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追放されたおっさん、異世界トウキョウで冒険者スローライフを始める  作者: 犬斗
第一部

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15/16

第15話 臨時ボーナス

 テオドールとラズリートが、同時に黒夜竜(ヴァルラス)の頭部へ剣を振り下ろした。

 さすがは兄妹、動きが揃っている。

 近づくと邪魔をしそうだ。


「死ねぇぇぇぇ!」


 ラズリートの叫びとともに、黒夜竜(ヴァルラス)の頭部に二本の剣がヒット。

 同時に大きな火花が散った。

 耳をつんざく甲高い金属音が広間へ反響していく。


 致命傷を与えたかと思われたが、黒夜竜(ヴァルラス)は無傷だった。

 それよりも、閃光で目を焼かれたダメージが大きいようだ。

 黒夜竜(ヴァルラス)は今も首を大きく振っている。


「かってー!」

「ラズ! どうにか怯ませるんだ!」

「どうやんだよ兄貴! こんなの剣が折れちまうよ!」


 黒夜竜(ヴァルラス)は闇に生きるモンスターのため、動きは速くないという。

 しかも、閃光で一時的に目を焼かれている。

 俺でも近づけるはずだ。


「俺がやる!」


 俺は黒夜竜(ヴァルラス)の側面に回り、右前足にスティックを振り下ろした。

 瞬時に八回叩き込む。

 十六分音符を四分音符で二拍分だ。

 それに加え、二回攻撃(ダブルストローク)が発動しているため、二本のスティックで手応えは十六回という凶悪さだ。


「まだだ!」

「グギャオォォ!」


 さらに連続してスティックを振ると、黒夜竜(ヴァルラス)が悲鳴を上げて右前足から崩れ落ちた。

 黒夜竜(ヴァルラス)が倒れた勢いのまま、足をバタつかせている。

 鋭い鉤爪を持つため、当たると危険だ。


「ラズ! 離れろ!」


 テオドールとラズリートが即座に離れた。


 俺はチャンスとばかりに頭部へ回り込み、額に向かってスティックを振り下ろす。

 今度は倍の四拍分だ。

 十六分音符で連打すれば、俺なら一呼吸で叩き込める。


「グギャオォォ!」


 短い咆哮を上げる黒夜竜(ヴァルラス)

 倒れながらも頭部を大きく振り回している。


「くっ、腕が」


 積み重ね(オーバーダブ)も確実に発動していた。

 その証拠に、攻撃の反動は大きく、腕に痺れと痛みが残っている。


「グゴォボォォ……」


 黒夜竜(ヴァルラス)が嘔吐するかのように、口から泡を吹き出している。

 とどめを刺せるかもしれない。


「これで! 終わりだああ!」


 俺は歯を食いしばりスティックを連打した。

 無数の打撃音が鳴り響く。


「グゴォォ……」


 黒夜竜(ヴァルラス)の巨大な頭が、地響きを立てて地面に崩れ落ちた。

 ピクリとも動かない黒夜竜(ヴァルラス)


「テオドール君! ラズリート! 大丈夫か!」


 俺はすぐに二人に視線を向けた。


黒夜竜(ヴァルラス)を……倒したのか?」

「う、嘘だろ、おっさん……」


 二人は唖然とした表情で、立ちすくんでいる。

 地下空間に静寂が訪れた。


「確認する」


 ディータが呟きながら、ゆっくりと黒夜竜(ヴァルラス)へ近づく。

 静寂の中に、ディータの足音だけが響いていた。


 黒夜竜(ヴァルラス)の死骸を入念にチェックするディータ。


「完全に死んでいる。討伐完了だ。報告する」


 冷静な声で、ディータが魔法通信を開始。


「ヴィニーさん! お怪我はありませんか!」


 シャルロットが走って近づいてきた。

 

「ああ、大丈夫さ。だけど、ちょっと腕に負担がかかったな」

「診せてください」


 俺の腕を触診するシャルロット。

 手つきが慣れているように感じる。


「シャルロットは医療の知識もあるのかい?」

「はい。私は医師でもあります」

「なんだって?」

「ラズリートが無茶をするから、医療の勉強をして、そのまま医師の資格も取りました」


 そういえば、シャルロットと知り合ったきっかけは俺の治療だ。

 治癒魔法を使えるだけじゃなく、そもそも医師だったとは驚いた。


「ヴィニーさんの仰る通り、手首と肘に負担がかかってますね。ひとまず治癒魔法で痛みを取ります。炎症ですので冷やしましょう。今日一日は安静にしてくださいね」

「俺がやろう」


 ディータが俺の腕に手をかざした。


「つ、つめてー!」

「冷却魔法だ。我慢しろ」

「ディータ君は、氷魔法が得意なのかい?」

「そうだ。髪の色も青いだろう? 使用する魔法で髪に影響が出るんだ」


 性格まで氷魔法の影響かと思ったが、それは黙っておこう。

 余計なことを言ったばかりに、メンバー間でケンカに発展することもある。


「なあ、兄貴。どうすんだよ……」

「し、信じられん。Dランク冒険者が、Bランクモンスターを倒したなんて記録はないぞ」

「このおっさん。こんなくたびれた感じなのに、めっちゃ強いんだな」


 こういう一言を余計という。

 まあでも、ラズリートの言うことは正しい。

 俺の見た目はくたびれたおっさんだし、気にしない。


「ギルドには報告済みだ。回収班が二十四時間以内に来る。凍結させておく」


 ディータが金属製のロッドをかざし、黒夜竜(ヴァルラス)の死骸を凍らせた。

 これほどの巨体を瞬間的に凍らせるなんて、能力が高すぎるだろう。


「瞬間冷凍なんて凄いな……」

「死んだ状態なら凍らせるのは簡単だ。生きていると細胞が活発に動くから凍らせることは難しい」


 俺の呟きに対し、早口で説明してくれた。

 ディータらしい。


「ポイントを打っておきますね」


 シャルロットが木製の杖をかざすと、黒夜竜(ヴァルラス)の背中の一部が光を帯びた。


「これで場所が特定できます。回収班はこのポイントを目指して、ここへ来ます」


 発信機のようなものか。

 便利かと思ったが、前世でも機械で同じようなことはできている。

 機械って、案外魔法と同じなんだと感心した。


「さて、テオドール君。これからどうするんだ?」

「そうですね……。ギルドには報告しているので、黒夜竜(ヴァルラス)の件は問題ありません。みんなのコンディションが大丈夫なら、このまま探索を続けます」

「俺は問題ないよ。今日一日はもう腕が使えないけどね。はは」


 他のみんなも頷いていた。

 探索続行の意思表示だ。


「分かりました。では、探索は続けます。ヴィニーさんは無理しないようにお願いしますね」

「ああ、ありがとう」


 俺たちは準備を整え、その場を出発した。


 ***


 俺の腕の影響で、隊列が変更された。

 先頭はテオドールとラズリート、中列が俺とシャルロット、最後尾がディータだ。


 俺は隣を歩くシャルロットを見つめた。


「なあ、シャルロット。黒夜竜(ヴァルラス)の死骸はどうなるんだ?」

「ギルドの素材回収班がピックアップします。買取査定されますので、地上へ戻ったら報酬が支払われますよ」

「そうか。それじゃあ、自主企画(インディークエスト)の売上になるってことだろ? 良かったよ」

「いや、あのですね……」


 シャルロットが困惑の表情を浮かべると、先頭を歩くテオドールが振り返った。


「ヴィニーさん。黒夜竜(ヴァルラス)はBランクモンスターですから、買取代金はかなりの高額になるんです」

「そうか、それは良かったじゃないか。費用の足しになるだろう。わはは」

「あの……。我々はBランクモンスターを討伐したことがないので、あくまでも目安ですが……。直近の例で言うと、黒夜竜(ヴァルラス)の買取価格は三百万エンだったはずです」

「へえ、三百か……。え! 三百万エン!」

「はい。状態が良ければもっといきます」


 モンスター一頭が三百万エン。

 驚いたなんてものじゃない。


「三百万エンって……。信じられん……。いやでも……」


 これだけの巨体だから、体重は数トンどころではないだろう。

 キロ単位で換算すれば、相当安いのかもしれない。

 それに、前世の黒マグロより安いと考えれば納得できる。

 いや、無理があるか……。


「ま、まあ、みんなで倒したわけだし、ボーナスってことでいいじゃないか。はは」

「よろしいのですか?」

「よろしいも何も、俺はサポートだし、ちゃんとギャラはいただくんだ。問題ないよ」

「しかし、黒夜竜(ヴァルラス)の討伐はさすがに予想していません」

「じゃあ、こうしよう。黒夜竜(ヴァルラス)の収益に関しては五等分でどうだい?」

「それはあまりにも……。ヴィニーさんが半分、残りの半分を我々四人が等分でいかがですか?」


 確かに俺の攻撃で倒したのかもしれないが、みんなちゃんと役割があった。

 それに、金は揉め事の原因になる。

 バンドを上手く運営させるコツは均等な分配だ。


「いや、五等分で構わないよ。なあ、ラズリート。剣を買いたいだろ?」

「い、いいのかよ?」

「もちろんさ。ガハルト工房でオーダーできるんじゃないか?」

「剣をオーダーして、酒も買う!」

「欲望に忠実だな……」


 正直なところ、俺は前世でかなり貧乏だった。

 音楽には金がかかるし、ライブの収益なんか雀の涙だ。

 金の大切さは身に沁みていた。


 だが、今はありがたいことにサポート依頼があるから、クエストで確実に稼げる。

 神爺さんのおかげで凶悪なスキルとギフトもあるし、生活するくらいなら金に困らないだろう。

 であれば、金に執着しないほうがいい。


 これは自分のためでもある。

 ちょっと打算的ではあるが、気前の良いおっさんだと思われていたほうがいいはずだ。

 俺はもう子供じゃない。

 楽しく生きていくためには、それなりのセルフプロデュースも必要ということを理解している。


「我々がこの先で採掘するつもりの素材を、遥かに凌駕した収益になると思います……」


 テオドールの見た目はチャラいのだが、非常に真面目だ。

 隣で瞳を輝かせているラズリートと兄妹だとは思えない。


「だけど、今回の自主企画(インディークエスト)は金が目的じゃないんだろう?」

「そうですね。素材の入手ですから」

「じゃあいいじゃないか。降って湧いたボーナスだ。気にせず進もう」

「は、はい。ありがとうございます」


 俺たちは暗闇のダンジョンを進んだ。

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