第3話 静かな違和感
王宮の鐘が、低く響いた。
重く、長く。
その音が、来訪を告げていた。
ざわめいていた大広間が、静まり返る。
王族が並ぶ。
その後ろに、選ばれし貴族たち。
誰もが、扉の方へと視線を向けていた。
息を潜める。
ゆっくりと――
重厚な扉が開かれた。
黒髪を高く結い上げた一人の女性が、静かに歩み入る。
(……この人が。)
目を逸らすことができなかった。
理由はわからない。
でも、
一歩ごとに、場の空気が引き締まっていく。
国王の前で、足を止める。
紅き瞳が、強さを物語っていた。
「お久しぶりです、国王陛下。イグナリア帝国皇太女、リュシエンヌ・イグナリス。再びお目にかかれて光栄です。急な来訪を快く応じてくださり、感謝いたします。」
「遠路はるばる、よく来てくれた。リュシエンヌ殿、皇帝陛下はお変わりないか?」
周囲の空気が、わずかに緩む。
短いやり取りが交わされる。
(……この人が。)
目を離すことができない。
美しい、という言葉だけでは足りなかった。
――あの戦いに名を連ねた人物。
「して、我が息子の姿が見えぬな。」
その一言に、再び視線が扉へと向けられる。
「申し訳ありません。女伯爵が体調を崩しており、到着が遅れております。」
一度、言葉を区切る。
「そのため、私のみ先に参りました。」
静かに続ける。
「アルベルト殿下には護衛をお願いしております。セイラが狙われた以上、警備を強化させていただきました。」
そのとき。
重厚な扉が、ゆっくりと開かれた。
「遅れてすみません、父上。」
乱れた金髪。
いつもとは違う、乱れた呼吸。
「女伯爵の体調が良くなく、このまま客室にお連れしても?」
青白く、儚げな人。
アルベルトの腕の中。
「長旅で疲れたのであろう。アルベルト、すぐに客室に案内せよ。医官を送れ。」
「……このような状態で申し訳ありません。」
耳に残る、美しい声。
「気にするな。……すぐに案内いたします。」
その声は、いつもとはわずかに違っていた。
(……殿下の様子が?)
二人の姿が、静かに大広間から消えていく。
「……女伯爵の体調で、皆に心配をかけました。どうか、お気になさらず。」
リュシエンヌは、優しく微笑む。
ざわめきが、少しずつ戻っていく。
しかし――
シンシアは。
気づいてしまった。
アルベルトの手袋がなかったこと。
いつもと違う視線。
そして、
女伯爵の瞳が、紫であることを。
(……どうして?)




