表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
逃げない俺は、フェアウェイに立つ第1章:まだ逃げてる  作者: こうた


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/4

第4話:少しだけ当たる

 「もう一回や」

 

 黒田の声。

 

 短い。

 

 

 構える。

 

 

 ボールを見る。

 

 

 さっきの感触、思い出す。

 

 

 ——置く。

 

 

 言われた通りにやる。

 

 

 振るんじゃなくて、

 

 

 置く。

 

 

 よく分からんまま、振る。

 

 

 ——カスッ。

 

 

 当たる。

 

 

 ちょっとだけ。

 

 

 前に転がる。

 

 

 「……お」

 

 

 さっきよりはマシ。

 

 

 「今のや」

 

 

 黒田が言う。

 

 

 「これでええんですか?」

 

 

 「それ続けろ」

 

 

 それだけ。

 

 

 説明はない。

 

 

 でも、

 

 

 さっきより当たってる。

 

 

 それだけで、ちょっと嬉しい。

 

 もう一回。

 

 構える。

 

 

 呼吸、少しだけ整える。

 

 

 振る。

 

 

 ——カンッ。

 

 

 音が変わる。

 

 

 ボールが浮く。

 

 

 少しだけやけど、

 

 

 ちゃんと飛ぶ。

 

 

 「……おお」

 

 

 思わず声が出る。

 

 

 「それや」

 

 

 黒田が言う。

 

 

 それだけやのに、

 

 

 なんか、嬉しい。

 

 

 もう一回やる。

 

 

 当たる。

 

 

 また当たる。

 

 

 全部じゃないけど、

 

 

 さっきより全然マシ。

 

 

 「……なんやこれ」

 

 

 笑けてくる。

 

 

 単純や。

 

 

 でも、

 

 

 ちゃんと当たると、ちょっと楽しい。

 

 気づいたら、球が減ってる。

 

 

 「もう終わりか」

 

 

 思ったより早い。

 

 

 時計を見る。

 

 

 結構時間経ってる。

 

 

 「……」

 

 

 もう一回やろうか、迷う。

 

 

 でも——

 

 

 「まあ、今日はええか」

 

 

 クラブを戻す。

 

 

 それ以上やる理由もない。

 

 

 ……ある気もするけど。

 

 

 考えんようにする。

 

 受付。

 

 「どうでした?」

 

 

 さくらが笑顔で聞いてくる。

 

 

 「むずいっすね」

 

 

 「ですよね」

 

 

 「でも、ちょっとだけ当たりました」

 

 

 「いいじゃないですか」

 

 

 あっさり言う。

 

 

 「そんなもんですか?」

 

 

 「最初は当たるだけで十分ですよ」

 

 

 「……まあ、そうか」

 

 

 頷く。

 

 

 なんか、否定されへん。

 

 

 「また来ます?」

 

 

 軽く聞かれる。

 

 

 「……そのうち」

 

 

 いつもの返し。

 

 

 さくらが少しだけ笑う。

 

 

 「“そのうち”って言う人、あんまり来ないですよ」

 

 

 「やめてや、そのデータ」

 

 

 「経験則です」

 

 

 どっかで聞いたやつや。

 

 

 「怖いなあ」

 

 

 笑って返す。

 

 

 でも、

 

 

 ちょっとだけ、引っかかる。

 

 外に出る。

 

 

 夜の空気。

 

 

 さっきより軽い。

 

 

 体じゃなくて、

 

 

 なんか、気分が。

 

 

 「……」

 

 

 手を軽く振る。

 

 

 さっきの動き。

 

 

 ——カンッ。

 

 

 あの音、思い出す。

 

 

 「……」

 

 

 もう一回、やりたくなる。

 

 

 でも——

 

 

 「まあ、ええか」

 

 

 口に出す。

 

 

 いつも通り。

 

 

 それで終わるはずやのに、

 

 

 終わらん。

 

 

 足が少しだけ止まる。

 

 

 振り返る。

 

 

 練習場のライトが見える。

 

 

 「……」

 

 

 数秒だけ見て、

 

 

 そのまま歩き出す。

 

 

 帰る方向。

 

 

 でも、

 

 

 頭の中には残ってる。

 

 

 さっきの音と、

 

 

 黒田の一言。

 

 

 ——それ続けろ

 

 

 「……」

 

 

 ポケットに手を入れる。

 

 

 スマホに触れる。

 

 

 取り出す。

 

 

 画面を開く。

 

 

 昨日の検索履歴が出る。

 

 

 ——ゴルフ 初心者

 

 

 少しだけ見て、

 

 

 閉じる。

 

 

 「……またでええか」

 

 

 そう言って、歩く。

 

 

 でも、

 

 

 さっきより、

 

 

 その“また”が、ちょっとだけ近い気がした。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ