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歴史古典研究会


 学園生活が始まって20日が経った。この前の休暇に誕生日があって、今年もお祖父様と一緒に街の教会へ行った。馬車で行くとどれだけ速くても時間が掛かる。アデレアス公爵家の転移陣を使わせてもらえたらいいのに、と思ってしまうけれど私が街へ行くことなんて言えるわけがないから今年も馬車で向かった。

だけど、魔術具の馬も改良されて去年よりは速く行き来できた。



学校が始まって気付いたことだけど、私は勉強が得意らしい。特に、古典と歴史は本をよく読むからか授業がよく理解できる。逆に、魔法薬学や魔法基礎学といった魔法系教科は苦手だ。どちらも実技と座学があって、座学は得意でも実技が本当に苦手だ。

まだ数回しかしていないけれど、その全てで補習になってしまったほどだ。


今日も魔法薬学の補習があるので、ラウレンツ様が付き合ってくれている。


「どうしてラウレンツ様はそんなに実技が得意なのですか?」

「6歳からやっていればこれくらいの基礎は当たり前のように出来るものだと思うよ。ステラみたいに魔法を扱う練習を始めたのが遅かったなら仕方ないよ」


ラウレンツ様は私が幼い頃から虚弱だったと信じている。だから、魔法の練習も体が丈夫になった12歳頃から始めたと思っている。そう言って誤魔化しているのは私だけど。


「お菓子なら作れるのですけれどね」

「ステラ、お菓子なんて作れるの?」

「はい。もしよろしければ、今度作って持って参りましょうか?」

「じゃあ、厚意に甘えさせてもらうよ」


今回の補習で作るのは髪色を変える薬だ。こんな物を作っていつ役立つのかは分からないけれど、ラウレンツ様と先生に教わりながら材料を手順を守って混ぜていく。混ぜるときに何度か魔力を込めなければならないけれど、その魔力の量の調整が苦手だ。


3回目でようやく薬が出来上がった。この薬を自分の髪に塗って色が変われば合格だ。


「ステラ、その薬は私の髪に塗って」

「いいのですか?」

「ステラの綺麗な空色の髪が変わるのは嫌だからね」

「では、遠慮なく」


ラウレンツ様はそんなことを言っているけれど、本当は髪色が変わるのを楽しんでいるだけだということは知っているけど黙っている。ラウレンツ様は私と違って魔法学が好きで、この薬も作った人の魔力によって色が変わるから私の薬でも試してみたいのだろう。


ラウレンツ様の髪にそっと手を伸ばして、鍋に入っている冷めた薬を全て塗りきると段々と色が変わってきた。

ラウレンツ様の綺麗な深紅の髪が真っ黒に染まっていった。

黒髪の人なんて見たこともなかったから、薬で変わったとはいえ少し驚いていると先生はさらに驚いていた。


「合格、です。が、黒くなったのは初めて見ました。薬の余り、私にいただけませんか?」

「薬は全て使い切ってしまいましたので、もうありません」


先生は落ち込んだ様子で鍋や器材を片付けて教室を出ていってしまった。

ラウレンツ様は鏡を見ながらはしゃいだ様子で何かを呟いていた。研究肌は叔母様譲りなのだろう。

しばらくすると、ラウレンツ様の髪色が元の深紅に戻った。さっきの先生同様落ち込んだ様子で鏡から視線を逸らしたラウレンツ様を見てなんだか可笑しくなってしまった。


「落ち込まないでください。練習にもなるので欲しいと仰るのならまた作りますよ。それに、ラウレンツ様はその深紅の髪の方が素敵です」

「ありがとう。薬はいらないからお菓子を楽しみに待ってるよ」

「はい」



教室を出て、寮ではなく研究棟へ向かった。

ラウレンツ様は魔法薬学研究会に所属しているから、私はその研究会が終わるまで研究棟にある図書室に通うのが日課になっている。

ラウレンツ様と別れて図書室に行くと、いつもは誰もいない図書室に眼鏡をかけた暗い印象の長身の男性が大量の本に囲まれて座っていた。

先生かな。深緑の長い髪で顔はよく見えないけれど、口元などからお父様と同世代くらいに見える。

声を掛けるべきか悩んだ結果、気にしないことにしてこの間読んでいた本の続きを読もうと男性の後ろを通り過ぎた。


男性はやっと私の存在に気が付いたのか恐る恐る振り返った。すると長い髪髪を掻き分けて、驚いたように目を見開いた。だけど、私も彼の出した名前に驚いた。


「セリーナ先輩?」


この人、お母さんの知り合い?お母さんもこの学園に通ってたから同世代だとしたら知り合いでもおかしくない。

お母さんのこと知りたいけど、お母さんの娘だってバレたらいけない。そもそも、社交界ではお母さんはもう既に亡くなったことになっているからお母さんの娘だなんて思わないよね。


「わたくしは、ステラ・エリセントと申します。レインハルト・エリセントの娘です」

「ということは、セリーナ・エリセントの姪か。すまない。君の叔母と知り合いだったもので、君と昔の彼女があまりにも似ていたから見間違えてしまった」


改めて自己紹介をしてもらった。

ダリウス先生と言って、歴史の先生だそうだ。私のクラスの担当の先生ではないから初対面だ。


ダリウス先生はやはりお母さんの同世代で同じ歴史古典研究会に所属していたそうだ。ダリウス先生がお母さんより1つ年下の後輩だそうでよくからかって遊ばれていたらしい。


お母さんの話をもっと聞きたくてたくさん質問をした。それで分かったことは、私の知っているお母さんはダリウス先生の知っているお母さんとは全くの別人だということだ。


ダリウス先生が言うには学生時代のお母さんは生徒会長をしたり、常に学年トップの成績を取るほどの優等生だったそうでたくさんの人から慕われていたそうだ。だけど、ダリウス先生はいつも『髪が長くて鬱陶しいからまとめるか切るかしてちょうだい』『あの子が好きなの?わたくしが紹介してあげましょうか?』『諦めるのが早いのよ。そんなのだから周りから馬鹿にされるのよ』といつも小言を言われたり叱られたりしていたそう。


私の知っているお母さんは子供みたいに無邪気なときがあって、優しくて穏やかで、芯がある人だった。ダリウス先生やお祖父様も言っていたように、気が強い印象は全くない。


「そういえば、4年生の夏休みが終わった頃から少し穏やかになっていった気がする」


4年生ということは17歳。お父さんとお母さんが駆け落ちする1年前。もしかしたら、穏やかな性格になったのはお父さんの影響なのかもしれない。


1日の終業の鐘が鳴ると、生徒は寮へ戻らなければならない。


「ダリウス先生、また明日お話の続きを聞かせてください」

「明日か。なら、図書室ではなく歴史古典研究室へ来てくれ。他に生徒はいないだろうから」

「はい。では、また明日」


挨拶をして、ラウレンツ様のいる魔法薬学研究室へ向かった。

ちょうどラウレンツ様が研究室から出てきて一緒に寮へ向かうことにした。図書室でダリウス先生と会って話したことを言うと少し驚いていた。

ダリウス先生は授業以外は研究棟で過ごしていて、他の教師や生徒と関わることがほとんどないそう。ラウレンツ様も何度か見かけたことがあるけれど、声すら聞いたことがないらしい。


「そんなに寡黙な印象は受けませんでしたけれど」

「ステラがダリウス先生の知り合いに似ていたからかな」

「そうかもしれませんね」


寮に戻るって夕食を取って湯浴みをした。いつもつけているネックレスはサリーが来る前に外して片付けておく。ジークフリート様から誕生日にいただいたネックレスだから、サリーはあまりつけないほうがいいと言っていた。だけど、制服の下につけるなら他の人には分からないし、何よりデザインがお気に入りだから使わないと勿体ない気がする。


湯浴みを終えて、今日は早めにベッドに入った。



翌日の昼休み、ロゼッタとジェシカとエリシアと一緒に食堂で昼食を食べていた。最近はよくこの4人で行動するようになった。ロゼッタは初めの頃こそ家の爵位を気にして少し遠慮していたけれど、今は2人ともすっかり仲良くなっている。


「ステラ様は、ラウレンツ様と2人でお過ごしになられなくて良いのですか?」

「はい。お昼休みは友人と過ごしたいとお互い思っていますから」

「あの、ずっと気になっていたのですけど、ステラ様ってラウレンツ様を好きなのですか?」


エリシアの質問に少し戸惑った。好きか嫌いかと問われたらもちろん好きと答える。だけど、エリシアの言う好きと私のいう好きは少し違う感情のように思える。


「好きですよ。懸想とは少し違う気もしますが」

「そうなのですか?ですが、ラウレンツ様はステラ様に好意を抱いていらっしゃいますわよね?」

「わたくしも思っておりました」

「ラウレンツ様、他の殿方に牽制するかのようにステラ様とずっと一緒にいらっしゃいますものね」


3人とも盛り上がっているけれど、それは全くの誤解だ。ラウレンツ様は私を大切にしてくれているけれど、決して恋愛感情はない。ラウレンツ様が私といつも一緒にいるのは婚約者を溺愛しているように見せることで、他の令嬢たちに声を掛けられないようにするためだ。

入学して数日くらいまで、私と婚約していることを知っている令嬢もどうせ親の決めた婚約だから隙につけ込めると思ったのかラウレンツ様をお茶に誘ったり、昼食の席へ招いたり、文通をしないかと誘ったりしていたそうだ。その対処法として、私との婚約で隙を見せないようにすればいいのではとなって今は私を溺愛している風を装っている。


だから、3人の話を真っ向から否定することもできず、愛想笑いだけしておいた。


昼食を終えて教室に戻った。


授業終了の鐘が鳴ってラウレンツ様と一緒に研究棟へ向かうと、紫の髪の男子生徒がこちらへ歩いてきた。確か、ジェシカの婚約者だったような気がする。


「初めまして。ジェシカの婚約者のマインラート・アクイラフォルスと申します。ステラ嬢に相談したいことがあるのですが、良いですか?また後日でも構いません」

「それなら、明日の授業終わりでも大丈夫ですか?」

「はい。ありがとうございます」

「あの、それと、2人きりになるのはよろしくないのでラウレンツ様に同席いただいてもよろしいでしょうか?」

「確かに、配慮が欠けていました。是非ご同席ください」


明日は元々ラウレンツ様とお茶をしようと話していたから、ラウレンツ様も予定は空いているはずだ。お茶をするのも周りに見せつけるためにしているだけなので、その時間が無くなっても大した問題はないはず。


ラウレンツ様は何を考えているのか分からない笑顔を浮かべていたけれど、気にしないことにした。


歴史古典研究室へ行くと、本が山積みにされた机があってダリウス先生が埋もれていた。寝ているのかと思って恐る恐る近付くとのっそり体を起こして目をこすった。


「ステラ様、いらっしゃい。あ、そうだ。昨日、君と別れてからこの部屋を片付けていたらセリーナ先輩の書いていた研究日誌が出てきたんだ。読むかい?」

「はい」


昨日片付たって言う割には本が山積みになっているような。

日誌を受け取って、椅子にも本が積まれているから本が置かれていない椅子を持ってきて座って表紙を開いた。綺麗な整ったお母さんの字がずらりと綴られていた。

歴史についての考察や、古典の文章の翻訳や研究発表のための題材などが丁寧に記されている。所々、ダリウス先生の名前が出てくるからお母さんとはそれなりに親しかったのだろう。書かれていることはほとんど愚痴だけど。


「もしよかったら、ステラ様が持って帰るかい?先輩は君の叔母だし、君が持っている方が相応しい」

「よろしいのですか?では、遠慮なくいただきます」


お母さんの日誌を大切に胸に抱いてダリウス先生に頭を下げた。


終業の鐘が鳴るまで話していると、ラウレンツ様が迎えに来てくれた。私が迎えに行くつもりだったのに、ダリウス先生が話してくれるお母さんが全然知らない人みたいで時間が経った感覚がなかった。


「ダリウス先生、こちらはわたくしの婚約者のラウレンツ様です」

「知っているよ。確か、魔法薬学研究会の生徒だったな。モーリス様の弟だろう。入学前学力検査で圧倒的な首席だったと教師の中で話題だよ」


何それ。私も知らないんだけど。

ラウレンツ様が勉強が得意なのは知っていたけれど、まさか学年で一番賢いなんて知らなかった。

驚いてラウレンツ様の方を見ると、そうだったのかと私同様驚いていた。


「試験の結果は家に通達されるはずなのだけど、知らされていなかったかい?」

「聞いていませんね。きっと、誰も目を通さず捨てられたのでしょう。私の試験の結果など誰も興味がありませんから」


笑ってそう言ったラウレンツ様の顔を見上げると、少し微笑んで私の顔を見下ろした。


「私に興味がないと言っているわけではないよ。私が勉強が得意なことを家族は知っているから見なくても試験結果は大体分かってるって意味だからね。心配そうな顔をしないで」

「は、はい。早とちりをしてしまい申し訳ありません」

「私の言い方も紛らわしかったね」


ラウレンツ様のご両親は、興味がないどころかラウレンツ様をとても大切にされているように見えた。だから、驚いてしまったけれど誤解で良かった。


研究室を後にして、寮へ戻った。


そういえば、マインラート様に明日の放課後相談があるって言われたんだった。ジェシカに言っておいた方がいいのかな。あ、だけど、わざわざ放課後に言いに来たっていうことはジェシカには知られたくない相談なのかな。というか、私にってことはジェシカについての相談だよね。なんだかんだでマインラート様もジェシカのことを気にしているのかな。


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