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追放されたおっさん、異世界トウキョウで冒険者スローライフを始める  作者: 犬斗
第一部

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16/16

第16話 この世界に来てよかった

 俺たちは地下八階層からさらに地下へ進み、ようやく十階層に到着した。


「ここは?」


 ドーム型の広い空間だ。

 天井の高さは十メートルほどで、部屋の直径は五十メートル近くあるだろう。


「なんつー広い空間だ!?」

「ここは整備されたキャンプ場です。五階層ごとに、こういったキャンプ場が整備されています」


 シャルロットが説明してくれた。

 そう言われると、人の手が入っているように見える。


 テオドールが周囲をライトで照らす。


「他の冒険者はもっと下層にいるという話ですから、今日はここでゆっくりとキャンプをしましょうか」


 テオドールが荷物をおろし、背筋を伸ばしていた。

 懐中時計を見ると、時間は夕方五時だ。

 確かにちょうどいい時間だろう。


 広い空間のため、夕食は火を使った調理をした。

 バンド一筋だった俺は、バーベキューやキャンプをしたことがない。

 みんなは慣れた手つきで作業していた。


「もっと色んなことを経験しておけばよかったかな。はは」


 別に過去を否定するわけではないし、バンド生活に後悔はない。

 だが、新しい生活に慣れていく必要がある。


 ***


 十階層のキャンプ場から、北部へ向かうこと数日。

 まさに迷宮たるシンジュクダンジョンを進み、俺たちはようやく目的地に到着した。

 予定通り、発掘作業の開始だ。


「シャルロットは発掘しないのか?」

「しますよ。だけど、私はどちらかというとラズリートの付き添いというか、あの娘の喜ぶ顔が見られればいいので。うふふ」


 シャルロットの視線の先にいるラズリートは、顔に泥をつけながら、ピッケルで壁を削っていた。

 武器の素材となる鉱石を発掘しているそうだ。


 テオドールとディータも、壁面を削っていた。

 二人の目的は化石の発掘だ。

 ここは古代モンスターの化石がよく出る場所だという。


「シャルロット。俺も発掘にチャレンジするよ」

「はい。私も一緒にやります」


 ピッケルで土壁を削る作業は楽しく、自然と熱中していた。

 化石のようなものが出土するのだが、よく分からないため、掘り出したものはリュックにしまった。


 ダンジョン内では数回モンスターに遭遇するものの、運よく低ランクのモンスターだったため、特に苦戦もせず討伐。

 素材としても得るものはなく、ギルドへの報告のみに留めた。


 十階層の北部を移動しながら発掘し、ダンジョンに滞在すること一週間。

 予定通り、俺たちは地上へ帰還した。


「くう、目がいてー!」


 久しぶりの直射日光に慣れるまで時間がかかった。

 地下スタジオから徹夜明けで出た時のようだ。


「懐かしいぜ……」


 俺たちはシンジュク冒険者ギルドへ向かい、黒夜竜(ヴァルラス)の精算を行った。

 黒夜竜(ヴァルラス)の素材は、なんと五百万エンの価格がついたそうだ。

 状態はかなり良く、ギルドでも話題になっていたという。


「テオドール君、お疲れ様。楽しかったよ」

「ヴィニーさん、もしよかったらシンジュクで一泊していきませんか?」

「一泊? ああ、もちろん大丈夫だよ」

「せっかくですし、打ち上げしましょう。美味しい店があるんです」


 俺たちは焼肉屋で打ち上げをした。


「この世界でも打ち上げは焼肉か。最高じゃん。はは」


 貧乏だった俺だって、焼肉くらいは行ったことがある。

 自主企画やワンマンライブの後は、安い焼肉屋で打ち上げしたものだ。

 こちらの世界の焼肉は、モンスター肉が多くて驚いたのだが、その味は感動的な旨さだった。


「楽しいなあ……」


 酒に酔う仲間たちを眺めながら、俺は麦茶を味わっていた。


「おっさん! なに黄昏れてんだよ! 飲め!」


 俺の麦茶にワインを注ごうとするラズリート。


「やめなさい! ラズリート!」

「い、妹がすみません。ヴィニーさん」

「そんなことより魔法の話をしよう」


 こういう無茶苦茶な打ち上げは、本当に久しぶりだ。

 腹がよじれるほど笑った。


 かなりの高級店のようだったが、打ち上げや宿泊費は全てテオドールが出してくれた。


***


 シモキタに帰還すると、ラズリートは百万エンと採掘した鉱石を持って、そのままガハルト工房へ走っていった。


 今回の俺のギャラは十万エンだ。

 拘束日数を考えると安いが、いい経験をさせてもらった。

 それに、黒夜竜(ヴァルラス)の素材報酬として百万エンもある。

 札束を見て、思わずニヤけてしまった。


「今日くらい贅沢してもいいよな」


 みんなと別れ、俺は一人で牛丼を食いに行く。

 今日は豪華におかずもつけるつもりだ。


「あれ、ヴィニーさん久しぶりだね」

「やあ、サファーシア。ちょっとクエストでシンジュクダンジョンへ行っていたんだ」

「え! そうなの! シンジュクいいなあ。何か発掘した?」


 サファーシアは冒険者だが、考古学者でもある。


「ああ、発掘したよ。見るか?」

「見たい見たい! 今日はランチで仕事が終わるから待ってて!」

「ああ、いいよ。俺も今日はもう帰るだけだしな」

「やったー!」


 大喜びするサファーシア。

 だが、周りの客の視線が痛かった。

 そういうつもりじゃないんだが……。


 俺はツユダクの牛丼と豚汁、そして鶏の唐揚げとピクルス盛り合わせを注文した。


 仕事を終えたサファーシアと近くのカフェへ移動。

 テーブルにハンカチを広げ、発掘した品々を並べる。


「ダンジョンのどこで見つけたの?」

「地下十階層の北部だよ」

「あの辺なら化石が中心だね」


 サファーシアが化石を丁寧に掴み、慣れた手つきでチェックしている。


「わあ、古竜の化石だ。凄いなあ。これと同じような化石が魔法鑑定で、数千万年前の物って鑑定されていたんだ。これもきっと同じくらいだと思う」

「これもあるぞ」


 俺は石で作られた丸い紋章を取り出した。


「え……。ちょ、ちょっと! これって古代文明の遺物だよ!」

「そうなのか?」


 サファーシアがバッグから一冊の本を取り出し、猛烈な速度でページをめくっている。


「これだ! カマクラ文明だ! 幻のミナモト王家の紋章だよ!」

「そ、そんなに凄いものなのか?」

「そうだよ! 信じられない! 私も行きたい! 発掘したい!」


 サファーシアが遺物を前に、目を輝かせている。


「なあ、サファーシア。これ、もらってくれよ。君の研究に役立つんだろ?」

「で、でも……、凄く貴重だよ」

「構わんよ。俺には価値が分からないからな。必要な人が持ってこその価値だ」

「あ、ありがとう」


 サファーシアがうつむき、頬を紅潮させていた。


「こっちの化石はどうすっかな」

「じゃあさ、売りに行かない?」

「こんな化石を買ってくれるか?」

「ロドリーは何でも買ってくれるよ」

「あ! ロドリー商店か!」


 俺がレザーアーマーを買った店だ。

 骨董品など何でも扱っている。


 俺たちはさっそくロドリーの店へ向かった。

 ロドリーの、全身タトゥーでモヒカン姿は相変わらず気合が入っている。


「おお、こりゃ三角古竜(トライシス)の化石じゃねーか」

三角古竜(トライシス)?」

「古竜だよ。古竜はロマンの塊だぜ?」

「これ、買い取ってくれるか?」

「ああ、もちろんだ。三角古竜(トライシス)は超人気の古竜で、すぐ売れるんだよ。これなら全部で……。そうだな、二万エンで買い取るぞ」

「いやいや、状態はいいんだぞ? 専門家のサファーシアが言うんだから間違いない」

「くっ。余計なことを言いやがって、サファーシアめ。全部で三万エンでどうだ」

「三万五千エン」

「三万二千エンだ」

「よし、それでいいだろう」

「ちっ、まあでも状態はいいからな。売りゃあ、十万エンは下るまい。はっはっ」


 満面の笑みを浮かべるロドリーだった。


 化石を買い取ってもらい、俺たちは店を出た。

 いつの間にか、シモキタの空が赤く染まっている。

 影が伸びる街道を、俺はサファーシアと並んで歩く。


「私は三大ダンジョンを制覇したいんだー」

「三大ダンジョンって?」

「シンジュク、イケブクロ、シブヤだよ」


 あれほどの遠征でも、シンジュクダンジョンのほんの一部しか探索できていないというのに、イケブクロにシブヤもある。

 この世界はあまりに広い。


 だが――。


「サファーシア、全部行くか!」

「うん! もちろんだよ!」


 サファーシアにトウキョウのことを教えてもらいながら街道を歩く。

 三大ダンジョン以外にも、様々な魔境があった。

 もっと話を聞きたい。


「なあ、サファーシア。夕飯を食いに行かないか?」

「いいよ! 私がご馳走する!」

「いやいや、化石が売れたし、俺がご馳走するって」

「でも、私は紋章もらったもん。お礼をさせてよ」


 繁華街を歩いていると、背後から肩を叩かれた。


「ヴィニーさん」

「シャルロット!」

「サファーシアも一緒なの?」

「ん? シャルロットはサファーシアと知り合いなのか?」

「知り合いも何も、昔からの友人ですよ。サファーシアの発掘にはサポートでよく行きますもの。ね、サファーシア」


 シャルロットがサファーシアに視線を向けた。


「うん。『酒百合』にはお世話になってるよ。腕は良いし、女子バンドだから安心できるもん」

「そうね。酒飲みのおじさんみたいな娘もいるけどね」

「あれ? ラズは?」

「ガハルト工房にいるわよ。うふふ」


 サファーシアが、上目遣いで俺の顔を見上げている。


「ヴィニーさん。シャルと知り合いなんですか?」

「ああ、シンジュクダンジョンはシャルロットたちと行ったんだよ」

「えー! いいなあ!」


 顔見知りの冒険者と出会うなんて、まるで前世の下北のようだ。

 昔の下北は、道を歩けば知り合いのバンドマンと遭遇していた。

 遭遇したらすることは一つ。


「シャルロット、今からサファーシアと飯に行くんだが、一緒にどうだい?」

「いいんですか?」

「構わんよ。なあ、サファーシア」


 大きく頷くサファーシア。


「もちろんだよ! シンジュクダンジョンの話を聞かせてね」

「うふふ。じゃあ、ご一緒させていただくわね」


 三人で繁華街へ向かうと、突然、背中を強く叩かれた。


「いてっ!」

「おい! おっさん! なに美女をはべらかせてるんだよ!」

「なんだ、ラズリートか」

「なんだとはなんだ!」

「はは、これから飯へ行くけど、ラズリートも行くか? 奢ってやるぞ?」

「マジかよ! 行くに決まってんだろ! ヴィニー最高!」


 サファーシアは笑い、シャルロットは呆れた表情を浮かべていた。


「みんな、どこへ行きたい?」

「私はお肉!」

「うーん、シンジュクでお肉食べたからなあ。お魚はどうですか?」

「酒だ! 酒がある店だ!」

「よし! 全部ある店に行くぞ!」


 娘たちと大騒ぎしながら、繁華街を歩く。


「上手くやっていけそうだ」


 前世を否定しないが、バンドを追放された俺は、あのままあの世界にいても腐っていったと思う。

 むしろ、この世界に来てよかった。


「正直、楽しいよ。はは」


 神爺さんに感謝だ。


「神爺さん、わりー。ツインドラムの約束は、まだまだ先になりそうだよ。ははは」


 俺はシモキタの地平線に沈む夕日を眺めながら、精一杯この世界を楽しむことを誓った。

『追放されたおっさん、異世界トウキョウに転生したので冒険者スローライフを始める』を読んでいただき、ありがとうございました。


 こちらの物語は第16話をもって、第一部を終了しました。

 個人的に、西洋風異世界トウキョウの世界観はとても気に入っています。

 そして、古き良きバンド生活を、上手く冒険者生活に取り込めたと思います。


 現状では続きを書く予定はありませんので、事実上の最終回です。

 とはいえ、人気が出たら第二部を開始します(笑)。

 書きたいことは、まだまだ山ほどあります。


 例えば……。


・浅層だけど広大なイケブクロダンジョン

・呪いで常に形を変えていくシブヤダンジョン

・凶悪なモンスターが生息するキチジョウジの魔の森

・コウエンジの雑多な飲み屋街

・サブカル文化の中心地であるアキハバラ

・王城があるチヨダ

・騎士団本部のカスミガセキ

・巨大市場のトヨス


 うーん、考え始めたらキリがないですね。

 さらに、全国ツアーだって行けます。

 全国各地のスポットへ行き、異世界グルメも楽しめちゃいます。

 ああ、人気出て欲しい(笑)。


 もしまた見かけた際には、読んでいただけると幸いです。

 どうぞよろしくお願いいたします。


 犬斗

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