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運命の恋の隣で  作者:
触れてしまった運命
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第7話 変わってしまった景色

いよいよ、リュシエンヌたちが神殿を訪れる日。


少し前までは、この日を楽しみにしていた。


アルベルトと過ごした、あの場所。


特別だった時間。


アルベルトとエリシアの特別な雰囲気をまた見ないといけないのか。


だからこそ――


この思い出だけは、汚されたくなかった。


シンシアとリリアナは、神殿の入口へと向かう。


すでに、数名の姿があった。


アルベルトとレオンハルト。


アウレリアとクラリス。


そして――


帝国からの来訪者、リュシエンヌとセイラ。


その中に、エリシアの姿もあった。


「リリアナ嬢、シンシア嬢。本日はよろしく。」


リュシエンヌが、穏やかに声をかける。


そのまま、一行は神殿の中へと足を踏み入れた。


シンシアは、エリシアを見る。


目が合った。


やわらかな微笑み。


けれど――


思わず、視線を逸らしてしまう。


(……やってしまった。)


おそるおそる、もう一度視線を向ける。


エリシアは、何事もなかったかのようにセイラと話していた。


神殿の奥へと進む。


ひとつの絵の前で、足が止まった。


「……こちらが、初代聖女ルミナ様です。」


シンシアの声は、わずかに揺れていた。


「神に愛された存在として、長い間、王国民の憧れとされております。」


描かれている女性。

桜色の髪。

緑の瞳。

息が、詰まる。


(……同じ。)


知っている。

ずっと、言われ続けてきた。


「なるほど。」


リュシエンヌが、静かに口を開く。


「ルミナ様は、シンシア嬢とよく似ておられる。不思議だな。」


その言葉に、わずかに指先が強ばる。


「……帝国とは、また違う信仰なのですね。」


セイラの声には、わずかな違和が滲んでいた。


「すべてが同じとは限らないわ、セイラ。」


エリシアが、やわらかく言葉を重ねる。


「どれが真実なのかは――神のみぞ知る、でしょうから。」


「……リュシー、シア。これを見てほしいの。」


アウレリアが一歩前に出る。


そのまま、一行を奥の部屋へと案内した。


そこには、本や絵、神具などが並べられていた。


その中で――


ひとつのものに、視線が引き寄せられる。


小さな銅像。

二人の女性が、手を取り合っていた。


「最近、発見されたものなの。」


アウレリアが説明する。


「詳しいことは、まだわかっていないわ。」


銅像の二人は、よく似ていた。


(……どこかで。)


シンシアは、銅像から目を離せなかった。


「……なるほど。」


リュシエンヌは、口元が緩んでいた。

視線は、銅像から離れない。


「……面白いな。」


一行は神殿の中庭に向かった。

以前とはまた違った花々が、美しく咲き誇っていた。

手入れの行き届いた庭は、まるで別の場所のように静かで整っている。

暑さを含む風が、頬を撫でる。


ふと、思い出した。


桜の木の下。


かすれた声。


触れた手袋越しのぬくもり。


「……シア?」


蒼き瞳。


(……もう、変わってしまったのね。)


季節が変われば、景色も変わる。

あの時と比べて、シンシアの気持ちも、少しずつ変化していた。


中庭を歩く。


「ここは、ルミナ様の故郷を再現した庭だそうです。」


リリアナが、ひとつひとつ丁寧に説明する。


(……あの銅像。)


頭から、離れない。

手を取り合っていた、二人の女性。

同じ顔立ちをした、不思議な像。


「神殿って、ルミナ様にまつわるものばかりなのでしょう?」


クラリスが、ふと口を開く。


「……だったら、ルミナ様は双子だった可能性もあるわね。」


(……双子……)


頭の奥が、締め付けられるように痛む。

何かを思い出しそうで、思い出せない。


無意識に、アルベルトへと視線を向ける。

アルベルトもまた、胸元を押さえ、わずかに表情を歪めていた。


(……もしかして、また)


近づこうとした、その瞬間――


ヒュン――


鋭い音とともに、矢が空を裂いた。


「危ない!」


視界に、影が差す。

黒の装束に、白き仮面。

顔の見えないその存在が、無言で迫る。

腕を引かれ、身体が拘束される。

強い力に引き寄せられ、呼吸が浅くなる。

恐怖で、声が出なかった。


「シンシア!!」


レオンハルトが、すぐに手を伸ばす。


「レオン、待て!」


アルベルトが鋭く制する。


「離せ!」


「落ち着け!他の者たちの安全はどうする!」


「離しなさい!!シンシアに触れないで!」


リリアナが、我を忘れたように叫ぶ。


前へ出ようとするが、すぐに制止される。


「リリアナ嬢、下がってください!」


「離して!シンシアが……!」


「……アル、こちらは私とエリーに任せて。セイラ、二人の援護を。」


リュシエンヌが、冷静に状況を見極めながら指示を出す。


「エリー、いつもの。」


「……はい、リュシー。」


エリシアの周囲が淡く光り出す。

次の瞬間。

放たれた矢が、見えない壁に弾かれた。

乾いた音が、中庭に響く。

目には見えないが、確かに何かが彼女を守っていた。


「私が先陣を切ります!」


セイラが炎を剣にまとわせ、勢いよく踏み込む。

次々と放たれる矢を、軽やかにかわす。

その動きに迷いはない。


「……聖女様は、我らの希望。お連れせねば。」


敵はじりじりと後退しながら、逃げ道を探っていた。


「……レオン、今だ!」


アルベルトが風を巻き起こす。

セイラの炎と重なり、敵の動きを封じる。

レオンハルトがシンシアの腕を引き、強く抱き寄せた。


その瞬間、炎が周囲を囲い込む。

逃げ場を失った敵が、次々と崩れ落ちる。

やがて、静寂が戻る。

エリシアが、ゆっくりと結界を解く。


「……シンシア嬢、お怪我はありませんか?」


アルベルトが、気遣うように歩み寄る。


その瞬間――


残った敵の一人が、最後の力を振り絞るように矢を放った。


一直線に、エリシアへ。


「……リシア!!」


アルベルトが、迷いなく駆け出した。


エリシアを庇うように、強く抱き寄せる。


矢が――


アルベルトの脇腹に突き刺さった。


「……っ」


一瞬、息が詰まる。


それでも。


「……怪我はないか、リシア。」


震える手で、エリシアの頬に触れる。


「そんな……私を庇って……!」


「……リシアが無事なら、それでいい。」


その言葉に、迷いはなかった。


「アルト……!」


エリシアの声が、崩れる。


そのまま、アルベルトは意識を失った。


シンシアの頭に、強い痛みが走る。


(……私は、知っている?)


「シンシア!」

レオンハルトの声だけが、遠くに響いた。


そのまま、意識を手放した。

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