第5話 嵐の前触れ
悪夢のようなデビュタントから、二週間後。
学院内で、第一王女アウレリア・ヴァルセリオン主催の茶会が開かれていた。
アウレリアは黒髪を編み込み、静かな微笑みを浮かべている。
その表情には、どこか余裕があった。
「皆様、本日は学業の合間にお集まりいただきありがとうございます。」
アウレリアの席には、
クラリス。
カーラ。
ヴィオレッタ。
セイラ。
そして、シンシア。
周囲から見れば、妃候補たちの集まりだった。
「デビュタントでは大変でしたわね。」
アウレリアの言葉に、
「留学生様が狙われるなんて。」
ヴィオレッタがカップを持ちながら言う。
「どこに行っても人気者で、暇がなくて困っております。」
セイラも微笑みながら返した。
ヴィオレッタの動きが止まる。
視線をわずかにシンシアへ向けて、
「……巻き込まれた方もいらっしゃるようですけれど。」
その一言が、空気をわずかに冷やした。
シンシアは背筋を伸ばすが、何も言わない。
(逃げない)
「まあまあ、今日はリアお姉様の素敵なお茶会なのに。」
クラリスが明るく言い、空気が和らぐ。
「クラリスは、優しいのね。」
アウレリアが柔らかく微笑む。
「アウレリア様は、“未来の妹”についてどうお考えですの?」
ヴィオレッタがさらりと投げた。
一瞬、空気が張り詰める。
「さあ、何も。――と言いたいところだけれど。」
アウレリアはカップを静かに置いた。
「国をどうするのかは、弟次第ね。」
穏やかな声。
だが、その場の誰もが“何も考えていないわけではない”と感じ取る。
場が静まり返る。
シンシアの胸が小さく痛むが、表情には出さない。
(ここで逃げてはだめ。)
そのとき、侍女が一礼する。
「ご歓談中、失礼いたします。国王陛下より急報でございます。」
周囲がざわつく。
アウレリアは手で制し、侍女に続きを促す。
「帝国より正式な書簡が届きました。」
「要件は?」
「――イグナリア帝国皇太女、リュシエンヌ・イグナリス様。ならびにフロストリア辺境女伯爵、エリシア・フロストリア様が、急きょ本国を訪問されるとのこと。アウレリア様には、お二人のもてなしをお願いしたいとのことでございます。」
沈黙。
(……エリシア……?)
シンシアの胸が、不思議とざわめく。
知らない名前のはずなのに。
何かが、確実に近づいてきている気がした。
「……そう。ついにいらっしゃるのね。」
アウレリアが静かに言った。
風が、一際強く吹いた。
嫌な予感だけが、残っていた。




