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お誕生日パーティー


 舞踏会が終わり、本格的に冬に入った。

最近は雪が毎日のように降っていて、庭ではなく温室でお茶をすることが増えた。

舞踏会を終えて以来、色々な家からお茶会へとお呼ばれするようになった。ロゼッタの家であるクレザテーネ子爵家とも交流が増えた。ロゼッタの父親は王宮で文官をしているようで国王陛下の秘書官をしているお父様とも関わりがあったそうで、お父様を通じて改めて感謝を伝えられた。


お茶を終えて、温室から自室へ戻るとベルという最近私付きになったメイドが封筒を差し出した。アデレアス公爵家からのようだ。

封をナイフで切って手紙を取り出した。

アデレアス公爵家の次男、ラウレンツ様の誕生パーティーへに是非参加してほしいとのことだ。招待状も同封されていた。

パーティーとなると、お母様の許可が必要になる。

私は手紙を持ってお母様の元へ行った。


ーーーーーー


「行ってらっしゃいな」

「よろしいのですか?婚約話をお断りしたばかりなのに」

「確かに今はまだお断りの段階ですが、公爵家と良い関係を築いておくのは後々救われることになるかもしれませんからね。それに、ギルベルトの婚約者次第ではラウレンツ様との婚約があるかもしれませんから」


正直、行かない方がいいと言われると思っていたから拍子抜けだ。それにしても、誕生パーティーか。

街にいた頃、春生まれの私のためにエドガーたち家族が美味しい料理をたくさん作ってお祝いしてくれた。


もう、王都に来て半年以上が経った。

エドガーたち、元気にしているかな。



ーーーーー



約束の日になり、厚みのあるドレスにコートを羽織ってさらにその上からストールを羽織った。これだけ着込めば暖かい。

馬車に乗って、アデレアス公爵邸へと向かった。


今日はお誕生日パーティーということで、エスコート役は必要ない。招待状を貰ったのは私だけだから、今日の付き添いはなしの予定だった。

だけど、社交が嫌いなはずのお兄様が私の付き添いとして来ることになった。


「お兄様が自ら社交の場へ出るなんて、何かあったのですか?」

「いや、招待客の中にあの方がいらっしゃるからステラ一人じゃ対応出来ないと思って」

「あの方?どなたですか?」


その問いの返答が来る前に、アデレアス公爵邸へ到着した。この間も思ったけれど、エリセント侯爵邸からはそれほど遠くはないらしい。

馬車を降りると、アデレアス邸の従者にこの間の舞踏会とは違う広間へ案内された。

舞踏会で使用していた大広間よりは少し狭い広間で、人数も半分ほどしかいない。なのに、前とは違って騎士が何人も出入り口に配置されている。前よりも高位な貴族が多いのだろうか。

疑問に思いながらもラウレンツ様に挨拶へ向かった。


「ラウレンツ様、お誕生日おめでとうございます。本日はこのようなお祝いの場にご招待いただきありがとうございます」

「こちらこそ、寒い中私の誕生パーティーに足をお運びくださりありがとうございます」


ラウレンツ様は深紅の髪に榛色の瞳をした可愛らしい雰囲気の少年だ。背丈は私よりも少し低いか同じくらいだけど、堂々とした立ち居振る舞いはいかにも公爵家の次男坊らしさを感じる。

挨拶を終えて、他の貴族にも挨拶へ行こうとするとお父様よりも少し年下くらいの貴族たちが集まってきた。

お兄様の仕事関係の貴族たちらしい。

侯爵家の娘として公に発表されてから、自分の息子と婚約させようと何人の貴族が子息を紹介されたか分からない。

それとなく断りを入れつつ挨拶をすり抜けた。


「それにしても、今日は舞踏会の時と違って高位な貴族ばかりですね。どうしてですか?」

「それは、あの方がいらっしゃるから少しでもお近付きになろうと思う貴族が集まっているんだよ」

「先程も仰っていましたが、あの方って?」


お兄様は何も言わずに人集りに視線を向けた。

そこには亜麻色の髪に藍色の瞳の凛々しい青年がいた。誰だろう。この前の舞踏会にはいなかったと思うけれど、あれだけ人が集まっているということはそれだけ高位な方の筈だ。

その青年と目が合った気がして軽く目を伏せて会釈をすると、その青年が周りに集まっていた貴族たちに一言告げてこちらへ歩いてきた。

お兄様は胸に手を当ててその青年に向かって頭を下げた。これは、最大級の忠誠の意を示すときの動作だ。お兄様がこの動作をする人なんて、陛下以外では1人しかいない。


「ルクレシオ殿下、お初にお目にかかります。エリセント侯爵家の娘のステラと申しますお会い出来たこと、光栄に思います」

「君がステラか。ギルベルトからよく君の話を聞いているよ」


青年はセラテリアン王国第一王子のルクレシオ・ラース殿下。殿下はまだ学園に通う16歳なのに、今のような長期休暇には執務も少し行っているそうだ。そして、お兄様はルクレシオ殿下に仕える側近の仕事をしている。殿下が学園にいる間は書類の仕分けや他の部署の手伝いをしていて、夏季休暇や冬季休暇は殿下の執務の手伝いをしているそうだ。

正直、ラウレンツ様の誕生パーティーに王子様が来るなんて思ってもいなかった。公爵家とはいえ、ラウレンツ様は次男坊。長男で公爵家を継ぐモーリス様の誕生パーティーなら殿下が来てもおかしくはないけれど。


私が知らないだけで政治的な何かがあるのかな。


そんな疑問を読み取ったかのように殿下が教えてくれた。


「あの他人に興味を持たないジークフリートが可愛がっているという君が来ると聞いて、どんな者か興味が湧いたから来ただけだ」

「お兄様の妹だから心配してくださっているだけで、可愛がってくださっているわけではないと思うのですが」

「心配をする時点で、ジークフリートは身内として扱っているようなものだ」


私よりも親交の深そうな殿下がそう仰るのならそうなのだろう。そもそも、ジークフリート様が他人に興味がないというのも正直あまり分からない。そういう印象はなかった。それは、友人の妹である私に親切にしてくれていたからだろう。

ジークフリート様の話をしていて思い出したけれど、そういえば当分見ていない気がする。もう、舞踏会から二月近く経ったというのに一度も我が家に訪れていない。


「ジークフリート様は最近お忙しいのでしょうか」

「言っていなかったかい?ジークフリートは今は領地経営の勉強として西部にある領地へ行っているんだよ」

「そうだったのですか。通りで最近お顔を見ないと思っておりました」

「来年の夏には帰ってくる予定らしい。だからあまり寂しがらなくていいよ」

「寂しがってなどいません」


即答で否定すると、お兄様と殿下は可笑しそうに笑った。お二人とも、絶対に信じてない。

再度否定して、話を変えた。お二人の婚約の話にすると、どちらも苦い顔をした。お兄様はまだ分かるけれど、殿下はそろそろお決めにならないといけないはずだ。


「私の婚約者にと名前が挙がっているのは隣国の王女か公爵家の令嬢辺りだな。父上がそのうち決めるだろう」

「殿下がお選びになるわけではないのですね」

「王族の婚約は国を左右することになりかねないからな。大人しく父上の決めた相手と婚約する予定だ」


王族って婚約一つでもそんな影響力があるんだ。

私はお兄様の婚約者の方の家と良い関係の家の者であればどなたでも良いと言われているから殿下に比べると自分の意思で決められる。最初は婚約者も絞られるのかと思っていたけれど、殿下に比べれば全然自由だったんだ。



アデレアス公爵家の料理人の腕はすごくいい。この前の舞踏会で食べたスイーツもすごく美味しかったけれど、この魚のフライも物凄く美味しい。

私の住んでた街では干した魚は売っていた。水で戻したりそのまま焼いたりして食べるけれど、こんなにふわふわにはならなかった。

街よりも王都の方が海まで遠いはずなのにどうして干していないであろう魚が手に入るのだろう。


「転移陣を使っているのです」

「ラウレンツ様!どうして、」

「声に出ていたので。私の叔母は魔法師をしていて特に魔法陣の研究に力を入れているのです。そして、先日転移陣を開発し現在は我が家で試用実験をしているのです」

「転移陣って人も運べるのですか?」

「いいえ。重量が決まっていて、人を運ぶことはまだ出来ません」


転移陣を開発するなんてすごいな。だけど、重量が決まっているなら大量に魚を仕入れることは出来ないだろうからエリセント邸でこの新鮮な魚を食べられるようになるのはまだまだ先かな。


「魚がお好きなのですか?」

「特別好きというわけではなかったのですが、ここの料理人の料理がどれも美味しいので魚料理もすごく好きになりました」

「それは良かったです。我が家の料理人は腕の立つ者が多いですから是非またパーティーへいらしたときは料理を堪能してください」


ラウレンツ様は榛色の瞳を細めて微笑んだ。

男の子なのに可愛らしいと思ってしまうのは失礼だろう。そう分かっていても、やはり可愛く感じてしまう。



パーティーが終盤に差し掛かり、同世代の令嬢たちと雑談くらいはできるようになった。貴族令嬢は気が強い印象があったけれど、皆がそうというわけではなかった。ロゼッタみたいに大人しい感じの子もいれば、明るく元気な子もいる。だけど、一部の令嬢たちは私を受け入れ難いらしい。


大抵の貴族の子供たちは10歳の秋に一斉に社交界デビューを果たす。時々、他の貴族の子供たちよりも後にデビューをする子供もいる。そのほとんどは体が弱くデビューの時に体調が優れなかった子か、敢えて開国祭のような大きな行事で一人だけデビューすることで注目を浴びて王族や高位の貴族に印象付けるためのどちらかだ。後にデビューをすると言っても11歳になるまでにはするのが当たり前だ。

だから、12歳で社交界デビューをした私は特例らしく私を毛嫌いする令嬢たちからは相当の目立ちたがり屋だと思われているらしい。


「先程、ステラ様がルクレシオ殿下とお話されていたのを見て妬んでいるだけですわ」

「お気になさらないでください。わたくし共はステラ様がそのようなお方だとは思っておりませんから」

「ありがとうございます」


貴族社会で育ってきた令嬢たちが、私を目立ちたがり屋だと思うのは仕方ないのかもしれない。直接的に何かを言われたりされたわけじゃないのだから放っておこう。


「それより、ステラ様はラウレンツ様との婚約をするかもしれないという噂がありますが本当ですか?」

「いいえ。わたくしはお兄様の婚約者となる方のお家と関係の良いお家の方と婚約することになるのでお兄様の婚約が決まるまでわたくしの婚約は決まらないでしょう」

「そうでしたのね。とてもお似合いですのに」


何も言わずに微笑んでおく。迂闊なことを言わないようにと何度もお母様に釘を刺されたから、言っていいか分からないことはとりあえず言わないようにしている。



パーティーが終わり、馬車に乗ってエリセント邸へと帰った。

私はすぐに自室に戻って寝る支度を済ませてサリーには下がってもらった。

サリーが部屋を去ったのを確認してベッドから起き上がって机に向かった。ロゼッタからお勧めされた可愛い便箋を一つ取り出してペンを走らせた。

貴族の手紙の書き方は習ったばかりだから少し不安だけれど、もし言葉遣いや言い回しが間違っていても許してくれるだろう。

便箋を閉じて、ロウで封筒を完全に留めてベッドに戻った。



翌朝、お兄様が家を出る前に便箋を渡しに行った。

いつもはまだ朝のお茶の時間だからお兄様は驚いたような顔で私を見ていた。


「これを、ジークフリート様に届けてほしいのです。あの、お母様とお父様には内緒で」

「いいけど、どうして内緒に?」

「婚約話を持ち出されそうですから。ジークフリート様にご迷惑をお掛けしたくありません。ですが、元気に過ごされているかだけでも知りたくて」


だめかなと、お兄様の顔を見上げると仕方なさそうに笑って私の頭にそっと手を置いた。


「分かった。2人には内緒でジークフリートに届けるよ。特に母上にはね」

「ありがとうございます、お兄様」


ジークフリート様は私からすればもう一人のお兄様のような存在だ。公爵家の跡取りだから色々あるのだろうということは分かっているけど何も言わずに急に王都から領地へ行っていたなんて。少し寂しかったからその不満をぶつけるように便箋に文句を閉じ込めた。子供じみているかもしれないけれど、家族以外で初めて知り合った他の貴族で私の秘密も知っている。気を許せる存在の人が一人減ってしまったことは私からすれば文句を言いたくなるくらいの大事なのだ。だから便箋数枚分の文句と、一応体調の心配と領地がどんな場所かの質問を書いた。まあ、読まずに捨てられてしまう可能性もあるけれど。

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