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侯爵家の令嬢になってしまいました  作者: 神山 仁葉
第三章 学園生活 3年生
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学園祭Ⅱ


 色々なことがあったけど、無事に学園祭を迎えた。


3年生の劇は全クラスホールで行うため、順番は事前にくじで決めている。私たちのクラスは一番最後だ。

順番が来るまでは席で待機しておく。

どのクラスも歌劇の影響もあってとても気合が入っている。完成度が去年よりも平均して高い。感心している場合じゃなかった。私たちも負けていられない。


「皆様、そろそろ劇の準備に参りましょう」


1人が声をかけると同じクラスの生徒たちはすぐに自分の持ち場へと移動を始めた。


前のクラスの発表が終わると幕が下りて、その間に私とロゼッタが舞台に移動する。演奏班が曲を奏でると、幕がゆっくりと上がっていく。


幕が完全に上がりきったのを確認して観客側を向いた。


『どうしたら、あの人はわたくしのこの想いに気付いてくれるのでしょう』

『王女殿下、ケビン様がいらっしゃいました』


ロゼッタの台詞に続くように、ザヴェリオ様が舞台へ上がってくる。この劇は、私が演じる小国の姫ナターリアと、その護衛騎士であるザヴェリオ様が演じるケビンの恋愛物語だ。

ケビンはナターリアが14歳のときに仕えるようになった騎士で、年が近い2人は主従関係であるけれど、とても親しくなった。そして、次第にナターリアはケビンに惹かれるようになった。

日に日にその想いは増していき、身分の差や主従の関係のせいで叶わないと分かってはいたものの、ナターリアはケビンに気持ちを伝える。


『ケビン。わたくしは、貴方を愛しています。世界中の誰よりも貴方のことが大好きです』

『姫様。私も、叶わない、叶えてはならない想いだと分かっていながらも、ナターリア姫様を愛してしまいました』


ザヴェリオ様が私をそっと抱きしめると、演出班の生徒が魔法で光の粒や花を舞台へと溢れさせる。それから少し時間が経つと舞台が暗くなる。


場面が変わってザヴェリオ様が演じるケビンが騎士の格好をした生徒たちに追われて最終投獄されてしまう。


ケビンは実は隣国のスパイで小国に潜入捜査に来ていた。小国の騎士にスパイがいるという情報が漏れて出身地を誤魔化していたのがバレたケビンが真っ先に疑われることになった。


ナターリアはケビンがスパイだという疑いをかけられていることを知ると、ケビンに会いに牢へ行く。それを見かけた他の騎士が、王様にそのことを告げる。王様はナターリアの気持ちに気が付いていて、ナターリアはケビンがスパイだと知っていたけれどそれを隠して庇っていたのではないかと考える。


騎士たちの話を聞いてナターリアも投獄されるかもしれないと知ったケビンは、ナターリアは無関係だという遺書を遺して毒を煽った。その毒は元々、スパイだとバレたときに自害するために隣国で渡された毒だった。

騒がしい騎士たちからケビンが毒を煽ったことを聞いたナターリアはすぐに牢へ向かった。


『ケビン!お願い!死なないで!』

『姫様、申し訳、ありません。私は、地獄に落ちるでしょう。来世がないでしょうから、生まれ変わって、再会することも、出来ないでしょう。姫様、私は、姫様と出会えたことが、この生涯で、一番の幸せです』


ザヴェリオ様が倒れると、その近くにあった小瓶を手に取る。


『わたくしも、ケビンに出会えてとても幸せでした。生まれ変わって再会することが叶わないのなら、わたくしも地獄に行きます。そうすれば来世がなくてもずっと一緒にいられるでしょう』


ケビンの残した少量の毒ではナターリアは命を落とすことはなく、最終的に自ら短剣で胸を貫いて命を絶った。


ザヴェリオ様の隣に倒れ込むとゆっくりと幕が下りていく。その幕の向こうから大きな拍手が聞こえてきた。緊張であまり観客席の反応は分からなかったけれど、どうやら大成功だったらしい。


劇の結果は投票によって決まるため、学園祭の終わりに発表される。それまでまだ時間があるから、特に誰かと回る予定がなかった生徒で集まって話題の研究会の発表を覗きに行くことにした。



まさか話題の研究会って、魔法薬学研究会のことだったなんて。何かすごい魔法薬でも発明したのか研究室には多くの生徒や招待客が集まっていた。

研究室に入ると顔見知りの生徒がいて、私に気がつくとどこかに行って少しするとラウレンツ様を連れて戻ってきた。


「ステラ!来てくれたんだね」

「話題になっていると聞いたので。どういった研究発表をされているのですか?」

「回復薬だよ。私たちが研究中に偶然できたものだけど、熟睡した後くらい体力や集中力を回復できるし眠気も全くなくなるんだ。これで徹夜もすごく楽になった」

「健康の真逆をいく薬ですね」

「それが、三日以上連続して服用すると効かなくなるんだ。効果が出るようになるまで1週間かかる。だから、最高でも三徹までしか出来ないんだよ」


十分、不健康な気がするけれど。ラウレンツ様はまだまだ改良が必要だと言って回復薬の材料表を睨んでいる。

確かに、そんなすごい効く回復薬なら研究者相手なら話題になるのは分かるけれどどうして生徒にまで話題になるのだろうか。不思議に思っていたけれど、どうやら他の研究会に所属する生徒や騎士クラスの生徒の間で、とてもいい回復薬があるという噂が流れているそうだ。


ザヴェリオ様も鍛錬と勉学の両立でとても大変なのか回復薬をいくつか購入していた。


ラウレンツ様たちの研究室を出て各自見て回りたいところへ行くことになり、私はザヴェリオ様と騎士クラスの演舞を見に行くこも話になった。

騎士クラスが演舞を行うのは訓練場横にある広場のようで、ここからは少し歩くことになる。


「オズウィンも演舞をしたのですか?」

「はい。練習が鍛錬よりも過酷だったことを思い出します」

「それは大変そうですね」


学園祭といえど、もちろんオズウィンは私の護衛として付いてくれている。オズウィンも学園祭の雰囲気が楽しいようでいつもより話すときの声が楽しそうだ。

それに、劇の練習を通して私とザヴェリオ様が一緒にいる機会が多かったからオズウィンも自然とザヴェリオ様と親しくなって今では鍛錬の話をとても楽しそうにしている。


広場へ行くと、特別席が設けられているのに気が付いた。その席にはきっと殿下とヘンリエッタ様がいらっしゃるのだろう。


少しすると、予想通り殿下たちが席に着いて広場へ騎士クラスの生徒たちが出てきた。

代表生徒が一礼するとハア!という声と同時に騎士クラスの生徒たちが剣を持って舞い始めた。


剣を上に投げて浮遊魔法で飛んでその剣を取ったり、剣を杖のようにして空へ向けて炎を放ったり、打ち合いをしたりと中々迫力のある演舞が終わると他の生徒たちは散り散りになっていった。

私たちは特にすることもないからどうしようかと話していると、急に風が吹いてざわざわと木が揺れて隣の木に触れる音がした。


「ステラ様、髪に葉がついています」


ザヴェリオ様に指摘されて、自分で髪を触ってみるけれど分からない。


「お取りしましょうか?」

「お気持ちは嬉しいのですが、ザヴェリオ様は人気がありますから。オズウィン、取ってください」

「はい。失礼いたします。取れましたよ」

「ありがとうございます」


ザヴェリオ様にも改めて礼を言うと、少し困ったような顔をされた。


「ステラ様は私を買い被りすぎです。人気なら私よりもステラ様の方があるでしょう」

「買い被ってなどいません。ザヴェリオ様はもっとご自身の魅力に気付くべきです」

「それはステラ様の方ではありませんか」

「いいえ。ザヴェリオ様です」


子供みたいな言い争いが何だかおかしくて、顔を見合わせて笑ってしまった。

それを見ていたらしい、殿下がいたずらな笑みを浮かべてからかいに来た。


「随分と仲が良くなったようだな」

「残念ながら、殿下の考えていらっしゃるような関係ではありませんよ」


すっぱりと否定すると、殿下は面白くなさそうに口を歪めた。それにしても、殿下がジークフリート様以外の方についてからかってくるなんて珍しい。もしかして、ジークフリート様にもそう見えたのかな。

恐る恐るジークフリート様の表情を窺うと、視線が合ってしまった。ジークフリート様は私の顔を一瞬じっと見てすぐに逸らしてしまった。


いつもあまり表情を動かさないジークフリート様の眉間に皺が寄っている。何か怒らせるようなことをしてしまったのだろうか。


「ステラ様?どうかされましたか?」

「いえ、何でもありません」


表情に出ていたらしい。ザヴェリオ様が心配して声をかけてくれた。結構表情を繕うのが上手くなったのに、ジークフリート様のこととなるとすぐに顔に出てしまう。


「ステラ様、劇の発表までまだ少しお時間があるのですよね」

「はい」

「では、それまで少しお茶でもしませんか?」

「是非」


ザヴェリオ様は殿下たちと一緒に回ってもらうことにして、私はヘンリエッタ様と個室のあるカフェテリアへ向かった。

学園祭の最中なので、カフェテリアは空いていて一番景色のいい部屋に案内してもらえた。


ヘンリエッタ様の侍女がお茶を淹れてくれてお菓子も少し用意してくれた。

少しフルーティな香りのお茶を飲むと、ほんのりと甘さを感じた。ドゥーエの元になるドゥチェルが含まれたお茶なのだろう。


「お兄様から聞きました。ステラ様がお兄様の婚約者候補に挙がっていると。……どうするのですか?」

「お受けしても、いいのでしょうか」

「いいに決まっているではありませんか」


婚約のことについては考えないようにしていたけれど、夜ベッドに入ると思い出してしまっていた。最初のうちは夢みたいで幸せな気持ちであふれていた。だけど徐々に、私に務まるのか、一方的な好意にジークフリート様を困らせることにならないかという不安が押し寄せてきた。


「少なくとも、お兄様はステラ様との婚約を前向きにとらえていると思いますよ。たくさん候補がいた中からお兄様ご自身でステラ様を選ばれたのですから」

「そう、だったのですか」

「ええ。だから、大切なのはステラ様がどうしたいか。それだけです」

「わたくしは、」



多くの生徒がホールに集まっている。もうすぐ、劇の投票結果の発表がある。今年はどのクラスも例年以上に気合が入っていてかなりの僅差で最優秀賞と優秀賞が選ばれたそうだ。

少し緊張しながら結果が発表されるのを待っていると、生徒会長で4年生の生徒が舞台へ出てきた。


「只今より、第三学年による演劇の投票結果を発表いたします」


私たち、ブラオ・クラスの名前が呼ばれるのを祈りながら壇上を見る。


「僅差で惜しくも優秀賞、ヴィオレ・クラス」


ラウレンツ様ともう一人の生徒がヴィオレ・クラスの代表者として舞台へ行ってトロフィーと盾を受け取って席へ戻っていった。ヴィオレ・クラスの生徒たちに視線を向けると、喜んでいる生徒もいれば、最優秀賞を逃して悔しがっている生徒もいる。学園祭以外で貴族の令嬢や令息があそこまで感情を表に出す姿は見ることがないだろう。

だけど、感情を隠せないくらい全力でやったということたろう。


あと残るは最優秀賞。祈りながら発表に耳を傾けた。生徒会長の言葉を1音ずつ聞き漏らさないように辿った。


「栄えある最優秀賞は、ブラオ・クラス」


隣りにいたザヴェリオ様を見ると、静かに拳を握っていた。代表生徒として私とザヴェリオ様が登壇すると、拍手が起こった。

私が盾を、ザヴェリオ様がトロフィーを受け取って席へ戻った。



結果発表が終わり、学園祭も終りが近づいてきた。あとはパーティーだけだけど、私は毎年出ていないから今年も出るつもりはない。ダンスパーティーなんて出ても踊る相手もいないから仕方ない。


ロゼッタはアレック様にパーティーに誘われたそうで行ってくるそうだけど、ヘンリエッタ様は殿下が執務のために帰られるためパーティーには不参加だそうだ。

ヘンリエッタ様と一緒に殿下とお兄様とジークフリート様の見送りに来た。

馬車が来るまで少し待つことになって、殿下はヘンリエッタ様と楽しそうに話していて、お兄様はオズウィンと何か話している。


「ステラ」


今日初めてジークフリート様に名前を呼ばれて少し驚いた。顔を上げると急に顔が近づいた。


「ザヴェリオだったか?あの男のことが好きなら私との婚約話は破談にしても構わない。ステラが一番幸せになれると思う選択をすればいい」


どういうこと?ジークフリート様は私がザヴェリオ様を好きだと勘違いしてるってこと?

困惑していると、馬車が来てしまった。

気がついたら無意識のうちに馬車に乗ろうとするジークフリート様の腕を掴んで引き留めていた。今言うつもりは全く無かったのに口から勝手に言葉が出ていた。


「ザヴェリオ様はあくまでも友人です。わたくしがずっと想いを寄せているのは、ジークフリート様です」


これまで見たことがないくらい驚いた顔をしているジークフリート様を見て、少し嬉しくなった。ずっと意識してもらえるように頑張っていたけれど効果がなかった。妹枠からなかなか外れなかった。だけど、今、この瞬間だけかもしれないけれど、やっと私を1人の女性として意識してくれたみたいだ。


嬉しさと恥ずかしさが同時に込み上がってきて今すぐこの場を立ち去りたくなった。


「……お気をつけてお帰りください」


それだけ告げると、はしたないとは分かっていても早くこの場を離れたくて走って寮に向かった。


後ろからヘンリエッタ様が私を呼ぶ声が聞こえるけれど振り返る余裕もない。殿下とお兄様にも挨拶をしなければならなかったのに、出来なかった。


だけど、今日くらいはきっと許してくれるはずだ。

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