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運命の恋の隣で  作者:
はじまりの気配
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第8話 名前の行方

学院では、デビュタントに向けた練習が続いていた。


「急ですが、皆さんのデビュタントの日、イグナリア帝国より留学生が来ることとなりました。

両国の同盟の架け橋となるため、この国の一員として真摯に対応してくださいね。」


教師の言葉に、ざわめきが広がる。


かつて鎖国状態であったこの国では、外の世界を知る機会は少ない。


シンシアは興味に駆られ、神殿にある図書館を訪れた。


「シンシア嬢、よくいらっしゃいました。」


神殿の最高責任者、アウレリアが穏やかに迎え、図書館へと案内する。


「もしよろしければ、お天気もいいですし、中庭でお好きな本をお読みになってくださいね。」



本を数冊選び、中庭を訪れた。


美しい桜の木の下に、人影が見える。


――誰か、いる?


足を止める。


「……いくな……待っ……シア……」


かすれた声。


アルベルトが、うなされていた。



「アルベルト殿下!」


シンシアは駆け寄り、アルベルトの手袋をしている手を握る。


「目を覚ましてください!」


ゆっくりと、アルベルトの目が開いた。


「……シア?」


その手が、シンシアの頬に触れる。


「……殿下?」


アルベルトははっとしたように手を引いた。


「すみません。寝ぼけてしまったようですね。」


――いつものアルベルトだった。


「お医者様をお呼びしましょうか?」


「大丈夫ですよ。時々、あるのです。」


アルベルトは穏やかに微笑む。

だが、その奥に残る影までは消えていなかった。


(……私と同じ)


シンシアは、そっとアルベルトの手を握り直した。


「……夢見が悪い時、姉がしてくれたおまじないです。

良くない夢から守れますように。」


「……ありがとうございます、シンシア嬢。」


そよ風が、二人の間を通り抜ける。


言葉にできない何かが、そこに残ったまま。



「……あら? お邪魔かしら?」


声に振り向くと、そこにはアウレリアが立っていた。


「……姉上。シンシア嬢を、わざと中庭へ誘導しましたね。」


「私よりも、かわいい子に起こしてもらった方がいいかと思ったのだけれど。ダメだったかしら?」


「……姉上。」


呆れたような声音。


「……あ、あの、失礼します!」


シンシアは顔を赤くして、その場を離れた。



シンシアがその場を離れた後。


「……あの子にしたら?」


「彼女は純粋すぎます。妃としては、相応しくありません。」


「そうね。レオンが好いている子でもあるわ。

でもね、あの子の存在は無視できないの。」


「わかっていますよ、姉上。平等に見ています。」


「……アル。幸せになってほしいのよ。」


アウレリアは、姉として弟の幸せを強く願っていた。


アルベルトは何も言わず、ただ微笑む。


冷たい風が、アルベルトの頬を撫でた。



(気づかれてしまったかしら!)


シンシアは赤くなった頬を押さえながら、廊下を歩く。


『……シア?』


アルベルトの切ない声と表情が、頭から離れない。


(シアって、誰なのかしら。もしかして……私?)

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