第5話 メンバー勧誘とケンカ
武器屋を出た俺たちは、三人で繁華街を歩く。
「二人ともありがとう。おかげでいい武器ができそうだよ」
「とんでもないです。うふふ」
シャルロットが可愛らしく微笑みを返してくれた。
「ヴィニーさん、ランチへ行きませんか? 美味しいお店があるんです」
「ランチか。いいね。じゃあ、お礼にごちそうさせてもらうよ」
「あら、いいのですか?」
「もちろんさ」
一回り以上も年下の、しかもこんな美人な娘たちと飯なんて初めてだ。
冷静を装っているが、かなり動揺している。
「奢りだと!」
銀髪をなびかせながら、ラズリートが振り返った。
「ワインがある店に行くぞ!」
「もう、ラズリートは朝から飲んでるでしょ?」
「違う。昨日からだ、バカめ」
「バカはあなたよ。今日はもうお酒禁止」
「えっ!」
口を開き、落胆の表情を浮かべながら動きを止めたラズリート。
シャルロットは気にせず一軒の店を指差した。
「あ、ヴィニーさん、この店に行きましょう。美味しいパスタがあるんです」
シャルロットの案内で、小さなレストランに入った。
***
食事を終えコーヒーを注文。
ラズリートだけはどうしてもと、強引にワインを注文していた。
「ヴィニーさん、今朝の私の話を憶えてますか?」
「えーと、メンバー募集の話かい?」
「ええ、そうです。私たちは今、メンバーを募集しているんです。この娘が問題ばかり起こすから、すぐ脱退してしまうので」
ワイングラスを持つラズリートの手が、ビクッと反応した。
「な、なんだよ! 私のせいじゃないだろ!」
「あなたはすぐにメンバーとケンカするでしょ?」
「あ、あれは、あいつらが悪いんだろ!」
「あなたも悪いのよ。いえ、悪いのはあなたよ」
「私は悪くない!」
ラズリートがテーブルを叩きつける。
こういう光景、よく見たなあ……。
バンドをやってると、メンバー同士のケンカなんてよくある。
ライブ直前に、楽屋で殴り合いのケンカをしている対バンを見たことだってあった。
当時の俺は、メンバー同士のケンカを上手くコントロールできなかったし、自分もしていたくらいだった。
だが、今はおっさんになったことで心に余裕がある。
ケンカごときに動じない。
「今のメンバーは二人だけなのかい?」
仲裁がてら質問してみた。
思惑通り、二人は落ち着いたようだ。
「はい。私たちは『酒と白百合』というバンドを組んでいましたが、今は私とラズリートだけです」
「ふんっ」
そっぽを向いてワインを飲むラズリート。
それにしてもバンド名が……。
正直、俺でもダサいと思う。
俺の様子に気づいたシャルロットが、恥ずかしそうにうつむいた。
「このバンド名は、私も……」
「か、かっこいいだろうが!」
ラズリートが叫びながら、飲み干したワイングラスを乱暴に振り回す。
俺はなだめて落ち着かせた。
それはワインをもう一杯注文とも言う。
「しかし、二人はCランク冒険者なんだろ? 俺はまだDランクだ。いくらカテゴリーが一緒でも、経験が違う」
「ですが、同世代だとラズリートがケンカしてしまうので……」
「なるほどね」
年齢の高い俺を加入させることで、ラズリートをコントロールしたいのだろう。
このシャルロットも、なかなかの策士だ。
しかし、シャルロットは俺の骨折を治療するくらいだし、実力は高いと思う。
他の冒険者たちからの人気だってあった。
ラズリートと別れて活動すればいいと思うのだが……。
そうしない理由があるのだろう。
「ラズリートとは長いのか?」
「はい。幼馴染です。昔、私がいじめられていた時に助けてくれて、それ以来ずっと一緒にいようと自分自身に誓ったんです」
「なるほどね」
シャルロットの隣で、頬を赤らめながらラズリートがワインを飲んでいた。
「ふんっ!」
めっちゃ照れてる。
こうしてみると可愛い女子だ。
「俺はまだ一回しかクエストへ行ったことがない、初心者中の初心者だぞ?」
「それでも森大蜘蛛を討伐しています。武器だって注文しました。ヴィニーさんが加入してくれたら、攻撃の手数が格段に増えます」
「そ、そうか……」
よく知らないおっさんを信頼して勧誘してくれるのは本当に嬉しい。
それに、俺もバンドのメンバー募集で苦労したことが何度もあった。
本当に辛かったから、二人の気持ちは痛いほど分かる。
だが、俺自身、この世界のことを何も理解していない。
冒険者も、クエストも、バンドのこともだ。
もう少し時間が欲しい。
「誘ってくれたことは感謝しているよ。だけど……、すまないが少し時間をもらえるかな。実はわけあって、この地に来てまだ日が浅いんだ。宿暮らしだしね」
「そ、そうでしたか……」
落胆の表情を見せるシャルロット。
さすがに心が痛む。
「け、決して君たちが嫌と言うわけではないよ。そもそもランクが違うんだ。君たちと俺では格が違いすぎる」
「ヴィニーさんならすぐ昇格すると思います。ですから、将来を見越しています。絶対に上手くいくと思うんです」
シャルロットは先のことまでしっかりと考えている。
しっかりした娘だ。
突然、テーブルを叩く乾いた音が鳴り響いた。
同時にラズリートが立ち上がり、残り少ないワインを一気に飲み干す。
「シャルロット、もういい! こんなおっさんに頭下げる必要はない!」
「そういうこと言わないの! あなたがいつも癇癪を起こすからでしょ!」
「いらねーって言ってんだよ!」
ここまで拗れると、さすがに気まずい。
「ま、まあ、仲良くしなさい」
「ヴィニーさん、すみません。今日はもう……。お先に失礼します」
シャルロットが目を押さえながら店を出ていった。
まあ仕方がない。
こうなるように仕向けられていたのだから。
俺はラズリートの目をしっかりと見ていた。
この目は隠しごとをしている。
俺は伊達におっさんをやってない。
バンドは小さな人間社会だ。
二十年以上もやっていれば、機微な感情にも気づく。
「ラズリート、君の作戦だな」
「な、なんだよ!」
「なかなか独占欲が強いじゃないか。でも、いつまでも一緒にいてくれるとは限らないぞ?」
「なんだってんだよ!」
「シャルロットを独り占めしたいんだろ?」
「はっ!? な、何言ってんだよ! おっさん!」
「図星か。でもな、あのやり方はよくないよ。傷つけているだけだ。いつか本当にシャルロットが離れてしまうよ」
「うるせー! うるせー! うるせー!」
ラズリートは怒鳴りながら顔を伏せる。
「し、仕方ねーだろ……。やり方が分かんねーんだよ……」
拳を握りしめるラズリート。
瞳にはうっすら涙も浮かんでいた。
「やり方か……。そうだな。俺が言う資格はないかもしれない」
俺は前世の記憶が蘇った。
離れていった人の顔が浮かぶ。
「大切にするんだ。ちゃんと思いは伝えるべきだぞ。いなくなってからでは遅い」
「そ、そんなこと分かってんだよ! でもどうやって!」
ラズリートの本音が出た。
まあ可愛らしい娘の嫉妬だ。
とはいえ、このままではシャルロットが不憫過ぎる。
「なあ、ラズリート。小耳に挟んだんだが、ユニットっていうパターンもあるんだろ? 少人数での活動だ」
「あ、あるよ」
「一時的なサポートメンバーの募集もできると聞いたぞ」
「できるよ」
「まずはユニットで頑張ってみるんだ。二人とも実力はあるんだから、足りない時はサポートメンバーを呼ぶ。今は無理にバンドを組もうとせずに、二人でしっかり話し合って、二人で活動してみてはどうだい? もっとお互いを理解し合うんだ」
「二人で……理解し合って……」
うつむきながら小さく呟くラズリート。
「そんなこと分かってんだよ! やろうと思ってたんだよ!」
「そうか、それは失礼した。じゃあ早くシャルロットを追うんだ。もう酒は飲むなよ。わはは」
「うっせー! おっさんが!」
頬を真っ赤に染めて、ラズリートが俺のスネに蹴りを入れた。
「いってー!」
「クソボケバカおっさんがぁぁぁぁ!」
叫びながら走り去ったラズリート。
「いってー。スネを蹴られたなんて人生初だよ……」
俺はラズリートの走る背中を見つめた。
意外と速い。
というか、速すぎる。
さすがはCランク冒険者だ。
「でもな、相手がいるからできることなんだぞ、ラズリート。はは」
俺は呟きながら、宿へ戻った。




