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逃げない俺は、フェアウェイに立つ第1章:まだ逃げてる  作者: こうた


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第3話:当たらない一球

 「で、ゴルフどうすんの」

 

 昼休み、パンをかじりながら藤田が言う。

 

 「どうするって?」

 

 「接待あるんやろ」

 

 「まあ、あるけど」

 

 「やばいやろ、やったことないんやろ?」

 

 「……まあな」

 

 言いながら、スマホを見る。

 

 昨日の検索履歴。

 

 ——ゴルフ 初心者

 

 

 消そうかと思って、やめる。

 

 

 「練習くらい行っといたら?」

 

 「行ってどうなるん」

 

 「行かんよりマシやろ」

 

 「それはそうやけど」

 

 

 パンを飲み込む。

 

 

 「まあ、そのうちな」

 

 

 口ではそう言う。

 

 

 でも——

 

 

 その“そのうち”が、いつ来たことあったっけ。

 

 仕事終わり。

 

 まっすぐ帰るつもりやったのに、

 

 気づいたら、駅の反対側に立ってた。

 

 

 ネオンが見える。

 

 パチンコ屋。

 

 

 「……」

 

 

 一歩だけ踏み出す。

 

 

 止まる。

 

 

 ポケットの中、軽い。

 

 

 ——また負けるだけやろ。

 

 

 頭の中で声がする。

 

 

 「……」

 

 

 視線を逸らす。

 

 

 そのまま歩き出す。

 

 

 パチンコ屋を、通り過ぎる。

 

 

 自分でも少し驚く。

 

 

 「……珍し」

 

 

 小さく呟く。

 

 

 そのまま、さらに歩く。

 

 

 知らん道に入る。

 

 

 ふと、看板が目に入る。

 

 

 ——ゴルフ練習場

 

 

 「……あー」

 

 

 立ち止まる。

 

 

 見上げる。

 

 

 ネットが高く張られてて、ライトが当たってる。

 

 

 中から、乾いた音が聞こえる。

 

 

 ——カンッ。

 

 

 「……」

 

 

 少しだけ覗く。

 

 

 人が並んでる。

 

 

 みんな、普通に打ってる。

 

 

 当たってる。

 

 

 飛んでる。

 

 

 「……」

 

 

 なんとなく、入りづらい。

 

 

 場違いな気がする。

 

 

 でも——

 

 

 足は動かん。

 

 

 「……ちょっとだけな」

 

 

 誰に言うでもなく呟く。

 

 

 そのまま、入口に向かう。

 

 受付。

 

 「初めてですか?」

 

 

 さくらが笑顔で聞いてくる。

 

 

 「あ、はい」

 

 

 「クラブ貸しますね」

 

 

 「お願いします」

 

 

 思ったより、普通に進む。

 

 

 止まるタイミングを逃す。

 

 打席。

 

 クラブを持つ。

 

 

 軽い。

 

 

 構える。

 

 

 見よう見まね。

 

 

 振る。

 

 

 ——スカッ。

 

 

 「……は?」

 

 

 空振り。

 

 

 周りの音だけが残る。

 

 

 「……」

 

 

 もう一回。

 

 

 振る。

 

 

 ——ゴッ。

 

 

 地面。

 

 

 ボールは、ちょっと転がるだけ。

 

 

 「え、むず」

 

 

 思わず声が出る。

 

 

 周りを見る。

 

 

 誰も気にしてない。

 

 

 でも、気になる。

 

 

 「……」

 

 

 もう一回。

 

 

 当たらん。

 

 

 当たっても飛ばん。

 

 

 だんだん雑になる。

 

 

 力が入る。

 

 

 余計に当たらん。

 

 

 「なんやこれ……」

 

 

 イラっとする。

 

 

 でも、やめるのも悔しい。

 

 

 その時——

 

 

 「力入れすぎやね」

 

 

 後ろから声。

 

 

 振り返る。

 

 

 知らん男。

 

 

 黒田や。

 

 

 「いや、入れな当たらんでしょ」

 

 

 思わず返す。

 

 

 「入れてるから当たらん」

 

 

 淡々と返ってくる。

 

 

 「……いや、それは」

 

 

 言い返そうとして、

 

 

 止まる。

 

 

 さっきの自分、思い出す。

 

 

 当たってない。

 

 

 飛んでない。

 

 

 「……」

 

 

 何も言えん。

 

 

 黒田がクラブを取る。

 

 

 軽く構える。

 

 

 振る。

 

 

 ——カンッ。

 

 

 乾いた音。

 

 

 まっすぐ飛ぶ。

 

 

 奥まで。

 

 

 「……すご」

 

 

 思わず出る。

 

 

 黒田は特に反応せん。

 

 

 「振るんちゃう。置くんや」

 

 

 「……置く?」

 

 

 意味が分からん。

 

 

 でも、

 

 

 さっきの音が、頭に残ってる。

 

 

 「……」

 

 

 クラブを握り直す。

 

 

 もう一回、構える。

 

 

 言われた通りに——

 

 

 やろうとする。

 

 

 うまくいかん。

 

 

 でも、

 

 

 さっきより、少しだけ当たる。

 

 

 「……あれ」

 

 

 小さく呟く。

 

 

 もう一回。

 

 

 また少し当たる。

 

 

 「……」

 

 

 なんやこれ。

 

 

 ちょっとだけ、面白い。

 

 

 黒田が横で言う。

 

 

 「続ける気あるん?」

 

 

 その一言。

 

 

 軽く言われたのに、

 

 

 妙に残る。

 

 

 「……まあ、そのうち」

 

 

 いつもの返し。

 

 

 でも、

 

 

 さっきの感触が、消えへん。

 

 

 「……」

 

 

 少しだけ間が空く。

 

 

 黒田は何も言わん。

 

 

 ただ見てる。

 

 

 逃げ道、ない感じ。

 

 

 「……」

 

 

 クラブを見て、

 

 

 ボールを見て、

 

 

 小さく息を吐く。

 

 

 「……ちょっとは、やる」

 

 

 自分でも、意外な言葉が出る。

 

 

 黒田は、少しだけ頷く。

 

 

 それだけ。

 

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