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追放されたおっさん、異世界トウキョウで冒険者スローライフを始める  作者: 犬斗
第一部

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4/11

第4話 武器作製

 翌朝、俺は冒険者ギルドへ向かった。

 武器屋を教えてもらうためだ。


「お、おい、あいつだ!」

「初クエストで、森大蜘蛛(マガーロ)を四匹も倒したって奴か!」

「たった一回のクエストで、FランクからDランクへ上がったそうだぞ!」

「契約金も貰ったって話だ!」

「でもおっさんじゃん」

「ああ、思った以上におっさんだな」


 最後の二人の言葉が胸に刺さった。


「ヴィニーさん」

「ん? 君は……シャルロットさんか」


 俺を治療してくれた魔法使いのシャルロットが声をかけてきた。

 改めてお礼を伝えたい。


「昨日はありがとうございました。おかげで身体の調子がいいですよ。ははは」


 俺は深く頭を下げた。


「そ、そんな。ギルドからの依頼ですし、気にしないでください」


 焦った表情を見せるシャルロット。

 優しい娘なのだろう。

 それに、笑顔がとても可愛らしい。


「ヴィニーさん、今日はクエストですか?」

「いえ、武器を買おうと思って、武器屋を紹介してもらう予定です。はは」

「武器ですか?」

「恥ずかしながら、まだ武器を持ってなくて」

「え? ど、どういうことですか? だって昨日森大蜘蛛(マガーロ)を討伐していますよね?」

「いや、あれは元々調査だったから、武器を持たずに行ったんです。そしたら森大蜘蛛(マガーロ)に遭遇してしまって……」


 シャルロットの表情は、どう見てもドン引きしている。

 武器を持たずにクエストに行ったからだろう。

 ギターも持たずにバンドのリハに行くようなものか。

 言わなきゃよかった。


「武器も持たずにどうやって?」

「キッチンに落ちてた器具で……。麺棒とかフライパンとか……」

「調理器具で……、森大蜘蛛(マガーロ)を……」


 やっぱりドン引きしてる。


「す、凄い! 凄いです!」


 突然シャルロットが俺の両手を握った。


「あの! ヴィニーさん、今うちのバンドがメンバーを募集してるんですけど、話だけでも聞いていただけませんか?」


 メンバー募集?

 冒険者パーティーのことだが、どうしても前世のバンドが頭をよぎった。


「おい、あのおっさん、シャルロットさんに話しかけられてるぞ」

「て、手を握られているだと!」

「マジで殺すか……」


 周囲からの物騒な声が気になる。

 俺は丁重にシャルロットの手を振りほどいた。


「ひ、ひとまず武器を買いに行くので、その後であれば……」


 この場をなんとかしないと、周りの視線が痛い。


「武器だったら、うちのメンバーを紹介しましょうか? 武器オタクですよ」

「そ、それは助かります。はは」

「確か今日はギルドに来てるはずです」


 シャルロットがホールを見渡している。


「えーと……。あ、いました! ラズリート! ラズリート!」


 カウンターでビールを飲んでいる女に向かって、シャルロットが手を振った。


「ん? シャルロットか。どうした?」


 カウンターで立ち飲みしている女がこちらを振り返った。


 夜空に輝く満月のような美しい銀髪のショートヘア。

 年齢はシャルロットと同世代か。

 シャルロットと同じように美しい容姿だが、口の周りにビールの泡を豪快につけている。

 朝から飲んでいるのか……。


「ラズリート。こちら、Dランク冒険者のヴィニーさんです」

「Dランク? おっさんなのにインディーズか。なかなか恥ずかしいな。で、何の用だ、シャルロット?」

「またそんな失礼な口を……。すみません、ヴィニーさん」


 シャルロットが苦笑しながら、俺に頭を下げた。


「ラズリート。あなた、森大蜘蛛(マガーロ)四匹を丸腰で倒せるの?」

森大蜘蛛(マガーロ)を丸腰で? それも四匹? 私でも無理だな。一匹ならまだしも、複数になればあの糸に捕まる」

「ふふ、このヴィニーさんは一人で、それも丸腰で討伐したのよ?」

「何をだ?」

「だから森大蜘蛛(マガーロ)を」

「はあ? バカも休み休み言えって」


 豪快にビールジョッキをあおるラズリート。

 突然その手が止まった。


「ん? 待て待て待て。森大蜘蛛(マガーロ)四匹って、昨日ガルデルで討伐されたってやつか?」

「そうよ。それを討伐したのがヴィニーさんよ」

「なんだと?」

「Fランクの、それも初クエストなのよ。凄いと思わない?」

「冒険者デビューで森大蜘蛛(マガーロ)の討伐だと?」

「ええ、それでいきなりDランクに昇格なのよ」

「マジか?」

「マジよ。ふふ」


 シャルロットが俺の討伐状況をラズリートに説明した。

 驚いた表情で俺を見つめるラズリート。


「おっさんなんて言って失礼したな、おっさん。私はラズリートだ」


 ラズリートが真顔で右手を差し出した。

 結局おっさんと言っているが、この娘は酔ってるのだろうか。

 まあいい。

 俺は握手を交わした。


「ヴィニーだ」

「よろしく、ヴィニー」


 俺よりも完全に年下だが、普通にタメ口だ。

 まあ冒険者は年齢よりも実績やランクがものを言うのだろう。

 この落ち着き具合は、高ランクに違いない。


「ヴィニーが凄いことは分かったよ。で、用件は何だ?」

「ヴィニーさんは丸腰で森大蜘蛛(マガーロ)を討伐したと言ったでしょう?」

「むっ、なるほど、武器屋か。それを早く言え。いい店を紹介してやる。だははは」


 ビールを飲み干し、シャツの袖で乱暴に口を拭った。

 お前こそおっさんだと言いたい。


「ヴィニー、武器は決まっているのか?」

「まだだよ。実際に見てから決めようと思っている。一応スキルを活用しようと思ってるがな」

「スキル? 何のことだ?」

「ん? スキルはないのか?」

「何を言っている? こんな朝から酔ってるのか?」


 酔っているのはお前だと言いたいところだが、俺はその言葉を飲み込む。


 ラズリートの反応を見るに、この世界にスキルなんてものはないようだ。

 俺だけが持つ能力なのだろう。

 それであれば、秘密にすべきだ。


「あー、えーと、俺は自己流でやってきたから。わはは」


 ひとまず笑ってごまかした。


「変なおっさんだな」


 カウンターに硬貨を置いたラズリートが、マントを翻し首にかけた。


「行くぞ、シャルロット」


 そのまま颯爽と出口に向かって歩き始めるラズリート。


「もう、突然なんだから。ヴィニーさん、行きましょう」


 俺たちはラズリートの後を追った。


 ギルドを出ると、俺の隣をシャルロットが歩く。


「ヴィニーさん、私に敬語は必要ないですからね」

「わ、分かったよ、シャルロット。ありがとう」

「ふふ、どういたしまして」


 シャルロットが眩しいくらいの可愛らしい笑顔を浮かべる。

 まあ俺くらいの年齢になると、若い娘はみんな可愛く見えるが。


「おっさん、なにニヤけてんだよ」

「そ、そんなことない!」


 ラズリートが俺の腕を叩いてきた。

 確かにシャルロットの笑顔で、ニヤけていたかもしれない。

 気をつけないとセクハラおじさんになってしまう。


「ほらおっさん、行くぞ」

「もう口が悪いんだから」


 俺たち三人は繁華街へ向かった。


 ***


「いらっしゃ――、なんだラズリートか。剣の調子はどうだ?」


 武器屋に入ると、黒ひげを生やしたガタイのいいおっさんが、ラズリートに笑顔を向けた。


「ガハルト。調子はいいよ。さすが巨匠だよ」

「がはは、褒めても何も出んぞ」

「で、今日の用件なんだが――」


 ラズリートが俺を指差した。


「ガハルト、紹介する。Dランク冒険者のヴィニーだ」


 ラズリートが俺を紹介してくれた。

 ガハルトと握手を交わす。


「鍛冶師のガハルトだ。よろしくな」


 イメージ通りの鍛冶師に、俺は少し嬉しくなった。


「ヴィニーです」

「ほう、いい手だな。何十年と剣を振った手だ」


 剣ではない。

 二十年以上スティックを振っただけだ。


「いや、剣は初めてなんだ」

「なに?」

「まあちょっと木の棒を振ってたんだ。はは」

「木剣か? それでも凄いぞ。この手は一朝一夕では身につかん。がははは」


 豪快だが、人のよさそうな職人という印象だ。

 こういう人物は気さくにつき合える。

 俺もタメ口でいいだろう。


「さっそくだが、ガハルト。武器を買いたいんだ」

「ふむ、武器の種類は決めているのか?」

「特に決めていない。だけど、ロングソードがいいかなと思っている」

「ロングソードか。基本ではあるが、だからこそ奥が深いぞ」

「もちろん練習するさ」

「お、いい心がけだな。最近のわけー奴は、いきなり強くなりたいってバカなことを言うんだ。剣の道はあくなき反復練習だ。ただひたすら剣を振るのみ」


 ドラムと剣は全く違うが、本質としては同じで安心した。

 ドラムの練習もひたすら地味な反復練習だ。


「なあ、ガハルト。剣の相場を聞いてもいいかな?」

「種類にもよる。俺が一人で仕上げたロングソードは五十万エンからだ。弟子たちの作品は数万からある。ヴィニーの予算は?」

「まだ駆け出しだし、十万エンが限度なんだ」


 可能であればもっと安く済ませたい。

 だが、職人に向かって安くしたいと伝えることは失礼だろう。


「低予算なら、ここら辺はどうだ。アマチュアからインディーズクラスのロングソードだ。一本ごとに僅かな違いがあるから、実際に握って手に合うものを選べ」

「分かった。ありがとう、ガハルト」


 俺は何本かの剣を手に取った。

 だが、どれもしっくりこない。

 こういうものは第一印象が最も大切だ。

 やはり剣を持ったことがない俺が、いきなりロングソードなんて無理かもしれない。


 他に何かいい武器がないかと眺めていると、商品を並べている棚の上に、木の棒が二本置いてあった。


「木の棒? これも武器なのか?」


 ドラムのスティックより太くて長い。

 一本五十センチメートルといったところか。


 俺はその棒を手に取り、先端で自分の太ももを叩いた。

 ドラマーは太ももでスティックの感触を確かめることがある。

 いつもの癖で、俺はシングルストロークからダブルストロークに移行。

 これはスキルではなく、普通にダブルストロークを叩いている。


 もう二度とドラムを叩くことはないと思っていたため、俺は懐かしさを感じていた。


「おっさん、なんだそれ!」

「え? ヴィニーさん、音が二つ出てますよ!」


 ラズリートとシャルロットが驚きの声を上げた。


「い、いや、ただのダブルだし……」


 そんなに驚くものではない。

 俺はめちゃくちゃ恥ずかしくなり、すぐに手を止めた。


「お前、その技は何だ?」

「え? い、いや、ちょっとそういう奏法というか、技術があってね。はは」


 ガハルトも目を見開き、俺の手を凝視していた。

 それよりも、こんな武器があるのだろうか。


「ていうか、この棒は武器なのかい?」

「それは加工前の素材だ。弟子が置きっぱなしにしたんだろう。ったく、素材は大切にしろと言ったのに。あとで雷を落としてやる」


 なんとも古風な言い回しに、俺は少し可笑しくなった。


「雷ね。そういや、雷神様も太鼓を叩いていたな。ははは」


 俺は自分の言葉に衝撃が走った。

 まさに青天の霹靂だ。


 俺は剣を使えないが、これくらいの棒なら扱える。

 もちろん、武器として使用するのであれば練習は必要だが、剣よりも遥かに扱いに慣れていることは間違いない。

 それに、ドラムなら目をつぶったって叩ける。


「なあ、ガハルト。この木の棒を武器にできないか?」

「木の棒を武器に?」

「そうだ。俺は剣を持ったことはないが、こういった棒なら長年扱ってきた。こっちのほうがいいような気がするんだ」

「ふむ、棒か。武器としてなら棍棒がある。細めの棍棒として考えればアリだ。とはいえ、細いと攻撃力と耐久性に問題があるぞ」


 俺たちの会話をつまらなそうに聞いていたラズリートが、俺の手から棒を奪い取り、自分の太ももで叩き始めた。

 さっきの俺の真似をしているのだろう。


「なあ、ヴィニー。鉄の棒じゃダメなのか?」

「え? 鉄?」


 ラズリートが突拍子もないことを言い始めた。

 鉄の棒では重すぎて手首が壊れてしまう。


「いや、待てよ。鉄のスティックなんかよりも、剣のほうが遥かに重いよな。そもそも演奏じゃないんだ。鉄の棒を扱えるくらいじゃないと、モンスターなんて倒せないよな」


 身体はこれから鍛えるとして、鉄のスティックという考え方は悪くない。

 ゼロから剣を始めるより、絶対上達が早いはずだ。


「なあ、ガハルト。鋼の棒を二本加工したらいくらくらいかな?」

「長さは?」

「一本五十センチメートル。太さは直径二センチメートルってとこかな」


 通常のスティックよりも長くて太いが、武器として使うなら、これくらいだろう。


「ふむ、それくらいなら、加工代含めて一本二千エンってところだな」

「マジか!」


 セットでも四千エンだ。

 練習用に数セット買っても、予算以内どころではない。

 驚くほど安く済む。


「じゃあ、二セット頼んでもいいかな?」

「それは構わんが、それで足りるのか?」

「まずは練習してみるよ。サイズの調整とかあるかもしれんしな」

「分かった。俺も初めて作る武器だ。調整にはつき合ってもらうぞ」

「ああ、もちろんさ」


 ガハルトが腕を組み、ラズリートに視線を向けた。


「ラズリート、おもしれー奴を連れてきたな。がははは」


 やっぱり気のいい職人気質の鍛冶師だ。

 初めての武器作りが、ガハルトでよかった。


「ありがとう、ガハルト。無理言ってすまんな」

「いいってことよ、向こうで話を詰めるぞ」


 まさか剣と魔法の世界に来て、武器がスティックになるとは思わなかった。

 俺としてはロングソードに憧れていたのだが、これでよかったのかもしれない。


 もういい歳だし、使い慣れた道具が一番だろう。


「神爺さんが見たら、喜ぶだろうな。ははは」


 俺は天井を見上げ、神爺さんの喜ぶ姿を想像した。

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