第8話 シモキタの何でも屋
サファーシアとシモキタの繁華街を歩く。
飲食店が多く、今度行ってみようと思う店がいくつかあった。
なかなか楽しい。
「こっちだよ」
サファーシアが街道から逸れて路地に入った。
「このエリアは中古屋が多いんだよ」
「中古か。防具の中古って問題ないのか?」
「うん。ちゃんとした店を選べば問題ないよ。しっかり手入れしてるし、場合によっては新品よりもいいものがあるしね。探すのも楽しみの一つだよ。ふふ」
「へえ、そりゃ楽しみだ」
そういえば、下北は古着屋が多かった。
古着屋巡りの若者をよく見かけたものだ。
サファーシアが一軒の店の前で立ち止まった。
雑貨屋というか、例えようのない独特の店だ。
「着いたよ」
「ロドリー商店?」
「うん、何でも屋なんだけど、防具も売ってるよ。ロドリーは腕の良いリペア職人でもあるんだ」
店の前で話していると、店内から男が姿を見せた。
全身にタトゥーが入った若い男だ。
髪型はピンクのモヒカンで、めっちゃ気合が入っている。
「サファーシアじゃねーか。どうした?」
「ロドリー、紹介するね。この人はヴィニー。冒険者だよ。今日はヴィニーの防具を見に来たの」
ロドリーと呼ばれた男が、眉間にシワを寄せながら俺を睨んでいる。
威嚇しているような目つきだ。
「ロドリーだ。おっさん、サファーシアとデートなんてラッキーだな」
「ああ、楽しいよ」
「ちっ、羨ましいぜ。はっはっ」
特に悪意はないようだ。
顔は怖いが、元々そういう顔つきなんだろう。
「で、防具だっけ? 適当に見ていいぞ」
「助かるよ」
店内はなかなか広く、異国情緒溢れる品物で溢れていた。
お香を炊いており、オリエンタルな雰囲気を感じる。
まさに前世の古き良き下北の店という感じだ。
「私が発掘した物も売ってるんだよ。あと、お土産で買ってきたものも勝手に売ってるし」
「サファーシアのセンスは最高だからな。全部売り物になるんだよ。はっはっ」
「だから私は買い付けみたいなこともやってるの。私が各地で見つけたお土産や物産品をロドリーが買い取るの」
「お前の小遣い稼ぎになるだろ。稼げ稼げ。はっはっ」
仲が良さそうで何よりだ。
そもそもサファーシアも赤髪で派手だし、お似合いのカップルに見える。
店内を見て回ると、防具コーナーを見つけた。
鎧立てには防具一式が飾られ、棚には部位ごとの防具が並んでいる。
その中で、俺はダークブラウンの鎧が気になった。
革製の全身タイプだ。
各パーツの縁には、繊細な彫刻が施されている。
西洋の鎧なのに、どことなくオリエンタルな香りがする。
ロドリーの趣味なのだろうか。
「そのレザーアーマーいいだろ? 直しついでに俺が彫刻したんだよ」
「ちょっと合わせてみてもいいか?」
「もちろんだ。鎧は着なきゃ分からんぜ?」
俺はサファーシアに手伝ってもらいながら、レザーアーマーを装着した。
サイズは驚くほどフィットしている。
胸板部分をノックするように叩いてみると、木の板と同じ感触だった。
硬くて、何より驚くほど軽い。
「これはいいな」
「似合ってるぜ。それなら直しは必要なさそうだな。フルセット、四万でいいぞ」
「うーん、中古だしな。三万ってところだろう?」
「おいおい、修復に手間がかかってんだよ。三万八千だ。これ以上はまからん」
「三万七千なら今すぐ買うよ」
「ちっ! うめーな、おっさん! 持ってけ!」
レザーアーマーを三万七千エンで購入できた。
前世でも中古屋でよく値切ったものだ。
だが、値切るだけでは印象もよくないし、今後の付き合いもある。
俺は先ほど見つけた細長い革製のバッグを手に取った。
ベルトに括り付けて、腰に吊るすタイプのバッグだ。
「こっちの革のバッグも買うよ。武器を入れるのにちょうどいい」
「武器?」
「ああ、俺の武器はこれなんだよ」
俺はスティックを見せた。
「なんだそれ? 鉄の棒?」
「ああ、さっき買ったばかりの武器さ」
「そんな武器初めて見たぞ。おもしれーな。じゃあ、そのバッグは三千エンでいい」
結局、俺は四万エンを支払った。
武器と防具で合計十万エンだ。
当初予定していた予算通りに収めることができた。
「世話になったな、ロドリー」
「まいどー」
鎧を脱ぐのも面倒だから、そのまま着て帰ることにした。
シモキタの街は冒険者が多く、鎧を着ている連中も多い。
俺が鎧を着ていても違和感はないはずだ。
サファーシアと肩を並べて街道を歩く。
防具を着ていると不思議と意識が変わる。
武器も持ったし、なんだか強くなったような気分だ。
この感覚はカンフー映画を見た後に、自分が強くなったと錯覚して街を歩く時の気分と一緒だった。
「ねえ、ヴィニー。今度私のクエストで、サポートの相談をしてもいい?」
「もちろんさ。いつでも声をかけてくれ」
「ありがとう。私の夢はね、古代文明を発掘して、ウエノの博物館に飾ることなんだ。そうすれば考古学者として名前が残るんだよ」
そういえば、前世の上野には国内最大の博物館があった。
こういう部分もリンクしているようだ。
「サファーシアならできるさ。手伝えることがあったら何でも言ってくれよ」
「本気にしちゃうぞ?」
「構わないって」
「やったね!」
サファーシアが大きくジャンプして、俺の正面に着地した。
「ヴィニー。私バイトに戻るね」
「おー、頑張れよ」
「うん! 今日はありがとう!」
「何言ってんだ。俺のセリフだよ」
「じゃあね!」
「俺もまた牛丼食いに行くよ」
「あはは、毎日来てるじゃん。待ってるねー」
サファーシアが街道を軽やかに走り去る。
まるで爽やかな春風のような娘だった。




