第8話 重なる記憶
誰かに呼ばれているような。
私は、この声を知っている。
愛しいアルトの声。
目を開けると、紫の瞳があった。
私を心配そうに見るアルト。
「リシア、よかった。声をかけても起きないから心配した。」
抱きしめられる。
しかし、体が思うように動かない。
声も出せない。
まるで、この体は私のものではないかのように。
なのに――
確かに、温もりを感じている。
暖かな陽射しもわかる。
「……アルト……」
勝手に、言葉がこぼれる。
「リシア、大丈夫か?」
「大丈夫よ、アルト。いつもより眠れたの。」
アルトの手が、そっと頬に触れる。
「なら、今日は共に昼寝をしよう。」
また、抱きしめられ共に横になる。
「……アルト、私がいなくなっても幸せになってね。」
抱きしめる力が、強くなる。
「俺は、リシアがいない世界は考えられない。」
低く、静かな声。
「俺から離れないでくれ。」
視線が重なる。
「愛している、リシア。」
だから、気づいてしまった。
彼の顔が、アルベルト殿下と同じだと。
そして――
白銀の髪、紫の瞳。
エリシア様と同じだと。
その瞬間、世界が揺らいだ。
景色が歪み、音がゆっくりと遠ざかっていく。
気づけば――
離れた場所で、ふたりの様子を見ていた。
湖に、私が映る。
桜色の髪、緑の瞳。
(……私。)
「シンシア……」
振り返る。
そこにいたのは――
初代聖女、ルミナ様。
胸を押さえ、苦しそうに私を見ていた。
「巻き込んでしまって、ごめんなさい。」
その声は、とても優しかった。
「あなたに託すわ。」
手を伸ばされる。
触れた瞬間――
意識が、深く沈んでいく。
「……シンシア!」
その声に、意識が浮かび上がる。
目を開ける。
知らない天井。
隣には、レオンハルトが心配そうに私を見ていた。
(……あの人たちは。)
私は、無意識に涙がこぼれた。
(……同じ、なのかもしれない。)




