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追放されたおっさん、異世界トウキョウで冒険者スローライフを始める  作者: 犬斗
第一部

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14/16

第14話 不穏な音

 早朝、俺たちは宿のロビーに集合した。


 六階層へ下る階段へ向かい、ゲートで冒険者カードを提示。

 ここでインディーズ以上の確認を行う。


「おはようございます。下の様子はどうですか?」

「昨日のインディーズは、十二階層と十五階層で討伐報告があったぞ。メジャーは言わずもがなだ。モンスターの活動が相当激しいようだ」


 テオドールの質問に、係員が答えてくれた。

 六階層以下へ潜ると、夜七時までに報告義務がある。

 それを元に、冒険者ギルドのシンジュク支部では、ダンジョン情報がリアルタイムで公開されるという。

 その情報は、娯楽や賭けの対象にもなっているそうだ。


「今はどれくらいのバンドが潜ってますか?」

「インディーズが約三百、メジャーは五十だな。いつもより少ないぞ」

「じゃあ、中で他のバンドに遭遇することはないですね」

「場所によるな。お前たちの目標は?」

「十階層北部です」

「そうか。その場所なら遭遇はないぞ。今は、ほとんどのバンドが十階層より下にいるからな」

「分かりました。ありがとうございます」

「ああ、気をつけて行けよ」


 俺たちはゲートを抜けて、六階層へ進んだ。

 ここからは、フロアの様々な場所に人工的な階段や、自然にできた下層に繋がる通路が点在しているという。

 まさに迷宮だ。


 今回の俺たちは十階層の北部を目指すため、各フロアを北へ進みながら下層へ下りていく。


 六階層からは洞窟内に照明がない。

 一切の光が届かない完全な闇だ。


 各自、魔力で光る懐中電灯のようなライトを持っている。

 さらに、額にも魔力式のヘッドライトを装着。

 光はいくらあっても多いことはない。


「ヤバいな。もうどこにいるのか分からん……」


 こうも真っ暗だと、方向感覚を失ってしまう。


「これがシンジュクダンジョンです」

「五階層までは楽勝だと思っていたよ。はは」

「六階層からが本番です。うふふ」


 シャルロットがライトで地図を照らしながら、常に現在地を書き込んでいる。

 ディータも自分の地図に記入していた。

 現在位置の記録は二人体制だ。


 隊列はテオドールとラズリートが先頭で、シャルロットとディータが中列、俺は最後尾を歩く。


 フロアは平坦ではなく起伏に富んでおり、場所によっては岩場を越えたり、身長ほどの段差を飛び降りる。

 なかなかハードだ。

 それでも八階層までは順調だった。


「ここで休憩だ。昼食にしよう」


 広場のような空間に差しかかったところで、テオドールの指示で休憩となった。

 荷物を下ろし、各自保存食を取り出す。


「ん?」


 突然、ラズリートが動きを止めた。


「どうした? ラズ」

「兄貴、気配だ。モンスターかもしれない」

「分かった。全員準備しろ」


 二人が剣を抜いた。

 俺もバッグからスティックを取り出す。

 かすかに聞こえる物音が、洞窟に反響しながら近づいてくるのが分かった。


「足音か……。かなりの低音、四足歩行、歩幅は大きいな。相当大きなモンスターじゃないか?」


 自慢じゃないが、俺は耳がいい。

 一応元ミュージシャンとして音には敏感だ。

 さらに、暗闇の中にいたことで、聴力が研ぎ澄まされている。

 演奏中に目をつぶると集中できるのと同じだ。


「ヴィニーさんの言う通りならヤバいな。ラズ、最悪撤退準備を」

「撤退? ……まさか?」

黒夜竜(ヴァルラス)かもしれない」


 テオドールとラズリートが話している。


黒夜竜(ヴァルラス)って?」


 俺はシャルロットに話しかけた。

 ライトで照らされたシャルロットの額から、脂汗が滲んでいる。


「Bランクモンスターです。メジャーモンスターなので、我々では対処できません」

「何だって!」

「こんな浅層にいていいモンスターではありません」


 俺たちインディーズは、Bランク以上のモンスターの討伐は禁止されている。

 理由は単純で、危険だからだ。

 とはいえ、緊急時はそれに該当しない。


「しかし、撤退って言っても近づいてきてるぞ?」


 足音が徐々に大きくなっている。

 もう全員が感じ取っているだろう。

 

 テオドールがディータに視線を向けた。


「やむを得ないな。ディータ、ひとまず通信を」

「もうしている。返事は『許可』だ」

「分かった。全員準備しろ」


 ラズリートたちが戦闘準備を開始した。


「ヴィニーさん。状況を説明します。ギルドは我々に黒夜竜(ヴァルラス)の討伐許可を出しました。ですが、あくまでも緊急の許可です。本来は格上のモンスター。勝てる可能性は低いです。撃退が理想だと思ってください」

「分かった。でも撃退じゃ、一時的に危険が去るだけだろ? となると、この自主企画(インディークエスト)は中止になるのかい?」

「そうですね。このフロアはアラートが出されて、メジャー冒険者が討伐のために派遣されます」

「せっかくここまで来て中止はしんどいな」

「仕方ありません。またの機会にチャレンジします」


 言葉は冷静だが、テオドールの声には悔しさが滲んでいた。


「兄貴、この広場で迎え撃つぞ」

「ああ、広さはちょうどいい。ラズ、無理するなよ」

「兄貴もな」


 二人が剣を構え、ライトを消した。

 一度この広場を暗闇にする作戦だ。

 俺もライトを消す。


「全員、合図したら目をつぶれ。強烈な閃光を出して目潰しする。その後、部屋を照らす」


 ディータの声が暗闇に響いた。

 足音と振動で、黒夜竜(ヴァルラス)がすぐそこまで来ていることが分かる。


「ふうう」


 俺は緊張で、自分の心臓の音がはっきりと聞こえていた。

 生唾を飲み込む音までクリアだ。


「目をつぶれ! 閃光(ストロボ)!」


 ディータが叫ぶと、目を閉じても光を感じるほど強い閃光が発せられた。


「グギャオォォオオォォォォ!」


 黒夜竜(ヴァルラス)の悲鳴のような咆哮が、空気を激しく揺さぶる。


「ぐっ!」


 耳を塞ぎたいほどの音圧だった。


「目は開けていいのか!」

「いいぞ!」


 目を開けると、天井に放たれた光の球体が部屋全体を照らしていた。


 正面にいるのは、十メートル近くある四足歩行のモンスター。

 まるで図鑑で見た恐竜だ。


 閃光で目を焼かれたのか、苦しそうに首を大きく振り回している。


「行くぞ、ラズ!」

「おう!」


 兄妹が突っ込む。

 俺も怯んではいられない。

 両手でスティックを握り、黒夜竜(ヴァルラス)に突進した。

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