第2話 交わらない視線
夜の暗さを感じさせない、明るい大広間。
国王主催の舞踏会が、盛大に開かれていた。
白の衣装を纏った若者たちが、新たな世界への一歩を踏み出していた。
高く重厚な扉がゆっくりと開き、王族の入場が告げられる。
シンシアの心は、ときめいていた。
アルベルトと会える日を、待ち続けていたから。
蒼の正装に身を包んだアルベルトが入場する。
肩から流れるマントには銀糸が織り込まれており、
明かりを受け、さらに輝きを増す。
留め具がきらりと光り輝く。
――紫?
瞬きをして確認すると、アルベルトの瞳の蒼と同じ色の留め具だった。
(気のせい?)
胸の奥が、小さく波打った。
アルベルトの隣に見知らぬ女性がいた。
銀に近い金髪、すみれ色の瞳。
この国の人ではない雰囲気だった。
アルベルトと対等に歩いていた。
「イグナリア帝国、フロストリア辺境女伯爵の妹、セイラ・フロストリア嬢だ。以前より話があった我が国への留学生だ。」
踊り場でアルベルトが告げる。
セイラは静かに一礼した。
無駄のない動きで凛としていた。
「セイラ嬢、よろしければ一曲いかがでしょう?」
「もちろんです、王太子殿下。」
アルベルトとセイラがファーストダンスを踊る。
周囲の目は鋭い。
しかし、二人は動じない。
シンシアは、無意識に両手を握りしめていた。
(私は、あなたと同じ位置に立てていない)
ダンスが終わると、二人はそれぞれ別々の場所へ。
セイラがまっすぐとこちらに近づく。
「……初めまして、あなたが噂の元聖女様?」
ほんの一瞬だけ、言葉の前に間があった。
その言葉に胸がひりつく。
しかし、目はセイラから逸れなかった。
「お初にお目にかかります、シンシア・エルディナと申します。」
「これは失礼しました、シンシア嬢。お名前を、まだ存じ上げておりませんでしたので。」
穏やかで含みのない声。
しかし、視線は、シンシアの奥――何かを見ているように感じた。
「さすがですわね、セイラ嬢。」
ヴィオレッタが割り込む。
扇がひらりと広がる。
「……ヴィオレッタ嬢」
「王太子殿下のエスコートはいかがでしたか?さぞかし、良き気分でしょう?」
微笑むが、目は笑っていない。
「同盟の証として身に余る光栄です。」
セイラは揺れず、しっかりと応えた。
ヴィオレッタは、悔しそうな顔をして去った。
二人の間に静けさが戻るも、シンシアは自分の胸のざわめきを消せなかった。




