第4話 立ち上がる覚悟
王室の一室。
シンシアとレオンハルト、セイラは同じ部屋で待機していた。
「セイラ様、数日はどうか安静になさってください。」
医官が適切に処置を行う。
「かすり傷ですのに。でも、ありがとうございます。」
セイラは眉ひとつ動かさなかった。
シンシアは、ただその横顔を見つめていた。
(強い人……)
扉が開き、アルベルトが静かに入室する。
「状況は?」
「暗殺者は拘束済み。身元は不明だが、手の甲にモルディス王国の刻印があった。」
アルベルトが報告する。
かつて滅びた、モルディス王国。
シンシアの胸に、嫌な記憶がよみがえる。
聖女だった頃の――あの時間。
「露骨すぎるな。」
「同盟に対する反意か、内部による反逆か。」
「私が負傷することで、帝国は貴国に刃を向ける可能性があります。または、シンシア嬢を利用してのモルディス王国の復興か。」
三人で議論が進む。
(私は、何も言えない。)
シンシアは黙って見ていることしかできなかった。
「大丈夫か?」
レオンハルトが一歩近づく。
「……大丈夫です。」
「大丈夫ではないだろう。無理をするな。」
視線が合う。
「遅い時間になりました。今日はここまでにしよう。シンシア嬢も、どうか休んでください。」
アルベルトの一言で、その場は解散となった。
夜風が冷たい。
庭の噴水には月明かりが反射していた。
シンシアは護衛の目をかいくぐり、庭に出ていた。
暗闇も、刃も怖かった。
でも、それ以上に――
アルベルトとセイラが並んで立つ、あの自然な姿に。
泣きたくなった。
(私は、隣に立ちたかった。)
涙がこぼれた。
セイラが、うらやましかった。
強くて、冷静で、迷いがない。
「……泣くな。」
背後から低い声。
何度も聞いてきた声だからわかる。
「……レオン」
「どうしてここに?」
「お前がいないのに気づいたからだ。」
レオンハルトはシンシアの前に立った。
「私は……立てない。」
本音がこぼれ落ちる。
「議論もできない、怖くて動けない、見ているだけ……」
「兄上の隣に立ちたいか?」
シンシアは、静かに頷いた。
「なら、立て。逃げるな。泣く暇があるなら前を向け。」
言葉は厳しい。だが、声音は柔らかい。
シンシアは顔を上げる。視線が絡む。
「兄上の隣に立つなら、守られる側のままでは無理だ。」
「……怖い。」
「怖さは忘れるな。だが、目を逸らすな。」
レオンハルトはシンシアをしっかり見つめる。
「俺は、お前を甘やかすつもりはない。」
だが、と続ける。
「立ち向かうのなら、後ろから支えてやる。」
シンシアを立たせ、前を向かせる。
「ありがとう、レオン。私、逃げない。」
シンシアは前を向いた。
レオンハルトが寂しそうな顔をしていたのには、気づかないまま。




