクダンジョンにモンスターは出ないのか?」

「地下一階は出ません。二階は中心地から離れると出ます。ですので、冒険者しか入れないのです」

「そうか。五階はどうなんだ?」

「宿屋街を離れると出ます。気をつけてくださいね」

「ああ、分かったよ」


 宿はすでにテオドールが予約していた。

 夕飯と朝食付きだという。


 部屋割りはバンドごとに分かれており、俺だけ個室だった。

 申し訳ない気もするが、俺と相部屋になれば、それはそれで気を使うだろう。


 夕飯は食堂で全員揃って取ることになった。

 俺以外はみんな酒を注文。

 明日からの探索を前に乾杯した。

 俺は麦茶を飲みながら、窓の外を眺める。

 ずっと不思議に思っていたことがあった。


「ディータ君。この明るさは魔法なのかい?」

「そうだ。魔力を注ぐと光を放つ鉱石がある。それに魔力を注ぐクエストもあるのだ」

「へえ、そうなのか」

「駆け出しの魔法使いたちは、それで金を稼ぎながら魔力の出力を覚える。俺もやったものだ」

「明かりは一晩中ついているのか?」

「夜九時に非常灯以外は消える。朝五時にまたつくぞ」


 ディータが詳しく説明してくれた。

 その様子を見ていたテオドールとラズリートが驚いた表情を浮かべていたが、何だったのだろう。


「はは。では明日は朝六時にロビー集合だ。みんな、今日は早く寝るように。特にラズ、もう酒は飲むなよ」

「うっ、あと一杯くらいいいだろ」

「ダメだ。シャルロット、頼んだよ」


 不満げな表情を浮かべたラズリートを、シャルロットがなだめながら部屋へ向かった。


 明日の早朝から、本格的な探索が始まる。

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